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『ライフ シフト』発売記念「100年時代の人生戦略」(全7記事)

「努力してこなかった自分を後悔していた」安倍首相夫人が語る、考え方を大きく変えたきっかけ

誰もが100年生きうる時代(100歳人生)がやってくる。そのとき、働き方や学び方、結婚、子育てなど、人生はどのように変化するのでしょうか。10月27日、東洋経済新報社が主催する「『ライフ シフト』発売記念 100年時代の人生戦略」を開催。第二部では、首相夫人の安倍昭恵氏、大阪大学准教授の安田洋祐氏、株式会社grooves代表の池見幸浩氏、AERA前編集長の浜田敬子氏、そしてリンダ・グラットン氏も引き続き登壇し「100年の人生戦略をどう考えるか」についてセッションが行われました。

「長生き」から生まれる、さまざまな議論

司会者:みなさま、お待たせいたしました。これよりパネルセッション「『ライフシフト』100年の人生戦略をどう考えるか」を開始させていただきます。

(会場拍手)

まずはパネリストをご紹介させていただきます。

先ほどご講演いただきました、ロンドン・ビジネススクール教授のリンダ・グラットンさま、ファーストレディとしての公務のほか、社会活動などさまざまな分野でご活躍されていらっしゃいます、内閣総理大臣夫人の安倍昭恵さん、テレビや雑誌など、数多くのメディアで活躍されている注目の経済学者、大阪大学大学院経済学研究科准教授の安田洋祐さま、人と働き方に関して見識が深く、ベンチャー企業の経営者として活躍されている、株式会社grooves代表の池見幸浩さま。

そして、モデレーターは『AERA』の前編集長であり、テレビのコメンテーターでおなじみ、朝日新聞社総合プロデュース室プロデューサーの浜田敬子さまに務めていただきます。

(会場拍手)

それでは浜田さま、よろしくお願いいたします。

浜田敬子氏(以下、浜田):みなさん、こんばんは。今日は仕事帰りのお忙しいなか、お集まりいただきありがとうございます、朝日新聞社の浜田と申します。

今日、なぜ私にモデレーターという大役がきたのかを考えていました。私は今年4月まで『AERA』という週刊誌の編集長を務めていました。

『AERA』は30〜40代の働く男女を読者に多く抱えておりまして、私も記者時代からずっと、働く人の意識や職場、雇用問題などを多く取材してまいりました。リンダ先生の『ワーク・シフト』にも非常に感銘を受けて、『AERA』で一度「日本でワーク・シフトが起きたらどうなるんだろうか」という特集も組ませていただいたことがあります。

今回この『LIFE SHIFT』を読ませていただきまして、本当にびっくりしました。日本で働く現場を取材していると、長時間労働の問題や、私自身も子供がいるんですけど、育児と仕事の両立、女性がなかなか活躍できない問題などがあります。

本当に、取材して気が滅入るような話が多くて、とても悲観的になっていたんです。でも、この『LIFE SHIFT』は非常にポジティブで、目からうろこというか、本当にびっくりしました。そして、「自分自身もこんなに長生きをするんだ」と改めて感じました。

今日は、いろんな立場の方、さらにファーストレディにまで来ていただいていますので、さまざまな議論ができればと思っております。よろしくお願いいたします。

職業生活に、もっとも変革を与えるのは「寿命が延びること」

ではまず池見さんから、簡単な自己紹介と本を読まれた感想、ぜひお聞かせいただけますでしょうか。

池見幸浩氏(以下、池見氏):はい。ただ今ご紹介にあずかりました、株式会社groovesの池見と申します。

当社は採用サービス、人材サービスを提供している会社です。約4,000社の大企業から、ベンチャーと呼ばれるIT系の企業の……、本当に50人以下の、最近流行りのサービスや記事にもなっているようなベンチャー企業の方々に、優秀な方を紹介しています。

どちらかというと、僕らのお客さまは最先端のスタートアップと呼ばれている方々です。「どのような人間を採用して、どのように社会を変革していくのか」というお客さまが多いです。

今日の僕の立場は、今までの旧態依然とした日本のスタイルではない、「企業がどのようなかたちで、これからの時代にアタッチしていくか」という採用戦略や、人事戦略を考えているのかというところを、お話ができればと思っております。

『LIFE SHIFT』の前の『ワーク・シフト』という本を2013年に読ませていただいたとき、ピーター・ドラッカーさんがおっしゃった言葉だったと思うんですけれど「職業生活において、もっとも変革を与える事象はなんなのか」という言葉がありました。それは、産業革命やインターネット革命、情報革命でもなく、今回の書籍にもある「寿命が延びることだ」とあったのが、非常に印象深かったんです。

今回の『LIFE SHIFT』は、その寿命が延びることに対しての、僕たちのこれからの指南書としても、一個人としても、非常に参考になりました。

また、これからの企業、人事としても、どういうことを意識して変えていくべきかがよくわかる本だったのが、印象深く残っています。

浜田:ありがとうございます。

役に立つ理論とは「自分の考えを変えよう」と思えるもの

続いては、安田さん。ぜひ、自己紹介と本の感想をお願いいたします。

安田洋祐氏(以下、安田):みなさん、こんばんは。大阪大学で経済学を教えております、安田と申します。経済学について少し知ってる方もいらっしゃると思いますけれど、マクロ経済学・ミクロ経済学と、2つに大きく分けられます。僕はミクロ経済学で、個人の意思決定や、企業がどう行動すればいいかを、ふだんは研究しています。

所属は大阪大学なので、今、家族で大阪に住んでいるんですね。リンダさんのお話にあった、非常に重要な「これからの資産であるインタンジブル・アセット」「無形資産をどれくらい重視してる」は、僕にはわからないですけど。大学教員のなかでいうと、僕は無類の無形資産好きで(笑)。だからこそ、こうして東京のイベントにも喜々として参加してるんです。

浜田:そうですね。いろんなところで拝見します、先生。

安田:(笑)。じつは、登壇されている方に私はお会いするの初めてなんですけど、いずれ近い将来、浜田さんには『AERA』の表紙を飾らせていただいて。

浜田:(笑)。

安田:ロンドンに遊びに行ったときには、リンダさんにロンドン・ビジネススクールでセミナーをアレンジしてもらって。大学が嫌になって転職を考えるときには、池見さんにイケてるベンチャーを紹介してもらって。なにかやばいことをしでかしたら、昭恵夫人にお願いして超法規的な……。

(会場笑)

最後のは冗談です。というような人的ネットワークを作ろうと思って、今日も参加しました。

冗談はさておき、この本の印象は、とにかくこれからの我々の人生において重要な情報が、わかりやすくビジュアライズされています。

みなさん、先ほどリンダさんの講演を聞かれていて、とにかく自分たち、とくに若い人たちは長生きする。そして無形資産……いろいろ種類がありましたけど、インタンジブル・アセットの蓄積が大切だと、鮮明にわかったと思います。

先ほどのトークでも出てきましたけれど、具体例として、それぞれ年齢も違うジャック、ジミー、ジェーン、の3名の人生でいろんなシナリオが、本のなかで描かれています。

一見すると複雑になりがちなキャリア形成や、「どれくらい貯蓄すればいいのか」という大事な問題を、非常にわかりやすく具体的に、そして数字を出しながら解説しています。これからの人生を変えていく、いいベンチマークというか、羅針盤になる1冊だと思います。

冒頭で、私がミクロ経済学をやっているというお話をしたんですけど。ミクロ経済学のなかに、個人がどう合理的に意思決定をすればいいかを研究する「意思決定理論」があるんですね。

意思決定理論は「Decision Making Theory」です。この「いい理論」はなにかというと、現実をうまく説明できる理論を指します。理論を勉強して、「確かに僕の・私の意思決定はこの理論のとおりだ」となる。これがいい理論なんです。

では、「役に立つ理論」はなにか。理論や考え方を聞いて「私の考え方を変えよう」となるのが役に立つ理論です。

この「いい理論」「役に立つ理論」からいうと、リンダさんのこの本『LIFE SHIFT』には、両方が含まれている1冊なんじゃないかなと思いました。

浜田:確かに、私もあと15年働ければ引退だと思っていたのですが、考え方をすぐに変えました。

大学での出会いが考え方を変えた

そして、今日のスペシャルゲストとお呼びしたほうがいいと思うんですが、安倍昭恵夫人に来ていただきました。

昭恵夫人は、『AERA』時代から何回か取材をさせていただいてるんですが、本当にいろんな人脈をお持ちなんです。ファーストレディなのに、こんなに忙しくいろんな活動をしていてびっくりします。まさに、今日のゲストにふさわしい方だと思っております。

まず、昭恵夫人におうかがいしたいんですが、「人生100歳まで生きる」の時代になったということですが、ご自身では100歳まで生きると想像していらっしゃいましたか?

安倍昭恵氏(以下、安倍):ぜんぜんです。私、このイベントにふさわしくないくらい、人生の戦略もなにもなくて……。

(会場笑)

浜田:いえいえ(笑)。

安倍:若いときから生に対してぜんぜん執着もなく、「明日死んでもいいわ」という感じでずっと生きています。一方、「100歳まで生きてもいいし」という、わりとそんな感じなんです。

浜田:でも、5年前に大学院に入り直されて、いろんな勉強をされて。しかも、農業や地方の問題、被災地の防波堤の問題など、いろんな地方の課題に、とにかく現場に直感で行かれて取り組んでいますよね。そして、すごくいろんな友人がいらして。若い方からお年寄りの方まで、いろんな幅の友人がいらっしゃいますよね。

まさにリンダさんが書いていることを、戦略じゃないかもしれないけど、直感的に「自分が好きだからやる」という感じで、すでにシフトしているんじゃないかと思うんです。そもそも、大学院に入り直されたのはなぜだったんですか?

安倍:私にはなんにも取り柄がなく、勉強も嫌いでした。エスカレーター式の学校に通っていたにも関わらず、大学に行っていないというくらい。それが大きなコンプレックスだったことに、最初の総理夫人になったときに気づきました。

主人と一緒に海外へ行き、主人が首脳会談をしている間、私はほかの首脳夫人とお会いするんです。事前にプロフィール交換をしているのですが、ほかの方々のものを見ただけで「私、この人とは話ができない」と思ってしまっている自分に気づくんです。「もっと若いときに勉強しておけばよかった」「なぜ、私には特別な能力がないんだろう」と、努力してこなかったことに対して、非常に後悔しました。

主人が総理を辞めた後、私はマラソンに挑戦したんですが、完走できたとき「年をとっても、やろうと思えばけっこうできるんだ」と思ったんです。そして「じゃあ、苦手だった勉強をしてみようかな」と思って、大学院に入りました。

レポートを書いたり、論文を書いたりは非常に苦手で「やはり私は勉強が苦手だったんだ」と思う反面、そこでいろんな人たちに出会うことができました。そこから考え方を変えました。「知識よりも、ものごとはこうやって考えるんだな」を学べたのが、今、大きく役に立っていると思います。

一歩下がって自分を見つめると、行動が見えてくる

浜田:ありがとうございます。ここまでお聞きになって、リンダさんに感想をうかがいたいんですが、どうでしょう?

リンダ・グラットン氏(以下、リンダ氏):首相夫人はとても大切なことをおっしゃっていたと思います。私は本のなかで、みんなが1人ひとり、なにか計画を書かなければいけないと言ってるわけではないんです。今朝も聞かれたんです。計画を書くときに「これを20歳でやって、これを30歳でやって、40歳のときにやって……」と書く人もいらっしゃるとは思いますが、全員はなさらないでしょう。

昭恵夫人の話していたことで、大切なことが2つありました。自分のことをよく知らなければいけないんです。

無形資産のことについて考えるとき、とくに自分を変身をするときに大切なことがあります。一歩下がって自分を見つめ直すということです。昭恵夫人は、とても正直に、忌憚なく話していました。

昭恵夫人のように話せることも、とても大切だと思います。自分を誠実に見つめ直すことは、そして、多様なネットワークを作ることは、変身するうえで大切な資産です。昭恵夫人は、それをすでにお持ちだと思いました。

一番大切なことが無形資産なので。いろんな方々を見ても、無形資産が豊かな人はとても少ないのです。

一歩下がって客観的に自分を正直に見つめると、行動が見えてきます。とくに多様なネットワークを作る必要性が見えてきます。本にも書かせていただきましたが、今、ご夫人がおっしゃったように、幅広い人々に出会って新しい視点を得ることはとても大切です。

安田先生も先ほど、いろんな人に出会うのは大切だとおっしゃいました。それが無形資産のなかでも一番大切です。

浜田:ありがとうございます。

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