ラリー:今、お笑い界でいちばんホットな話題は、加トちゃんです。加藤茶さんがNHKの「鶴瓶の家族に乾杯」っていう鶴瓶さんの番組に出て、その時にあまりにも元気がなかったと。もう生気がなくて、受け答えもおぼつかないと。鶴瓶さんに「大丈夫でっか?」と心配される状態になっていて。それが話題でした。

梅田:僕も見ましたけど、あれはショックですね。僕らが子どもの頃も、もう全盛期ではなかったと思うんですけど。僕の記憶のいちばん古い加トちゃんは、志村けんさんと探偵やってた頃。

ラリー:カトケンね。

梅田:そこでももうある程度おじさんだったんですけど、それにしてもこの近年の老け具合。ちょっと……ねぇ。芸人の終わりは淋しいと思いますね。

ラリー:珍しいパターンですよね。ここまで老いさらばえて。そうすると普通はテレビ出なくなるんです。でも出てる感じが、すごく珍しいケース。いろいろな特殊な事情があってそうなってるじゃないですか。奥さんのこととかがあって。

梅田:奥さんとの年の差婚もあって、麻雀で言うとドラが乗ってる状態というか、いろんな特殊ケースが重なって……。

ラリー:もう数え役満ですよ(笑)。

梅田:どうしたらいいんですかね? お笑い評論家のラリーさんとしては。

ラリー:記事にも書いたんですけど、みんなが言うほどはやばい状態ではないです。確かに衰えてるし、普通に考えたらまずい状況。でも、加トちゃんは芸人と言ってもコント芸人で、しゃべりのプロじゃないんです。鶴瓶さんはもともと落語家で漫談とかやって、とにかくしゃべりがうまい。しゃべりだけでどうにかしちゃう。でも加トちゃんはそうじゃない。バラエティに出ても自分からはあまりしゃべらず、話題を振られたらコメントするだけなので、衰えたと言ってもね。

梅田:でもあの番組の感じは、本当に芸人としての魂が抜けた感じというか、しゃべりが得意不得意というレベルではなくて、意識が抜けちゃってる感じがしましたよ。

ラリー:受け答えの時の表情に変化がないから不安になるんですよ。テレビに出る人って、リアクションを大げさにしますから。「うわぁ~、美味しそうですね~!」とか、そっちにみんな慣れてる。だから加トちゃんを見るとビビる。でもおじいさんってあんなもんですよ。大げさに驚いたりしないですよ。「あ~、そうかぁ~」みたいな。

梅田:加トちゃんはドリフの時におじいちゃん役やってたじゃないですか。ハゲヅラを被って。あのイメージがあるのかもしれない。僕らのなかの、「加トちゃんのおじいちゃん」はあれなのかもしれないですね。

ラリー:なるほど。おじいちゃんなのに元気っていう、あのキャラがベースになってるから(笑)。本当のおじいちゃんになった時に違和感がある。

梅田:そうなんです。だから「ミッキーの中の人見ちゃった」みたいな悲しさがそこにあるんじゃないかな。

ラリー:確かに。それはあるかもしれないですね。でも、僕も番組見たんですけど、やりとり聞いてると、丘の下まで歩いて行くのに「もう車で行きましょうか、足腰立たないから」みたいなことを言っていて。要は自分が衰えてることを自虐ネタみたいにしてるじゃないですか。あのやりとりを聞いてると、加トちゃんはまだボケる余裕あるなと思うんですよ。鶴瓶にイジられて「受け答えしっかりせなあきまへんで、わかってまんのか?」って言われた時に、「わかってまんのか?」「はい」ってそこだけ素早く答えるみたいなのをやっていて。

梅田:あそこはちょっとコントっぽかったですね。

ラリー:意識的にボケてる。

梅田:ということは、見た目の問題かな?

ラリー:あとは表情でしょうね。それと状況証拠。奥さんとどうのこうのとか言われるじゃないですか。それで、やっぱり心配になるんじゃないですか? ただ僕は、結局芸人って自分のプライベートとかをさらけ出して、ボケたとか病気になったとか、それも全部含めて芸人だと思うんですよ。だから加トちゃんの生き様をこれから見届けていこうと。みんなが加トちゃんの見方を変える時期に来てる。

梅田:でもまだちょっと時間かかりますね。そこまで露出してないですし。

ラリー:テレビに出てないから余計にボケやすいというか。

梅田:視聴者も、たまにしか見ないから、久しぶりに見ると老けて見えるっていうのもありますよね。

ラリー:それもありますね。

梅田:お笑い評論家的にはどうプロデュースしていきますか、ここから。

ラリー:いや、プロデュースも何もないですけど、森繁久彌さんとか、あの人もすごい喜劇人なんですけど、晩年は本当に痴呆的にボケてるか、意図的にやってるか、誰にも区別がつかないみたいになった。それがある種おもしろかった。加トちゃんも、そういう域に達しつつあるのかな。

梅田:加トちゃんって、全盛期は若干ツッコミ芸ですかね? 高木ブーがボケてるのとはちょっと違うじゃないですか。

ラリー:それはカトケン世代の発想だと思いますよ。志村さんが入る前のドリフは加藤さんがエースだから。自分で笑いをとってるタイプだから、そこで感覚が違うのかもしれない。1年ぐらい前に「徹子の部屋」に加トちゃんが出て、その時に「あれっ?」と思ったんです。元気ないぞと。

梅田:僕は有吉弘行とトークしてる番組を見たんですけど、それも悲しかったですね。

ラリー:結構前からあの感じではあったんですよ、たぶん。それに、ああいうロケだと他のタレントさんが元気すぎるから異様に見えちゃう。でもそれはいいんです。みんながテレビの見方を間違ってる。要は、蛭子能収さんなんですよ。

梅田:えっと……、加藤茶が蛭子さんってこと?

ラリー:蛭子さんの番組が今人気じゃないですか。あれも蛭子さんがセオリー通りの行動を取らないわけですよ。食べ物食べても「まずい」と言ったり、どこか行くと言っても「そんなとこ行きたくない」って言ったり。それが蛭子さんの面白さ。セオリー通りの笑いは、そういうタレントに任せておけばいいんですよ。

梅田:あと、あの番組のNHKっぽい編集というか。あのプレーンな感じが影響してるのかもしれない。

ラリー:そうそう。ゲストとか素人の人の素を見せる番組だから。ゆったりした雰囲気で、現場で起こったことをそのまま見せるから。それが加トちゃんのドキュメンタリーに見えちゃったところはあります(笑)。編集でごまかさないですから。

梅田:確かに。

ラリー:まあ、いいんじゃないですか? 僕は新生加トちゃんに期待してますよ。おもしろくなると思いますよ。「これはボケなのか?」「これはマジなのか?」みたいなことをみんなが戸惑う時期になったら一気におもしろくなる。

梅田:なるほど。本人がそれを自覚していればいいんですけどね。

ラリー:そう、本人がそれを自覚するかどうかですよ。

梅田:本人も僕らも全盛期の加藤茶っていうのが強すぎるっていうのがありますよね。まだちょっと慣れない。

ラリー:だからドリフとか知らない世代のほうが、ヨボヨボの加トちゃんを最初に受け入れるかもしれないですね。