アンディ・ウォーホルの原点

カリン・ユエン氏: アンディ・ウォーホルは、今日のようにポップアートの象徴として知られる前は広告のイラストレーターでした。 ブロッテド・ライン(注:紙につけたインクを別の紙に転写する技法)を用いた靴の広告や、アルバムのカバーイラストで成功していました。

彼は長年にわたってポップを主題においた作品を作り、ロバート・ラウシェンバーグやジャスパー・ジョーンズを賞賛しつつも常に距離を置いていました。

そのころはまだ、自身のテーマや芸術家としてのスタイルが確立していなかったのです。

エドゥアルド・パオロッツィやリチャード・ハミルトンといったポップアーティストの作品に刺激され、ウォーホルはコカ・コーラのボトルを題材にした作品を作ります。

しかしコラージュにしたり、ブランドを1つの要素と捉えて描くこれまでの技法とは異なり、コカ・コーラのボトル自体が唯一の主題でした。

ウォーホルはコカ・コーラのボトルを、ただ見た目のイメージ、広く受け入れられているロゴとして捉えたのです。 とても主観的ですね。 ウォーホルは筆を使って抽象的な表現をすることを否定しませんでした。 代わりにイメージを冷徹に描くことにこだわりを見せます。

ウォーホルは、新聞上のモノクロの写真を使ったりインクで描いた文字を垂らすといった、実験的な技法や主題を模索し続けます。 何を描けばいいだろうかと彼が尋ねると、ある人が「ポップカルチャーとして普及している、1ドル札やチューインガムなんてどうだろう」と言いました。

以来、ウォーホルは大衆に知れ渡ったイメージや大量生産されているものを題材にしはじめます。広告的な要素を強調したり目立たせたりしようとしたわけです。

キャンベルのスープ缶に込められた意味とは

ウォーホルは大量消費を象徴する製品を作品に落とし込むために2つの手法を考えました。 1つ目は、完璧な人々や製品を、古典的な手法や定番のやり方で理想化して描く。

2つ目は、とても搾取的なものとして描く、というものです。

この「ルール」によって、見た人の心に訴えかける可能性に満ちるようになりました。ウォーホルは、パン1枚とキャンベルのスープ缶というまったく同じメニューのランチを20年にわたって食べ続けていました。 そして彼は、たくさんの種類があるキャンベルのスープ缶を描いてみようと考えます。

しかしニューヨークには展示できる場所が見つからなかったため、ロサンゼルスに展示することにしました。 1962年7月、アーヴィン・ブラムのフェラス・ギャラリーにて、「32個のキャンベルのスープ缶」というタイトルで展示されます。

薄く白い壁に1列に並ぶ姿は、さながらスーパーに並んでいるようでした。 ウォーホルは、大量消費をその言葉通りに描きました。 この作品は、もともと広告を作るのに用いられていたシルクスクリーン(注:版画のような技法)という手法が採られています。

使いまわすことができるので、それぞれのキャンバスに大枠だけを半ば機械的に描いてきます。

その後に、スープ缶ごとの名前を、ステンシルや手筆で書き足すのです。

アーティストが自らの手で感情を描くのではなく、道具を用いて冷徹に描くのです。

反復という要素は現代の広告にも取り入れられており、同じイメージが持つ衝撃を何度も何度も繰り返すことで、消費者の意識に浸透させようとしています。 こうした均一性は同時に、「芸術とはユニークで、珍しくて、貴重なものであり、大量生産されるものではない」という、伝統的な芸術感に対するアンチテーゼでもあります。

このスープ缶の作品は、アンディ・ウォーホル自身の芸術性を定義付けるだけではなく、大量生産・大量消費を描かなくてはならないというポップアートの概念自体も定義付けました。