大学時代に、自分の性格の悪さに気づく

――“リーダーあるある”として、「優れたプレイヤーだった人が必ずしも“優れたリーダー”になるとは限らない」というものがあります。

今回は松本さんご自身、プレイヤーからリーダーになるまでどういった壁があったのか、そのあたりをうかがいたいと思っています。

松本龍祐氏(以下、松本):了解です。

――さっそく「そもそも松本さんは昔からリーダータイプだったのか」からうかがいたいのですが。

松本:自分ではリーダータイプだと思っていますね。小学校、中学校と、イベントを主催したり、なにかの音頭をとる機会も多かったですし。

でも、リーダータイプとは言え、僕はそもそもオタクでコミュニケーションが苦手なタイプでした。高校生になると、周囲と自分のコミュニケーションスキルが合わなくてあたふたした時期もありましたし。それも、大学生になってから解消されましたが。

――大学生時代に、なにかあったんですか?

松本:大学時代に、自分の性格の悪さに気づいたんですよ。それも、当時付き合っていた彼女に気付かされたという……。彼女が、ほかの友達から「なんで松本なんかと付き合ってるの?」ってと言われて。当時の彼女は「あはは」と笑って言ってたんですけど、それがすごくショックで(笑)。

――(笑)。

松本:そこで気づいたんですが、当時の僕って、いわゆる意識高い系大学生のはしりというか。ぶっちゃけると、周囲の人はみんな自分より下だと思っていたんですよね。早口だし、人を詰めるような話し方だったし。まぁ、嫌な奴だったんですよ。そこから「人とどう接するか」「自分の話したことをどううまく伝えるか」を意識するようになりました。

年上社員をリスペクトしすぎて、距離感を詰められない問題

――松本さんは大学生のころに起業されています。そこでも、自分のコミュニケーションを見直す機会はありましたか?

松本:そうですね。僕は大学生のときに最初の会社「コミュニティファクトリー」を作ったんですが、社員というと、同級生が少しと、そのほかはすべて年上社員だったんです。相手は年上だけど、自分がリードしなくちゃいけない。なおさらコミュニケーションには気を遣うようになっていましたね。

――当時、どういったことに気を遣っていたんですか?

松本:相手は歳上なので、キャリアも僕より上です。仕事上で注意することと、相手に敬意を払うことは別と考えていましたね。だから「キャリアも長いし尊敬しているけれど、この件に関して僕はこう判断していて〜」といった伝え方をしたり。

キャリアがほとんどないような若造が、自分のポジションからバシバシものを言っているのは、感じ悪いじゃないですか。そうならないように。でも、コミュニケーションを気にしすぎると、今度は自分のやりたいことができない事態になったりするんですよ。年上社員をリスペクトしすぎて、距離感を詰められないとか。最初のうちは本当に試行錯誤で、自分の型みたいなものを見つけるのに苦労しました。

またよくある話ですが、社員が20人を超える当たりで、急激に人に関するトラブルが増えていきましたね。そのくらいの人数になると、毎日一人ひとりと話せなくなるんですよ。組織として、一人がマネジメントできる人数についていろいろな説があると思います。5人とか、13人とか。僕の会社の場合は20人を超えると、いつもガタガタし始めていました。この壁は、ヤフーに入るまで乗り越えられなかったんです。

――なにが原因だったんでしょうか。やはりコミュニケーション不足……?

松本:自分が率先してプランニングして、音頭をとることはしていました。でも、周りの人の気持ちをくむとか、やりたい方向性にあわせるような意識は弱かったんだと思います。

当時の僕は、学生のまま起業したこともあり、自分がマネジメントされた経験がなかったんです。教育されていないからロールモデルもない。そこが自分の弱みなのかなと、マネジメントに対してコンプレックスもありましたね。

……こんな感じで話していって、記事になりますか?

――大丈夫です。

松本:(笑)。

社員から言われて「自分はロジカルじゃない」と気づく

――松本さんは現在の「アッテ」の前にも「DECOPIC」という女性向けカメラアプリを作っていらっしゃいました。女性向けということもあり、当時は松本さんご自身がつけ爪をしてみたり髪を巻いてみたりして、ユーザーになりきって開発していたという話も聞きました。つまり、優れたプレイヤーだったとうかがっています。

松本:僕の持ち味は、サービスのコンセプトを作り上げることです。それを実現するためにはチームが必要ですし、よりディティールにこだわるのは各メンバーという意識でした。

今思うに、当時の僕は「おいしいところ」を全部独り占めしていたんですよね。だって、「サービスのコンセプトを作る」と「最終的な意思決定」は僕が担当していましたから。ほかのメンバーからすると「松本さんが考えたものを具現化するためにいる」となっていたわけです。

それって、人が成長する環境とはだいぶ差がありますよね。当時、なかなか会社に人が集まらない・留まらなかったのは、ここが原因だったんじゃないかと思っているんです。

あと僕、根が大雑把な性格なので、細かいディレクションができるタイプではなかったんです。コンセプトを考えたあと、それを細かく詰めていくとか、ローンチ後にちゃんとチューニングするなど、それが得意な人の力を借りないとサービスがよくなっていかない。でも、ゴールを決める瞬間は全部自分がやりたいと思っているという(笑)。

でも、この時点ではなんとなく「自分にはこれが欠けているな」という自覚がでてきて、マネジメントに対する意識も増してきていた気がしますね。

あと、会社をやっていたときにすごくショックなことがあって……。飲み会の場で社員から、「松本さんが新卒でアクセンチュアとかで経験を積んでくれていたら、ぜんぜん違ったのにね」と言われて。

――また……。

松本:僕、それまでは自分がすごくロジカルなタイプだと思っていたんですよ。でも、その発言には「松本さんはロジカルじゃない」という意味が込められているじゃないですか。それで、すごく落ち込みまして。「自分はロジカルか、ロジカルじゃないか」で数年悩んだんですけど、結論として「自分はロジカルじゃない」となりました。

――(笑)。

松本:これは起業家でわりと多いタイプだと思うんですけど、僕、自分の直感でものごとを決めた後からロジックを通していたんですよね。あくまでも自分の直感を他の人に説明するためにロジックを立てている風にしているだけだった。これに気づいて、気持ちが楽になったし、自分の直感については自信を持とう、と思うようになりました。

「3つの軸に整理する」「シンプルなワードにして何度も伝える」

では、どうすべきか。それをリーダーシップの軸で考えたとき、僕は自分のプレゼンテーションの力を磨くことに注力しようと考えました。自分を客観視したとき、周囲から「プレゼンが上手だ」と言われる機会が時々あったからですね。

例えば「このプロダクトにはこういう世界観がある、なぜならば……」という話をする場合。よくよく考えると突っ込まれそうなところはあるかもしれないけれど、まずは「確からしい」と思わせるような納得感があるものにするなど。

そもそも、僕は会社をやっていたときに資金調達のためのプレゼンもしたのですが、そういったときの「人を説得するプレゼンテーション」と、社内に対して「次はこうやりたい」と説明するとき、それぞれのやり方の違いなどをあまり認識していなかったんですよね。

でも本来は、メンバーに同じ方向を向いてもらうためにも、外部と同じくらいプレゼンに配慮しなくちゃいけないんですよね。それも1回だけ話すのではなく、プロダクトや会社の方向性をシンプルに整理した上で、何度もくり返して伝えなければならない。

例えば、会社の方向性を3つの軸に整理して話すとか。さらにそれをシンプルなワードにして何度も伝えていくんです。これはイケてる経営者の方々が当たり前にやっていることでもあるんですけど、重要だと気づきました。

――「3つの軸に整理する」「シンプルなワードにして何度も伝える」といったやり方は、なにかロールモデルになるような人から学んだのですか? それとも、自己流で身につけた方法ですか?

松本:これは、僕がヤフーに移ってから学んだことですね。あれは確かヤフーの年始挨拶で、川邊(健太郎)さんが会社の目標を3つのシンプルなキーワードにして、それをプリントしたTシャツを着てきたんです。そして「僕はもう、今年はこの3つしか言わないから」と言っていて(笑)。「これなら誰でも覚えるな」と思ったんですよね。

――Tシャツにプリント……。

そこはさすがWILDだなーと思いました(笑)。でも、そこまでしつこく3つのことを強調し続けるとか、伝えたいことをシンプルにするのは大事だなと思ったんです。よくよく考えてみると、4半期でやるべきことを絞れていないと、メンバーが見ている方向もバラバラになりますし、整理できない。こういった状態になってしまうのは、リーダーの責任です。

あと、「3つの軸に整理する」「シンプルなワードにして何度も伝える」というのをやっておくと、ミドル層が部下と話すときの武器にもなるんですよね。その武器を作るためにも、リーダーは時間をかけてプロジェクトなどの内容を噛み砕いて、シンプルなワードにまとめる。それをミドル層がうまく使えているかどうかのフィードバックを1on1などでもらう感じですね。

社員が増えない、社内の雰囲気が悪い……責任は自分にある

――お話をうかがっている印象として、松本さんにとってヤフーは1つの転機に感じますね。

松本:そうですね。思えば、ヤフーに入るまでの僕は一貫してプレイヤーだったかもしれないです。それまでは自己流でなんとかやってきましたが、ヤフーで改めてやり方を学び、実践した感じですよね。

――松本さんの場合、学生から起業して、プレイヤーとして活躍されて、ヤフーにM&A後、よりリーダーの立ち位置で動くことになったという明確な流れの変化がありました。でも、今まではばりばりのプレイヤーで、気がついたらリーダーの立ち位置にいた……という人もいると思うんです。

松本:そうですね。

――そういった人たちが「このやり方ではいけないんだ」と気づくにはどうしたらいいんでしょうか。リーダーにおける人間関係のトラブルなどは、じわじわと染み込んでいくというか、ある程度の時間をかけて表面化するように感じているんです。気づいたら地盤沈下していた、みたいな。そうなる前に気づく方法はないのかな、と思ったんです。

松本:僕の場合は「リーダーとしてマネジメントしなきゃいけない」と明確に立場が変わったので気づけましたが。

まだそういった自覚がなかったときの僕は、社内の雰囲気が悪かったり、他のメンバーがなんとなく不満を持っているように感じたら、「なぜわからないんだ!」「なぜこんなにすばらしいビジョンとプロダクトがあるのに!」「これからがんばれば、こんなに成果が出るはずなのに!」となっていたんですよね。これは、ほかのスタートアップ経営者も感じてる方が多いと思うんですけど。

モチベーションが上がらない理由がどこにあるのか。なぜ社員が増えないのか。なぜ社内の雰囲気が悪いのか。それを「この社員は、もともとこういう人なんだ」「社員同士で結託していてムカつく」と思っていた。責任は自分にあるのにね。当時の僕は、そこを徹底的に考え抜けていなかったんです。

例えば「雰囲気が悪いな」と感じたタイミングで、無理矢理でもいいから全員と話すとかしていたら、もしかしたら良いように変わっていたかもしれない。でも、そのときの僕は一方的に「いや、俺はもっとこうしたいんだよ!」みたいな話をしていただけで、あまり意味がなかったんですよね。

リーダーは「気づかないふり」をしてはいけない

さっきおっしゃっていた、気づいたら地盤沈下、というところですけど……。

――はい。

松本:地盤沈下し始めるときには予兆があって、リーダーの立ち位置にいる人達は、たぶん、だいたいそれを感じていると思うんですよ。だけど、やりたくないじゃないですか。人に気を遣って時間を割くことをしたくない。だから、気づかないふりをすると思うんです。

――気づいているけど、気づいていないふりをしている?

松本:リーダーになる人は、まずその「気づかないふりをしない」が大事なんじゃないですかね。

今僕は、Yahoo!で学んだ1on1ミーティングを重視しています。毎週だったり隔週いろんな人と話す中で、「この人は今楽しいかな?」とか「なにかモヤモヤしてないかな?」と考えています。モヤモヤの原因って、大半はコミュニケーション量だったり、情報の格差だと思うんですよね。モヤモヤを察知したら、そのポイントをしっかり話するとか、仕組みや制度に手をいれるとか、早期発見、早期治療ができるといいと思っています。

あと、先ほど「優れたプレイヤーは〜……」と話されていましたが、こういった人たちが持っている自信って、わりと大事なんですよ。自信はカリスマ性と表裏一体なので。

――表裏一体?

松本:自分に自信がある人って、キラキラして見えるじゃないですか。自分で言うとなんだかいやらしい感じがありますが、なんというか、ついていきたくなるような魅力がある。リーダーって、そういった魅力を作ることがすごく大事なんです。

自信以外にも魅力には、言語化できないような親しみやすさとか、助けたくなるような雰囲気とかいろんな要素がありますが。その組み合わせがカリスマ性なのかな、と。この中でベースになるのは、「方向性について自信を持っていて、それを伝えられること」だと思います。リーダーが自信を持っていることはめちゃくちゃ大事なんですよ。自信のないリーダーには、当然ながら誰もついていきたくないですし。

――不安になります。

松本:ですよね。そこで大事なのが「なぜ自信があるのか」を要素分解することだと思っています。なぜ自分はうまくいくと思っているのか、自分が優れていると思うのか。逆に、優れていないところはどこなのか。リーダーになるなら、これを会社の外へ行ってでも見つけるべきなんですよね。

僕は、ずっと一緒に仕事をしていたパートナー……取締役がすごくロジカルなんです。さらにいうと、ストイックで、細かいディレクションができるタイプ。だから、一緒に仕事をしていて、僕が劣等感を持つこともあるんです。でも、そんな僕と一緒に仕事をしてくれるし、おそらく尊敬もしてくれている。

そこから、自分の得意・不得意も見えてくるはずなんです。そこがスタートなんですよね。自分のできないところをうまく補完してくれるメンバーを見たりして、リーダーシップの発揮の仕方みたいな型を見つけていくことなんだと思うんですよね。

自分の強み・弱みを明確にしてから接し方を考える

先ほど「ストーリーを作る」という話をしましたが、そこが苦手だったら、ボトムアップで成果を出すリーダーもいると思うんですよ。「わっしょい、わっしょい」って神輿として担がれるタイプとか。

誰かが作ったものを「それ、いいじゃん」と言って、それを扱えているうちはいいんです。でも、その成功体験だけを感じて盛り上がっているだけで、「実は自分はプランを作るのが苦手」と気づいていないかもしれないんですよね。そうすると、プランを最初に考えた人との関係性を意識していないと、長期的にはうまくいかない。

――話の流れからすると当然ですが、そこにも要素分解が必要なんですね。

松本:自分の強み・弱みを明確に意識した上で、メンバーとの接し方を考える。相手の優れているところに対してリスペクトするのは大事ですし、その上で、自分の強みを活かしたリーダーシップのとり方を見つけるのも大事。

――先ほど「自分の優れている・優れていないところを見つけられないなら、外へ行ってでも見つけるべき」と言われていましたが、外というのは、例えばセミナーとかですか?

松本:社外の人と話すイメージですね。僕の場合、同世代の起業家が何人かいます。「俺、あいつほどインターネットに情熱を注ぎ続けられないな」とか「あいつほど空気を読まないようなチャレンジができていないな」とか。

「この人すごいな」と思う人が、僕の周りには多かった。それは「社内で上司がいて……」という経験からキャリアをスタートしなかった自分にとっては、すごく良かったですね。

あと、僕の場合は自分でやっていた20数人規模の会社からヤフーに移ったことで、一気に倍以上の組織のマネジメントをしなきゃいけなかったんですよ。「さあ、この50人をよろしく」みたいな感じだったんですね。

だから、最初から自分直下のリーダーを複数並べてやるような方法を採らなきゃいけない上に、立場があるゆえにがんばらなきゃいけないという両面がありました。結果的には、それが良かったなぁと思っているんですけど。

社内にロールモデルがいないからこそ、社外でなるべく自分を客観視できるような、尊敬できるような人とたくさん会うことが大事かなと思いますね。

――ほかにも言えることですが「殻に閉じこもらない」ということですね。

松本:そうですね。でも、なんですかね……。今僕はこういう話をしていて、うちのメンバーがこの記事を見たとき「できてないじゃん!」と言われそうで、ドキドキしているんですけどね(笑)。