SNSで拡がる“憎しみ”をどう食い止めるのか--平和のためにマーケティングができること

マーケティングは世界平和に貢献できるか? #4/6

9月7日に開催された、第9回・次世代マーケティングプラットフォーム研究会。今回は「マーケティングは世界平和に貢献できるか?」という大きなテーマを掲げ、「マーケティング4.0とコトラー教授への質問」と題して、パネルディスカッションを行いました。本会議は10月11日から開催された「World Marketing Summit Japan 2016」及び、広島県主催「国際平和のための世界経済人会議」を意識して開催されました。

課題先進国・日本が発信できること

江端浩人氏(以下、江端):藤井さんのお話のなかでも、「マーケティングはもっとターゲティング」といった話がありました。誰に伝えていきたい、とか。

山口さんも最近、自分でコンテンツマーケティングをやられているというのも、どういうふうに誰に伝えるみたいなことを、けっこうコントロールしようみたいなところもあるんですか。

山口有希子氏(以下、山口):そうですね。結局、根幹はそこにあるんですよね。

なので、そこをどうやってわかりやすく、魅力的に使えるかということにすごく頭を使わなきゃけないし、それがマーケッターのコアなんですけれど。とくにデジタルになっていった時に、手段とかいろんなものが増えていって、それをどうするか。根本的なところに帰っているような気がしています。

今のお話で、マーケティングで世界平和が実現できるかというと、私も最終的な答えはわかりませんけれど、少なくとも本田さんが言われるように、ギャップを埋めることはできる、気付きを与えることはできると思っています。

まさに、広島のあの資料館に行く度に、私も今年行きましたけれど、やっぱり胸が張り裂けそうな……。この張り裂けそうな気持ちを、どう世界中の方に伝えていくかということは、まさにコミュニケーションだったり、マーケティングがサポートできるところかなと思います。

実は日本は、そういうコンテンツがたくさんあるんですよね。急激に経済成長をしたからということで、公害問題だったり、いろんな経験をしているこの長い歴史を持っている日本だからこそ……。

江端:課題先進国でもありますからね。

山口:そうなんですよね。そうすると、それをどういうふうに世界に発信していったりすることによって、もっと世界平和につながっていく。そのトリガーにはなるんじゃないかなと思います。

憎しみの伝播をどう止めるのか

江端:徳力さん、(体勢が)考える人になっちゃってますけれど、平和アンバサダーみたいなものは、いかがでしょうか?

徳力基彦氏(以下、徳力):大きいテーマなので、あえて大きい議論で返すと、ソーシャルメディアの普及によって、憎しみの伝播が加速してる面って、けっこうすごくあると思うんですよね。僕、ソーシャルメディア信奉者なので、そうじゃないやり方もあると信じていますけれど……。

江端:憎しみだけじゃなくて、感情一般的に広がっている?

徳力:そうですね。怒りはすごく伝播しやすいんですよね。炎上もそうですけど。だから今回のPCデポにしてもそうですよね。やっぱり、一人の人の怒りが起点になって、周りの怒りをガッーと集める効果があるわけです。

最近で、僕がすごく気になってるのが、Brexit(注:イギリスのEU離脱)とか、トランプとか、煽る政治家の方が勝ちやすい時代になってるんじゃないかという点です。

その瞬間、怒りに振ったほうがわかりやすくって。結局、イギリス人の多くが投票してから後悔しちゃったように、「このまま、あいつらに騙されるんじゃない」って煽られると、「やっぱりそうなんだ」って反対しちゃって。パッと気が付くと、論理的思考が奪われていて、その瞬間はNOに投票してしまう。

アメリカですごく印象的だったのは、黒人を警官が射殺するシーンが動画で出回ってしまって、僕もFacebookのライブで見ちゃいましたけれど、男性の目から光が消えていって、女性がパトカーに連れて行かれて、「私たちのために戦って」って訴えてるんですよね。5分間とかずっとパトカーの中でスマートフォンに向けて叫んでるんですよ。

普通の人があれを見たら、「なにかしなきゃ」って思うわけですよ。当然、デモもあったし、元軍人かなにかの人が、警官を何人も射殺するという事件が起こってしまうわけですよね。ライブ中継のその怒りのパワーの伝わりぐあいったらハンパなくて、あれは本当に見ていて腹が立つわけですよ。「こいつらになにか仕返ししなきゃ」って。

憎しみの伝播のパワーは無茶苦茶すごくて、これはそのライブ中継とかで加速されていくと考えると、これに対する歯止めの対策はしなくちゃいけないと思うんですよね。

日々発信されるメッセージは家庭平和にも貢献!?

これはマーケティングなのかというと違うのかなって、今日もずっと悶々と考えていたんですけど。ただアメリカでもその後、実はいい話があって、「Pokémon Go」みなさんされてます?

江端:Pokémon Goされている方?

(会場挙手)

徳力:今日は意外にやってない人も多いですけれど、アメリカで初期の頃に、けっこういい話としてバズった話、本当かどうか知りませんけど……。

黒人2人がスマホを見ながら歩いていたら、警察官が来て職質をしました。「お前ら、なにやってんだ?」と。そうしたら「いや、Pokémon Goってやつで」と説明したら、警察官が「どうやればいいんだ。教えてくれ」と言って、その場が和やかになったという。

1個のストーリーでしかないけど、怒りが伝播する過程において、まさに本田さんがおっしゃったように、コミュニケーションビジネスに携わる僕たちとしては、誤解がループしてスパイラルになって悪いほうに行く前に、ちょっと「クスッ」とお互い笑えたり、共同で体験できたりする機会を提供することによって、この悪いスパイラルを止めて、逆のほうに回すようにすることって本当はできると思うんですよね。

そういう意味では、日々、企業が出しているマーケティングメッセージ自体も、たぶんそういう効果があるんだと思うんです。

ユニリーバさんが「Doveエボリューション」(ユニリーバが行うDoveの動画プロモーション)とかで言っているのは、要は、子供たちを洗脳するような「美人になれ」「ダイエットしろ」とかという脅迫的なマーケティングをやるんじゃなくて、「もっと女性の真の美とはなんですか?」というのを、ハートフルなメッセージでやるじゃないですか。

やはりあれによって、心が洗われて「今日は、ちょっと奥さんに優しくしようかな」みたいな、こういう積み重ねを送りながら……。

江端:それは平和に貢献しますよね。

(会場笑)

徳力:いや、でも本当に、家庭平和とかも全部がつながっていると個人的には思うんですよね。満員電車に揺られて、横のやつにぶつかった結果、イラッとして殴って、その殴られた人が会社で部下に怒りをぶつけるみたいな……。

個人的には、世の中におけるそういうトーン、日本においてはやはり2ちゃんねるの影響がすごく強いから、オンライン上で相手を罵倒するということが基本になっちゃった印象があるんですけど、こういう雰囲気から変えていかなくちゃいけないんじゃないかなと、個人的なネット理想論者としては思います。

平和維持のためにマーケターが果たせる役割

本田哲也氏(以下、本田):マーケティングで平和を実現とかって言っちゃうとね。

徳力:いきなり「戦争を止める」とか言うと、「ちょっと無理でしょ」という話になっちゃうんですけど。

本田:逆に言うと今の話とかで、悪い方向へ起こることも、今のソーシャルメディアの環境だと起こりますよね。

そうすると、実は平和を実現というのも裏を返せば、平和な状況を維持するとか、おかしなことが起こらないようにするというところの底支えが大事なんじゃないかと。マーケティングとかPRのプロがわかっているようなメカニズムがあるじゃないですか。情報がどう伝播していくか、とか。

そういうものをどう抑えるかというノウハウもあるだろうし、もともと起こらないようにする仕組みを知っているかどうかで、お手上げになっちゃうのか、なにか手を付けられるのか、予防線を張れるのかとかがあるわけですよね。そういう、現状のよいところを維持するという発想も、大事なのかなって思います。

江端:確かにいろんな手法があるとは思います。直接的なものもあると思うんですけど、例えば、先日リオのオリンピックが終わって、明日からパラリンピックが始まりますけど(注:イベント開催は2016年9月7日)

ああいうものをスポンサーにして、普及することによって、世界中の人が一緒になってコンピートしてるような状況を見せるってこと自体も、平和とか、世の中が一体になっているみたいなものの啓蒙になるんじゃないかなみたいな考え方もあるかなと思うんですけれど、いかがですか?

山口:そうだと思います。先ほどのダイバーシティとかの話もそうですし、パラリンピックとかも含めて、世の中のいろんな方々ががんばっていらっしゃる姿とか、チャレンジされている姿、そして、それを支えるということ。

しかも、そこが企業のコアのところとつながっているようなかたちで、サポートができれば、一番、どちらにもハッピーなかたちになるかなとは、すごく思いますね。

江端:そうですね。どちらもハッピーになると、マーケティング4.0かもしれないと。この回の趣旨に無理矢理くっつけるようなかたちですみません(笑)。

コトラー教授に聞きたいことは?

そろそろ、質疑ですね。「コトラー教授への質問」という時間に入ってきたんですけれど、もしこの時点で質問が会場からあれば。藤井さんに対してでもけっこうですし、どなたかありますか?

なければ、質問のほうへ行きます。その間に考えていただくということで。では、(コトラー教授への)質問にいきます。

7回の総会で聞いたものがいろいろあります。「低関与商材に関するマーケティング4.0の活用事例はありますか?」とか、「4.0の次はなに?」「5.0です」みたいな

(会場笑)

いろいろあるんですけれど、パネリストのみなさんからコトラーさんにこの際聞いておきたいみたいなテーマはありますか? 庭山さんも先ほど……(笑)。

庭山一郎氏(以下、庭山):本当に伝わるかどうか、伝えないほうがいいのかわからないんですけれど、僕がもし、コトラーさんとサシで会って話す機会があれば言いたいのは、コトラーさんには、長寿していただきたいんですけど、いずれお亡くなりになるでしょう、と。

お亡くなりになる前に、「マーケティングの言葉」を定義してくれと。僕たちは現場にいますので、例えば「インバウンドマーケティング」って、今、日本では「観光客誘致」になってるでしょ。誰かが言葉を曖昧に定義すると、みんな我田引水で使っちゃうので。

マーケティングの言葉って本当に便利なので、これは大きく言うと、マーケティングそのものがものすごく便利に使われていて、「それはマーケティングじゃないだろ」ということもマーケティングだし……。

もっとミクロで言うと、例えば「エンゲージ」って今、BtoBで流行っているんだけど、「エンゲージってなによ?」と。辞書を引けば、それこそ婚約で使われるぐらい、契約とか契りとか出てくるんだけど、普通のマーケティングで言うと、メールをクリックしたら、「はい、エンゲージ」みたいな。

あと、「ペネトレーション」ね。これも、認知とか貫通とかというような言葉なんだけど、「なんでこの人はペネトレーションになったんですか」と言うと、「いや、この人はWebを見たから」みたいな。Webを1回見れば、お宅の商材は理解できますかね、と。これを、誰か定義してよ、と。

曖昧な用語を全部定義してほしい

江端:質問というか、どちらかというとお願いみたいな。

庭山:そうですね。

江端:いろいろとみんなが使っていくから、うまく整理してくれみたいな。

庭山:たぶんみんな、自分たちが定義したものを変えるのは、意地もプライドもあるので難しいと思うんですよ。でも、なんぼなんでも、コトラーさんが言えば、諦めると思うんですよね。

(会場笑)

庭山:あのおっさんが言ってるから、しょうがないと。「これがペネトレーションね。これがエンゲージね」と。曖昧な用語を全部定義して、『遺言』という本を最後に一冊書いて、亡くなってほしいなと思うんですよね(笑)。

(会場笑)

江端:ありがとうございます。お会いすると、非常にお元気なのでびっくりされると思います。3時間ぐらい立ちっぱなしで喋るのもぜんぜん大丈夫な方です。

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