摂氏5.5兆度の高温状態が実現

マイケル・アランダ氏:世界は、火山や超新星といったたくさんの高熱の物質で溢れています。

あるものはさらに高熱です。そしてそのなかには、「世界で一番熱い」という記録を持ったものがいるはずです。

しかしそのような記録を測るのは難しいのです。なぜなら「一番」がどの「一番」なのかによるからです。例えば2012年時点で行われた実験のなかでの「一番」なのかもしれませんし、銀河内の物質での「一番」かもしれませんし、あるいは全宇宙が始まった時の時点での「一番」でも結果は異なります。

では、まずは歴史上記録されたなかで一番高温のものから見ていきましょう。2012年に行われた、LHCとも呼ばれる、「大型ハドロン衝突型加速器」の記録です。

粒子がなにでできているか、そしてそれが相互にどのように影響し合うかを学ぶために、LHCはイオンや陽子の速度を互いに衝突する直前まで、光の速度の近くまで上げることができるのです。このような衝突は通常爆発を引き起こすのですが、とくにこの場合は通常よりかなり大きな爆発になりました。

2012年8月、科学者たちはとても詳細で説明的な名前の試験、ALICEとも呼ばれる、「大型イオン衝突実験装置」の実験に臨みました。

この実験の目指すものは、「クォークグルーオンプラズマ」と呼ばれる時間の始まりの物質について学ぶことです。

クォークとグルーオンは粒子の基本で、陽子や中性子のような大きな粒子を形成しています。

私たちはクォークやグルーオンを単体で見たことがありません。しかし、宇宙の初期は非常に高熱な「クォークグルーオンプラズマ」と呼ばれる液状の物体で溢れていて、その中ではクォークとグルーオンがほとんど単体の状態で疾走していたのです。

粒子の温度が下がると、これらは違いにずっとくっついて、大きな粒子となります。しかしそれが実際どのように起こったのかはわかっていません。それゆえ粒子そのものを作り出し、それが冷めるのを観察することにより、科学者たちはその過程を見つけようとしたのです。

しかし、「クォークグルーオンプラズマ」を作り出すには、巨大な爆発が必要になります。爆発を引き起こすには、物体を衝突させるのが一番いい方法です。ALICEの実験では、LHCが重い重イオンのスピードを光の速度近くまで上げ、互いに衝突したときに、大きな圧と熱を生み出すことのできるような、充分なエネルギーを与えました。

結果的に、瞬時にイオンを溶解させ「クォークグルーオンプラズマ」にしてしまうほど熱い、火の塊になったのです。この火の塊は摂氏5.5兆度もあったのです。粒子加速器はこれ以前にも高熱の爆発がを作り出したことがありましたが、この回のものはとくに高温でした。なぜならこのとき用いられたのは、比較的軽い粒子ではなく、重い重イオンだったからです。

クォークとグルーオンに関しての正式な結果はまた発表されていませんが、LHCは初期宇宙の状況を再現する上で私たちに今できる、最善かつ最強の手段なのです。それにより高温を作り出すこともできるのです。

ビッグバン直後の想像を絶する高温

そのようなわけでALICEは宇宙一の高温を導きましたが、それはほんの一瞬にすぎませんでした。通常宇宙で一番熱いものを見つけるためには、地球から遠く離れたところまで旅をしなければならないのです。宇宙全体の中で銀河はときに近隣の星と塊合い、「銀河団」と呼ばれる銀河の集団となります。

銀河と銀河の間には他の種類の非常に高温の粒子があり、それは「銀河団ガス」と呼ばれ、その温度は摂氏3億度まで上がるのです。私たちはまだそれがどこからやってきたのかわかっていませんが、なぜそれほど高温なのかはわかってきています。銀河団が形成される前、それはただの巨大な渦巻き状のボールのような物体でした。

時間が経つにつれ、その物体は凝縮され、星や銀河や惑星を形成し、そのプロセスで多大なエネルギーを発したため、それが結果的に熱量となったのです。

銀河が膨大になるほど、さらなるエネルギーが放出され、それが銀河団ガスを高温にします。しかし銀河団は何十億年も前に形成されましたから、銀河団ガスは現在冷えていると考えることでしょう。しかし実際そんなことはありません。なぜならそれはブラックホールにより高温の状況を守られているからです。

ブラックホールの引力が物体を吸い込むと、エネルギーを放出し、それが熱と変わります。たくさんの銀河は中心にブラックホールがあるため、銀河が形成された時の高温のガスを保持する機能が付いているのです。

歴史上全宇宙で本当にもっとも高温な出来事が1つありました。それはビッグバン直後のことです。

宇宙が始まった時、それは限りなく小さく、限りなく密集した点が、我々が知り得るすべてのものと広がったのです。私たちの物理の法則は、その宇宙が生まれた瞬間何が起きたのかに付いての答えを出すには至っていません。

しかし、ビッグバン直後、非常に短い間に起きたであろうことの仮定を立てることはできます。その非常に微量な瞬間に私たちの宇宙は1に32個0が着くほどの非常な高温になったかもしれないのです。

全宇宙のすべての物質とエネルギーが1つの場所に集結したため、つまりすべての物が非常に大きな圧の元に置かれたため、そのような高温になりました。その圧すべてが非常な高温を引き起こしたのです。実際、それは物体が「絶対高温」と言われる、史上最高の高温に達した時かもしれません。

それは絶対零度の反対で、絶対零度とは物体が冷えることのできる限界の温度で、摂氏−273.15度、または0ケルビンと言われます。ある物理学者たちは、絶対高温は摂氏10の32乗度であるとしていますが、もうすこし低いかもしれません。10の30乗か10の17乗かもしれません。

いずれにせよ、これらの温度は私たちが考えられる温度をはるかに超えるものです。宇宙が広がる時、温度が下がることにより、クォークとグルーオンが一緒になり、アトムが形成され、あなたが知り愛するもの全てが存在するようになったのです。ですから宇宙が絶対高温になるのは奇妙ですごいことかもしれませんが、結局クールダウンしてもらうのがベストかもしれませんね。