私たちのなかにいる遺伝子のスーパーヒーローたち

ハンク・グリーン氏:『X-MEN』のようにアダマントの爪や念動で天気を操るといった能力は持っていないかもしれませんが、遺伝学的スーパーヒーローは私たちの中にいるかもしれません。

そのような人々はDNA内での突然変異による深刻な遺伝的疾病を患っているはずなのです。しかし彼らはそうではなく、私たちもなぜなのか理解できていません。さらなる研究をするため、科学者たちは「レジリエンス・プロジェクト」を行なって、人類を病気から守る為の新しい生物学的遺伝子や、生命の危機に面している患者の為の新たな治療法を見つけようとしているのです。

先日『Nature Biotechnology』誌で発表された論文によると、研究者たちは約60万ものヒトゲノム、DNA配列の一部を分析しました。このデータはDNA検査会社を利用した人から取られたもので、彼らは匿名で科学のために自分の情報を寄付してくれたのです。

細心の選考をした結果、科学者たちは、成人13人の中に、8つの異なる衰弱を引き起こす、また時に死を引き起こす幼少期の疾病として知られる突然変異があることを発見したのです。興味深いのはここです。彼ら医療記録は、すべて良いものだったのです。

その病気のうちの1つが、「嚢胞性線維症」という、突然変異した遺伝子が肺やその他の臓器で過剰に粘液を作り出す病です。

この病は患者が呼吸をしにくくしたり、栄養を摂取しにくくしたりしたり、痛みを伴うほかの症状を引き起こします。そのほかにも、頭蓋骨や顔の発達欠陥を引き起こしたり、重度の自己免疫疾患を引き起こす珍しい症状があったり、幼少期にほとんどの場合死に至る状態にあったりする人もいるのです。

これらの病の中には、科学者たちもまだあまり解明できていない部分もあるはずです。できれば全ゲノムやほかの生物学的サンプルから、「遺伝的スーパーヒーローズ」と呼べる人たちについてさらなる事柄を学びたいところです。

しかし残念なことに、すべてのDNAデータが匿名だったため、誰もそれが一体誰なのかわかりません。これら13名の同意書にされた署名者に科学者たちは接触を許可されていないため、彼らの秘密は守られたままとなっているのです。

それゆえ、それらの人たちは自分がどれだけ特別なのかを知ることはないかもしれません。しかしこれにより、この発見が憶測的であるとされてしまうかもしれません。さらなるデータを収集するためにこれらの人に会うことができないなら、研究者たちは結果を再チェックしたり、DNAテストや健康記録に間違いが無かったという証明をすることができません。

しかし「レジリエンス・プロジェクト」は遺伝的スーパーヒーローだと分かった時に再び接触されても構わない人たちをさらに集められることを願っています。あなたもそのうちの1人かもしれないのです。

LSDに関する研究の結果

話題は遺伝子から脳へ変わります。先日イギリスの研究グループが、何十年にも渡る科学的沈黙を破り、2つの異なる発見を発表しました。史上初めて、LSDでハイになっている人の脳を最新の機械でスキャンしたのです。

LSDは、よく知られた幻覚を引き起こす薬物のうちの1つです。

LSDを摂取すると、幻覚を見たり、「エゴ・ディソリューション」と呼ばれる感覚を覚えます。その感覚とは、自分がどこかほかに行ってしまったり、「宇宙と一体化」した感覚とも言われます。

LSDに関しては1950年代と60年代にその研究が広く行われ、その後ほとんどの場所で使用が禁止されるようになりました。近年は違法ドラッグに関わるいかなる実験への資金を集めるのが難しくなっています。

それが細心の注意を払った、さまざまな規範による許可を得たもので、私たちの脳に関する新しい情報を学べるかもしれないとあっても同様です。通常、資金がなければ科学もありません。難しいのは、神経科学の分野は過去50年の間に飛躍的に進歩しました。つまり、私たちの知る、薬物の危害を及ぼす可能性や、LSDのような治療上有効な薬物に関する知識についての差が開いてしまっているのです。

先日発表された論文では、立案者たちがこれらの問題を、ふさわしい法的な許可を得たり、科学者たちへのキックスターターである「Walacea」を通して研究費用の一部をクラウドファウンドにより集めたりすることにより解決しました。

この研究のために、以前に幻覚を引き起こす薬物を使用した経験のある20名の被験者を集めました。そして彼らを脳をトラッキングするたくさんの機械に繋げ、レクリエーションとして摂取される量である、LSDを75マイクログラム投与しました。それから被験者たちはできる限り自分の体験を記録しました。研究者たちは彼らの説明と脳のスキャンを比較し、ハイになっている脳の働きを分析しました。

幻覚に関してはほとんど、被験者の視覚皮質の活動に影響を与えているようでした。その部位は通常視覚と関わる部分です。

LSDを摂取した後、視覚皮質には多くの血流が流れるようになり、近くの部位とコミュニケーションをとるようになります。さらにアルファ脳波の強さが急激に弱まります。これにより心の抑制も弱まってしまいます。つまり、脳は自由奔放になり、目をつぶっていてもはっきりとした現像を作り出してしまうようになります。

そして、ほかにもさらに変化が広がっていきます。彼らはLSDが、通常は交信し合わない脳の部位同士の交流を増やし、脳内で一番活発な、コミュニケーションのハイウェイとも言える部分を抑制することを発見しました。

研究者たちのうちの1人は、その状況を、通常の別個のセクションに分かれるのではなく、「統一され、さらに統合された脳」と表現し、統一した脳は「エゴ・ディソルリューション」の感覚と深い関わりがあるとしました。

この研究に関わった科学者たちはLSDが脳に与える影響に関するさらなる研究をすることにより、自身の意識に関してさらに知ることができると信じています。

それにこれらの試験に成功すれば細心の注意を払った、他ほかの違法ドラッグに関するさらなる研究を促進することにつながり、それについて私たちがさらによく理解できるようになればよいと願っているようです。