『シン・ゴジラ』に出てきた学者は何者だったのか?
山田玲司氏(以下、山田):今回、岡田(斗司夫)さんの(『シン・ゴジラ』)解釈すばらしかったんだけど。……まあネタバレ帝王だったんですけど。
乙君氏(以下、乙君):え、それじゃあ、あれですか。
山田:岡田さんの番組を見たら全部しゃべってますけど。
乙君:岡田さんは全部しゃべってるの?
山田:岡田解釈の話です。
乙君:じゃあ、しゃべっていいんじゃない?
山田:いいですか。これ岡田さんのせいってことで(笑)。
久世孝臣氏(以下、久世):(笑)。
山田:いや、岡田さんがしゃべったことをしゃべるだけだよ。
乙君:え、それ……(笑)。
久世:じゃあ、鳴らそう。鳴らしておこう(笑)。
乙君:岡田さんのネタバレでもあり、ゴジラのネタバレでもあるってこと!? 罪深い!
山田:やめます。やめます(笑)。いやいや、岡田さんのをざっくり言うと、序盤に出てきた学者が何者だったのかって話を、みんなよくわかってないの。
乙君:ああ、あれでしょう。
山田:うん。
乙君:俺でもあれ、すごいわかったよ。
山田:なんだと思った?
乙君:え、これ言っていいの? ネタバレですけど。
山田:ネタバレというか、君の解釈でいいよ。
ゴジラの正体は……?
乙君:俺の解釈だと、あれ、だから、自分でしょう。
山田:自分って?
乙君:あの博士でしょう。あれ。
山田:誰?
乙君:ゴジラ。
山田:そうそう。岡田さん、そう言ってる。
乙君:あ、そうなの?
山田:だから、その証拠を岡田さんが並べてるわけだよ。
乙君:証拠があんの!?
山田:うん。なんでそうなのかって話をしてるわけ。
乙君:へー。証拠まで突き詰めようとは思わなかったけど……。
山田:それで、「私は好きにした。君らも好きにしろ」という。
乙君:でも、あれ、流れ的にもうそれしかないっていうか。
久世:まあ、そうだよね。うんうん。
乙君:なんか、「あー」と思って。消えて、それでなにかしら……なんかあったんでしょうねえ。なにかしらあったんですわ。
山田:いや、あるんだよ。奥さんのことが一番でかい。
乙君:奥さん? ああ、そうそう。奥さんがね。
山田:それと、今回のフクイチの事故の対応についての意識みたいなものがそこにのっかってるわけだよ、というのが博士に対する。
核全体、核を持ってしまった人類、そういうこと全体に対してのなにかになってるわけだよ。だから、それは観るものに委ねますっていうので、ここを解説するのは野暮なんだけど。
ただ、もともとのゴジラを作った、本多猪四郎さんいるじゃん。円谷さんじゃなくて。その人が奇っ怪な映画をいっぱい撮ってるよね。
『マタンゴ』って有名な映画あるじゃん。あれは、人間がきのこになっちゃうやつじゃん。だから、系譜がちゃんと、もちろんおたくの人たちには、常識中の常識なわけだよ。
人はそうなるっていうのは、当たり前のこととしてあるので。だから、村の人たちはもう、「それはそうでしょう」みたいになってる。それはそうだろうなと思うよね。
戦争を知らない世代が震災を体験して
ただ、もう1個あるのが、解像度のことに関してね。
乙君:解像度?
山田:うん。岡田さんたち、もちろん俺たちの世代もそうなんだけど、戦争を知らないじゃん。団塊世代も戦争を知らないんだよ。
ただ、団塊世代はカルチェ・ラタンで血を流したという。だから、警棒で殴られたとかいう、その闘争を知っているから。闘争を知ってる人は、坂本龍一さんもそうだし、村上龍もそうだし、あとあれもそうだよ。池田理代子が『ベルサイユのばら』を描けるのも闘争を体験したからだし。ガンダムが一番有名じゃん。
その下の世代だと、それに対して冷めてるわけだよ。そうすると、彼らが体験したものはなにかといったら、テレビで見たもの、映画で見たものしかなかったんだよ。だから、それに対するコンプレックスはあったんだと思うんだよね。
だけど、今回震災があったことで、体感したんだよ。それを。だから、それがまあうれしそうに出てくるわけだよ。余すところなく。ああいうときになにが起こったかということをものすごく詳しく見ていたから、ものすごく詳しく再現しているというね。
だから、それで、経験したことのある世代とミクスチャー世代が並ぶことができたってことが、また1つの大きなお祭りだったなということはあるよね。
乙君:震災があって5年ぐらい経ったんですけど……。
山田:やべー、こんなに時間経ってる(笑)。
乙君:まあ、いいでしょう。
山田:いいよ。
乙君:それまで絆とか、家族を大事にしようとか、そういう悲しみとどう向き合うかもそうだし、きれいごとって言ったら言葉が悪いんですけど、そういうヒューマンドラマとか。
あとは告発するというか、東電のこともそうだし、福島でなにが起こっているのかってドキュメンタリーもそうだし、いろいろあるんですけど。
なんていうんだろうな。初めてちゃんと震災も全部含めたうえで、ガンッとエンターテイメントとして、ゴジラというものをメタファーにして、原発もそうだし、地震もそうだし、ディザスターというものを重ね合わせたすごい作品が出てきたなと思って。それに俺は単純におもしろかったなと思いましたよ。
どこにも寄らないバランス感覚が秀逸
そこの動機が……やっぱりあの博士がなぜいなくなったのか、というところを中心に描いてないからおもしろいんですよね。それが僕は庵野さんのやり方だなと思うんだけど。
現象をとにかく描いて、現象に対するリアクションを描いて。そして、そのゴジラを止める。そこの現実的な安保とかいろんなものの関係性のなかでわちゃわちゃやっている、というのが一番こっち側の問題で。
だけど、その奥にはものすごく私怨というか、妻を殺されたというような、すごく人間的なものがその発端にあるというところで、もう隙がなくて、「うわぁ、おもしろいわ」と思いました。
山田:去年からずっと言ってたけど、「それどころじゃねえ」って空気があるわけだよ、今。
乙君:うん。
山田:それがいろんな映画に乗っかったなという。『マッドマックス』もそうだし、『おそ松さん』もそうだったし。だから、世界系が終わった。ある意味。
ぼんやり「僕と君の世界」みたいな感じで閉じようとしてたところを、いい加減そういうんじゃねえよという、ウェットな部分を全部切り離して、それで粛々とやっていくということを見せた。
もちろん楽観視してるんだよ。相当、いろんなものを。楽観視することによって、現実と重ねると「それはあまりにも楽観視してないか?」って見えてしまう部分も多いんだよ。だけど、そこはエンターテイメントだし。そういう希望的観測を乗っけたというバランスにしたんだろうな、というのはあるよね。
ただ、そうすると、もともと科学特捜隊とかサンダーバードとかを見てたから、ああいう、お国のためにがんばってる自衛官とか、そういうことに関して「信じたい」という部分が大きいんだと思う。
乙君:そう。そこらへんの、ゴジラが来てるのに、「なんとか法案を立法してください」みたいな話。まず、この法案を通してとか。
山田:あれはシミュレーションしたんだって。
乙君:やっぱり観てる側としては「なにしてんだよ?」。
山田:ただ、ものすごくしっかりとツッコミも入ってる。だから、ブラックユーモア。すごく質の悪いコントにも見える。だから、それは全部入ってるんだ。ものすごく大人だなと思った。
乙君:なんだけど、一方でみんな寝ずにがんばってるみたいな。ああいうちょっとした、「まだこの国も大丈夫だ」みたいな、それはそれで逆にブラックユーモアなのかなとか思ったり。
山田:そうそう。そこのバランス感覚がすごくいいと思ったの。
久世:それは思った。バランス感覚はそう思った。
乙君:どれに寄ってもないんですよね。ただやっぱり、すごく遠くから現象というものを実験のように描いてる。
山田:でも観てる人はやっぱり、俺たちよりよっぽど知ってるから。語ることなんじゃないって気がすごいするんだけど(笑)。
久世:そうですね。
山田:そうそう。みんな知ってますよね。そんなことはね。
乙君:だって、岡田さん以上の分析できますか?