2024.10.21
お互い疑心暗鬼になりがちな、経営企画と事業部の壁 組織に「分断」が生まれる要因と打開策
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司会者:それでは、「新しい社会のインフラを創造する」を開始させていただきます。
一般社団法人新経済連盟代表理事、楽天株式会社代表取締役会長兼社長、三木谷浩史。
(会場拍手)
一般社団法人新経済連盟副代表理事、株式会社サイバーエージェント代表取締役社長、藤田晋。
(会場拍手)
モデレーターは、一般社団法人新経済連盟理事、株式会社クラウドワークス代表取締役社長CEO、吉田浩一郎。
(会場拍手)
それでは吉田さん、よろしくお願いします。
吉田浩一郎氏(以下、吉田):みなさん、こんにちは。正直申し上げますと、この新経済連盟に、私が参画してから1番楽しみなセッションであり、1番緊張しているセッションでございます。
このお二人が集まって話すということはおそらく東京でもなかなかないんじゃないかなということで、さっそくいろいろと聞いていきたいと思います。
まず、簡単に直近の業績などを、みなさんに改めてお話しできればと思うんですが、楽天は直近で売り上げは7,000億超、利益が900億超で、時価総額が今1.9兆円ということで、約2兆円あると。
戦後、ゼロから創業されて時価総額が1兆円を超えた会社というのは17社しかないということです。上場企業が今、3,700社ありますが、そのなかで17社しかない。そのうちの1社が三木谷さんの楽天ということになります。
サイバーエージェントは、直近の売上が2,500億、利益300億超、時価総額が3600億超。マザーズの当時最年少上場ということで、完全に新しい市場を自ら切り開いたのが藤田晋さんでした。
私自身は2年ほど前に上場したんですが、正直これだけの業績を見るとある種の絶望感も感じておりまして、「どうやったらそこまでいくんだろう?」みたいなところをざっくばらんに聞きたいと思います。
当時なにを考えて、なにを心がけたらそこまで突き抜けられたんですか? お二方には当時のことを思い出していただいて。(サイバーエージェントが)98年創業、(楽天が)97年創業ですね。そして、サイバーエージェントは2000年に上場されました。
藤田晋氏(以下、藤田):サイバーエージェントの藤田です。今日はどうぞよろしくお願いします。
僕は2000年に上場して16年、もう17年目なので、長く上場企業をやっているんですけれど、付き合う人の視点の高さみたいなものに、かなり僕は影響を受けたような気がしています。
最初の頃から三木谷さんとかが身近にいたので、今も2兆円で3,000億って言われると「いや、ほんとすみません」と(笑)。
吉田:紹介がまた難しいですね(笑)。
藤田:上場して時価総額が100億くらいになると社長同士で仲良くし始めるんですよ。
そうすると「俺たちはまあこんなもんだよな」みたいに、経営者も小さくまとまっていく。そういう意味では、自分は志の高い人と付き合ってきたので、引っ張られたところが多少あるのかなと思います。それだけじゃないですけどね。
吉田:じゃあ、私は藤田さんにとにかく飲みに誘っていただければいいという(笑)。三木谷さん、いかがでしょう?
三木谷浩史氏(以下、三木谷):藤田さんのところは(上場が)2000年ですよね? 楽天も同じ年に公開しまして。
当時を振り返ると、ちょうどネットバブルがはじけた1ヶ月後に株式公開したんですよね。
時価総額が、当時3,000億で株式公開したので……、3,700億かな。それから一気に500億まで落ちまして。藤田さんのところも1回(下がった)。
藤田:そうですね、うちは80億とか70億。
三木谷:というところまでいって。ずっと考えていたこと、やっぱり僕は、最初の頃から重要なのはカルチャーだなと思っていたんですよね。
つまり強い志を持った幹部をつくるということがとても大切だなということ。楽天グループには「成功の5つの法則」というものがあるのですが、こういう企業哲学的なものを、会社がかなり若い、小さいときにどれだけ醸成できるかということがけっこうポイントになるだろうな、と。
私以外はみんな22歳とか24歳だったんですけど、そういう若い人を集めたのと、それから、僕は日本興業銀行という銀行にいたんですけど、その銀行から仲間を集めたのと。
そのときに何人かやはり合わない人がいたんですよね。合わない人はよく話し合って辞めてもらって、同じような志を持ってる人だけを集めて、最初からかなり高い目標を立てた。誰もインターネットで物を買ってないときに「1兆円やるぞ」みたいな。
楽天市場の取り扱いが1日10万円くらいだったんですけど、そのときから「1兆円やるぞ」と言い続けました。
吉田:「成功の5つの法則」というのは、開示可能なものなんですか?
三木谷:本に出てます(笑)。
吉田:ここで法則のいくつかを改めてお話しいただけると。
三木谷:1つは、「常に改善するぞ」ということですね。顧客満足度をどうやって上げていくかとか。あとはPDCA、つまり仮説、実行、検証の仕組みをつくるとか。
仕組み、これがけっこう重要で、僕は会社というものは仕組みの集まりだと思っているんですよね。例えば、うちで言えば火曜日に全世界をつないで朝会をやるというような仕組みもそうですし、あるいは新規事業をつくり出すための仕組みもそうです。
あとはとにかくプロであれと。これもけっこう重要で、ベンチャー、当時いろんな意味で新しいベンチャーがどんどん興ってきたんだけど、ちょっと同好会的だなと当時思っていて。
そういうことじゃない、と。小さかろうがTシャツを着ていようが、サンダルを履いていようが、俺たちはビジネスのプロだとということで、プロフェッショナリズムという点です。
最後はとにかく、スピードを早くしろ。アメリカ人もけっこう好きで、「スピード、スピード、スピード」って3回繰り返したりします。
吉田:「スピード、スピード、スピード」は楽天さんの代名詞みたいな感じで、うちの社内でもけっこう「スピード、スピード、スピード」って言ったりするんですけど。
そういう意味で、例えば、今、私の個人的な相談で申し上げると、上場から2年経つ今、総従業員が250名くらいで、現状維持バイアスみたいなものと、新しいことをやること、さらに成長をつくることの戦いみたいなものが組織上あったりするんですけど。
当時から現状維持を打破して、どうやって社員を上へ上へと引っ張り上げているんですかね?
三木谷:結局、ビジネスはスキーのようなもので、「足元も見ながら遠くも見ろ」ということなんです。僕は「Get things done」って言ってるんですけど。
要するに、「物事を必ず達成するぞ」という強い営業的なカルチャーと、長期にわたる戦略性を両方で走らせないとダメだと思うんですね。
藤田さんのところも本当いろんなことをやってらっしゃいますよね。一時、僕は(サイバーエージェントで)役員をやらせてもらっていたんですよ。
吉田:そうですよね。
藤田:社外取締役を。2001年くらいから2006年までですね。
吉田:その当時どうでしたか?
三木谷:当時、そういう業界全体的にピンチだったんだけど、話し合ったのは「これより下はないよ。思い切っていこう」みたいな(笑)。
藤田:そうですね。3,000億で上場して、500億まで時価総額が下がって。あの頃、三木谷さんも叩かれたわけじゃないですか。
三木谷:超叩かれましたね(笑)。
藤田:超叩かれた。でも、あの頃、年齢が30半ばくらいだったと思うんですよ。僕、けっこうあのときに右往左往してたんですけど、三木谷さんあの頃から「知るかボケ」みたいな顔をしてて(笑)。
あの強靭なふてぶてしさというか。これから会社をさらに飛躍させるのだから、新しいことをやるわけだからいろいろ言われる。一番大事なのはハートの強さだと思うんですよね。
経済産業省がやったビジネスプランコンテストの広告で、「ハートが1番熱いやつは誰だ」みたいなのがあったんですけど。
「熱さ」じゃなくてハートの「強さ」だと思うんですよね。1番新しい事業をやっていくとか、現状維持じゃなくさらに伸ばすのが大事だと思うんですけど、三木谷さんのハートの強さみたいなものは、若い頃から強かったと思うんですけど、あれはどこで身につけたものなんですか?
三木谷:僕は経営者は二重人格じゃないとダメだと思ってるんですよ。要するに、人格が2つないといけない。
つまり、すごくフロントラインで戦ってる自分と、もう1人遠くで俯瞰して見ている自分の2人がいて、時価総額が500億まで下がったとき「これはちょっとまずいな、どうしよう」というのがあるんだけど、もう1人の自分は「そんなこと言ってもキャッシュは600億あるし。ま、いっか。潰れないし」みたいな。
要するに、株主総会に行って怒られりゃいいんでしょみたいな、極論を言えば。
藤田:当時、叩かれていたときに「俺はもう不感症になったよ」みたいな話を僕にされてたんですよ。あんまり不感症になると、芸術家肌の人ってダメじゃないですか。感性を殺しちゃうみたいな話になって、だから経営者っていうのはやっぱり芸術家肌じゃやってられないんだなというのを当時思ったんですよね。
三木谷:野球でいうと、クローザーっているじゃないですか。クローザーに向いてるやつというのは、打たれたら「俺の責任じゃない、マウンドにあげた監督の責任だ」と、こう言うようなやつが向いてるらしいんですよ。経営者も当然、株価もあるし業績もあるんだけど、ある意味自己中なところも必要なわけですよね。
どうせ最後は自分で責任を取るんだから、「外野がなにを言っても俺はこれをやるんだ」というようなふてぶてしさじゃないけれど、そういうところも必要かなと思います。どうですか? 吉田さん。
吉田:じゃあ、私も今日から「知るかボケ」と(笑)。
藤田:「知るかボケみたいな顔」に見えた、ということです(笑)。
三木谷:先週、イーロン・マスクと2人で飯食ったんですよ。イーロンがTeslaに来いというから行って、昼飯を彼のオフィスで食べたんですけど、やっぱり僕の数倍ふてぶてしいですよね。
(会場笑)
吉田:最近もロケット吹っ飛んでましたからね。
三木谷:以前、Teslaの車の事故がありましたが、ああいう事故が起こったら、普通は「やっぱり自動運転はダメだ」みたいな話になると思うんですけれど、そんなことぜんぜんないですもんね。「俺たちは進むんだ」と。
吉田:失敗に寛容であるというか。
三木谷:失敗から学ぶんだと。「失敗」は、英語で訳すと「learning experience」という。
吉田:新経連の「失敗力カンファレンス」でもおっしゃられていて、非常に覚えております。なるほど。じゃあ、社長でくよくよ悩む人はどうしたらいいですか?
三木谷:社長を辞める。
吉田:今どんどんグサグサきてるんですけど、なるほど(笑)。ふてぶてしくなるということですね。わかりました。
では、そういう意味だと今、ここにいらっしゃる方のなかに、まさに起業している人や、若手でこれから起業するという方が数多くいらっしゃるので、今日はもう一つテーマを用意しています。
もし、自分が今、若手でゼロから起業するとしたら、どんな業界でどんなやり方で起業しますか?
藤田:正直、今、いい分野があまりないんですよね。
吉田:待ってください。初めての関西サミットでございますので(笑)。
藤田:この週末、うちの会社は「明日会議」というのを軽井沢でやって、その会議で8社新会社を設立することを決めたんですよ。
吉田:それ、いくつかしゃべっていただくことは?
藤田:いろいろ。本当にいろいろです。若い経営者、1年目とか2年目の社員が社長で立ち上げる分野もあるし、内定者がやってる事業を会社化するのもあるし、既存事業を切り出すケースもあるんですけど、とにかく8社決めたんです。
でもやっぱり今ろくな分野がない。たぶんAIとかも……、AIはどこかで確実にビジネスになるけれど、今マネタイズできそうで民間がやれそうなものは非常に限られているし。
VRも僕は怪しいものだと思っているので、そうこうすると本当にインターネットが出てきたネットバブルの時期とか、スマートフォンが出てきたばっかりのときとか、SNSが始まったときのような、「学生がアプリつくれば起業できる」みたいな世界は、今あまりないですよね。
そんななかで、うちの若い社員が社長で「とりあえずやってみればいいじゃん」といった分野というのは、とりあえず頑張れば商売を始められる分野なんですよね。
請負の受託ビジネスのようなものとか、広告代理店みたいなものとか、そういうものからまず始めて、だいたいこのへん伸びそうだなというところを張っておけば、あとは走りながらチャンスを待てば、なにか来るから。マネタイズできることを今はやるべきなんじゃないかなと僕は思います。IT分野だと、とにかくユーザー数を拡大すればなんとかなるとか、どっかに売却できるという商売も今はちょっと難しいと思うんですよね。
だからきちんとマネタイズが望めそうなものをまず必死になってやって、そのなかでなんらかのビジネスを見出して、ピボットしてくようなやり方が、今からやるんだったらいいんじゃないか。今、2016年の状況ではいいんじゃないかと思っています。
吉田:10年前、ドリコムの役員で上場したあと、Web2.0というブームが1回はじけて、あのリーマンの頃ってトレンドがないという時期だったんですけど、あの頃に私、すごい受託をやりまくって、その受託をやった成果で受託が個人にマッチングするという今のクラウドソーシングを思いついたんです。
藤田:今の吉田さんみたいな立ち上げ方が1番現実的かなと思いますね。あまりリアルな話ばかりしてもつまらないと思いますけど、リアルな話でいくとそんな感じじゃないかな。
吉田:わかりました。三木谷さん、どうでしょう?
三木谷:私、今半分くらいシリコンバレーにいるんですけど、最近思ったことは、いったんネットバブルがはじけてIPOはなかなか難しいけれども、よくもこれだけ次から次に新しいアイデアを思いつくよねということが1つですよね。
僕だったらまずなにをやるかなと考えて思ったのは、エコノミークラスのチケットを買ってシリコンバレーにとりあえず行って、知り合いの家を渡り歩く。
楽天を始めたとき、そうだったんですけれど、そのなかでビジネスモデルを考えていく。これはいけるなというものが見つかるまでやらない。「これだ!」って思うものが出てくるまでやらない。
吉田:「これだ!」というものが見つかったら、資金調達も当然して大きく張るというようなイメージですか?
三木谷:今はけっこうエンジェル、インベスターも含めて資金は集まると思うんですよね。ある程度。よって、資金的な心配はあまりないと思うんですよね。
例えば、最初から100億円集めようとか、そういうのだと無理かもしれませんけれど、数千万とか1億という金額を集めようと思ったら、それなりのトラックレコードがあったら集まると思うんですよ。
当然そのなかで自分の資金調達力に見合ったビジネスモデル、例えば、いきなりテスラモーターズみたいなものをつくるぞと言ってもお金がなきゃできないわけだから。僕も楽天市場という最初は軽いものを始めたんです。
自分の資金調達力とビジネスモデルのマッチングによって、それはいけるなと。あるいはこれとこれを合わせたらもっとおもしろいものができるじゃんという、日本におけるベイカントスポットというか。それを見つけながらやりますね。
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