プライベートも仕事に使え

藤巻直哉氏(以下、藤巻):本を読んでる方はご存知だと思うんですけど、読んでない方のためにいくつかのキーワードを出していきたいと思います。これは石井君が鈴木さんから教わったことですね。まず最初に「仕事は公私混同」。これはどういうことですか?

石井朋彦氏(以下、石井):よく言う「プライベートも仕事に使え」という意味ではないんですよね。僕が言われたのは「先のことを考えるな」と言われたんですよ。将来の夢とか未来の目標とかね。「お前は目標とか夢とかばっかり考えすぎて目の前のことが疎かになっている」と。

鈴木敏夫氏(以下、鈴木):ふーん……。

一同:(笑)。

石井:ノート持ってきましょうか、ここに(笑)。

藤巻:あなたが言ったの。

鈴木:だってそれ、素晴らしいじゃん。

一同:(笑)。

石井:「朝起きたら今日やることを一生懸命やれ」と。そのためには飯食ってる時も、寝てる時も、友達と遊んでる時もすべてそれは仕事に結び付くと思えばね、日々の仕事も楽しくなるから。全部ひっくるめて日々、日常を仕事と分け隔てするなというようなことだったと思います。

藤巻:1日仕事して家に帰って、境がないと。

石井:そうです。ただ、今言うような「労働時間が長い」とか、「ずーっと働け」ってことではないんですよ。

藤巻:でも常に何か考えてる?

石井:そうそう。

机に向かって難しい顔をしてるやつは仕事ができない

藤巻:宮崎駿さんとちょっと話をしたことがあって、その時に宮崎さんは「若いころはやっぱそうだった」って言ってた。だけど今はジブリで仕事をして、22時きっかりに終わって、その時になにか素晴らしいアイディアが思い浮かびかかっても、もうやめるんだと。

(宮崎さんは)所沢に住んでるんですけど、東小金井から所沢まで車運転しながらクールダウンをしていきながら家に帰らないと、夜眠れないらしいんですよね。その物を考えてる時って、「脳を開いてる」って彼は言ってたんですけど、脳を開きっぱなしなんで、22時になったらそれを全部やめて、良いアイディアが浮かびそうだって時もそれをやめて、帰路に就くと。

車で所沢行くまで運転しながらバスの数を数えるんですって。そうしながらクールダウンしていくって言うんで。単純作業をなにかしながら、バスを1台、2台と数えながらクールダウンすると。そういった意味で言うと、公私混同は今は宮崎さんとかはしてないのかなーっていう。

石井:でもその間も考えてるんだと思うんですよね。

藤巻:考えてるのかな。

石井:ごめんなさい。これちょっとキーワードがわかりにくい。例えば僕らが机でパソコンに向かってると鈴木さんに怒られたの。「机に向かってウンウン難しい顔してるやつは仕事ができない」と。

「なにかしてる間に、メールとか文章は頭の中で作っておけ」って言われたんですよ。歩いてる時とか移動してる時に、どのメールを返事を書くとか、文章を書くとか頭の中で書いておいて、いわゆる仕事の時間はそれをもうバーっと書けば仕事なんかすぐ終わるんだと。それを仕事とプライベートってはっきり分けて、一生懸命やってるから仕事が終わんないんだ、という感じでしたよね。

藤巻:そうなんですか?

鈴木:いやもう僕……、いろいろ勉強になりますよね。

一同:(笑)。

藤巻:最近ぼけてきたんで言ったこと全部忘れてますからね(笑)。そういうこと言ったみたいですよ、若いころにね。

鈴木:いやもう正しいですよね。

藤巻:けっこうそれは実践してますよね?

石井:今も実践してますよね。鈴木さんは。

藤巻:鈴木さんの生活を見ていると、確かにどこからどこまで仕事でどこからプライベートなのかっていうのはまったく区別ないな、とは思いますよね。

石井:そうですね。

鈴木:理想なんですよ。最近の言葉で言うと「オンオフ」って言う言葉があるでしょ。

石井:そうそう、オンオフなんかない、っていう。

鈴木:僕あれ間違いだと思うんですよね。要するに、ここまでがオンで、ここからがオフって考え方ってね、やっぱり疲れちゃうと思うんですよ。そうじゃなくて、そんな区分けはないっていう方が、毎日楽しくなりますよね。藤巻さんそうじゃないですか。

藤巻:俺ほとんどオフです。

一同:(笑)。

藤巻:オンがあるのかっていう(笑)。でも、それはそうですよね。

石井:そうですよね。だから疲れないよ、その方がってことでしょうね。

目標を決める生き方、決めない生き方

鈴木:もう1つ、さっき石井が言いかけたことで言うと、僕も確かにと思って。僕も若い時にいろんなこと悩んだと思うんですけど、ある時こう決めたんですよ。人間の生き方って2つだって。

目標を決めてそれに到達すべく努力する、っていう考え方あるでしょ? 一方で、目標を定めないで目の前のことをコツコツやってく。それによって開ける未来もある。僕だって若い時は目標持たなきゃいかんのかなって随分思ってたんですよ。

石井:あっ、それはちょっと僕もほっとしました。

鈴木:思ってたんだけれど、いろいろ考えてもなかなかね、目標なんか持てるもんじゃない。それで、そういうことやってたら忙しかったもんだから結局目の前のことをコツコツやんなきゃしょうがない。それによって自分がどこへ行くかわかんないんだけど、開ける未来もあるということを、どっかわかんないけど体で学んだんですよ。だからたぶん石井の前で偉そうに言ったんでしょうね。

石井:「キキ」と「しずく」の例に。

鈴木:それはよく話したねー。

石井:『魔女の宅急便』の「キキ」が好きか、『耳をすませば』の「しずく」が好きかで人間が分かれると。「キキ」っていうのは、自分の持ち物である魔法使いっていう血を使って仕事をしようとするけど、「しずく」は小説家になろうって思うじゃないですか。僕はどっちかっていうと後者だったんですよね。何者かになろうって思ってたんだけど、本当にそれでいいのかっていう。

むしろ「キキ」の生き方の方がね、いいんじゃないの? って言われたんですよね。毎回なにか言ってくださった後に、「一歩一歩だぞ」って言われたんですよ。この「一歩一歩」って言葉に本当に救われて。やっぱり何やっても目標に達しないことがほとんどじゃないですか。とにかく「一歩一歩だぞ」って鈴木さんは言い続けたんで。それはすごくやっぱり励みになりましたね。

鈴木:同時にね、こういうことがよくあったんですよ。僕はジブリって会社を作った人間の1人なんで、そういうことでいうとジブリで働く若い人たち、特に現場で働く人たち。

よく、がんばってる人に限って突然「辞めたい」って言ってくる人多かったんですよ。そういう人たちに実はある共通したことがあって、それはなにかというと、このままでは自分を見失いそう……だから辞めたいと。まあ藤巻さんなんてね、この期に及んで、藤巻さんて今65かな?

藤巻:いや、64。

(会場笑)

鈴木:ないでしょ、自分を見失うって。

一同:(笑)。

藤巻:ないっすねー。

鈴木:だけどね、ジブリでは夢を抱いて目標に向かってがんばってるんでしょうけどね、このままでは自分を見失う、だから辞めたい、っていう人に対して、僕は何を言い続けたかっていうと、「理想が高すぎんじゃない?」って。これを言い続けたんですよ。

要するに自分の理想とするある目標値があって、そこから現在の自分を見る、そんなふうに見たらすべてみすぼらしく見えるじゃないって。だからとりあえず目標とか理想の自分を置くのをやめてみたらって。そういう時にね、僕いつも例に出してたのが藤巻さん。

一同:(笑)。

藤巻:やめてくださいよー(笑)。

鈴木:藤巻さんを見ろと。あの人に目標があるかと。

(会場笑)

藤巻:な、ないですよー(笑)。

人のことを考えて仕事をすると疲れない

鈴木:みなさん若いから、ピンと来るかどうか。映画で言うと『男はつらいよ』のフーテンの寅次郎? あの人って夢はあるんですかねえ?

藤巻:毎回出てくるマドンナと結ばれることだったんじゃないですか(笑)?

石井:報われないですもんね。

鈴木:それ以外は?

藤巻:それ以外はないでしょうね。食っていければいいっていう。

鈴木:自分がこういう人物になりたいっていうのはないでしょう?

藤巻:ないですよね、確かに。

鈴木:人との関係でしょ? マドンナを好きになるっていうのも。そうすると、目標設定をしないことによって毎日明るく元気に暮らせたわけでしょ?

藤巻:目標設定がないからか。

鈴木:ないですよ、あれ。だから藤巻さんと同じじゃない。

藤巻:そうですけど(笑)。

鈴木:それと僕もう1つ言いたいのが、マドンナを好きになるわけでしょ? 藤巻さんが言ってくれたから思いつくんだけれど、考えてんのはその人のことばっか。

藤巻:そうですね、あれ(笑)。

鈴木:それ以外、何考えるんですか?

藤巻:確かに何も考えてないですね。

鈴木:最大の特徴、寅さんの。自分のこと何も考えてないんですよ。でしょ? 自分の経験でもわかるけれど、人のこと考えてると、それが例え深刻な問題であっても、自分が疲れないんですよね。だから僕は、あんまり自分がやったことないんですけど、自分のことばっか考えてると、たぶん疲れるでしょ?

石井:そう思いますね。

鈴木:でしょ? 藤巻さんなんて自分のこと考えることある?

藤巻:いやいや(笑)。最近不安になってますね、将来ね。

鈴木:あ、そうなんだ。

藤巻:(笑)。

ジブリの名監督も1度は夢を諦めた

石井:藤巻さん今、絶好調ですからね。ただ、藤巻さんもそうですけど、宮崎さんも高畑さんも押井守監督もね、みんなそうだったんだぞっていうふうにも言ってくれたわけですよね。俺もそうだったけどって。

宮崎さんも漫画家になりたいという夢があったけど叶わないと思ってひたすら悶々としていた時に、でも絵を描く仕事ができればいいと思って東映動画に入ったし。高畑さんも実写の仕事がつきたかったけど当時、実写は不況でアニメに入ったし。押井さんなんか街歩いてたら、看板を見てたまたま入ったんですよね? タツノコ(プロダクション)に?

鈴木:みんながそれ、(話を)作ってるね。

石井:いやいや(笑)。

一同:(笑)。

鈴木:ちょっと石井の言ったこと否定するようで申し訳ないんだけれど、押井さんは確かにそうだよね。押井さんって、ラジオのディレクターやってたんだよ。

石井:あっ、そうだラジオのディレクターだ。

藤巻:ええー! そうなんですか?

鈴木:そうそう。ひょんなことでタツノコ(プロダクション)の募集を知って、それで行く。その時は、アニメのアの字も知らないんですよ。

藤巻:ええー?

鈴木:だけど映画だから、映画好きだし同じじゃないかって。それで言うと高畑さんは実写好きってこともあったけど、あの人は学者に向いてる。

石井:はあー。

鈴木:高畑勲って人はなんと、東映動画、今の東映アニメーションって会社に入る時、実を言うと自分の親友が東映アニメーション受ける、それにくっついていったんですよ。

藤巻:ええー? そうなんですか!

石井:それは知らなかった。

鈴木:くっついてって、ただ待ってるのつまんないから、ついでに応募してたんですよ。

一同:(笑)。

藤巻:どういう人なの(笑)。