妊娠中に起こるつわりの科学

ハンク・グリーン氏:胸がムカついて疲弊するつわり。それは妊娠中の女性の日々をそれまでの日々とはがらりと変えてしまうものです。

つわりの間というのはまるでたちの悪い冗談のような期間です。妊婦さんと身近に接したことがあるか、もしくは妊娠したことがある女性なら、昼夜問わずその苦痛が直撃し、そして長々と居座るものだと言うことはおわかりでしょう。

笑えないですね。それはまるで、眠れない時のような、二日酔いのような、一日中遊園地でティルターワールに乗っているかのような感じにちょっと似ているのかもしれません。もしくは、吐き気を催すほどなのですから、さらにひどいむかつきなのでしょう。

ラブコメなんかで、よくヒロインが同僚の前でくずかごに軽くオエっとし、顔がパアッと明るくなる様子が描写されますが、そんなのちっともかわいくもおかしくもない……なんて、言わない方が良いのでしょうね。

1パーセント未満の割合で、ですが、ひどいつわりは体重の減少や脱水症状、血液中の酸性度の危険な低下である、アルカローシスの症状を引き起こし、低カリウム血症、血液中のカリウム濃度を下げてしまう症状を引き起こします。

妊娠悪阻と言われている、ひどいつわりは、とても危険なものです。幸い、ほとんどの女性は、どんなにひどいつわりでも、最初の3ヵ月が過ぎれば終わるということは知っていますが。

さて、一体なにがこんな不可解な症状を引き起こしているのでしょうか? なぜ自然というものは、お腹のふくれや背中の痛み、便秘に顔のシミ程度のことで許してくれなかったのでしょうか?

一言で言えば……その答えは分かりません。しかし、私たちは科学について語ってるのですから、そこにはなにか科学的な根拠があってしかるべきですよね。

専門家の多くはこういったさまざまなやりきれない症状は、妊娠初期のとんでもない量のホルモンの変化によって引き起こされるものだと考えています。とくに、胎盤性性腺刺激ホルモン、ヒト絨毛性ゴナドトロピン、HCGの増加によって引き起こされるのだと。HCGは受胎後の胎芽の発達によって胎盤で生産されます。

このホルモンを生産させ続けることにより、卵巣は健やかに保たれるのです。

正常妊娠であれば、ほとんどの場合、HCGの濃度は2、3日毎に倍になり、3ヵ月目あたりで分泌量が最大値になります。急上昇するホルモン濃度が嘔吐反射を制御する部分である、脳の化学受容器引金帯、CTZを過剰に刺激するのでは、思っている人は、そのため、オエっとなるのだと考えています。

赤ちゃんを毒素から守るという説も

しかし、HCGは一風変わっているだけで、ホルモンとしての働きをしているただのホルモンです。科学者のなかには、妊娠中は通常時の100倍位濃度が上がるエストロゲンこそがさまざまな症状の原因ではないかと言う者もいます。

しかしながら、これまでの研究から、つわりを経験する妊婦だろうが、そうでない妊婦だろうが、そこにエストロゲン濃度との相互関係は見られないという結果が出されているのです。

では、プロゲステロンはどうでしょうか。早産を防ごうと子宮の筋肉を緊張から解きほぐすために急激に分泌されるプロゲステロンは、胃腸の緊張も緩和するため、胃散や酸を過剰分泌させ、つわりを引き起こさせます。

胎盤の成長の為にエネルギーを排出することによって低血糖や低い血糖値が引き起こされ、さらには胃の不調をも引き起こすのです。日に数回小分けで食物を摂るようにと言う医者がいるのはそのためです。

ほかの症状として、嗅覚がするどくなり、妊娠期間には不快で受け付けないと感じる匂いが出てきます。

あくまでもただの推測ですが、つわりは体にとっては利便性のある進化的適合のかたちなのだという推測はもっとも興味深い理論だと言えます。

母体にむかつきが起こりやすいと言うことは、口にしてはいけないものから母体を守り、食中毒になるのを防ぐことができるということ、しいて言えば、赤ちゃんを毒素から守れると言うことなのですから。

なにかむしゃくしゃするときは、肉や卵、乳製品やいくつかの野菜よりも、危険度の少ない、クラッカーやご飯やパンなど、体に悪影響のない炭水化物に目がいきがちです。

それは、体が母親自身に赤ちゃんが生存できるように刺激の少ない食べ物を選ばせ、危険から身を守るように促しているのでしょう。

赤ちゃんは妊娠初期に毒素の影響を受けやすいので、つわりが始まるのです。

なにがつわりを引き起こすかははっきり知ることはできないでしょうが、いずれにせよ、つわりは苦痛であることは明白なのですから、妊婦さんにはとくに思いやりを持つことをお忘れなく。なにせ、険しい道のりの真っ只中、なのですから!