映画の父・グリフィス

山田玲司氏(以下、山田):それで、このカンブリア紀にまずできあがって、最初ずっと見世物でショートフィルムなんだよ。で、そこから、出ますね。グリフィス兄さん登場です。

このグリフィス兄さん、これ、町山さんとかが一番得意なやつなんだけど、『國民の創生』とか『イントレランス』とかそういう映画でさ、ここで実はとんでもないことが起こってるの。なんでかというと、カンブリア紀って、生物が大爆発して生物の基本設計ができる時期じゃん。地球の歴史でいうと。

久世孝臣氏(以下、久世):うんうん。

山田:ここから陸上に上がるじゃん。このタイミングで陸上に上がります。これ陸地の世界です。だから、ここは陸という。大陸に入っていくのが27年。1927年なんだけど。これがなんでかというと、ここまでの間に、このグリフィスのおっさんが映画の手法の基本をほとんど作っちゃったの。だから、いわゆるバッハです。この人。

乙君氏(以下、乙君):じゃあそいつはもう、映画の父みたいなこと?

山田:映画の父です。これ。「映画の父」って言われてるの。それで、一番有名なのがクローズアップ。だから普通、今までの映画は、最初できるとどうなるかというと、舞台を中継していたの。そのまんま。とか、止めでずっとやるという。だけど、劇的な心理描写をするために、「こいつ犯人かな?」っていうときにグーって寄っていったのは、このおっさんがはじめてなの。

あとカットバック。いろんなことが同時に起こってるじゃん。だから、『スター・ウォーズ』なんかもそうじゃん。「あっちでハン・ソロが……」「こっちでルークが……」とか「こっちでオビ=ワンが……」みたいなのをやって、こう繰り返すじゃん。カットバックされるじゃん。どんどん。

いろんなシーンをモンタージュしていく。カットバック、モンタージュみたいな、そういう手法も全部このおっさん。なんとこのおっさんがもうほとんどやっちゃったの。

乙君:へえー。なに人ですか? グリフィスって。

山田:グリフィス、なに人だっけ?

久世:なに人かわからないな。

山田:たぶんアメリカ人だね。そうだと思うね。クローズアップとか、映画の父って言われているという。この時期がまず第1期にあって。だから、この人が作った『國民の創生』ってすごい映画あるんだけどさ。あれだよね、KKKのことを白人側から書いてるでしょ?

久世:うん。そうそう。

山田:とんでもないヤバイ映画だよね。だから、なかなかその後なんか言われなくなって。

乙君:(ニコニコ動画コメントにて)「さすがゴッドハンド」って。

山田:あと『イントレランス』もわりと有名なんでしょ?

久世:『イントレランス』もわりと有名ですね。代表作の1つで。

エイゼンシュタインとオデッサの階段

山田:そうだよね。問題はここからここまで、わりと見世物のものとそれから芸術映画、いろんなものがごっちゃになって。あと、プロパガンダでも使われるよね。あと、ダダイズムの連中が合流するの。

久世:ああ、やっぱりな。新しいもの好きの。

山田:そう、新しいもの好きが。だから、このあたりに第一次世界大戦があるんだけど、ダダイズムってまさにその頃じゃん。これ、合流するんだよ。で、いろんなことをやるんだけどさ、この頃強いのはソ連ですよ。

乙君:ソ連?

山田:それで、ここからがあれですよ。ポチョムキンですよ(笑)。

久世:(笑)。

乙君:それモンモンで読んだけど、「ポチョムキン」って名前がもうおもしろいよね。

久世:『戦艦ポチョムキン』ね。

山田:ソ連が「モンタージュ理論」って、グリフィスが作った理論を理論化するんだよ。「こういうふうに映画作るんだ」っていってモンタージュ理論というのを作って、ここで。で、すぐに学校作っちゃうの。すごいでしょ? 社会主義。

久世:世界初の国立の。

山田:そう。国立の映画学校作っちゃうんだよ。

乙君:早っ!

山田:そこで名を上げるのがエイゼンシュタイン。エイゼン兄さん。この人がポチョムキンなんだよ。

乙君:今日、兄さんめっちゃでてきそう(笑)。

久世:兄さんばっかりだよ。今日は。レジェンド兄さんばっかり。

山田:だから『戦艦ポチョムキン』というのをエイゼンシュタインが作るんだけど、これがいわゆるこの時代のピークというか、トップ・オブ・トップというか。非常にすごかった。

乙君:へえ。

山田:ここで虐殺のシーンとか出てくるの。「オデッサの階段」というのが有名なんだけど。オデッサの階段というのはどういうシーンかというと、階段でめちぇめちゃ人が殺されるシーンなんだけど。

乙君:階段で?

山田:階段で。すごいでかい階段を。そこに赤ちゃんの乗ったゆりかごがカタンカタンって落ちてくるの。それで赤ちゃんのクローズアップ。バッ。ゆっくり降りてくる。タイヤが見える。撃ってる人が見えるという。それをモンタージュでバババって見せてくる。「どうすんの? やばいでしょ」っていうシーンがあるわけ。

乙君:「ああ、赤ちゃん撃たれちゃうよ」。

SFの元祖『メトロポリス』

山田:これをみんながオマージュする。この後にね。これは一番有名なのは『アンタッチャブル』でまったく同じシーンが出てくるんだけど。あと『未来世紀ブラジル』とか。いろんな人が。

乙君:みんな「『アンタッチャブル』だ」って?

山田:そう。『アンタッチャブル』がものすごいまんま……え?

乙君:『アンタッチャブル』ってデ・ニーロだっけ?

山田:えーと、出てたかな……適当なこと言えねえや。

久世:パッとは出てた。

山田:パッとは出てくる。ただ、それぐらいインパクトのあるシーンだったのね。オデッサの階段。だから、さっき言ってた、ポチョムキン、オデッサ。

乙君:とりあえずポチョムキンとオデッサ?

山田:オデッサの階段で有名なベビーカーが落ちてくるというのが、とにかくこの話をみんな知ってるから。映画好きは。映画好きは『國民の創生』とこのポチョムキンの話を知ってて。

で、同時に、ここからまたおもしろいんだけど、26年なんだけど、『メトロポリス』ですよ。

久世:来た。SFの。

山田:これがSFの超元祖。要は、なんつーのかな……。

乙君:それは作品名のこと?

山田:そう。アンドロイドみたいのが出てくるの。まだサイレントなのにめっちゃかっこいい。これがいろんな人のSFのかっこいい映像の原型みたいになってる。この映画に影響を受けて、たぶん『スチームボーイ』とかまでいくんじゃないの?

乙君:ええっ?

久世:そこまでいっちゃいますね。

山田:たぶんいくと思う。大友もこれは絶対入ってるし。

乙君:先生!

山田:はい。なんですか?

乙君:ここまでまだぜんぜんサイレントってことですか?

山田:そうなんだよ。実はサイレント。

乙君:そのポチョムキンもオデッサもサイレントなの?

山田:そう。日本だと活弁士がいるし。だから間に……チャップリンがそう。チャップリンまさにそうなの。チャップリンここにいるの。

乙君:あ、チャップリン出てきてない。

山田:そう。書いてないけど。なんでこれ27年というと、ここでトーキー登場なんだよ。

乙君:トーキー?

山田:要するに……。

久世:音声が入ってる。

乙君:はいはい。

山田:それまでは「フィルム映してる。そこで生演奏してる」っていうのが映画の見方だったんだけど、それで活弁士と生の演奏もなくなっちゃうんだけどさ。という感じになりますね。そう(笑)。

この『メトロポリス』がまたおもしろくて。これさ、『メトロポリス』から、いわゆるみんな大好きな特撮の流れが始まってくる。