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セカンドキャリアに幸あれ!! 小泉訓×玉乃淳(全1記事)

「サッカー選手は消防士に向いている」元Jリーガー、24歳の若者が下した人生の決断

サッカー解説者の玉乃淳が引退後のサッカー選手の生活に迫る「セカンドキャリアに幸あれ!!」。今回は、プロサッカー選手から消防士へと転身をとげた、小泉訓氏のインタビューを紹介します。※このログはTAMAJUN Journalの記事を転載したものに、ログミー編集部で見出し等を追加して作成しています。

Jリーガーから消防士への転身

玉乃淳氏(以下、玉乃):7年ぶりぐらいですよね。徳島時代以来!

小泉訓氏(以下、小泉):24歳で引退しました。現役は2年間だけですね。そのあとは1年間ニートというか、職を持たず、1年間勉強して、公務員試験を受けて、東京消防庁に入りました。

玉乃:どこで1年間勉強していたのですか?

小泉:東京の実家です。

玉乃:パッとやめたのですね。徳島のマスチェラーノって呼ばれていたじゃないですか。

小泉:あんまり結果残せなかったですからね。なんか稼げないじゃないですか。Jリーガーは、やればやるほど、年を重ねるほど、次の選択肢が少なくなるという思いがあり、「自分の中でやることはやってこの結果なら……」という踏ん切りがついたので、思い切ってやめました。

玉乃:次のプランは何も考えずに、とりあえずやめると?

小泉:この先やっても稼げないなっていうのが見えたので。

玉乃:稼ぎたいという思いでサッカーをやっていたんだ?

小泉:もちろんサッカーを続けたいですけれど、現実を考えたときに、30歳過ぎてJ2とかその下とかのカテゴリーでサッカーやっていて、その後あらためて人生設計するとなると、あまり先が見えないなという思いで、思い切ってやめました。セカンドキャリアのスタートは早いほうがいいなという思いです。

玉乃:「稼ぐ」って、どれぐらいの数値が納得いく数字だったんですか?

小泉:300万、400万円はもらいたいなと思っていました。それくらいあれば生活はできるじゃないですか。JFLだとそこまではいかない。徳島でも当時J2で月20万円でしたから。だから早く見切りをつけて人生のトータル収入を上げてやろうと思いました。

ノープランでプロサッカー選手をやめて、企業のWebサイトなどをいろいろ見て、次の仕事をどうしようかと考えました。引退後、いろいろなキャリアを歩んでいる友人に相談もしましたが、今までサッカーしかしてこなかったので、特段知恵もなく意欲もわかず頭の中も真っ白になりました。

そんなとき、知り合いの消防士が声をかけてくれました。「消防士けっこうおもしろいよ」と。調べていくうちに、やりがいを持って今後ずっとやり続けられる仕事だと思ったわけです。

1日12時間の勉強、半年で公務員試験に合格

玉乃:そのとき思い描いていた消防士像と、実際に仕事をしてからとで何かギャップはありますか?

小泉:災害活動などは思ったとおり厳しい感じですけど、予想以上にいろいろな仕事があるんだなと感じています。逆に、消防士にどんなイメージを持っていますか?

玉乃:まったくわからないですね。実は、すごく興味があったんですよ。まず消防士になるためにはどうすればいいのか、どれくらいの年月の下積み期間があるのか、どのタイミングで現場に出られるのか等々、まったくわからないので。たぶんサッカー界ではコイちゃん(小泉氏)しかわからないでしょう。

小泉:まず公務員試験を受けて合格しなければいけないですね。ちなみに私は半年の勉強で受かりました。

でも、1日あたり平均12時間は勉強していました。無職だから何もすることがないというか12時間ひたすら、それが仕事かのように机に向かいました。政治、経済、数学、物理、生物、文章理解、英語、数的処理とか。

玉乃:すみません、鹿屋体育大学のスポーツ推薦出身の方ですよね?(笑)。

小泉:がむしゃらにやりました。寝て食べているとき以外は勉強していましたね。座りすぎて足が細くなりました。「資格の大原」(大原簿記学校)の社会人コースに行って、教材をいただいて、ひたすら勉強しました。「本気になったら大原」でした。

玉乃:なぜ、「本気になったら大原」に行ったのですか?

小泉:本気になったからです。

玉乃・小泉:(笑)。

玉乃:いいですねピンときて、「消防士になる!」簡単な決断ではないですよね? 公務員試験に受かれば全員、消防士になれるのですか?

小泉:もちろん、そのときどきの採用人数も関係します。体力的なテストもあります。半年間、消防学校というところで寮生活を送りながら消防職員として必要な基礎教育を受けます。災害活動や事務処理について学んだり、礼儀服装、公務員の倫理的なことを教わったり。その後、都内の消防署で約6ヵ月間実務教育を受け、消防署へ配属されます。

24時間勤務×週3回 消防士の生活サイクル

玉乃:消防士の生活リズムは?

小泉:いつでも出動できるように24時間勤務です。24時間働いて、次の日は「非番」となります。週3回ほどの勤務ですね。

労働基準法で休憩時間なども決まっているから、24時間勤務の間に仮眠を取る時間帯もあるのですが、呼ばれたときにはバッと起きて出動です。

玉乃:いろいろな状況の現場があると思いますが?

小泉:住宅一棟燃えているときもあります。自分の身も危ないですし、仲間の身も危ないですし、もちろん助けないとならない人もいるし。

玉乃:火事は、けっこう頻繁に起こるものなのですか?

小泉:東京だと1日あたり平均10〜12件とか。私が配属されている消防署では、2~3日に1件火災が起きているイメージになります。出動自体はほぼ毎日しています。

玉乃:うちの実家の側にも消防署がありますけれど、いつも訓練がすごいなと感心させられます。

小泉:準備しなくてはならいないので。サッカーと一緒です。いつ呼ばれてもいいように常に準備をしています。

玉乃:すごい仕事を選びましたね。年を重ねて、役割は変わるものなのですか? 例えば、現場から管理職みたいに。

小泉:そうですね、外部への対応や職員を管理する立場の管理職になっていく方もいますし、現場がよくて、ずっと現場にいる方もいます。現場一筋の方ですね。現場で階級を上げて隊長になる方もいます。隊長も小隊長、中隊長、大隊長などの立場があり、内部のキャリアもいろいろですよ。まあ24間勤務が年齢とともにキツくなりもしますからね。

玉乃:楽しいと言ったら語弊があるかもしれないですけれど、充実していますか?

小泉:そうですね。楽しいかと聞かれると、現場は不幸な場所なので楽しくはないですけれど、やりがいは持ってやっています。

玉乃:実際の火事だから本当に人が亡くなるケースとか、普通に日常にありますよね?

小泉:そのような場面に遭遇することもあります。急病やケガなどの救急現場に行くこともありますし、交通事故や電車の挟まれ、そういう救助活動。火事ではなくてもそういう現場もあります。

消防士が見る厳しい現実

玉乃:ここまでの話で、消防士になりたいとは思えない。正義感なのでしょうかね、動機ってありました? 現場に出ていく中で変わったんですかね?

小泉:昔は(正義感は)なかったですね。自分さえよければいいやタイプでしたね。サッカーをやめて公務員になって叩き込まれたって感じですね。

玉乃:実際、消防士になったらかなりハードじゃないですか。離職率は?

小泉:現実が厳しすぎて、消防学校の段階でいなくなる人もいます。体力面もさることながら、階級社会なので、とにかく厳しいです。サッカーの上下関係の感じで行ったらやられますね(笑)。「あ、サッカーで学んだ上下関係じゃダメなんだ」って思いました。

あと、縛りが大きいですよ。例えば、どこか旅行するというときも届け出ないとならなかったり、休みの日でも所在は明らかにしなければならなかったり。東日本大震災のような緊急時には参集しなければならないので。

玉乃:プライベートも管理されるのですね。

小泉:そうですね、されます。そういうのがイヤな人は難しいですね。誰と出かけるなども報告します。

玉乃:誰とデートするとかの報告も?

小泉:それは報告の必要はないんですが、さらっと監督者には言いますね。最近流行りのSNSもあまりよくないです。そこで身分を明らかにすることや、消防士としての意見を言うことはダメですね。

玉乃:「奇跡」ですね、この取材。

小泉:確かに。でも機密事項に触れるようなことは一切言ってないので大丈夫です。これを機に増えますかね、サッカー選手から消防士?

玉乃:増えないでしょうね。これを機に。基本的にサッカー選手って、監視されたくないですよね。自由が命みたいな。向いていないでしょうね。

体力的なところはクリアできるかもしれないですけれど、学力と、監視されているという2点で、コイちゃん以外は不可能でしょう(笑)。しかも公務員だから給与面では安定しているかもしれないですが、命の安定はないですからね。

小泉:でもやっぱりやりがいありますよ。とくに災害現場では、人々が逃げていくところに向かっていく危険な仕事ではあるのですが、時間の経過とともに悪化していく環境で日々積み重ねた技術や連携を発揮して、人命救助や災害を鎮めたときにはとても充実感や達成感がありますね。ほかの職業にはできない仕事に自覚と誇りを感じています。人々の安全を守る完全にプロ集団ですから。

そういう意味ではサッカーと共通するものがあります。同じ試合がないように同じ現場もありませんし。ずっとやっていきたいなという思いは強いですね。現場で頑張って行きたいなと。

玉乃:奥さまは心配なさらないのですか、出動のたびに?

小泉:妻も職員なので。だから内情を知っています。危険度や仕事の内容も知っていますからね。

玉乃:なるほど。それは心強いですね。よく現場に出る前にお祈りしたり、「これが最後のメールになるかも」とメールしたりは? ドラマの見すぎですかね?

小泉:あんな時間はないです。出て行くときは1分以内には出ます。東日本大震災などの災害派遣のときは、家族の方に連絡していた方もいらっしゃいましたけれどね。

玉乃:事故や災害が大きすぎて、「行きたくないです」みたいなのは許されるものなのでしょうか?

小泉:原則、命令は絶対です。でも、災害派遣などの特殊な災害では場合によります。でも自ら志願して行かれる方がほとんどですね。

消防士とJリーガーの共通点

玉乃:現役時代、引退後消防士になるなんて、夢にも思っていなかったのではないですか?

小泉:思っていなかったですね。自分もインテル(サッカーチーム)とか行くと思っていましたから。けれど、やれるだけのことはやったつもりでしたから、後ろ髪を引かれる思いはなかったですよ。

もちろん練習後の自主練は欠かさなかったし、筋トレしたり、自分のプレーを見直したり、世界の試合を見てサッカーを研究したり、当たり前のことですけれど、自分の中でサッカーと向き合った結果がコレでしたからね。サッカー選手のみなさん、意外と「切り替え」早くないですか?

玉乃:いや、やめてすぐ消防士になるという人は、それほど多くないでしょうね。生活のために会社勤めしなければならないというのはあると思いますけれど。

「海賊王になる!」みたいな、明確な目標がある人は少ないと思いますよ。多くの場合、何をするかを決めるのが引退後の一番の大変な作業になるでしょう。

小泉:サッカーと消防には、共通する部分があります。1つの技術を磨くという点はもちろん、現場では視野を広く冷静に判断しながら活動しなければならないし、チームワークや連携も必要となります。身体が資本で常日頃から鍛えていなければなりません。サッカー選手から消防士への転身は、意外と「あり」だと思います。

公務員試験さえ受かれば、高卒でも問題ないですし、論文試験もありますけれど、気合でなんとかなります。とにかく最初の試験勉強を頑張ればなんとかなります。なろうと決めたら、あとは「サッカー選手だったのに、今は無職」って自分にプレッシャーかけてやるしかないです。

玉乃:本気になったら、どこへ行くんでしたっけ?

小泉:「大原」です(笑)。どこであれ、本気になったら、その道の専門家のところへ。公務員試験を受けるなら資格の学校へ。消防士でなくても公務員はいろいろありますからね。警察、自衛隊、学校の先生、役所。プロスポーツ選手だった人なら、集中力ありますからね。試験勉強は大丈夫だと思いますよ。

玉乃:確かにそういう考えあってもいいですね。プロスポーツ選手が、引退後、社会的に安定していると言われている公務員になるという考え。何歳からでもスタートできますよね?

小泉:いいえ。試験は職種によって各々年齢制限があります。消防士の採用も自治体によって異なりますが年齢制限があり、私が試験を受けたときは、たしか30歳未満という年齢制限がありました。

玉乃:知らなかったですよ、そういう大切なこと! 僕はもう受験資格ないね! コイちゃんにとっては当たり前でも、知らない人、けっこういるよ。(編集部注:消防官採用には身長や体重などの身体的受験資格もあります)

【小泉訓(こいずみ・さとし)プロフィール】名門前橋育英高校を経て、2004年鹿屋体育大学へ入学。中盤の底で献身的な運動量を武器に活躍し、2007年全日本大学選抜に選出。2008年徳島ヴォルティスに入団したが、出場機会に恵まれず、わずか2シーズンをJリーガーとして過ごし現役引退。引退後は1年間の充電期間を経て、2011年東京消防庁へ入庁。現在は、消防士として現役時代さながらの献身的な活躍で、東京で生きる人の力となっている。

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