『君の名は。』から『溺れるナイフへ』

山田玲司氏(以下、山田):『君の名は。』、大変ですよ。高校生だらけでしたよ。「まだ入ってる」「まだいるんだぁ」みたいな感じで観てましたよ。

志磨遼平氏(以下、志摩):すごいですよ。だって、100何十億円ですよね。

山田:そしたらあれが出るじゃないですか。予告が。

志磨:うん。

山田:いっぱい流れる予告のうちの1つに、溺れるなんとかがあるわけじゃないですか。

志磨:おお、やった! いえーい。

山田:だから、『君の名は。』を観た人は、みんな『溺れるナイフ』が始まるよということを刷り込まれている時間が。

志磨:ああ、そっか。

乙君氏(以下、乙君):なるほどね。

山田:そうなんですよね。

志磨:あれ何人ぐらい入ってるんですか? 『君の名は。』。

山田:えーと、もう110億……って言ってて。

志磨:百何十億でしょう?

乙君:ってことは……。

山田:そういう計算とかやめようか(笑)。

志磨:0をまあ……。

山田:たいへんな数の人が(笑)。

志磨:そのうちの1割でも来てくれればね。

山田:そうそう。

乙君:大ヒットやん。

山田:すごいよ。すごい。

志磨:大ヒットですよ。

志磨遼平、初の役者体験

乙君:実際どんな感じだったん?

志磨:ん?

山田:役者、はじめてだったっけ?

志磨:はじめてですよ。

山田:去年の夏だよね。

志磨:そう、去年の夏に。

山田:しれっとやってたよね。

志磨:そうなんですよ。

山田:なにかをはじめてたよね(笑)。

志磨:そうそう。そうなんですよ。

乙君:ロケ地が地元だったっていう。数奇な運命。

志磨:そうなんですよ。どこから説明しましょうかね。

山田:あれって、「ドレスコーズの志磨遼平に役者とかやらしてみねぇ?」みたいなことを、誰かが言い出すんでしょう?

志磨:監督が山戸結希さんという方で、その監督まだ若いんですよ。今、26、27歳。

山田:そうなの!? 

志磨:うん、そう。

山田:え、年下?

志磨:ぜんぜん。うん。

乙君:すげえ!

山戸監督作品の大ファンで

志磨:それで、「おとぎ話」というバンドが……。

山田:一緒にやってたよね。

志磨:そうです。いまして。そのバンドと山戸さんで合作みたいな、短い映画を1本撮ったんですよ。それが2013年とかかな。

毎回そういうインディーズミュージシャンとインディーの映画監督で手を組んで、1本、コラボレーションで短い映画を作るという映画祭があるんです。「MOOSIC LAB」という。

そこで『おとぎ話みたい』という映画を山戸さんが撮って。それを観に行ったんですよ。それがまあ~いい映画で。ちょうど今TSUTAYAでレンタルが始まったところなので、ぜひみなさんも見てほしいんですけど。

その『おとぎ話みたい』を観て、「いや、この監督すごい。天才現るやな」って、僕すごく大ファンなので。

山田:えっ。そうなんだ。

志磨:うん。そこから時は経ち、今日の春とか夏ぐらいにおとぎ話づてに、「山戸さんがなにか新しい映画撮るとき、志磨ちゃんにお願いしたいって言ってたよ」って。「そんな、もちろん、もちろん」と言って。

僕はてっきり「MOOSIC LABで僕と山戸さんみたいなかたちで、なにかやるのかなぁ」ぐらいに思っていて。それで、「そんなもうぜんぜん。山戸さんの映画だったら僕もうどんな役でも、どんな条件でもやりますよ」って言って。それは低い意味で言ったんですよ。

乙君:低い意味?

志磨:「ギャラないですけど……」とかでも、「ぜんぜんいいですよ」と。

山田:ああ。

乙君:そういう言い方なんだね。

人気漫画原作を携えメジャーに乗り込む

志磨:「本当にチョイ役で……」とかでも、ぜんぜんいいですよみたいな意味で、「もうどんな条件でも」と言って。そしたらなんとメジャー1作目。

山田:それが今回の『溺れる』の役なの?

志磨:うん。

乙君:じゃあ、勝負作なんだ。

志磨:というか、いよいよ山戸結希が日本映画界にまずこうボンと。

山田:メジャーに乗り込むと。

乙君:やったるで、と。

志磨:の1本目というね。

乙君:へー。

志磨:今回は原作がジョージ朝倉先生の……。

山田:漫画なんだよね。

志磨:そう、『溺れるナイフ』という漫画の実写化で。だからいわば、出てくる子はみんな10代なんですよ。小学校高学年ぐらいから話が始まって、中学・高校ぐらいまでの。

溺れるナイフ(1) (別冊フレンドコミックス)

そのなかで唯一お話の本筋に絡んでくる大人の役として、カメラマンの広能というのがいて。それで、主人公の女の子を撮るんですね、被写体として。「その広能役でお願いします」と言って、「へ~」って言って。

乙君:じゃあ、もう最初から、けっこう重要な。

志磨:そうそう。だから、山戸さんは前から『毛皮のマリーズ』とかを聞いてくださってたの。学生時代から。それでお話をいただいたという顛末でございます。

山田:へ〜。

志磨:そう。

はじめての演技はどうでしたか?

山田:じゃあ、ちゃんとセリフとかしゃべってるわけね。

志磨:しゃべりましたよ。

(一同笑)

乙君:覚えられたの?

山田:なになに? どうだった?(笑)。

志磨:覚えるのは大丈夫ですけど……。

山田:やったことないよね?

志磨:ないです、ないです。

山田:PVって、型あるし、歌だし。

志磨:そうそう。PVなんてね。例えば、歌って踊るというのは……。

山田:じゃないもんね。

志磨:歌って踊ってる時点でもう非日常じゃないですか?

山田:そうね。

志磨:だから、それは別に演技じゃないというか。もう歌って踊ってるだけで、もうそれはそういう特殊な行動なわけで。

山田:うん。

志磨:「じゃあタバコ吸って見てください。どうぞ」って言われると。歌いたいから歌ってる、踊りたいから踊ってるんじゃなくて、タバコを吸いたいわけでもないのにタバコを吸うというのが演技なわけでしょう?

山田:そうね。

演技の先生は乙君

志磨:ってなると「うぇー」「難しいなあ」って。「たばこ吸ってるとき、どこ見てるかな?」にはじまりもう。まず乙君に相談したよね?

乙君:うん。

山田:あ、演技の先輩。

志磨:そう。

乙君:まあねえ、数々の名優を育ててきた。

山田:うるせー!

志磨:(笑)。

乙君:名伯楽。

山田:名伯楽?(笑)。

志磨:そうそう。

乙君:奥野聖陽なので。ねえ。

山田:そのTシャツにツッコメってこと? それは(笑)。

乙君:いや、違う(笑)。舞台と、映画の演技、映像の演技はもうぜんぜん違うので。

映画は監督のもの

山田:じゃあ、そのとき奥野さんはどんなアドバイスをされたんですか?

乙君:いや、だからそれはもう監督のものなので、監督がどういうふうに撮りたいか。カットの問題になってくるので。

例えば、動きをけっこうわざとらしくつけたとしても、それが抜かれなかったら意味がないじゃないですか。だからその役柄と演出とどれだけ監督とすり合わせて……なんといえばいいのかな、基本は顔ですわ、映像は。アップが多いから。

あと、大げさなことやってしまうと浮いてしまうので、全体のバランスと。みたいな話をしました。すごく単純な。誰でもわかること。

志磨:演劇部だったんで。そんでまずこう。

山田:参考になった?(笑)。

志磨:え、そうそう。電話で「実は……」って言って。それで、そういう話もらって「なにかひと言で奥義みたいのだけ頂戴?」と言って(笑)。すごい簡単に「これだけ押さえとけみたいなことがあったら」と。それで、今、言ったような。

山田:監督のものだと。それはそうだね。

志磨:「舞台とかは役者のものだけど、映画はもう監督のものだから、監督の言うことを全部聞きな」って、「はーい」って。

山田:「はーい」って(笑)。

志磨:それでなんとかがんばってきましたよ。

乙君:その志磨ちゃんの渾身の演技を、みなさんぜひ劇場まで行って。

山田:『君の名は。』の次には(笑)、『溺れるナイフ』なので。

志磨:はい。