3回戦最初はマネの『オランピア』

久世孝臣氏(以下、久世):次は2戦連続玲児さん。先頭でお願いします。

山田玲司氏(以下、山田):はい。これね、申し訳ないですけど、ベタです。ただ、なぜかというと、この人が大好きなの。いくつか革命を起こして印象派の流れを作った人ですよね。ご存知マネさんですね。

これ『オランピア』といいます。オランピアは外せません。

『草上の昼食』って言って、その貴族が森で乱交パーティーした後の絵っていうのがあって、こいつら気取っているけど、こんなじゃないかというのを暴いたって、この人はいわゆる社会派ですわね。写実派というか社会派というか。社会派の真骨頂なのが、この『オランピア』っていう。

実をいうとこの少女は儚げに見えて無垢に見えますけど、売春婦なんですね。だから売りをやったわけですね。売りをやってて、そこのこれお客さんからきたお花を、要するにメイドの方が持ってきているという。なにかを暗示している黒猫がここにいるんだけど。これだけですべてを語っているんだけど、なんといってもこの目だよね。

だから、「かかってきなよ。あたし全部わかってるからね」と。この裸体を見て、この裸体は要するに商品として使われているって。「あんたたちそういうことしてるよね」っていうことを、要するに絵を見る人全部に見られてしまうって。

久世:ああ。助けて、お母さん。

山田:大変ですね。

久世:玲児さんがえらいこと言ってる。

山田:マネさん。そうなんですよ、これ言ったらきりないんです。これは本当に物議をかもした、当時大騒ぎになった大スキャンダルになった絵で。っていうね、この絵で。

だけどこれ全体に品があるのと、絵としてのバランスもとってもいいというのがあって、オルセー(美術館)にあるので見てもらいたいですね、これね。

乙君氏(以下、乙君):確かにすばらしいです。

山田:ありがとう、どうもね。

乙君:だけれども。

山田:カモンカモン。

久世:落ち着けよ。落ち着けよ。いいですか。ゆっくり1本決めていこう。

乙君:これはもう出すしかない。

久世:行け行け。落ち着けよ。隊長。

乙君:あのね、(絵のなかの少女が)見つめ過ぎ。

山田:ああ、え、マジ。それ言ったらおしまいなんだけど。

久世:そういう絵なんだけど。

山田:そう、そういうコンセプトなんだけど。

対する北野恒富の『浴後』

乙君:こちらです。私の。

この目を見てください。

山田:なんですか。

乙君:北野恒富先生の。

山田:これちょっとしみちゃん好きそうな感じ。

久世:あ、本当だ。

乙君:竹内栖鳳より全然下の世代で、ビッグマウス。美人画をめちゃくちゃ描いていた人なんですけども、この、「どこ見てんの」っていう。これ、『浴後』って風呂入った後なんですよ。わかりますか。

久世:ああ、わかるわかる。

乙君:日常なんですよ。

久世:来てるよ、来てる。

乙君:絶対にそういう関係の。

久世:ああ大変だ。

乙君:人にしか見せないこのリラックスした感じと。

山田:立ち上がってる。

乙君:欲望のぼわーっとした、わかります? この。

久世:わかる、わかるよ、みんなわかってる。

乙君:絶対におっぱいなんか見せないの。

山田:ごめんなさいね、見せて。

乙君:(『オランピア』を指して)こんなのもうエロくもなんともない、肉体ですもん。北野常富の描く女の人の絵は、非常に、非常にもう俺、鏑木清方とかより全然好きですもん。色っぽい。この瞬間がねえ……。

山田:あなたスケベだねえ、シャッチョさん、スケベだねえ。

乙君:後ろにね、このおどろおどろしい植物を描いて。わかりますか、日本なんですよ。

山田:日本だねえ。

乙君:これも1つの花であり植物であり、そして人間なんですよ。

山田:言うねえ。

久世:言うねえ。

乙君:わかりますか? 以上です。

おっぱいを神聖なものとしつつ、無防備にはだけだす

山田:それではお願いします。どっちだ。

久世:おもしろくなってまいりました。

山田:おもしろくなってきた。そりゃそうだよ社会派だから。

乙君:よっしゃよっしゃ日本シリーズまだ終わってない。エロの日本シリーズまだ終わってない。

久世:ノゾムさんから行きますか?

乙君:じゃ行きますよ。

久世:いいですか。間違えんなよ、カードの切り方。

乙君:どっちかな、どっちかな。

久世:行けるぞ、まだ行けるぞ。

乙君:本物の日本画は最後に取っときますか。僕こちらいきます。中沢弘光、『かきつばた』。

これは黒田清輝の弟子なんですけども。

久世:清輝。

乙君:黒田清輝っていってもそっちの性器じゃねえよ、お前、なに言ってるんだ。

久世:わかってるよ、お兄ちゃん。

乙君:黒田清輝って日本の洋画を本当にアカデミズムにまで高めた人なんですけど、その黒田清輝の一番うまいぐらいの弟子で、この人は黒田清輝と同じような絵を描くんだけど、洋画なのね。日本画じゃなくて洋画でやるんだけど、やっぱりテーマが日本なの。

だから向こうの印象派をやるんだけど、黒田清輝よりめちゃくちゃ上手く描いちゃって、これわかります? 『かきつばた』っていうタイトルなんだけど、これかきつばたが咲いてるんですよ。

山田:入れるねえ、そういうの。

乙君:この乳首、これも一本の花なんですね。

久世:お前好きだな、花のこと。

乙君:わかりますか。神話みたいな、こんな風景ないわけ。ここはその、西洋の技術を使って日本のいちばん理想的な部分で、このおっぱいを神聖なものとしつつも、さっと無防備にはだけだす。で、ロリコン。伏目。どこ見てるかわからない。こんなすばらしい。

久世:言葉を失った。

乙君:町にいないの。どこにいるんだよっていうね。野原を散歩しててこの子が出て来たらやばいでしょ。

久世:それはやばいよ、なんの喩えだよそれ。

乙君:これはすばらしいです。よろしくお願いします。それでは中沢弘光先生『かきつばた』でした。

『叫び』だけではないムンクのエロさ

久世:受けて立つは、山田玲司さんです。

山田:はい。いいですか。

乙君:もう事後ね、事後ってこれね、やられちゃった後かもしんないしね。いろんな想像がここに。わかりますかね。余白が多い。

久世:もう、よろしいですか。

乙君:うん。言いたいことは山のようにある。

久世:わかりました。お願いします。

山田:はい。それでは、ノルウェーが生んだ20世紀最大のメンヘラ画家といえば……。

乙君:来た来た。みんな大好き。

山田:ムンクさんですね。

乙君:我らの心に必ずいる人でしょ。

山田:ムンクさんといえば『叫び』なんですけども。

乙君:全然ですよ。

山田:全然。あんなんでもちろん、『思春期』って有名なベッドに座ってる少女らが有名です。大体ソリッドで苦しいんですよ。ヴァンパイアのシリーズもいいですよね。

乙君:ヴァンパイアはやばい。

山田:首にかみつく女っていうのを書いたりとかして、いろいろ名作あるんですけれども、やっぱりね、俺が高校の時に、これを機にして本格的にやばいなと思ったのが『死と乙女』っていう。

乙君:うわー。

山田:これは大変なことをするやつ。

乙君:モローみたいな構図ですね。

山田:そうです、これは象徴主義だよね。だからこれ死、半分骸骨みたいなものと、接吻をしている少女なんだけど、このライン見てくださいよ。まあ周りに胎児がいたりなんかして、その死と生が交錯しているのを象徴的に描いているんですけど、なんといっても、要は、エロスっていうのは死と対極の、要するに一緒のものでもあるみたいな。先週も言ってたけど。それを完全に絵にしてしまってますよねっていう。

クリムトも似てるけど闇が違う

そこで、なにかしら立ち上っている、やばいものをやっぱり表現しちゃったよねって。この人有名なんで、もう1個『マドンナ』って有名なやつあります。

乙君:これはやばかった、本当マドンナが一番。

山田:マドンナやばいですよね。これもまたいわゆる、かなまら的な感じになってますけど、エクスタシーですよね。

乙君:そう、これも版画なんだよね。

山田:そうなんですよ、色違いもあるんですこれ。そして、これ。

絡んでるやつ、これも版画ですね。やばいよね。

乙君:そう、なにか構図としてはクリムトも同じようなアイデアでつくるんだけど、全然やっぱり、闇が違う。なめんなと。

山田:なんていうのかな、もう一緒になっちゃってるんだよ、これフォルムとして一緒になりたい。これ窓辺でしょう。だから、これはこの窓辺のモチーフっていうのが、秘め事のイメージがあって。

乙君:めちゃ見られてしまうけどね。

山田:これは向こうから見えないっていうのかな、陰でっていうね。だからあれはまだバルテュスさんもよく書いてたけど、「窓辺でこんなことを」みたいなことで。構図からテーマからなにもかも超かっこよくって超エロい。

乙君:ああ。

山田:名画ってのはここまでいかなきゃだめだよねっていう。そうそうそう、メンへラ師匠ですよ、この人。最高だな。

久世:すばらしいな。

乙君:まあいいや、反論はしない。

山田:希望を持っているよな、エロに対して。この人確か、妹かな、病気で亡くなって周りに病気が常にあった、死があったみたいな。それに対比させて、エロスを生命のイメージでぱーっと輝かすっていう、すばらしい。

乙君:あのタナトス持ち出すのずるいよね。

山田:おーっと。

久世:さてさて、審判の時間ですよ。

乙君:あと3枚出すのずるいよ。そういうことなら、俺はもう。

山田:そういうところだね、そういうところ。

乙君:俺1枚ずつだと思ってた

山田:ごめんごめん。見せたくて。みんなに見てもらいたくて。次は1枚です。

久世:最終決戦までもつれ込むのか、どうだ。

乙君:うわ、行った。

久世:玲児、ホームラン。これで勝負は決まってしまいました。

山田:ありがとうございます。

久世:ただ最終対決は2ポイントです。

乙君:お前、ええ仕事してまんな。

久世:やっぱり最後まで期待持ってみたいんで。

山田:これプレゼンして有料またぎみたいな感じなんですか、これ。

乙君:わかんない、今何時? 楽しい。

山田:楽しい。この番組、おもしれえよな。

乙君:本当この番組っておもしろいですよ。ね、みなさんね。

山田:なんだこれ、『スタジオパークからこんにちは』みたいなんだけど。