恋愛話はつきないけれど……

山田玲司氏(以下、山田):『スーサイド・スクワッド』の話、どうしようかな。

(一同笑)

乙君氏(以下、乙君):(無料放送時間が)もうあと10分(笑)。

山田:この流れで言えないぞ、これ。

倉田真由美氏(以下、倉田):何? 『スーサイド・スクワッド』。

乙君:相談がものすごい来てるんですけど。

山田:でも、約束しちゃったんで。

倉田:相談の話、聞きたい! 私やりたい。そういうのやりたい!

山田:やりましょう。その後、やります。

乙君:(笑)。

倉田:相談しますよ。めちゃくちゃ好きなの。

山田:そうだよね。じっくりとやろうね。

倉田:私、大勢に向かって話すのはあまり得意じゃないんですけど、1対1で相談に乗るの、めちゃくちゃ得意なんです。

山田:あー、いいね。

倉田:好きなの。

山田:じゃあ、来てるやつ。ただ、ちょっと約束しちゃったので。

倉田:そうだね、ごめん(笑)。

極悪人がヒーローになる『スーサイド・スクワッド』

山田:『スーサイド・スクワッド』、今、ちまたでは『シンゴジラ』から『君の名は』で大盛り上がり。そして、満を持して、DCコミックから『スーサイド・スクワッド』という映画が公開されまして。これ、アメリカの有名なコミックが原作といって、大騒ぎになってるわけですよ。

倉田:アメリカですごいらしいね。

山田:すごいすごい。それで、世界的にも跳ねてる、みたいな。

倉田:うん。

山田:しかも、これコンセプトがいいんだよ。どういいかというと、要するに、知ってる? 『バットマン』とか、『スーパーマン』とか、いろんな奴に倒された悪役がみんな捕まってるの。それで、その元悪役たちが、国のために働くことになってしまう、という話なの。だから、出てくる人は全員……。

乙君:極悪人を使って。

山田:そう、世直しって話なの。

乙君:毒をもって毒を制す、みたいなことでしょ。

山田:そうそう。

倉田:極悪人がヒーローになる話?

山田:っていう流れ。その極悪人のなかでアイコンになっている、このハーレイ・クインっていうキャラクターが、ちょっと大跳ねしていると。

倉田:あー、そうなんだ。

山田:そうそう。それで、これはなにかというと、言ってみりゃビッチイメージ。

倉田:ほうー。

山田:予告編とかを見ると、なかなか素敵な。半ケツ出して歩いてるんだけど、バット持ってなんでもぶち壊す、みたいな。この人、すごいワイルドヤンキーな感じなの。このルックスで、ちょっとだけわかるようになってるんだけど、とにかく『バットマン』に出てきたジョーカーにベタ惚れなの。

この人、実はだめんずなの(笑)。ジョーカーだけを愛して、ジョーカーに言われるがままに肌の色まで変わっちゃった、みたいな。ジョーカーに言われたことはなんでもする、ってキャラクターで、悪事を働いて捕まったという。それで、もう1人、黒人のキャラクターをウィル・スミスがやってるの。

「残念度合いがピークを超えた」

倉田:ウィル・スミス出てるよね。

山田:そう、ウィル・スミス。こいつも、なかなかいい感じで出ていて。とにかく、キャラクターが魅力的。それで、こいつらが集まって、政府のために悪と戦うとなったら、めちゃめちゃおもしろそうじゃない?

倉田:ほう。

山田:そうそう。それで、俺も、これけっこう「いけるんじゃねーかな」って期待してたんだけど、これが非常につらい状況になってまして(笑)。

倉田:え、何? 今までめちゃめちゃべた褒めだったけど……。

山田:これ、悪く言う人がチラホラいてね。それで、「割れてるな」ってなったんだけど、みんなこれにあまりにも期待してたし、このハーレイ・クインってキャラクター、確かに映画のなかで魅力的なの。なので、それほど悪く言えない、みたいな感じの空気になっていて(笑)。

だけど、これ、やっぱりすごい問題が山積みの映画で「甘やかしたら、今後のDCコミック映画がダメになるんじゃないのかな」って、俺はちょっと思っちゃったんですよね。

倉田:何? いいの? そういう話に展開しちゃって、大丈夫なの?

山田:俺、あまり映画のことを悪く言ったりしない派なんだけど。あまり「つまらない」とか言わないんだよ。つまらなかった映画は、あまりしゃべらないことにしてるんだよね。だから、だいたい「これ、最高だよ」って伝えるっていうことがあったんだけど。やっぱり、映画館行って金払って見て、残念度合いがちょっとピークを超えてしまいまして(笑)。

(一同笑)

倉田:そんなにか!

乙君:そんなにだったの?

山田:なぜかというと、それぐらいこのハーレイ・クインってキャラクターが魅力的なの。

乙君:この子が?

山田:そう。設定もいいの。それで、チバレイ(千葉麗子)がやったらいいだろうね。これ、日本でやったらね(笑)。

しみちゃん:(笑)。

DCコミックスにもの申す

山田:そういう感じ(笑)。それで、いろいろと「こういう悪っぽいキャラクターが1人の男にベタ惚れっていうのはどうなの?」って感じで割れているんだけど、世の中的には。だけど、俺は、それはそれでアリだし、実際にそういう人いるよなというのもあって。

そんなこんなで、確かに見に行ってもいいと思います。ただ、DCを甘やかさないために、ちょっとひと言、言っておきたい。

倉田:はいはい、どうぞ。

山田:まず第1問題として「ハーレイ・クインもったいなすぎ問題」という。これだけいいキャラクターが、まったく活かせていないという。ものすごく残念だったなというね。

あと、ウィル・スミスの設定が、あまりにも定番すぎ。それで、その後に出てくるキャラクターで、見た方はわかると思うんですけど、カタナっていうキャラクターが出てきます。

(一同笑)

山田:今、笑いが起きてますけど。これは、ジャパニーズ・サムライガールなんですよ。

乙君:女なの?

山田:女です。なんでも斬っちゃうんです。政府の擁護かなって感じで出てくるんだけど、ものすごいキャラクターがブレブレのまま、最後に取ってつけたように過去を語ったりします(笑)。

(一同笑)

山田:「それいらない!」って。それでもうはっきりと見えるのがなにかというと、これ漫画のネームでいったら、第1稿を通して撮影に入った、みたいな感じなの、本当に。

乙君:あー。

山田:だから、第2稿、第3稿ってどんどん、どんどん……。

乙君:練られてないってこと?

山田:そう。……これ、練ってたんだったら「ふざけんなよ」って思う。

倉田:そんなに変なの?

山田:本当、そう。いろんな人ががんばってるのに、脚本が練られていないだけで、底が抜けちゃってる、ポーンと。

倉田:ふーん。

“悪人なりの正義”が描けていない

山田:だから、ひと言で言うと、雑なんです(笑)。それぞれのキャラクターには、悪人なりの正義というものがあるでしょ? 『ダークナイト』がなぜあんなにおもしろいかというと、ジョーカーなりの正義があるからなんだよ。

乙君:うん。

山田:それで、そこに共感する部分もあるから、「わかるよ、ジョーカー。でも、それはやりすぎだろ」って思いながら、「かっこいい!」って思って観てるんだけど。その悪人なりの正義が、あまりにも描けていないというか、ほぼ出てこない。これは、決定的にダメだと思うね。

それぞれ、すごいキャラクターが出てくるんだよ。このキャラクターたちが、最初、収容されてる状態では、あまりにもパワフルなので、それぞれ個別にとんでもない形の牢屋に入れられてるの。普通の牢屋じゃないの。

それで、「こいつらを連れてきたら、世の中大変なことになるぞ」というのに、ほとんど1時間ぐらい使って(笑)。それで集合したはいいんだけど、そこから、ボヤーっとするんだよね、全体的に(笑)。

(一同笑)

山田:だから、つらいの。せっかく……。ひどいのが、……あまりひどいって言っちゃうとまずいんだけど、冒頭で「こんなキャラクターだ」っていう説明を最初延々やらされるの。いらないじゃん、そんなの。「こんなキャラクターです」って説明いる?

乙君:もうパンフレットに書いてるわ、と?

山田:そう。パンフレットに書いてあることを、全部、冒頭でどんどん。しかも長い尺を使ってやるんだけど、そのわりに感情移入できないのよ。

乙君:うん。

山田:なぜかというと、弱さよりもヤバさを描いてるの。「こんなヤバい奴らだぜ」といって。でも、悪人を描く場合、悪人側の弱さを描かなきゃいけない……。(倉田氏に)あ、なにか言いました?

倉田:違う……(笑)。(コメントを指して)話を聞き流してるっていうの、バレてる(笑)。

(一同笑)

山田:流してるのバレてる?

過去の良作と比べて弱い部分

乙君:ほわほわほわ~ってここ(頭の上)に、「『ダークナイト』語る男子来た」って(笑)。

(一同笑)

倉田:失礼しました(笑)。

乙君:いわゆる、「アメコミ語る男子来た」っていう。

山田:だから、最後まで言えなかったんですよ(笑)。ちょっと約束しちゃったので、申し訳ないですけど、『ダークナイト』男子なんですけど、そうなんですよ。

倉田:そっか(笑)。

山田:そうそう。それで、このどうしようもない連中が仲間になって、なにかいいこと、みんなのためにやることをしなきゃいけないけど、みんな、しょうもない奴らだよなっていうのって、『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』なんだよ。ノリとしては……観た?

倉田:……(笑)。

山田:観てないですよね(笑)。『シンゴジラ』も観てませんから。それで、そのノリなのに……『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』観てるよね?

乙君:……。

山田:奥野さん(乙君)?

乙君:あれでしょ。あの……、アライグマが……。

山田:アライグマです。

乙君:まあ、観ましたよ。

山田:『スターウォーズ』、『スターウォーズ』。

乙君:観ました、観ました。

山田:俺、わりと好きなんだけど、なぜかというと、みんな気の毒なんだよね。

乙君:過去が悲惨ってことでしょ?

山田:そうそう。悲惨なの。それで、ここに出てくる人たちも、当然悲惨だったんだろうなっていうのはあるんだけど、どうもそれがちゃんと出てなくって。

乙君:キャラクターの作り方の王道の、欠落した部分を描かずに、そいつのストロングポイントばかりをアピールしてくるから。

山田:そう。

倉田:でも、『キル・ビル』とか好きだったよ、私。

山田:『キル・ビル』は……。

倉田:『シン・シティ』とか。

山田:あ、そうなんだ。じゃあ、ちょっと観てもらいたい。観てもらって、意見を聞きたい。

乙君:絶対観ないよ(笑)。

(一同笑)

素材はいいのに生焼けの作品

山田:ただ、なんで俺がしゃべってるかというと……。

乙君:そう、それが気になる!

山田:素材がいいんだよ、やっぱり。

乙君:素材。

山田:そう。この素材やテーマや企画自体が、すごく今の時代に合ってるんだよ。悪いことになっちゃった人にも理由があって、力の使いようによってはいい方向にいくんだ、っていうこととか。

乙君:おしい、ってことですね。

山田:本当に、「あのさー」っていうやつ。観ながら、ずーっと「あー、こういうふうにやっちゃいけないよな」って思いながら映画を観せさせる映画、という。

倉田:素材ってなんのこと? キャラクターとか、設定とか、そういうこと?

山田:設定。漫画家って、常に「次の企画、なにかないかな?」とずっと考えて……、俺はずっと考えているんだけど、その時に一番大事なのはアイデアなわけ。だから、これも悪人が集まって、バットマン側からじゃない、バットマンを敵にしてしまって、というところの最初のひっくり返しがあって。

倉田:それはおもしろいアイデアだよね。

山田:そう。それで、このアイデアが出てくるまで、毎日必死になってるわけ、ずーっと、何年も。「降りてこいや!」みたいな。「こいつ、降りてきたんだろうがよ!」という。「降りてきたんだったら、それ、ちゃんとしろよ、最後まで!」と。料理の工程の大事な部分をごっそり抜いて、最後出してるんだよ、生焼けのまま。それで、トッピングとかしてるの。

倉田:うーん。

山田:「おいしいよ」って宣伝してるんだけど、「ちょっと待て。火通ってねぇべ」という感じなわけだよね。

乙君:ジャンクフードみたいなもんでしょ?

山田:いや……。DCもそうなんだけど、『アイアンマン』みたいなものも、意外とジャンクフードっちゃジャンクフードなんだけど、ちゃんとしてるんだよ、テーマは。

乙君:『アイアンマン』はおもしろいですよ。

倉田:うん。

山田:テーマがちゃんとしてる。だって、悲しみもあるでしょ。

乙君:まあ。

山田:それで、社会風刺もあるし、その展開も気持ちいいじゃん。

乙君:うんうん……。

倉田:そんなことまで考えてないわ!

山田:考えてないんだ?

(一同笑)

乙君:よく言ってくれました!

(一同笑)

乙君:このヤンサンを始めて2周年なんですけど、来週で。

倉田:(笑)。

山田:おまえら、付き合えよ!

(一同笑)

乙君:もっと純粋に映画を楽しめばいいのに。

倉田:そうか。そこまで考えるのか。さすがだなー!

(一同笑)

倉田:いやー、すごい。さすがだ。