固定残業代の明記ルールを全世代対象に

村上陽子氏(以下、村上):ありがとうございます。あまり時間もないので、あと2点ほどうかがえればと思います。今、お話のなかにもあったのですが、これから議論が始まっていく安定法の改正について、とくにこういう部分のルールが必要だ、こんなルールが必要だなということが具体的にあれば、それぞれポイントを絞って少しお話いただけないでしょうか?

上西充子氏(以下、上西):では、ひと言だけ。若者対象の求人については、昨年度、固定残業代を入れるのだったらちゃんとそれを募集の段階から書きなさい、ということが、若者雇用促進法に明記されました。

固定残業代がありというだけじゃなくて、例えばそれが5万円だったら何時間分で5万円と。もちろんその何時間分を超えたら追加で払うよ、と。そこまでを全部書いて出しなさい。それだったら一応固定残業代を初任給に入れてもいい、というふうになったんですが、それは若者対象だけなんですね。

ということは、まだ中高年のところは、募集段階で固定残業代を入れて隠してちゃダメという状態ではないので、まずそこをすべての求人に広げてほしい。

そして今、それが指針でしかなく、平気で守っていないところがたくさんあります。その実効性、実態調査も含めてなんとかもう少し充実させてほしいなと私は思っています。

村上:ありがとうございます。たぶん今の若者法の指針は、若者法の指針なので、実効性がいまひとつなんだと思うんですね。

でも、職業紹介事業を担当する課、職業安定法のなかの指針になって、担当が職業紹介事業者などを監督するところにいけば、もう少し指導をしやすくなるのかなというような感じはしています。ありがとうございました。嶋﨑先生、いかがでしょうか?

違反した企業の公表を

嶋﨑量氏(以下、嶋﨑):固定残業代の話とその明示はすごく大事だな思っています。もうお話がでたので、連合さんが出したものを使ってお話をさせていただくと、12ページ、12枚目のスライドのところで連合が求めるものとして出していただいているんですが。

どれもすごく大事なんですけど、いわゆる「詐欺求人をなくすためには」に書いてある、わかりやすいところで1と3のところをぜひ、と思います。

「法律をどう変えるか」という話は、実はけっこうむずかしい技術で、これは頭のいいお役人が考えていただければいいことなので、私はふれません。

事実と異なる労働条件を明示することが、ある程度許されてしまっている現状があって。そこはしっかりと法律に書く。いろんな指針などももちろんですけど、法律に書くということをしていくこと。

あとメディアでは刑事罰が科されるんだということで大きく報道されたし、それを無駄とか意味がないと言うつもりはまったくないんですけど、でも逆にそれを報道していただいたがゆえに3番のことが。

実際に法律実務家からすると、労働行政の現場で刑事罰が科されるとか、例えば、わかりやすい例でいうと、残業代不払いはもう飽きるぐらい日々見ています。そのなかでたまに、ごくたまに「残業代不払いで刑事罰が……」って出ますけど、そんなの滅多なことじゃないわけです。

もちろんそれはそれで社会的な制裁の意味もあるのかもしれません。今、厚労省は「かとく(注:過重労働撲滅特別対策班)」とかいろいろやられていますけれど、求人詐欺もいっぱいあるわけですし、お金もそんなふうに(使えない)。

刑事罰はすごくインパクトは強いですけど、やるためにはすごくお金もかかりますし、慎重さも求められるので、実際にすごく手間暇もかかる。ある種の見せしめ的にやるのも無駄ではないんですが、作るだけでなにか終わってしまう可能性もあります。もっとシンプルに違反行為が明確なのであれば、行政指導した企業名をきちんと公表する。お金がかからないと言ったら厚労省のお役人に怒られるかもしれませんが、刑事罰との比較ではこれは明らかにかからない。

そういう情報から、本当にまともなことしている企業と自らそういう違法行為をした企業とで、仕事を探しているみなさんもどこに入ればいいのかという情報が得られるわけですから、これはぜひ。日本は恥の文化ですから、これは非常に抑止効果が高いので意味があるかなと思っています。以上です。

社長メッセージより、まず「募集要項」を

村上:ありがとうございました。それでは座談会の最後に、求職側、若い人も含めて、個人が気をつけておくべきこと、こういう意識を持っているほうがいい、というアドバイスをぜひひと言ずついただければと思います。また上西先生からお願いします。

上西:まずは就活始めるときに募集要項を必ず見ようと。先輩の活躍とか社員・社長のメッセージとかじゃなくて、まず募集要項を見よう。そこになにかいい加減なことしか書いてない、曖昧なことしか書いていないようなところは、最初から除外をしていいと思いますね。

それから、その募集要項を説明会なり面接なり常に持参をして、話が変わらないかというのに気をつけてほしい。話が変わるところってやはり不誠実です。

最終面接になってからはじめて「残業代入っているんだけど、いいよね?」とか言う企業があるんですよ。それで、もう最終面接だから「いい」って言っちゃいたくなるんですね。

でも、そういうもんじゃないよという心構えというのを持ってほしいし、私たちも大学のなかでそういうことを教えていきたいと思っています。

嶋﨑:求職者自身のお話になると、ほぼ上西先生と被ってしまうので、そのとおりです。

言葉としてワークルールという言葉もちょこちょこ使われるようになりましたが、求職者自身がしっかり、「契約を結ぶんだよ。じゃあ、具体的に求人票を持っとかなきゃダメだよ」「契約書もらわないといけないんだ」とか、そういうことも含めたワークルールの知識を育てることもすごく大事だなと思います。

そして、実際の就職活動では契約内容をちゃんと確認しないといけないんだと。そして、それを知ったとしても、社会全体がそれを許容しなかったら絵に描いた餅だということも、逆に強調もしておきたいんです。

学生さんに「契約書ももらわないで、会社に入るんじゃない」「内定時点で労働条件をもらえないような、そんな会社に入るんじゃない」って言ったら怒られるんじゃないですかね。「そんなこと言って、じゃあ、あんたが就職先探してくれ」「内定を断られたら責任取ってくれるんですか」と。

ですから、社会全体がそういう会社を許さない。例えば、食品偽装した会社は、ものすごく社会的制裁や非難を浴びます。労働問題でいえば、比較すると少ないかもしれませんが、過労死を出した企業は、社会的にも相当批判を浴びます。

ブラック求人を出している会社ってそこらじゅうにありますけれど、私どもは同じように批判されてしかるべきだと思うんですね。これだけ人手不足だとか、若者の声が大事だと言っているときに、結果として使い潰しに結びつくようなブラック求人をいっぱい私は見ているので。

そういう当事者の意識はすごく大事ですが、あわせて社会がそういうものを許さない状況も作らないと、せっかく契約当事者としての主体性を発揮しようとした若者なり求職者が絵に描いた餅になってしまうということはあわせてお伝えしたいと思います。以上です。

「#ブラック求人あるある」でリアルな声を収拾

村上:どうもありがとうございました。まとめといたしまして、「もしトラブル、被害に遭ってしまったら……」「こういうときどうすればいいんだろう?」というようなことがありましたら、資料の14ページに、私どもが行っている労働相談の番号、そしてハローワークの求人ホットラインの番号も書いてあります。

こういったものもご案内していただければ、少しでも実態をつかみやすくなりますし、その後の対策も取られやすくなっていくと思いますので、ぜひ声をあげていただくことを奨励いただければと思っております。

では、座談会を終了させていただきます。

みなさまのお手元に「ホントにあった怖いブラック求人!」というチラシが入っているかと思います。一般の方の実体験やこういった困ったことがあるというお話をTwitterを通じて収集をしていこうという取り組みです。 「#ブラック求人あるある」というタグを使って、10月7日から月内いっぱい収集していければと考えております。

まだまだ審議、あるいは法改正を含め長い道のりかと思いますが、今後ともぜひご関心をお持ちいただければと思います。引き続きどうぞよろしくお願いいたします。では、本日は、先生方もどうもありがとうございました。

(会場拍手)