今、日本の観光業界でなにが起こっているのか

江藤誠晃氏(以下、江藤):ではここからが本番です。熱くみなさんで語っていきましょうということで、観光シェアリングエコノミーの課題をみなさんと共有したいと思います。

まず市場なんですけれど、(スライドの)一番下にあります「国内観光」というのは人数がなかなか測れなくて、これは日本の旅行業界のデータなんですけれど、1年間の国内観光の泊数です。いわゆる宿泊をともなう観光が4億8,000万泊なんですね。

すごい量、と思うじゃないですか。ところが、これを国民で割ると、1人あたり年間で外泊4泊しかしていないということです。もっともっと、これを倍ぐらいにできないのかなと。これが日本の観光マーケットです。

ただ、日帰りの観光というものがありますから、実際はもっと多いです。この20兆円ではなくて数10兆円なんですけれど、ここをスケールさせていくということが非常にポイントになってくるんだろうなと思います。

そういう意味では、日本が舞台なのか、世界が舞台なのか、あるいはお客さま、日本人か外国人かというような、いろんなカテゴリーはあるんですけれど、まず国内の地域が活性されたことによって、日本人がもっとやってくる、そこに海外の人がやってくるという循環を作る必要があるんですね。

シェアリングエコノミーを観光ということで考えたらどういう概念かということを、みなさんとシンプルに共有したいんですけれど、基本的にはホストとゲスト、旅する人と迎える人がいて、従来の観光というものは、そこにレガシーエージェントといわれる代理店業があったんです。

個人の方がホテルを自分で押さえられませんよね。あるいは、飛行機の自分の席は押さえられませんよねという時代に、それを仕入れて売るというエージェントモデルだったわけなんですけれど、インターネットができたことによって、ゲストが直接ホテルやエアラインを押さえるようになった。これがOTAと言われる、Online Travel Agencyです。まさにBooking.com、この流れなんですよね。

オンラインエージェントがあったんですけど、シェアリングエコノミーはどういうことかというと、まったく新しいエージェントです。ゲストとホストがつながるんだけど、ホストがゲストになるかもしれない。

つまり、民泊でいうと、プロのホテルではなくて、一般の人がホテルなわけですね。あるいは、ライドシェアとかUberさんに代表されるような、タクシーとか運送業以外の人が運転できる時代になったということで、まったく新しいエージェントができてきた。そのなかで、従来のレガシーエージェントと新しいエージェントのなかにいろいろな確執が起こったというのが、このシェアリングエコノミーの黎明期の時期なんですが、そろそろそこから脱出していくよねということです。

シェアリングエコノミーに立ちはだかる「3つの壁」

そして、ここからみなさんとお話していきたいんですけれど、「シェアリングエコノミー本当にスケールしていくの?」ということに対して、まだ疑問符がともなうと思うんですが、ここで3つの壁を考えてみます。

まずは、今申しあげた「新旧の壁」。それから人材、それを担える人がいるのかという「人材の壁」。そして、「本当にシェアリングエコノミーは拡大するのかな?」ということはまだまだ未知数なんですね。この3つの壁に関して議論していきたいなと思います。

まず1番目の壁です。「新旧の壁」です。今日、私の1つの視点として、これがemotionalなのか、functionなのか。つまり「感動産業なのか」「機能的なサービスなのか」という軸。

それからdefenseとoffenseということで、最後にお話があったんですけど、今まで行政というものは守りだったんですけども、今、攻めの時代になってきています。defenseか、offenseかということを散りばめながらお話したいと思います。

まず新旧の壁ということで、新旧の壁ってここにある壁なんですね。(スライドの)左下と右下を見ていただいたらわかりますように、オールドエコノミーは、旅館業法とか道路交通法ということだったんですけど、今、新しいサービスは従来のいわゆる法的なものの枠組みに入らない。つまり、ここで既得権益とか法令とか、「特区をつくりましょう」とか、「信用の問題」があるんですけれど、実はこれは新旧の壁なんですね。

ここをブレークスルーするサービスとか制度づくりということなんですけれど、まずこのあたりに関して、ご意見をうかがいたいなと。

まず、ライドシェアということで、東さんのほうから。いわゆる「白タクどうなの?」みたいな話がよくあるじゃないですか。ここに関しての見解や、その壁を超えていく方法。

法の範囲で実績を作って法律を変えていく

東祐太朗氏(以下、東):ライドシェアをやっていると、「白タクの問題があるんじゃないの?」「これ、ぶっちゃけ白タクだよ」みたいな話はよくつっこまれるんですけど、まず先に言うと、説明させていただいたとおり、実費を割り勘するというところなので、今の法律のなかでは問題ないと捉えています。

ただ、これってもともと道交法で想定されていない使い方だと思うんですね。なので、例えば、これから取引させていただく会社からも、「本当に大丈夫?」みたいなことはやっぱりありますし。

今は割り勘なんですけど、本当は高速道路を使わないような距離でもやっぱりやりたいですよね。例えば、東京から京都ぐらいだったら今のままでもいいんですけど、京都のなかで、隣の平等院とかそういうところまで行きましょうかみたいな、「タクシーだとちょっと高すぎるよね」といったところに、「ついでだから送るよ」というところが、お金が回ることでもう少し促進できるんじゃないかと思うんですけど、今の法律だと厳しい。こういうところは今、壁で、弊社の課題かなと思っています。

これは今、法律で問題ない範囲の内できちんと実績を作っていくことで、法律を変えていくしかないんじゃないかなと思っています。そこが今やっている取組みのところです。

江藤:結局、旧勢力から出る「それって白タクだぞ」「民泊おかしいぞ」というのは、その壁なんですよね。ただ、実際サービスの利便性で考えたり、そこで感動を得るということでいうと、意外とこれが、その壁を超えるというところだと思うんです。

実際に行政側の塩野さんや勝瀬さんから、このライドシェアは、どういうふうに受け地として着地して受けられているのか。要は着地でいうと、いろんなメニューを作るわけなんですけれど、移動ってすごい大事じゃないですか? 例えば、地方でいうと空港から先の二次交通とか。今まさに東さんがおっしゃったように、地域のなかで移動するときに、すべての人が足を持っているわけじゃないんだけど、タクシーがあるのかとか、二次交通が整備されているのかというのは大きな問題ですよね。

勝瀬博則氏(以下、勝頼):ものすごく大きいです。これはBooking.comのときの話ですけれど、お客さまのだいたい6割が場所で選ばれます。そして、25パーセントが料金で選ばれて。それから、8パーセントぐらいの方が口コミで選ばれる。非常に大きな割合の方が「場所」で選ばれるんですね。

だから、その場所にどうやって行くのかどうかということが、その場所で泊まるかどうかを大きく左右すると言えます。そこまでの行き方、行くまでの価格というものはとても、これだけで大きな要素となっています。

地元民も観光客も幸せなシェアのかたち

江藤:島原はどうですか? お客さまの移動というのは?

塩野進氏(以下、塩野):これまでまったくそういった、どうやってお客さんが来ているかという数字がなかったので、7月にはじめて調査をしたんですが、「だいたい電車で2〜3割来てるのかな」と、みんな思っていたわけですけど、観光客の方にアンケート調査してみると、島原鉄道という電車で来ているお客さんは実は全体の3パーセントしかいなくて、残りの9割はレンタカー、あるいは自家用車で来ているということがわかって、みんなびっくりしたということがありました。

ですから、そういう車がないと来られない観光地だという意味では、こういったサービスにぜひ期待したいというところはありますけれど、当然、交通機関というものは観光という側面だけではなく、社会インフラ的なまちづくりのなかで、高齢者の足ですとか、そういったところまで含めて、行政としては当然考えていかなければならないので。観光面からはウェルカムだけれど、地元のタクシー事業者さん、今、年配の方を病院に運んでいるような方からすると、たぶん決してウェルカムではないということだと思います。

ですので、行政としては立場を使い分けながら考えていく。なかなか一概に「やりましょう」ということを公の場で言うのは難しいのかなというのが正直なところですね。

江藤:そういうことですね。つまり、地域の人にとってはdefensiveな交通機関ですよね。地域のお年寄りのための足とか、観光で人が来るというのはoffensiveな交通機関なので、たくさん来ればいいんだけど、それで渋滞したらまずいとか、そういった課題が出てくると。

塩野:ただ、すみません。今、話していて思ったんですが、私は今、ある意味、旧来型の観光地の観点からしゃべってしまったかなと思っているんですね。

つまり、観光客の方がめぐるルートとそれから地元の人が住むルートというものが、これまでは線を引かれていてまったく別だという前提だったとすると、それは「こっちに入ってきたら困る」という話だったと思うんですけれど、やはりそこの境界線が今少しずつ消えているという意味では、観光であろうが、地域の人であろうが、これを線引きすることにはもはや意味がなくなっているのかなとも、思いました。

江藤:そうですよね。今、僕は海外でやっているんですけれど、国内で20年ぐらい、いろいろと地域づくりをやっていました。

例えば、地方にコミュニティバスってあるじゃないですか。病院に行くための足。でも、だいたい空気を運んでいるところが多いですよね。そういうものに観光客がうまく乗ることによって、その空間をシェアできないかと考えると、二次交通がoffenseとdefense両方のチームが入っているようなことができて。

おそらくライドシェアの基本的なシェアリングエコノミーの考え方というのは「空気運ぶのがもったいないので……」ということですよね。そこにうまく人を集めていくような仕組みができると、融合できる可能性は当然あると思います。

ライドシェアは既存の交通を“ぶっ壊す”ものではない

勝瀬:オンデマンドというところがカギなんだと思いますね。需要のあるところに供給を出すというのがシェアリングエコノミーのすばらしいところで。先日、WILLER TRAVELの村瀬(茂高)社長とお話を……。

江藤:バスの?

勝瀬:バスのところですね。彼がおっしゃっていたのは、公共交通の場合、需要があろうがなかろうが関係ない。それはインフラだから。WILLERさんの場合は、「いや、そうじゃない」と。「観光で稼ぐためにどこでお金が稼げるかということで、どの路線を作るか決める」とおっしゃっていらっしゃいました。

そういうところで観光をどうするのかというのが、今日の切り口。公共と実業の境目というのは、稼ぐ気持ちがあるかどうかというところにあると思います。

江藤:そうですね。つまり、決まったルートやダイヤで走るだけじゃなくて、そこを柔軟に組み替えることによっていろんな可能性があるということですよね。

:いいですか?

江藤:はい、どうぞ。

:よく「ライドシェアがタクシーをぶっ壊す」みたいなことを言われるんですけど、僕はそれはちょっと違うなと思っていて。まさに公共交通手段なので、赤字だからやめるということが困る地域って絶対あると思うんですね。

全体で公共交通として担うべきところと、足りないからシェアリングエコノミーで賄っていこうという分野と、それぞれ問題が違うと思うので。

例えば、一元的に全部シェアリングエコノミーはダメだというのはやっぱり違うし、だからといって今の既存産業を壊してもいいのかというと、それも違うので、そこは共存できるような法改正や我々の取組みが必要になってくるんだろうなということはすごくよく思います。

江藤:つまり、今この壁というものを書いてあるんですけど、レガシーな交通業者もシェアの仕組みを考えることによって、新たなソリューションを作れるかもしれないですよね。

実は、観光タクシーというものが地方ではあって。2時間乗り放題、何千円とかで、観光地を回るみたいなことに実際にトライされてるところもあります。そういう意味では、そこに相乗りすれば、効果的にリーズナブルに観光地を巡れるかもしれないです。