よいスピーチのための3つの要素
ダニエル・ピンク氏:ご紹介にあずかりまして、ありがとうございます。ここにいらっしゃるすべての方たちに感謝申し上げます。そして2008年度ご卒業のみなさん、おめでとうございます。
先ほど紹介のなかでキーフ学長もおっしゃっておられましたが、私はビジネス書籍を執筆するというなんとも“高尚な”仕事につく前、政治家のためにスピーチ原稿を書くという負けずと劣らない大変“高尚な”仕事をしておりまして…… 政治家のスピーチライターという仕事柄、実に多くの人に聞かれるんです。「ダン! いいスピーチを書く秘訣を教えてくれ!」。
この質問について何年も考え続けてきた結果、私なりに次の結論に至りました。スピーチ全般、とくに卒業スピーチがいいものとなるためには、次の3つの要素が鍵となります。 時と場所に関わらず、重要なのはこの3つです。
「簡潔であること」「堅すぎないこと」「要点を繰り返すこと」。
繰り返します。
(会場笑)
「簡潔であること」「堅すぎないこと」「要点を繰り返すこと」。
ですからこのスピーチも、なるべく短く、まじめになりすぎずに、大事なところは何度も何度も何度も何度も何度も繰り返しますね。
140名あまりの卒業生のみなさん、あなたがこのステージ上で私たちと誇らしげに握手を交わしていた時、ご両親はあなたのことを本当に誇り高く思っていたはずです。写真もたくさん撮って、なかには涙を流す父兄の方々もいらっしゃいました。
そして今、この瞬間、感動から少しさめて、ご父兄の方々の頭をかすめている思いはただ1つです。「我が家の貴重な財産を学費につぎこんでおきながら、よくまあアニメーションだの、彫刻だの、マンガだのといった分野で学位を取れたもんだ。私の育て方が間違っていたのか!?」。
そう思わずとも、愛する我が子を見つめながらこう考えていることは間違いないでしょう。「この子はこの先どうやって生きていくのだろう?」。
ご父兄のみなさま、はっきりと申し上げます。心配はいりません! 少なくとも“あまり”心配はいりません!
(会場笑)
これからの時代に必要とされるのは芸術を専攻した人間
お子さんがこれから飛び込もうとしている世界において、この大学で培ったことは大きな意味をなすでしょう。お子さんはきっと立派にやっていくはずです。
というのも、かつて職場でもっとも重宝されたのは、左脳を使える人間でした。ロジカルで直線的で、融通のきかないルールに基づく能力です。会計士やコンピュータープログラマーに必要とされるような能力です。もちろん、今でも左脳的能力は必要です。必要不可欠ですが、それだけで十分という時代はもう過ぎ去りました。