絵の具のチューブが与えた、芸術表現への影響

カリン・ユエン氏:フランスの印象主義の画家ピエール・オーギュスト・ルノワールは言いました。

「絵の具のチューブが無かったら、セザンヌも、モネも、ピサロも存在せず、印象主義も存在しなかっただろう」

なぜ絵の具のチューブがそれほど重要なのでしょうか? というのは、これによって、芸術家たちが屋外で制作するのが可能になったからです。

Little Art Talksへようこそ、カリンです。

戸外制作(en plein air)とは何か、そして、美術史に置いてどれだけ大きな影響を与えたのかをお話ししましょう。

フランス語で「en plein air」とはオープンエアのことで、屋外で絵画を制作することを意味します。戸外制作は、外で絵画を描くこと、あるいは描かれた絵画のことを言います。

19世紀以前、芸術家たちが屋外で描いたのは主に準備のため、つまり、風景のスケッチや下絵などでした。ここで描かれたものは、大きな作品を描くときの参考として使用され、最終的な作品はアトリエ内で制作されました。

その理由は、絵の具を持ち運ぶ最適な手段がなかったからです。

当時、一番適した保存方法は、豚の膀胱でした。これは冗談ではなく、芸術家と助手は絵の具の顔料を混ぜ(当時彼らは自分自身で絵の具を作っていた)、それを豚の膀胱に入れ、紐で封をしました。そして絵の具は必要なときに、膀胱を取り出してねじり、ほんの少しの絵の具を絞り出したのです。

しかし、絵の具を使用後、この穴を塞ぐ良い解決方法がなく、持ち運びは上手くいきませんでした。

また、膀胱はしばしば破裂して穴があいてしまい、絵の具を損ねたり色が散乱したりしました。1870年代に再密封可能な絵の具のチューブが発売されて以降、瞬く間に戸外制作が普及したことは当然の成り行きでした。

戸外制作と密接に関わった芸術家といえば、印象派が知られています。彼らは閉じ込められたアトリエから脱出し、取り巻く世界から直接インスピレーションを受けました。クロード・モネのような芸術家は、とりわけ自然光の効果、そして儚い瞬間の本質を記録することに興味を持ちました。

モネに加えて、ピサロやルノワールなど、その他のフランスの印象主義者たちは大きな白い傘を用いて、そこから拡散した光の下で戸外制作をしたのです。彼らは変化する天候や光の状態と競うかのように手早く描きました。

戸外制作は「世界を即興的で新鮮な目で見る」という視点を提供しました。

印象主義には、その後の芸術表現に不朽の影響を残し、ヨーロッパにおけるアヴァン・ギャルド芸術を主導する近代性の萌芽があったのです。そして、戸外制作は今日でも一種の道楽として行われています。