シンジは究極に中に入った状態
山田玲司氏(以下、山田):それで言わなきゃいけないことがあります。最後に、『エヴァンゲリオン』の構造ってすげえおもしろいなと思ったのが、少年は庵野さん。
シンジ君は庵野さんで、表に出たくない引きこもり。だけど「俺はウルトラマン」だと思っている。「ウルトラマンだよ」「だけど、外に出たくないんだ」「だって友達もいないし、電話もかかってこないし」っていう。
そういう状態のなかで、もう母の母胎でいたいんだと。これものすごくATGっぽい。若松孝二の『胎児が密猟する時』のあれですよ。60年代感がものすごくあるわけ。この密室の。ちょっと寺山も入ってる。「母さん、僕は生まれたくないんです」という、『身毒丸』のあれですわ。
乙君氏(以下、乙君):ああ。
山田:あの状態のマインドをロボットモノに入れているところがなかなかすげえなと思って。
それで、ここから、引きこもりのまま戦うウルトラマンって状態になるんだけど。その外見になっているエヴァのデザインがやっぱり怪獣なのがおもしろくって。そこでウルトラマンって基本的に猫背。
乙君:確かに。
山田:怪獣も猫背っていう。だからエヴァも猫背。全部つながってるんだけど、でも、中の中の中の中って話なんだよね。
乙君:ああ。
山田:だから、一番外側にいるのが怪獣で。怪獣というのは煩悩の化身なんだよね。だから最も欲望をむき出しにした状態のモノの中に、母の体内というかたちで入っていくウルトラマンたる少年という。もうマトリョーシカですわ、これ。
(一同笑)
「いくつ入ってんの?」という感じの。
だから、これよく言ってたんだけど、思春期で自意識こじらせてる奴がいると「お前いい加減にパンツ脱げよ!」って話するじゃない。「お前、いい加減モビルスーツから出てこいよ」って。
要するに、自意識なるものを防衛するためにモビルスーツに入らなきゃいけなかった。だけどそれの、究極に入った状態。
乙君:なるほどね。
3話までの視聴で深く理解する山田氏はすごい
志磨遼平氏(以下、志摩):エヴァンゲリオンというのはあれ別にロボットじゃないんですよね。
山田:あ、ロボットではない?
乙君:ちょっとちょっと。
志磨:あ、違った……。
山田:え、そんなアニメが始まったの? 斬新な。
(一同笑)
志磨:3話目以上のことを言ってしまった……。
山田:じゃあ、俺はちょっとワクワクさせてもらえるわけ? このあと。
志磨:やっぱりすごいのは、1話目から3話目の時点で、もう先をそれだけ見通しているというのは。たぶん僕たち、3話目の時点ではまだそこまでわかってなかった。
乙君:なにもわかってなかった。
山田:そうなの?
志磨:そう。3話目ってどの時点だ、というのを考えながら。
乙君:「鳴らない、電話」だね。
志磨:「鳴らない、電話」ね。そうか。
山田:かなって思って。
志磨:なるほどね。
山田:それで、やっぱり特筆すべきは、アムロはガンダムに最初に乗ったときにでっかい説明書をこうやって、必死になって。
乙君:そうそう。マニュアル読んで。
山田:だけど、もうこの状態でOKですから。
志磨:そうですね。
「シンジ=ニュータイプのジェダイ」
山田:全部セッティングされてる。じゃあ、そういう奴がなにをもってして戦える価値があるのかというと、やっぱり選ばれし勇者ってことだよね、彼は。だからジェダイの系譜になってくるんだと思うんだけど、その戦い方に興味がある。
ニュータイプのジェダイじゃん。ライトサーベル引っ張るわけじゃん。ジェダイをやってたわけなんだけど、90年代のジェダイとして、ニュータイプのジェダイとしてシンジ君が現れるということだよね。綾波もそうなわけでしょう。
それで、どういうふうに戦うのかなと思うと、キレるんだね。キレて、しかもナイフ振り回して、びっくりした。
あの時代ってバタフライナイフが流行ってて。90年代といえば、バタフライナイフを持って大暴れする少年というのと、完全にシンクロしてんだよね。
乙君:ああ、確かにそうだ!
山田:ものすごい……。
志磨:そうでしょ(笑)。めっちゃそうやったやん。
山田:めっちゃそうやった? だから本当にここで惑星直列が起こって。今、こんな時代に話してますけど(笑)。
志磨:言うてたよ、その時点で(笑)。
山田:言うてたやん? でもダダイズムの話してるんだからいいよね。
乙君:そのなかにいたから、そんなことを改めて思うことはなかったけど。自然だから。「ナイフ持ってキレる? ああ、わかるよ」。
山田:だから、引きこもり少年がナイフ持って「うっせー、ババァ殺すぞ!」っていうのがエヴァの戦い方なんだというのが3話で出てくる。
乙君:なるほどな。
志磨:間合いが、やっぱりビシュンって、ライトサーベルとかだったらけっこうあるんよ。
山田:そう。サムライっぽいんだよ。騎士道なの。
志磨:やっぱり、こうだったやん。肉弾戦だったっていうか。
山田::そうそう。
メカの操縦者は疲れない問題
志磨:それで、そこにATフィールドがあってというのがおもしろかったというね。相手との絶対領域。
山田:あった。そうそう。ATフィールドね。
志磨:……え、それ3話目で出てきた?
山田:出てきた。ミサトさんしゃべってた。
乙君:2話目でATフィールドを中和してる?
山田:そうそう。中和してる。でも「力技?」みたいな。「え、どういうこと?」って。
志磨:力技なんですよ。
山田:力技なんだよね。
志磨:そうなんですよ。
山田:要は「メカの中の人ってそんなに疲れないじゃん?」って問題を解決しようとしている。だから、メカそのものになる。
乙君:そんな問題があったんだ(笑)。
志磨:ああ、そうね。
山田:こうだから(手でレバーを操作する)。
乙君:まあね。
山田:だけど、例えばガンダムなんて頭落とされるんだけど、「あんなものはカメラにすぎない」みたいな感じなんだけど、その問題を解決するという。エヴァがやられると自分も痛いというところにシンクロする。「こういう発明してたのか」みたいな。
だから、「実はものすごいスピリチュアルなんだな、これ」って、3話目まで観ました(笑)。
乙君:なるほどね。
山田:やべえぞ。長すぎるわ。ごめんね!
志磨:いやいや、おもしろいですね(笑)。
周回遅れの山田氏の姿を観る放送
乙君:3話目まででここまで来まして。みなさん、コメントで「俺らが何10年前にやったことをもう1回言ってるだけ」って、そりゃそうだよ(笑)。
志磨:ここまで見てる人が「うー、言いたい。言いたい」ってなる放送、すごいっていう(笑)。
山田:これイベントでやりたいよね。「知ってる、知ってる」みたいな。
(一同笑)
乙君:新しいですよね。
志磨:「言いたい。言いたい」(笑)。
山田:「そうなん?」とか言ってる。だから俺はタイムスリップしてきた人だと思ってください。
乙君:この状態がスタートですから。今日は一番最初、第1回「君エヴァ(君はエヴァンゲリオンというアニメを知っているかね?)」なので。ここから毎週小出しにして、最終回、玲司さんがどんな結論をエヴァに下すのかって企画なわけ。
山田:そう。それで俺は庵野さんに謝るのかという。
志磨:なるほどね。
乙君:エヴァ解説じゃなくて、はじめてエヴァを観た玲司さんがどんなふうに感じたかってことなんだよ。
志磨:そっか。僕らが玲司先生を……。
乙君:別になんら新しいことが出てくるかどうかって保証はないよ(笑)。
志磨:エヴァンゲリオンを語るんじゃないんだ。
乙君:そう。
志磨:玲司先生を観るんだ?
乙君:そう。これは玲司さんがはじめてエヴァを観るというのを観察する。
志磨:はじめてエヴァを見てる人を僕らが観るっていうね。
山田:めっちゃおもろない?
(一同笑)
乙君:なんか関西弁(笑)。
志磨:めっちゃおもろいやん(笑)。
山田:めっちゃおもろいよ。だってこんないい年して、漫画界のベテランが大ヒットアニメを知らないで、「え、こんなんなんだ」と言ってる(笑)。
乙君:「ヤバない?」みたいな。
山田:「ヤバない? 肩パッドじゃない? これ」みたいな。
乙君:「ドイツから少女来たぜ」みたいな。
志磨:まだやで。それ、まだやで。
乙君:おっと。
山田:へ~、そうなの。ドイツから来るの。そうなんだ。やばいな。