昔の人間は牛乳を消化できなかった

マイケル・アランダ氏:人間は進化によりさまざまな能力を獲得しました。過去数百万年間で、人間は直立二足歩行し、道具を使い、言語を発達させました。

直近のわずか数千年の間にも、人間は進化を続けています。進化を促進するものの1つには、自然淘汰があります。うまく環境に順応させた特性を持つものだけが、長生きしてその特性を子孫に引き継ぐことができるのです。

現代の薬はそのプロセスに干渉していると言うことができます。なぜなら、薬がなければ死んでしまう人間をも生き永らえさせることができるからです。しかし、だからといって、人間が進化をやめてしまったというわけではありません。

最近の研究に、人間の進化を立証するものがあります。

成人の35パーセントが、乳を消化できるというものです。7,000年前には、その割合はこれほど多くはありませんでした。乳を飲み、消化するのは主に乳児で、母乳のラクトースをエネルギー源にするためでした。成長すると乳を消化する遺伝子は働きを停止します。

しかし人が牛を家畜化することにより、成人してもなお乳を消化できる突然変異を起こした人間は、栄養源の選択肢が増えたことにより、生き残る率が高くなります。こうして数千年の月日が流れると、ラクトースを消化できることは、ごく一般的になりました。

このように、最近においても、人間は進化を続けています。研究者の多くが、人間はいまだ進化の途上であるとし、将来の人類がどのようなものになるかを予測することも可能だとしています。

たとえば、将来、女性はより身長が低くなり、少々体重が増える可能性があります。研究者たちは、マサチューセッツ州フラミンガムの住民1万4,000人の病歴を追跡調査した「フラミンガム心臓研究」のデータを用いてこの結論を導き出しました。

研究チームが、生殖的に成功する女性の特性を調べたところ、身長が低く、やや体重のある女性が、より多くの子どもを持つことがわかりました。また、この特性は子孫に受け継がれます。

この傾向が維持されれば、10世代のうちに平均的な女性の身長は2センチメートル減少し、体重は1キログラム増加することでしょう。

脳は縮小傾向?

私たち現代の人間と、未来の人間とのもう1つの違いは、脳が縮小するかもしれない、ということです。これはとても奇妙なことに思われます。人類の歴史を通して、脳の大きさは常に拡大する傾向にあったからです。

しかし、過去2万年間において、ホモサピエンスの脳は縮小しています。

この間、男性の平均的な脳の大きさは1,500平方センチメートルから1,300平方センチメートルへと減少しています。テニスボール程度の大きさの差です。同様に、女性の脳の大きさも減少しています。なぜこのような変化が起こったのでしょうか。

1つの可能性としては、より複雑化した社会構成により、脳が縮んだということです。人口密度が上がって労働が細分化されたことにより、人間には生存をかけて知能を発達させる必要がなくなり、大きな脳はもはや必要がなくなったのです。

また別の研究者は、人間が野生味を失ったために脳が縮小したと考えています。たとえば、家畜化された動物は、野性の同種よりも脳の大きさは小さいのです。おそらくは、野性の動物が生き延びるには高い知能が必要とされるためでしょう。

家畜化された動物同様、人間もまた、肉食獣の襲撃などに絶えず怯えて暮らす必要がなくなったため、脳が縮小されたのです。

しかし、脳が縮小したからといって、人間の知能が低化したとは限りません。より高機能化した、と言い替えることも可能です。大きな脳の維持のためには、大量のエネルギーが必要となります。より小さく、高機能な脳であれば、生命維持のためのエネルギーを、より節約できます。

近年のアメリカ人の頭蓋骨についての研究によると、頭蓋骨は1800年代半ばから大きくなっていることがわかっています。しかし、これは進化による変化ではなく、単に栄養状態の向上が理由だと考えられています。つまり、栄養状態の向上を条件から除けば、脳の縮小は将来的にも続くかもしれません。

人類が、自然淘汰による進化をしないとしても、遺伝子工学により人工的に自己進化を遂げる可能性もあります。

遺伝子の働きと遺伝子工学の研究が進めば、遺伝性疾患や老化による疾患をも排除できるようになるかもしれません。

最終的には、ゲームでアバターをデザインするように、人間の身長や知性、運動能力その他の特徴を変化させるようなデザインが可能になるかもしれません。

こういった変化が自然のものであれ、人工的なものであれ、未来の人類は、今とはだいぶ異なる存在になるかもしれませんね。