ビールを飲むことで母乳の出がよくなる説

ハンク・グリーン氏:妊娠中の飲酒は控えたほうがいいことはよく知られています。母体に悪影響があったり、赤ちゃんの健康状態が悪くなったりするからです。

では逆に、お酒を飲んでも構わないどころか、授乳期間ならむしろ飲んだほうがいい、という話を聞いたことがあるでしょうか。

ビールを飲むことで母乳の出がよくなる、という人もいます。

これは本当なのでしょうか? 

もしかしたら、そうかもしれません。しかし、そうとも言えない研究結果もあります。

母乳の分泌は、プロラクチンとオキシトシンという2種類のホルモンによって行われます。プロラクチンは乳腺中の細胞を刺激して母乳を合成し、腺房と呼ばれる小さな袋に貯めていきます。

一方でオキシトシンは、母乳を抽出させる役割があり、腺房の周りが収縮する刺激を感じると母乳を押し出す仕組みになっています。

ビールなどのアルコールと授乳の研究は、ほとんどがこの2つのホルモンに関するものです。

ビールと母乳の関連性について実験したところ……

ある実験では、ビールの原材料の1つ、大麦によって、プロラクチンが多くなることを発見しました。

ネズミや雌羊(eweユー)……「あなた」(youユー)のことではないですよ、あなたは人間ですからね(笑)。大麦に含まれる炭水化物が、そういった実験動物のプロラクチンの合成を促進するのです。

ということは、ビールやノンアルコールビールに含まれる大麦が母親に対しても同じ影響を及ぼしてプロラクチンを多くするかもしれず、それによって母乳の生産を刺激する可能性があるわけです。しかし、あくまでも「かも」とか「可能性」の話です。

別の研究では、13人の授乳が可能な女性に、オレンジジュースを混ぜたアルコールを飲んでもらい、母乳中のプロラクチンの量を調べました。母乳が吸われる際に、女性の血中アルコール濃度(BAC)が高ければプロラクチンの数値も高いはずです。

逆に、血中アルコール濃度が低ければプロラクチンの数値も低くなります。しかし、こうしたプロラクチンの数値の変化にも関わらず、アルコール摂取後の母乳の量はどちらも低くなりました。

結局、このプロラクチンに関する実験では、ビールと母乳に関する正確なことはわかりませんでした。

では、もう1つのホルモン、オキシトシンについてはどうでしょうか。

アルコールを摂取することで、オキシトシンの数値が下がり、母乳を吸おうとする刺激への反応が抑制される、という研究がいくつかあります。

12人の授乳が可能な女性に、ビールやノンアルコールビールを飲んでもらってから4時間以内に授乳してもらって結果を見たという実験もあります。すると、恐らくは母乳の出が悪くなったせいだとは思われますが、ビールを飲んだ状態では赤ちゃんが飲める母乳の量は減りました。

こうしたホルモンについてまとめると、摂取したアルコールが血流に流れると、わずかな成分が母乳にも入り、赤ちゃんへの授乳にも影響があるかもしれません。

基本的に言えることは、授乳の仕組みは複雑で、ビールなどのアルコールがどういった影響を与えるのか、研究者たちもはっきりとはわかっていません。

ホルモンのはたらきにどういった変化があるかをはっきり理解するには、さらなる研究や実験参加者も必要です。ですから、もし妊娠していたり、子供が欲しいと思っている時にビールが飲みたくなったなら、医師や母乳育児支援の団体からアドバイスをもらうようにしてくださいね。