知識があっても自分の作品にいい影響がなければ意味がない

山田玲司氏(以下、山田):今、なにを話してるかというと、映画オタクとか「俺のほうが賢いんですよ」みたいな人と映画の話をしてると、そういう単語(マニアックな固有名詞)がバンバン出てくるわけ。俺なんかノーガードで美大に入っちゃって、18歳でなにも知らなくてボコボコにされたクチなので、「やばい!」と思って密かに……。

久世孝臣氏(以下、久世):こっそりと?

山田:こっそり『ユリイカ』とか見ながら、「書いてあることが半分もわかんねえ」みたいな(笑)。そこから焦って「やべえ!」と思って。「これ、俺だけがなにも知らないんだ」みたいに思って、そこから必死になって映画史を勉強したんだよ。独学で。

久世:すごいな。それは。

山田:それで「マジか、ゴダールとかいたんだ」みたいなさ。それで、あいつらが言ってた意味がちょっとわかってきたみたいな。だんだんそうやって武装のために知識を使う時代が終わり……。

乙君氏(以下、乙君):終わったの?

山田:終わる、終わる。だって、そんなんじゃ意味ないから。たいして(笑)。

(一同笑)

山田:知ってたって、自分の作品にいい影響とかなければ意味ない。

久世:そう。あんまりない。

山田:だから、そういうことも「なんかなぁ」っていう。知ってたほうがおもしろいことって、後からわかってくるんだよね。例えば、漫画のエンディングで……漫画に悲劇を持ち込んだのが治虫ちゃんなわけ。

乙君:ほう。

山田:手塚治虫なんだよ。だから、手塚治虫以前って、漫画ってユーモアなんだよ。あの人が漫画ってものに映画をぶち込んだせいで、そこからバッドエンドが出てくるんだよね。余韻とか。そういう革命があって。そのあとも、石ノ森章太郎ぐらいになると、今度テクニカルな革命をいっぱいするわけ。例えば、見開きとか。見開き全1コマというのは石ノ森章太郎が始めてるの。

乙君:へえー!

山田:そうなんだよ。

久世:あれ革新的だったんだ。

乙君:そうなんだ。誰でも思いつきそうだけど。「めんどくせえから、もうボーンとやっちゃえ」みたいな。

山田:いやいや。だって、あの頃の時代考えてみると、1ページに8コマ以上は絶対だったんだよ。

乙君:確かに。手塚治虫さんのってすごい……ねえ。

山田:初期はとくにそうだったよ。

映画史における革命は7回起こっている

乙君:ちょっとるみ子さん(手塚治虫氏の娘)見てるから「さん」つけるけど。

(一同笑)

乙君:あざとい(笑)。

久世:そこはお前……。

山田:そこは意識するか?(笑)。治虫もそういうこと望んでないと思う。お前、治虫をバカにしてるのか?

乙君:いや、あまりにも我々ふざけて「治虫ちゃん」とか言っちゃたら……。

久世:いいんだよ! それを見ていらっしゃるんだから。

乙君:心象悪くされたら、ちょっとあの……。

久世:なに言ってんだ。お前。

山田:そんなやつが絵画にもあったじゃない? 要するに、ここからキュビズムとか、多視点が始まるのがセザンヌとか、説明したけどさ。

そうやって、「このタイミングでこの人がこんなことを始めたせいで劇的に変わる」というのが、映画にも音楽にも絵画にもあってさ。これに関して、ざっくりと革命が7回起こっています。

久世:7回も!?

乙君:多いな!

山田:俺理論。

乙君:思った以上に多いぞ(笑)。

山田:そうなんだよ。映画、書いてあるけど、1893年からだから。

乙君:あ、こちら側ね。

山田:これ、だいたい絵画史でいうとロートレックの頃だね。

乙君:ああ。トゥールーズ?

山田:トゥールーズ。だからこれ、サイレントの時期が長いんだけど、サイレントが終わってから第一次世界大戦だからね。だから、つかの間の平和な時期に生まれてはいるっていうね。映画……なんですか?

乙君:いや、「カンブリア紀」とかってなんですか?(笑)。

山田:はい、説明しまーす。

(一同笑)

山田:あとでそれ全部説明しますけど、デートとかに映画観に行ったときに、感想聞かれるよね?

久世:はいはい。

乙君:聞かれる、聞かれる。

山田:そのとき、“脳モテ”したいじゃないですか? 男としては。

乙君:ああ、今年から提唱している。

山田:脳モテなんですけど、脳でモテろと。

乙君:ブレインでモテろと。

久世:ノーモテって言っちゃったら、もうモテないみたいですもんね。

山田::あ、違う。そうじゃない……ちょっと考えようか。

乙君:「ダメ、絶対」みたいな。

山田:そういう新しい言葉、作っていこうか。

(一同笑)

乙君:それはまた別の機会で。

ウンチクを言うときの余裕を作るには

山田:というかもう、「俺、イケメンじゃねーから」とか「金ねーから」とか言って諦めてる時代を終わらせようって話ですよ。映画を彼女と観に行って、なにを語るかという。「おもしろかったね」「つまんなかったね」「女優かわいかったね」しか言えない男っていうのは、そこで却下されますからね。

(一同笑)

山田:次がないですから。

乙君:でも、そこでわけ知り顔で、すごいスノッブな感じでさ……。

久世:そうそう。難しいんだよね。

乙君:「いや、この監督は前の作品ではこうでこうでこうで……」とか。

久世:「あれは清順のオマージュだよね!」とかっていると、またそれは嫌われるんですよ。

しみちゃん:腹立つ(笑)。

乙君:言い方やん、それ(笑)。

久世:それまた嫌われちゃうから。

山田:実はその問題が大きいんです。なんでかというと、局所的な知識で付け焼き刃でやってる場合、そうなりがちなの。だから関連のことを、豆知識的なやつを並べて、「俺、賢いだろ?」というのをやろうとするから、スベるんだよ。

でも、そうじゃなくて、今回やろうとしてるのは、もうざっくりこういう流れがあるというのがわかっていると、ウンチク言うときも、だいぶ余裕が出てくる。

久世:大人の余裕につながるような。

山田:だから、もう1打席しかないみたいになってるわけ。

久世:「全部話さないと」って。

山田:とりあえず1回から9回まで……。

乙君:ああ、なるほど。「フルスイングだ!」みたいになっちゃうので。

山田:そうそう。当てにいくみたいな。だから、力の余裕が出てくるようなものをやろうかなと思って。

乙君:なるほど。

久世:「90年代の映画だから、こうだよね」とか、もうちょっとざっくりと余裕を持って話したほうがモテるだろとか、そういうことですよね?

山田:そうそう。だから、「ゴダールってミクスチャーじゃない?」みたいな。

久世:ああ、それモテるわ(笑)。

山田:さりげなくスッと言えたときに。

(一同笑)

乙君:ぜんぜんわかんないわ。

山田:「それってなんですか?」ってときに、ヌーヴェルヴァーグがわかってないと、「あわわ」ってなっちゃってバレちゃうので、今日はみんなこれを持って帰ってもらいたい。

乙君:じゃあ、この2時間後にはみんな……。

山田:そう。(コメントを見て)今、風呂入ったやつ、お前。

(一同笑)

山田:1からやるから、出てこいよ。

久世:今日は我慢しろよ。

山田:お前、最初から風呂は……。

乙君:湯に浸かりながらスマホで観てるかもしれないじゃない。

山田:じゃあ風呂で見てよ。風呂で見てくれ。な。それで、俺はそんな番組が見たかったんだよ。大学生の時に。こんな番組が。こんなふうにざっくりと教えてくれと。なにも知らんないんだから。学校でやっていないことって、みんな「本当にわかんない」ってよく言うじゃん?

乙君:うんうん。

山田:学校でやっててもわからないけどね(笑)。

久世:確かに。それはそうだ(笑)。

山田:「それ学校でやってない」みたいな。

乙君:教え方ですよ。学校の勉強とか学問をつまらなくしてるのはだいたいもう、教える側が悪い。

久世:わかりました(笑)。