保護者をどうやって巻き込んでいくのか

小泉裕子氏(以下、小泉):なにか1点質問があるということですので。

スタッフ:こちらからも1点、お三方におうかがいしたいことがあったので、急遽、スライドを用意させていただきました。パネラーのみなさまにご質問です。さまざまな先進的な取り組みを、みなさまされていると思うんですけれど、そのどちらについても、やはり保護者の方の協力が必要不可欠だと思っています。

そのなかで、保護者をどうやって巻き込んでいくのか。いろいろな苦労や工夫をされていると思うんですけれど、ひと言ずつ教えていただけるとありがたいです。お願いします。

安永愛香氏(以下、安永):「不可欠です!」ということが、答えですが、よくいろんな幼稚園・保育園でPTAじゃないですけれど、保護者会というんでしたっけ。そういう組織を作られているところが多くあるかなと思います。

今、うちの保育園では、任意で「どろんこサポーターズ」、略して“どろサポ”というものを、やりたい人は勝手にやってくださいという発信の仕方をしています。どろサポの方には、土日であっても、園庭も園舎もいつでも貸し出しをします。

それは、親同士がつながる、子供に必要な経験を与えるという理由であれば、いつでも貸しますということでやっていたら、このあいだも、あるお母さんが園庭でお祭りをやると言って、町中の人をたくさん呼んできて、2,500人。

すごく小さい90人定員の普通の保育園なんですけれど、園庭で、エスニックな格好をした人たちが踊ったり歌ったり、すごいことになっていました(笑)。

そういうことが、わりと自由に、なんのチェックもなくできるようにはなっています。

小泉:コミュニケーションの取り方でなにか。

安永:コミュニケーション。先ほどのキッズリーさんのお話のように、今まではうちも手書きの連絡帳だったんですが、それをこれから保護者一人ひとりとなるべくタイムリーにつながっていくためにアプリ開発をやっている最中で、そんなこともコミュニケーションとしてはやっております。

あと、すべての園の玄関に、勝手籠というのが置いてあって、これは子育て支援とリンクしちゃう部分もあるんですが、うちみたいにどろどろになって遊ぶ保育園は、夏は洗濯する意味ないかなみたいなことがあって。どろどろになっちゃうので。

朝水着で登園するお子さんとかも真夏はいるんですけれど、さすがに一年中というのはあれなので、服を買わなくて済むように、いらなくなった服を勝手に入れて、ほしい服を勝手に持っていっていい籠を全園の玄関に5つずつ設置してあって、それを勝手籠と呼んでいます。

探すと、時々、ラルフローレンとかGAPとか、そこそこ綺麗な服が入っていたりするので、保育園の園児じゃない人も取れるように、道路のところにいつも置いているんですね。

なので、地域のおばあちゃんが孫の服を捨てにきて、園児の親が持って帰ったり、そういう意味でのコミュニケーション、無料の物々交換所みたいなものをやったりしています。

お母さんとの付き合い方

小笠原舞氏(以下、小笠原):私は通常の、普通の保育園のかたちではないので、親子保育園では「〇〇ちゃんママ」じゃなくて、あだ名で呼び合うみたいなことを意図的にしています。

先ほどの保育士ともつながるんですが、マナーみたいな鎧を取ってもらって、そこに1人の人として一緒にいるということを、仕掛けとしてやっています。

あと、入園、親子保育園に入る時も、保護者も保育者も大人も子供も全部学び合うので、よろしくお願いしますといって来てもらっているので、だから、クレームがどうとか、そういったトラブルもなくやれています。

親と保育士みたいなことを、私たちは、掟破りな感じでやっているので(笑)、それさえも取っ払うみたいなことをしています。

あとは、私が担任をしていた時も、これは、いち保育士として、好きだったからやっていたんですけど、お母さんが疲れていたら「お仕事大丈夫ですか?」とか、子供うんぬんというよりも、お母さんたちの心に寄り添ったり、気付いたり。

「そのネックレスかわいいですね」とか、そういったことを言い続けていると、いつしか、本当に困った時とか、悩み事があったときに、「先生、面談いいですか?」と言ってくれるようになって、そこでボロボロ泣いたり。

親子保育園でもあるんですけれど、本当にこれ言っていいのかなとか、ママとしてがんばらなきゃいけないみたいなことがすごくあって、必死にそれを守ろうとして強く言っちゃったり、頑固になっちゃったりしてるんですけど。

そうじゃなくて、そこをうまく、こっちがいかに言いやすい空気を作るかということが、一番大事だと思っているので、そういうふうにする。

あとは私たち2人とも、できないこともいっぱいあるので、「私もそれ苦手です」と言うと、向こうも「いいんだ」みたいになったりするので、自分の弱みを見せつつ、ママたちも本当にリラックスして私たちの場にいてもらえるような工夫は、すごく意図的に、気をつけて意識的にしている部分でもあります。

保育園のちょっとした声の掛け方、「今日も子供がどうでしたよ」のあとに「お仕事お疲れさまです」とか、気付いたことを言うとか、そこの距離をどう縮められるのかというのは、保育士の一番大事なスキルだと思っているので、そういったことですかね。

主任保育士をローテーションに

小泉:すごい。保育園の現場の先生方にしてみると、保護者支援の1つとして、指針にはそうは書いてないんですけど、どうしてもアドバイザーの役割とか、教える側の役割をついつい意識してしまうところなんですけれど、そうではないところで、やはり母親の気持ちに寄り添うという姿勢はすごく大事ですよね。

小笠原:私はまだ母親じゃないので、わからない前提で、「すごいな」といつも思っているので、それを伝えるのはすごく大事だし、もしかして私が子育てをしたら、そうは言っていたけれど、やっぱそうですよねってことが出てくるので(笑)。

それも含めて、フラットに向き合うということを、私たちはいつも大事にしていますね。

小泉:杉本先生のところは、1つは双方向型の情報の共有を盛んに、先生の言葉でいうと1割なんですけれど上手に使ってらっしゃって、別の意味でコミュニケーションや共通理解の図り方をご提案なさっているじゃないですか。そのあたりもひっくるめて。

杉本正和氏(以下、杉本):保護者とはSNSは結んでいませんので、みなさん見ていただいたかもしれませんが、ホームページに月報をカラー印刷しています。これだけはもう16年続けています。そういうふうに園の活動を見ていただく。

それから、PTA会長がいません。PTA役員というのは、3家族お願いしています。一番のポリシーは、保護者に無理をしてほしくないということがあります。共働きの方々、うちの田舎でも、母子家庭、父子家庭が3割~4割いるんです。そういう状況のなかで、園の行事にそんなに一生懸命されなくてもいいようにやっています。

それから、職員の校務分掌というのを作っています。保育園ではあまりないと思います。これは、学校の組織に校務分掌というのがあるんですが、何歳児を担当しようとか、運動会の係は誰とか、細かく決めて、そこに責任者を置いています。

ほとんどの保育園が、年齢と主任保育士くらいのポジションが大事かなと思うんですが、全部それを決めて、うちは主任保育士をローテーションにしています。力があるから主任になるとかではなくて、主任になってから力を付けようじゃないかというやり方を10年前からしています。

このイノベーションが一番大きかったような気がしています。最初は抵抗がありました。どうしてベテランの先生を外すの、と。そうじゃない、みんなで体験しようじゃないかということが、今、できましたので、ここを変えないとなかなか旧態依然のことは続くと思います。

実はキッズリーには反対しました

小泉:リクルートの方々が、せっかくいらっしゃるので、先生方にキッズリーのことについて聞いてみましょうか。

保護者とのコミュニケーションを図る1つの方法として、やはり、この時代にあるスマートフォンを使って、お子さんの的確な情報を先に流したり、あるいは、お迎えに来る前の情報として、適切なものをどうやって送っていくかという、模索の結果だと思うんですけれど、どういうふうに受け取られますか?

杉本:森脇さん、言っていいかな?(笑)。実は、森脇さんが相談に来たときに、私は反対しました。「うちの保育園では取り入れられない」と。これ以上職員に、ふだん写真を撮ったり、アナログの連絡帳もあるなかで、公平に写真を撮って、毎日気を使いながら「どうして今日はうちの子写っていないの?」とかいうような反応をされるんじゃないかなというのを、私は心配しました。

当然、ちっちゃな園ですので、うちには必要ないかなと言いましたが、キッズデザインで賞も取ってますので、世間はやっぱりいいという判断をしているかなと。それが本音のところです(笑)。

(会場笑)

小泉:実は、私は非常に歓迎しているので、今の先生のお話には首をかしげてしまうところがあるんですけれど(笑)。

(会場笑)

自分たちのやっていることをどう伝えるか

小泉:実際自分が使ってというよりは、やはり、保護者に子供の発達の様子とか、実際の活動のいろんなプロセスというのをお伝えするのに、一般的に連絡帳とか、ちょっとした対面型の話では、ほんの1、2分の時間しかないなかで、子供の活動の様子をナラティブに伝えることは難しいと思うんです。

「今日は元気でしたよ」「〇〇して遊びましたよ」という程度は言えるんですけれど、どういう取り組みに挑戦して、けっこう時間かかったんですけど、こんなことがありましたという、いわゆる活動のプロセスみたいなものを伝える手段は、今までなかなかなかったと思うんですね。

3人の先生方のご発表で、非常に先進的で、かつ、子供にふさわしい活動などもいろいろとイノベートしていただいて、おもしろいなと思うんですけれど、一方では、その様子をどう伝えるかということは、すごく大事だと思うんです。

こういう場所でみなさんに聞いていただく、なるほど、そういう方法があるんだと。でも、これを一人ひとりの園に通っている子供やその保護者とか、地域の人たちに伝えるというのは、もっと大事だと思うんですよ。対面している方々ね。

どんな保育をしているんだというところで、現場の先生方のパッションはすごく大事だし、やっていくことに大変意義があるけれど、それを理解していただくというもう1つの作業も大事だし、子供の成長を伝えることもすごく大事。

そのあたりを、今度、どういうふうにイノベートしていくかというあたりを、たとえばキッズリーのこういったチャレンジに、できれば前向きに(笑)、私はこういうことに取り組んでいくことに意味があるのかなと思って、今回もこういう企画に参加しているんです。自分たちのやっていることをどう伝えるかということは、相手にどう子供のことを伝えるかということにほかならないと思っています。

別に宣伝するために私はやってきたわけではないんですが、今日いろんな活動の発表のなかで、お子さんの成長の結果というのは一番大事なところですね。保育者として、あるいは園長先生として、それをどのように保証しているのかなというのを最後にお聞きしたかったところなんですね。

子供の園での本当の姿を伝えたい

話題は変わるかもしれないんですけど、一人ひとりの子供の発達とか学び、今日のテーマなんですけれど、それを今後、どういうふうに伝えていったらいいのか、具体的に今までやっていることでも構いませんし、これからどんなことが求められるのかということでも。ひと言ありましたら、コメントいただければと思います。

小笠原:今、お話を聞いていて、言い忘れたなと思ったんですが、私が外に飛び出た1つの理由としては、もっとこの子供たちの世界を伝えたいということがすごくありました。もちろん連絡帳と口頭と、うちは動画とかを流しておけたので、それと写真で伝えていたんですけれど。

すごく悔しかったのが、保育園では普通にできるんですけど、子供たちも帰るとやはり甘えたいじゃないですか。そうすると、例えば、ほかの子と仲良くできないという像を見ていたりするので。

それも事実なんですけれど、「いやいや、できるよ!」みたいなところが現場であった時に、やはり伝え切れていないし、見ていないから、目の前の自分の子供を信じるということが難しいのって、別にお母さんを責めたいわけじゃなく、すごくもったいないなと思ったんです。

asobi基地だったり、親子保育園だったりで、ある意味、保育者として、よく緊張する人もいるんですよ。保護者の方がいる前で保育というか、預かるわけではないんですけれど、要は自分のやり方を見せるわけなので、それですごくドキドキしちゃう子ももちろんいるんですけれど。

でも、信念を持って保育をしているならば、別にそこに親御さんがいようが、「私はこういう意図でこうしています」と言えばいいと思っているので。

そういったところで、親御さんもいるなかで、子供たちがどう日々保育園のなかでやっているようなやり取りや、出来事を生で見せられるかというのを考えた時に、外でイベント的に、うちは託児はやっていないんですけれど、見てもらえないので。

親御さんもいるなかで、子供たち同士のやり取りとか、キャンプに行ったら喧嘩もあります。2泊3日もいるので。

そういうのも含めて、もちろん、どうやって喧嘩の対応をするのかとか。研修した上でスタッフが行くんですけれど、そういったなかで生で見てもらうことが一番いいなと思いました。

気付きを持って帰ってもらえるように

もちろん園でお母さんたちを呼んで参観日とかがあるんですけれど、もっともっと日常らしい演出というか、仕掛けをどう作っていくのかということを、私はすごく大事にしていて。

保育園には保育園の役割があるけれど、私が外でできることの1つ、すごく子供たちの世界を伝えたいという表現の1つとして、asobi基地や親子保育園という場で、ほかの子がいると気付くことがたくさんあるんですよね。親御さんも。

うちの子はこれができる力があるし、ここはほかの子がすごいなぁとなって、自分の子以外の子もかわいくなってくるという声が出てくると、すごくうれしいので、本当に自分の子を通して、いろんな子やいろんな家族や、いろんな世界が広がっていくということが、私はすごくベストだし、一番大事なことだと思います。

役割として、外に出て、そういう要はライブですよね。子供たちのライブを、日々の保育園で見ていたライブを、親がいてもふつうの日常のかたちで起こせるような意識をしてやっているので、それが一番、私が子供たちの成長を伝えるためのやり方でたどり着いたものだなと思ってやっています。

小泉:そのライブでも、親が参加していないとダメですよね。

親が、まさにライブとして観察というか、参加しているという状況でお伝えしているということですね。

小笠原:そうですね。私、園を辞めるときに、毎日この子たちの成長を見るということを手放さなきゃいけなくて、すごく悲しかったんです。見ていたいから。

今はイベント型なので、はじめましての子たちの、その子らしさをいかに出すかというところに重きを置いてやっているので、そういったところで、1日でも2時間でもこんなに成長するし、意外とこれできたんだなという気付きを持って帰ってもらえるようにやっています。

小泉:気付きが大切ですよね。

成果は30年後に

そろそろお時間だという話が来ましたけれど、どうでしょう。なにかひと言。

先生のところも記録とかを取られているという話も聞きましたし、杉本先生のところでも先生方は相当いろんなものにチャレンジしていらっしゃるので、ご負担もおありかと思うんですけれど。

負担のない共有ツールというんでしょうか。そういうものを、これから期待したいなと思うところです。先生、なにかありました?

杉本:ハイブリッドな保育を始めて数年経っていますよね。その子たちは小学校になっています。「どんな成果が出ていますか?」ってよく聞かれます。

私は、そのたびに、「成果はまったく出ていない」と答えています。それは、小学校との縦の連携がありません。それから、ほかの園との横の連携がありません。

子供たちは思春期を迎えます。反抗期を迎えます。その子たちが、いつまでもあんな手の挙げ方をするわけがありません。

しかし、これは、このように発言を楽しんでいた頃があったなぁということで、30年後、このような場に出たときに、こういう田舎者でも手を挙げて言おうじゃないかという気持ちになるんじゃないかな。会社でなにかプレゼンをするときに、発表してみようかなという気持ちになるんじゃないかなと思っています。

ぜひ、うちの子供たちは、30年後を見てください。私はもうたぶんわからないようになっていますので(笑)。

(会場笑)

杉本:以上です。

小泉:本当にそれぞれの立場で、それぞれの発言で終わったような気がします。

でも、いいお話でした。本当に子供たちの幸せを願って、日本の将来を背負った保育の世界で、どういう子育てや保育士育て、あるいは、保護者育てをしていくのかという、非常に示唆深いご発表で、本当にありがとうございました。

今日は、長時間でありましたけれど、本当にさまざまな意見がもっと出るかなと思って、フロアからもいろいろ質問していただきたかったんですけれど、とにかくお三方の非常に濃いご発表で十分堪能できたと思います。ありがとうございました。

(会場拍手)