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マーケティングは世界平和に貢献できるか?(全6記事)

「お金儲け=悪」の風潮に物申す 社会に貢献できる企業が持つ“戦略と戦術”

「マーケティングは世界平和に貢献できるか?」という大きなテーマを掲げ開催された、次世代マーケティングプラットフォーム研究会の第9回総会。パネルディスカッション「マーケティング4.0とコトラー教授への質問」には、業界の主要人物たちが集結し、議論を深めました。本パートでは、会場からの質問に答えます。

不便を強いることは正しい解決策ではない

江端浩人氏(以下、江端):ほかに質問はございませんか?

質問者2:庭山さんが、経済人は納税することが東北で作業することよりも重要だと考えたということを踏まえての質問なんですけれど。

アップル社とEUがアイルランドで納税を巡って、意見が異なっているみたいなニュースもありますけれど、税金をたくさん払える大企業が納税を避ける行動をとっているように思われることについて、消費者側がなにか行動をするとか。

あるいは、政府の予算配分として、もっと平和のために予算を使おうとか、戦争のための予算、軍備のための予算を使わないでおこうみたいなことで、マーケティングが役立つ部分があるのかなと思ったんですが、講師の方々でなにかコメントがあれば、お願いしたいと思います。

庭山一郎氏(以下、庭山):トランプさんが、アップル社が個人情報を開示しないという宣言をした時に、選挙運動のなかですごく叩いたことがありましたよね。不買運動を起こそうということがありました。たぶん、不買運動は起きなかったんですけど。

ある会社の政治的な判断とか、納税を回避するための措置みたいなものと、消費者が不買に走るということって僕は分けたほうがよいと思っています。

つまり、不買運動することはマーケティングかというと、それはわからないんだけど、使いたいユーザーに不便を強いるじゃないですか。アップルという会社に罰を与えるために、本当はiPhone使いたい人間に「iPhone使うな!」と言うことって、僕は続かないと思っているんですね。

なにかをものすごく犠牲にするんだったら、みんなで投票して、その世界ネットワークで、脱税、納税を回避するようなタックスヘイブンをなくすようなことを政治家にしてもらうほうが僕は早いと思っています。

もちろん、僕自身は税金払わない会社ってとんでもないと思ってるんですね。「稼いだら払えよ」と思うんだけど、現実におっしゃるようなことがあって。だから、僕もアップルは好きな会社なので、いっぱい使っています。嫌だなと思うけど、「だから、この製品を使わない」とは、僕は思わなくて、そこはわけて考えています。

質問者2:ありがとうございます。

世界平和につながるサービスは?

江端:なにか、お1つ、2つ。じゃあ、こちらのお2人。

質問者3:お話いただきましてありがとうございます。株式会社LITALICO(リタリコ)というところで事業をやっていまして、障がい者の就労支援とか発達障害児向けの塾とかをやっています。僕自身は、今「Conobie(コノビー)」という、親御さん向けのメディアを作っているんですけれど。

LITALICO(リタリコ)のビジョンと世界中の平和って近いところがあるなと思っています。障害のない社会を作ると言って、障がい者の就労支援をやっているなかで、けっこう鬱病の方とか多く、精神障害のある方のそもそもって教育が問題で、発達障害児向けの塾を作って。

親御さんの教養も大事だなと思って、 親御さん向けのメディアを作りました。ただ、僕たちとしては、メディアなので、情報発信することがメインになってくるんですけど、親御さんはどうしたら、その子の個性が伸びるように育つのかなとか。

親御さんの悩みに寄り添うにはどうすればいいのかというところが、将来的に子供が鬱病にならないようになったり、発達障害という障がいを持っていても、しっかりいい子に育ったり、成長できるような社会になるんじゃないかなと、それが世界平和につながるんじゃないかなと思っているんです。

サービス自体が世界平和につながっているものって、どういったものがあるのか個人的にすごく知りたいと思っているので、なにかご紹介いただけるものがあったら、おうかがいしたいです。

本田哲也氏(以下、本田):そうですね。Samsungさんが自閉症の子供のコミュニケーション改善するために、開発者と組んでアプリを作ったんですけれど、それはスマホを通じて、お母さんとか他者と遊べるような、ゲーミング的な要素を入れたんです。

なぜかというと、自閉症の子はアイコンタクトしないんだけど、実はデジタルデバイスを通じたら、アイコンタクトするというデータを見つけた。

それを共同で臨床の先生ともやるわけですけれど、Samsungを中心に研究者と開発者がコンソーシアムみたいにやった話で、カンヌのPRとかも受賞しています。コミュニケーションとサービス自体の開発がすごく融合していて。

作ったものを広めろとか、作ったんだけどぜんぜん広まらないというどっちでもなく、うまく作られたサービスで、最終的には実際に自閉症の子の改善率が上がったってところまでいっているんですね。

なのでそういう意味では、世界平和という大上段に構えちゃうとあれなんですけれど、そういうことの積み重ねが、よりよい社会の実現とするならば、Samsungの『Look At Me』というキャンペーンは1ついい事例かなと思います。

江端:カンヌでもけっこう話題になっていましたよね。ほか、大丈夫ですか? 

今のお話でいうと、例えば、そういう方がターゲットでいると、マーケティング的に見つけて、その人が必要と思われるソリューションを自動的に届けるような仕組みとか……。

同じことで悩んでいる方々が、どうやって解決したかというようなソリューションを、自ら求めなくても来るような仕組みが、人工知能だったり、マーケティングのターゲティングという手法によって可能かなと思います。

それが活用されていくと、おっしゃったように、そういう問題がどんどん解決されていく可能性もあると思います。それが可視化されていけば、そこに企業が投資していくと思いますし。そしたら、そこでも雇用が生まれるし、というすごくいいスパイラルができるような気がしていています。

そこは、すごく直接的な平和ということじゃないんですけれど、企業活動としても、メリットがあるかたちで、上手く回る仕組みができるんじゃないかなと、私は仮説として思っております。じゃあ、最後の質問お願いいたします。

持続的に発展するためにはお金が必要

質問者4:今日はありがとうございました。私は来月から、F1女性層に特化したインフルエンサー・マーケティングの会社に入ることになっています。実はそこで自身、実現したいことがあって、それをもとにおうかがいできたらと思っているんですが、なにかと言うと「最適化」というところです。

例えば、なにかを購入した時に、その購入した金額によって、どこかの国に井戸が建てられると、一時期、すごく流行ったことがあったと思うんですね。ただ実際にふたを開けてみると、当事者がすごく置き去りにされているところがあって……。

例えば、井戸を建てました。それで終わってしまって、実は井戸ってすごく管理が難しく、現地の人たちが管理できないので、井戸の水が枯渇してしまったり、井戸の水が病気を生みだしてしまったり……。

せっかく、みなさんが好意で行ったことが、逆効果につながってしまっていることがけっこう世の中には多々起きているなと考えると、そこに仕掛けにいくとなった時の最適化がすごく重要かなと思っているんです。

みなさんにとって、マーケティングを活用した上で、世の中に貢献するにあたって、どうやって最適化を図ろうと考えているのかをおうかがいできたらと思っています。

庭山:最適化という表現の軸が違うかもしれないんですけれど、僕は、BtoBの企業に対して、マーケティングのサービスを提供しているんですけれど、企業って、中期経営計画を立てるじゃないですか。それで、その中期経営計画には、けっこう「世の中に対して」ということも、当然含まれるんですね。

まして上場企業の場合には、そういうことをやることが、やはり企業価値を高めるので、僕は言うんです。「企業戦略としては正しいですよ」と。世の中をよくすることと、会社の方向を一致させて、そこに向かって進もうという企業戦略、「それはすばらしい」と。

だけど、「どうやってマネタイズするんだ」「どうやってお金を稼ぐんですか」というところの戦術がないと、たぶん絵に描いた餅になる。だから、僕は当然、戦略と戦術って、表裏一体だと思っていて、それが世界に貢献するのはわかるけど「どうやって持続させるの?」と。

「だって、お金いるじゃない」とか。「みんなが貧乏だったら、そこに入ってくる人いなくなるよね」と。

だったらそこに対して、きちんとお金が落ちる仕組み、マネタイズする仕組み。あるいは、それが経済的にきちんと合理性があって、持続的に発展していける。つまり儲けなかったら発展していけないので、その仕組みをどう抱き合わせるか。

インターネットが出てきて、すごく「広がりやすくなった」「始めやすくなった」と言って、世の中にこれがあったらいいなという仕組みとか考えとかって、山ほど出てきて、たぶん99.9パーセントはなくなったんですね。

なくなった理由はすごく単純で、マネタイズを考えていないんですよ。世の中をよくしようというアイデアはすばらしいんだけど、それとマネタイズを別軸で考えている。僕はそこは、やはり儒教の影響がまだあって、「お金儲けって汚いよね」みたいなところがどこかにあるような気がするんですけど。

そこは割り切って、「だって、お金がなかったら、続けられない」という観点が大事かなと思っています。

重要ワード「サスティナビリティ」

徳力基彦氏(以下、徳力):まったく同意ですね。日本における、ボランティアって、「ボランティアをする人がタダでやるものである」ということを常識に思っている人が多いじゃないですか。あれって続けるのが難しいんですよね。そのボランティアをする人自身は、どうやって生きていくのという問題が出てくるんです。

赤い羽根募金とかで、みんなで大勢並んで寄付を募る声をあげることは、あれは別に子供の経験としてはいいと思いますけど、やっぱり本当の意味での社会を支えるというのは、サスティナビリティが一番重要なキーワードだと思います。

そこで日本だとどうしても、金儲けがよくない印象があるんですけど、本来そこに活動している人が生きていくための最低限の給料が入らなければ、優秀な人も来るわけないし、長続きするわけがないと思ってしまうわけです。

個人的にさっきの話も絡んで、すごく僕が好きなのは、グラミンバンク(バングラディシュにあるマイクロファイナンスに特化した銀行)なんですよね。ムハンマド・ユヌス(グラミンバンク創設者)がやった、グラミンバンクとかグラミンフォンの話。グラミンフォンは、ユヌスじゃないですけど。

結局、最貧困にいる人たちにお金を貸してあげると、最貧困から脱出できるから、ある程度収入を稼げるようになって、実は借金の返済率もめちゃめちゃいいという話なんです。

それで、携帯電話をそういう人たちに提供することによって、ある意味、通信を手に入れたことによって、一気にできるビジネスのレベルが上がるから、この携帯電話自体の利用料も返ってくると。

個人的には本来は社会貢献活動もこういうビジネスで継続するかたちでやるべきだと思います。NPOなのか、普通の営利企業なのかは、僕はどっちでもいいと思っていて。

最初の話に戻りますけども、日本もそういう意味では、戦後に上手くいった企業って、けっこうそういう感じなんですよね。理念として、日本をよくするためにこれをやらなければいけない。それが結果的にビジネスになって、大企業になってると思うんで、実はそこが本当はセットの方が強いんだと思うんです。

日本だとどうしても、「ボランティア=タダでやる」みたいな。ボランティアやってて金がほしいなんて信じられないみたいなことが、多いんですが、あれだけでは長続きしないと思うんですよね。

そこは、いかにサスティナビリティという言葉で、金儲けという言葉を置き換えていくかということが、けっこう個人的には重要な気がしますけどもね。

仕組み自体をデザインする必要性

江端:私もいいですか? サスティナビリティを持続させるためのビジネスモデルを作るきっかけが、1つ、「じゃ、井戸を作ろう」みたいなことでもよいと思うんです。

IoTとか、例えば、徳力さんの携帯電話の話、インターネットの話にもありましたけれど、ちゃんと投資されないのは、モニタリングができていないんですよね。これがちゃんと使えてないよというモニタリングの仕組みがない。

モニタリングの仕組みを担保するには、どうしたらいいか。もしかすると、そこには税金を投じて、ネットワークを作らなきゃいけないかもしれない。

だけど、モニタリングして、「ちゃんとみんなで水を監視しようよ。井戸を管理しようよ」という時になったら、インフラがちゃんと使われて、それが価値を生んで、そこから経済効果が生まれて、そうするとサスティナブルになるのかな。

そういう仕組み全体のグランドデザインを考えながら、新しいテクノジーも活用して、やっていくような仕組みができるという。庭山さんのに付け加えたぐらいのお話かもしれませんけど、そういったことを考えて、それを広めていくのがビジネスであり、マーケティングの力かなと思っています。

本田さんも経験されていると思いますけど、去年、一昨年あたり、そういうR/GAのやつとかプログラムが、世界的に評価されてきていますよね。

本田:そうですね。だから本当に日本語でいう「有言実行」みたいな。ソリューションがちゃんとあったり、仕組み自体をデザインしていくとか、作っていくというのが世界的にも評価されています。

こっから先は広告ですとか、PRでございますとか、これはデザインの領域ですとか、ということは、だんだん意味なくなってきていて。

とにかく評価されるべきは、しっかりしたコミュニケーションもありつつ、さっきのSamsungの事例もそうなんですけれど、ちゃんとソリューションになっていると。かつ、それがある程度、永続的までいかないかもしれませんけれど、サスティナブルに動くような仕組みが考えられているというものが、全領域で評価されるようになってきています。

これはすごくいいことです。その代わり、ハードルは高いですけれどね。

ソリューションがないと評価されない

江端:カテゴリーも関係なくなってきちゃっているんですね。

本田:関係ないんですよ。かつてのベネトンの広告みたいに「これが問題です」ということをかっこいいクリエイティブで言ったり、いいコピーライティングで世に問うとか。そういうものもなくなりはしないと思うんですけれど、今はちょっと違う。

今は、「言ったはいいけど、なにするの? 本当に解決につながることを考えてんの? 準備しているの? やるの?」みたいなところにきているから、ソリューションがセットじゃないと評価されない。そうあるべきですよ。

山口有希子氏(以下、山口):ご自身が課題を明確にされているので、そういう意味では、あとはソリューションと、サスティナビリティのプランニングというような感じがしました。

江端:マーケターの人はアジェンダをセッティングするより、解決する能力がすごく高いと思っています。課題を与えられると、それをどうにかして、コミュニケーションだったり、クリエイティブだったり、解決しようというのが非常に大きいと思います。

ぜひみなさんも、そういう悩みがあれば、平和までいつだったらいけるか、というのはあるかとは思うんですけども、ご活用いただければと思います。

ということでそろそろ時間になりましたので、藤井さんも含め、今日は非常に難しい問題でしたが、パネリストと基調講演のみなさん、ありがとうございました。大きな拍手を。

(会場拍手)

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