『シン・ゴジラ』は昭和30年代的解決法
山田玲司氏(以下、山田):公式放送でやりましたけど、なんといっても『シン・ゴジラ』『君の名は。』『この世界(の片隅に)』という年だったでしょ。今年っていうのは。
乙君氏(以下、乙君):結果的には、コンテンツでいえば、そうですね。
山田:うん。そこの総括を簡単に前回しっかりやったんだけど、簡単にいうと、どういうことかというと、『シン・ゴジラ』ってなんだったかという話だけど。これさ、どら(だろめおん氏)は庵野フリークじゃん?
だろめおん氏(以下、だろめおん):はい。
山田:だから、庵野先生を神様だと思ってるわけじゃん。言いづらいんだけど、やっぱり俺からすると、あの人はやばいけど大丈夫だと思ってるんだと思うんだよね。この先の世界は。
だろめおん:ああ。
山田:うん。だから、ゴジラというのは原発のデブリの象徴で、それも上がってくる核の恐怖、それからいろんなことの憎悪とかと、あと不安、それからそれを人類の知恵で抑えることができるかとか、『ウルトラQ』的な感じだったんだよね。あれね。
それで、『ウルトラQ』的だなと思ってたら、やっぱり新幹線で止めるわけじゃん。もうだから昭和30年代なんだよね。昭和30年代的解決法っていうさ。
だろめおん:うんうん。
山田:そこで根っこにあるのが、「偉い人ががんばってくれるから大丈夫」っていうさ(笑)。だけど、偉い人もジジイはダメだからつって、バーンと切るというさ。
でも、偉い人のなかでも若手というやつのエリート、しかも組織っていう。これもう見事なまでにネルフでしょ? あそこで戦ってた人たちというのは。だから、「エヴァ、エヴァ」って言われてたなっていうさ。
乙君:ああ。
山田:それが震災の解答として1個出たと。だから、50歳代の人たちが出した解答が『シン・ゴジラ』だったんじゃないかなと思うのね。どう思う?
だろめおん:解答というか、現状をただ描いたという。どっちかといえば。
山田:そういうふうに見えるよね。
だろめおん:例えば、あのあと、たぶん東京駅の周りにゴジラから出るなんらかの廃棄物を溜めておくタンクが無限に増えていったり、永遠に今後何十年、何百年って冷やし続けなきゃいけないんだという展開になるはずなんですよ。あのあと。それは今の現状の日本なので。
山田:そうだね。
だろめおん:解決はまだしてないんじゃないかなと。
山田:だから、投げた感じで終わってはいるよね。ただ、前を向いてたよね。
だろめおん:まあ、そうですね。
山田:だからさ、岡田さんも言ってたけどさ、謎の外国から来たツンデレの女の子と一緒に戦うみたいなさ。あのゴッズィーラの人とラングレーがかぶるとかいう展開も含めて、ものすごくエヴァだったなということだよね。そこは間違ってない?
だろめおん:そこは間違っていないですね。
『この世界の片隅に』と『ローグ・ワン』のシンクロニシティ
山田:ないよね。もう一方で、『君の名は。』はなにをやってるかというと、それぞれ震災後、「単独で生きていこうよ」「レリゴー」って言ってたのが、「やっぱり無理です」という。これも公式で言ってたよね。だから、「レリゴーできません」という。
乙君:ああ、言ってた。言ってた。
山田:さみしくてもう限界。要するに、1人で限界だから、ずっと昔から信じてた、「『俺には運命の人がいる』というのを信じたいです」というのを、深海から上がってきた誠が。深海の誠が水面に上がってきて、元気な奴に引っ張られてね。それで……(笑)。
久世:なにうまいこと言うてるんですか(笑)。
山田:元気に釣られた誠が「やっぱり1人は無理です」って言って。で、「運命の人会えますか?」って言ったら、「いや、大丈夫ですよ」と。「大丈夫さ」って言い切ったのが『君の名は。』だったんじゃないかなと思って。
で、『この世界の片隅に』になってくると、前回言ったとおり、ここまで来た流れ、戦中戦前からの流れみたいなものに関して、俺たちは見てなかったということだよね。だから、ちょっと教科書俯瞰で見てたっていうんだよ。
乙君:まあ、できごととしてはわかるんだけど、暮らしという意味でああいうふうにすごく具体的に描かれたものには、出会ったことがなかったかもしれないですね。小説とかはありますけど。
山田:「今ある平和ってタダなのか?」っていう叫びだったわけでさ。だから、「それがこの国の正体かね」という大絶叫があったわけじゃないですか。
過去にこういうことがあったのを見てなかったなということに気付かされた、『この世界の片隅に』に重なるように『ローグ・ワン』の公開というさ。これはなんかすごいシンクロニシティだなって。
乙君:『ローグ・ワン』関わってるの?
山田:だから、エピソード4のね、俺はリアルタイムで体験してるから小学生なわけ。そうするとなにを見たかというさ、暗黒時代ありました。超悪い奴がいます。田舎の片隅で「おら、こんな村嫌だ」って言ってる奴がいます。まるで自分のようだな。これがルークなわけですよ。
だろめおん:うんうん。
山田:これが謎のメッセージもらって、「お前、実は……」。
乙君:ルークの顔が吉幾三になってる(笑)。
(一同笑)
山田:それで、いきなり近所に住んでるおっさんがもうすでに伝説の人で、みたいな。全部近くにいすぎるんだよ(笑)。
乙君:そうそう。
山田:巨大な惑星のなかで、もう全部ご近所に揃ってるわけ。「そういえば近所にベンというのがいたな」みたいな感じで(笑)。そして荒くれ者が合流して。だから、暴走族のボスかなにかに合流しちゃってさ。で、「俺の車乗れよ」みたいに言われたみたいな感じ。
そしたら「自分って、まさか選ばれし者だったんだ」みたいなことが、(ライトセーバーを振る仕草をしながら)ブーンブーンってやりながら気がつくみたいな。
久世:ブーンブーン(笑)。
山田:それで、行ったら、「あなたを待ってました」みたいになってるわけだよ。お姫さまがさ。それで合流だよね。そしたら、戦うときに友達といきなり会って。昔の仲間と。「昔を思い出すなあ」なんて言いながら、出撃するわけよ。ルークは(笑)。
それで、みんな死んでいくなか、選ばれし者だから絶対に弾当たんないんだよね。最後まで。1回外してるんだよ。あいつ。1回デス・スター倒すタイミング外してるんだよ。もう1回いくんだから。
だろめおん:そうです。ええ。
乙君::そうでしたっけ?
山田:もう1回チャンスないから。普通。でも、選ばれてるから、もう1回できるんだよ。
久世:(笑)。
『ローグ・ワン』はご先祖パンチ
だろめおん:オビ=ワン・ケノービの、あの「Use the Force, Luke」って。
山田:「どこ?」みたいな(笑)。
(一同笑)
山田:いやだから、それを見て……。で、最後、表彰式ですから。だから、「おら、こんな村嫌だ」から来た田舎者と、借金まみれの荒くれ者とその相棒が、いきなりものすごいところで、姫に個人的なコンタクトされながら表彰されて終わるというのがエピソード4で、新たなる希望だったわけ。
あれを観てたわけでしょ。あれで育ってるからさ、あれの直前になにが起こってたかっていうのは、あのクソめんどくさい読みたくない、それまで起こった事件というのがだーっと流れるという。意味わかんないからね。最初ね。あれやられても。
だから、「え、帝国ってなに?」「反乱ってなに?」「反乱軍ってなに?」「デス・スターってなに?」みたいな感じのやつの1行だけが映画になってるんだよ。1本の映画になってて。
それがどういうことかというと、俺たち、その前になにが起こっていたかはじめて知ったというのが、この12月のできごとで、『ローグ・ワン』を見ることの体験だったということなんだよね。
そうするとさ、「え、ちょっと待て」と。あのいい気になってた、「おら東京……」のルーク・スカイウォーカーが表彰されたのって、本当にいいとこ取りだったんだなということをまざまざと感じさせる暗いエピソードだよね。だって、多くの死があって、今の人生があるというのに、「俺、ちょっと人と違うんで……」みたいな感じで(笑)。
久世:ブーンブーンブーン(笑)。
山田:その気分のまま、ブーンブーンつって、なんかもう「目瞑ってもいけるし」みたいなさ。この気分が77年からスタートしてずーっと続いてたんだよ。
乙君:はあ。
山田:そこで「ちょっと待て」と言って1発食らわせたというのが、まず最初のご先祖パンチ。
乙君:ご先祖パンチ?
山田:だから、「ご先祖パーンチ!」1発入りました。今年(笑)。
乙君:兜甲児風に?(笑)。
(一同笑)
山田:もうね、だから、すずさん。
乙君:すずさんが? あ、すずさんなの?
山田:すずさんだし、哲だし。ご先祖さまががんばってたじゃない。ね? 「なにお前ら忘れてんだ?」って。
乙君:「フォースもねえ。ジェダイもねえ」ってやつね。
山田:フォースもねえ。ジェダイねえ。だけど、『ローグ・ワン』に出てた連中全員がすずさんの仲間たちだから。哲だから。あいつら。
乙君:はいはい。
久世:(笑)。
山田:だから、そのご先祖のことを「お前らちょっと忘れすぎてねえか?」というので一発入ったのが、12月に入ったこれ、ご先祖パンチですよ。
だろめおん:なるほど。
乙君:なるほど。
山田:それは文句ないでしょ?
乙君:いや、ぜんぜんいいですよ。