赤ちゃんにクラシック音楽を聴かせても……

ハンク・グリーン氏:親というのは、自分の子供にとって最善のものごとを望むものです。頭がよくて優しくて、成果を出せるような人間に育ってほしい、と。

そのため、子供が競争で優位に立てるようなことであれば、なかばどんなことでもしようとします。

それで、「赤ちゃんにクラシック音楽を聞かせると頭がよくなる」という俗説が奇妙なほど広まったのでしょう。店頭では「育脳」などと謳い文句のついた、ありとあらゆる類いの「赤ちゃん用クラシック音楽」が手に入ります。

しかし実際のところ、音楽が本当に赤ちゃんの頭をよくするということを示す確かな証拠はないんです。

こうした発想の発端は、1993年に科学誌『Nature』で発表された論文「音楽と空間処理能力」にあります。この研究ではまず、36名の大学生が、モーツァルトのソナタ、血圧低下に効果のあるリラクゼーション用テープ、音のない静寂のいずれかを聞くように指示されます。

それから、空間認識力を測るための質問を受けます。例えば、1枚の(畳まれた)切り紙から、開いたときの雪の結晶の形を想像する、といったものです。

ここで研究者が明らかにしたのは、学生の空間能力に関するIQの平均が、音楽を聞いた場合には8~9ポイント高いということでしたが、その効果が続いたのは15分ほどでした。

ごく小さな研究で、対象は大学生のみ、明らかになった効果も限定的で長続きしないものでしたが、発想源は確かにそこにありました。「音楽は人の考え方に影響しうる」という考えです。そこから、説は雪だるま式に広がっていきます。

研究に関する記事は、研究結果から一般論を導き出して「音楽は人の頭をよくするものだ」と結論づけ、続いて「モーツァルト効果」「こどものためのモーツァルト効果」といった本がさらに誤った考えを広めることになりました。

音楽と知能の関係性を明らかにしようと、その後さらに多くの研究が行われ、なかには最初の研究結果を裏付けるものもありましたが、残りの研究では同様の結果を再現できませんでした。そうしたすべての研究結果を比較したメタ分析においては、たとえ音楽に効果があるにせよ、非常に小さなものであることが明らかになっています。

音楽を聞かせて損をするわけではない

音楽も空間に関する謎解きも、脳の似たような場所を活性化させるため、音楽によって空間認識力がわずかに高められる可能性はあります。ですから、なんらかのかたちで、スポーツ選手の練習前のウォーミングアップのように、音楽によって脳の該当箇所の下地が整えられているのかもしれません。

しかしながら、音楽が空間の謎解きに役立つからといって、知能を総合的に向上させているというわけではありません。

ただし、「モーツァルト効果」はてんかんを持つ患者さんには実際に認められるようです。数件の小さな研究で、モーツァルトの音楽を聞くと発作が和らぐことが確認されています。しかし、科学の世界の常であるように、より多くの研究がなされる必要があります。

というわけで、バッハやモーツァルトを赤ちゃんに聞かせても損はありません。ですが、かといって、魔法のようにいきなり頭をよくするということもないのです。話しかけたり読み聞かせをしたりといった、昔ながらの方法のほうが、子供の発育にとってはよっぽど大切なことです。

赤ちゃんの話の流れで……まずは、アップと同時に「SciShow」の動画を欠かさず見てくださっている方、こうして今この動画を見てくださっているあなた、熱心なフォローに心から感謝したいと思います。

そして次に、今後、僕がみなさんにお目にかかる機会が少なくなることについて。というのも、もうすぐ育児休暇を取る予定なんです。

ライターや制作スタッフが精力的に取り組んですべて仕上げてくれたおかげで、すでにいろんな動画を撮りためていますが、しばらくの間、僕はお休みをいただきます。子供がものすごく頭のよい子に育つように、パンクロックのアルバムやジョン・スコルジーのオーディオブックを聞かせる予定ですよ。

まあ、それは僕自身が聞くってことなんですけどね。寝不足を紛らわす必要があるので。みなさんにお目にかかれなくなるのは寂しいです! でも、休暇を楽しんできますね。