ほかの動物の体内で人間の臓器を育てる

ハンク・グリーン氏:今週(2017年1月27日の週)は臓器移植の未来にとって、すべてを覆すほど非常に重要な週となりました。水曜日に発行される「Nature」の中の一説で、生物学者のグループがネズミの膵臓を育てるために遺伝学的にラットを創り出し、そしてその膵臓からの細胞を使ってネズミの糖尿を抑制することに成功したと発表したのです。

そして木曜日に発行された「Cell」の別の一説では、別のグループが人間の細胞とともに育てるため、豚の胚を遺伝学的に作り出したと発表しました。

ほかの動物の体内で、正常に機能する人間の臓器を育てることが可能となるには、まだまだ長い道のりがあります。しかしこれらの研究はどちらも、それに非常に近づいたことを意味しています。

現在、移植に使われる臓器は必ず人間のドナーからもらわなければなりません。しかしドナーの数はそこまで多くなく、とくに心臓や肺などの必要不可欠な臓器は、誰かが亡くなったときのみ移植可能です。そのドナーの中から適合者を見つけるのは困難で、もし見つけたとしても、待っている人のリストがとても長いのです。

そのような理由から、多くの研究者たちは人間の臓器をほかの動物の体内で育てる方法を探し求めているのです。医者が必要とする、健康で正常に機能する臓器をなんでも育てることを可能とするために。

今週Natureを発行したのと同じチームが、実は2010年に最初のラットとネズミのかけ合わせを創り出しました。細胞と異なる遺伝子を混合したものをもつ動物はキメラとして知られていますが、これらが胚から育てられ生き延びた、最初のラットとネズミのキメラです。

彼らはラットの幹細胞を、ネズミの幹細胞が一切膵臓組織に発達しないように遺伝学的に創りだしたネズミの胚に注入しました。その胚は膵臓を除いて、体中にラットとマウスの細胞が混在したものを持つラットとネズミのキメラに成長しました。なぜならラットの幹細胞のみが膵臓組織へ成長することができるからです。

それだけでも大変なことですが、当初研究者たちはIsletsと呼ばれる膵臓細胞の一群をラットに移植し、糖尿を抑制することに挑戦したかったのです。

Isletsは血中の糖分を調整するのを助けるインスリンを生成します。しかし1型糖尿病では、免疫システムがIsletsを破壊してしまうのです。研究者たちは新しいIsletsをそのタイプの糖尿を持つラットに移植し、再びインスリンを生成し始めるようにすることを望んでいました。

問題は、膵臓がネズミのサイズだったため、研究者たちにとって移植を成功させるために必要な全てのIsletsを入手するには大きさが足りなかったのです。

今週発表された研究では、そのチームは2010年の実験と反対のことに挑戦したのです。彼らはネズミの幹細胞をラットの胚に注入しました。そしてその胚は、完全にネズミの膵臓を持つネズミとラットのキメラに成長しました。今回は膵臓がラットの大きさのものだったので、研究者たちは移植を行うのに十分なIsletsを入手することができました。

豚と人間のキメラは作れるか?

彼らはキメラの中で育ったネズミの膵臓からIsletsを取り出し、1型糖尿病を持つネズミに移植しました。そのネズミはインスリンを再び生成し始め、その病気は抑制されました。

臓器のこととなると、膵臓は比較的単純な臓器です。それは例えば完全な心臓や肺を育てることや移植することと同じではありません。それはずっと複雑でしょう。

しかしこの研究のおかげで、キメラからの臓器移植は実際に有効であるということがわかりました。これはただネズミとラットのことですが、この研究の目的は、最終的に人間の臓器を豚や牛など似た大きさの臓器を持つ種の体内で生成することです。それがCellの中で発表された研究です。

研究者のグループは、人間の幹細胞を豚の胚に注入することで人間と豚のキメラを創りたかったのですが、それはラットとネズミのキメラを創るよりずっと困難でした。

まず1つには、人間と豚は共通のDNAがラットとネズミよりずっと少なかったのです。さらに豚の胎児が発生するのに16週間しかかからないのに対し、人間の胎児は40週間かかります。つまり人間の幹細胞と豚の肝細胞は異なる速度で発生することになります。これらすべてのことは、人間の幹細胞を健康で完全な豚の胚にさせることを困難にしました。

この研究では、研究者たちは人間の幹細胞を豚の胚に注入し、その胚をメスの豚に移植しました。彼らはその胎児を3~4週間だけ成長させ、その後研究室で細胞を分析するために安楽死させました。

彼らはそのキメラが人間の細胞を成長させていることを発見しましたが、そんなに多くの細胞ではありませんでした。その中でも典型的で健康的な大きさに育ったものはほとんどありませんでした。胎児は大半が豚で、人間の細胞が筋肉や臓器に散在している状態でした。

しかしそれでも、彼らはやりました。研究者たちは最初の人間と豚のキメラを創り出したのです。彼らは特定の人間の組織や完全な臓器を持った豚を育てられるところまで、その工程が改善していくことを望んでいます。

しかしながらこの種の研究にはより一層の挑戦も待ち構えており、また議論を巻き起こす研究です。例えば、人間の脳を持つ豚を育てる人間を誰も望んではいません。そしてそのようなことができるというところからは、我々はとても離れたところにいます。

しかしキメラを研究する科学者たちは、彼らが試みている実験の性質には本当に注意を払っています。そしていつの日かこの研究によって、人々が必要とする正常な機能を持つ生命力に溢れた臓器を育てる道が開けることが可能となるでしょう。