「税金を払える会社になれ」稲盛氏の教え

徳力基彦氏(以下、徳力):僕が逆に好きなのは、日清さんの事例で。日清カップヌードルミュージアムに行くと、戦後の空腹の人たちを助けるために、百福さん(安藤百福、日清食品株式会社創業者)がカップヌードルを発明したとかって説明があって、そこからさかのぼって会社の歴史を説明されると「すげーな」と思いますよね。

やっぱそういう背景があるからこそ、応援したいと思うし。そうした挑戦の文化がある会社だからこそ、おバカ大学みたいなCMにチャレンジされていて。 バカヤローCM、1回目は炎上しちゃいましたけど、「日本をもっと楽しくしようよ」って、「炎上とか言ってないで、セカンドチャンスあげようよ」という、そういうメッセージが、ああいう背景がある企業だから、ある意味3.0的なメッセージになると思うんですよね。

だから、マーケティング1.0、2.0、3.0と言うと、いきなり3.0とか4.0とかから始めたくなるんだけど、本当に芯がしっかりしていないと、3に飛び込もうにも、4に飛び込もうにも……。

江端浩人氏(以下、江端):そもそもの土台ができていないと、マーケティングスタックも積み上げが、積算ができないみたいなことですかね。

徳力:会社の方針としては、そういうことだと思います。

庭山一郎氏(以下、庭山):京セラってあるじゃないですか。日本を代表する高収益企業なんですけれど、稲盛さん(稲盛和夫、京セラ株式会社、第二電電株式会社の創業者、現日本航空株式会社名誉会長)に直接聞いたんですけど。

稲盛さんはもちろん、化学を修めて、ファインセラミックス(注:特殊な機能や性質を持たせたセラミック)を開発したエンジニアなんですね。そのエンジニアリング技術を認められて、出資していただいて、京都セラミック(京都セラミック株式会社、京セラの前身)を作って、最初は自分の技術を世に問いたかった、と。

それで、がむしゃらに働いて、利益が出た。そしたら、税金払わなきゃいけないってことがわかって。エンジニアだからそういう財務はわかりませんから、当時は。「なんでなにも手伝ってくれない国が半分持っていくんだ!」と思って、本人ははっきり言っていましたけど、「脱税しようとした」と。

(会場笑)

江端:しようとしただけですよね。

庭山:しようとしただけです。ところが、根が馬鹿正直だから、税務署の人間にあっという間に見破られて、「なんだこりゃ」って言われて、とっちめられて、ものすごくつらい思いをしたと。その時に自分は「これからは税金を経費と思おう」と。

つまり、1億の利益がほしかったら、2億経常出せばいいんだね。10億の利益がほしかったら、20億の経常出せばいいんだよねと変えてから、実はガラッと変わったと。たぶん、あの会社のひとつの原点。今おっしゃったように、税金払うんだと。それが世の中のインフラを作るので、税金を払う会社になろうというふうに思った瞬間……。

僕、盛和塾(稲盛氏主催の経営者の勉強会)に入っているんですけど、稲盛塾長はよく塾生に言いますね。「節税しようと思っているだろ」と。「そんなやつは、一生中小企業だって」と言っているんですけど(笑)。「税金を払える会社になれ。税金をたっぷり払う会社になれ」というのを、いまだによく言いますね。

マーケティングは世界平和に貢献できるか?

江端:やはりそこのポイントを事前の打ち合わせでもお話しして、この世界平和につながるところなんですけれど、やっぱりパブリックセクターと民間でできることが違いますから、ちゃんと税金を払うことによって、世界平和に貢献するみたいなこともできるわけですよね。

庭山:僕は、26年間会社を経営していてマーケッターであると同時に経営者なんですけれど、やはり会社を作ってつぶさない。つまり、人を雇用すれば、当然払っている給与のなかから、源泉徴収を収めているわけですし、会社が利益を上げれば、その法人税を払うし、もちろん消費税も払うし、ということなので。

経営者の最大の社会貢献はなにかというと、企業を潰さないこと。もっというと、利益を上げて雇用を増やして、かつ法人税を払うこと。経営者、経済人であるならば、そこがメインだと僕は思っていますね。

江端:先ほど基調講演でも、雇用とか、投資とか、税金を払うところはスペシフィックには入っていませんでしたけど、「社会的な投資を賄うこと」という意味では入っていると思うので、そこはやはり、ひとつの大きな観点かなと思うんです。

時間もあるので、テーマの2番(「マーケティング4.0」)、3番(「世界的なマーケティングの進化と変化」)みたいなところを話してきたんですけど、そういう観点からも含めて、どうですか? 

これは広島で話される大きなテーマなんですけど、今のなかでみなさん、マーケティングって世界平和に貢献できると思いますか? それとも……?

庭山:僕、今でも覚えているんですけど。稲盛さんとかは税金払う会社になれというんだけど、やっぱり一抹の「なんかもったいないな」と思う気持ちもあるじゃないですか。でも本当に心の底から、税金払える会社になりたいと思ったのって東北の大震災なんですね。

あのときに命を懸けて、救助にいく消防の人とか、ヘリコプターで原発の上から水をかける自衛隊の人を見ると、「あの人たちって、いくら給料もらっているんだろう」と。たぶんそんなに高給取りなわけではないんですよね。その原資ってどこなんだろうといったら、税金なんですね。

なので、やはり経済人であるならば、飛んで行ってボランティアで、その東北の泥を片付けるのも、それはそれで自分としてはやりたい衝動はすごくあるんだけど、僕はあの時あえて行かなかったんですね。

それはなぜかといったら、俺は経済人なんだから、ボランティアで泥水を掻きだすよりもやることがあると。やっぱり自分の会社を強くして税金払って、あの消防署の人とか自衛隊の人間がもっと高い給料もらえるようにしようと、僕はあの時思ってたんです。

認識のズレを埋めることはマーケッターの仕事

江端:経営者とマーケターという両方の側面をお持ちですけれど、その人なりに貢献できる強みというのが、あるということだと思うんですけれど。みなさんどうですか、今の話を受けてでもいいですけど。

本田:そもそもマーケティングの領域は広いわけですけれど、少なくともコミュニケーションのところでは、PRの人間だからとくに思うんですけど、確実に貢献できるところがあると思っています。

誰かと誰かのコミュニケーションが希薄であるとか、あるいはパーセプションギャップ(注:認識のズレ)が起こったりしますよね。

こっちはこうだと見ている。でも、別のグループはそうじゃない。真実はひとつなんだけど。これはたぶん、紛争とか「平和じゃない状況」になる理由のひとつになっているはずです。実態としては、間違いなくTruth(真実)はあるんですよね。でも問題は、こっちの人はこう見ている。あっちの人は違う見方をしている。戦争も発端はそうだったりします。

そのギャップが存在するがゆえに、だんだん武力行使とかになっていくというところがあるのであれば、そのパーセプションギャップを埋めるところというのは、コミュニケーションの仕事なので、そこは、プロフェッショナルが出ていってやるようなチャンスあると思うんですよね。

江端:コミュニケーションギャップを見つけて、埋める仕事というのは、マーケッターにはでき得るわけですよね。

本田:まさにマーケッターの仕事で。「お前、なんで売れねぇんだ!」と言って、すごくインベストして売り場増やせということもあるわけですが。

そうじゃなくて、なぜこれがお客様に伝わらないのかって、ちゃんとリサーチとかをしていくと、パーセプションの違いが出てきて。じゃあ、ギャップがあるから、どういうメッセージをお伝えしたら、少なくとも興味を持っていただけるのか。これはBtoBもBtoCも一緒ですけど、そういう専門性というのは、利用できると思うんですよね。

江端:ビデオまだ大丈夫ですか。

「Equal Future」キャンペーンから学べること

本田:あっ、そうでした。今日、ひとつお見せしようかなと思って、最新のカンヌライオンズ(国際クリエイティブフェスティバル)の、PR部門のゴールド取ったやつでですね。

平和まではいかないんですけれど、これは国連で決められているグローバルイシューのひとつ、ジェンダーイシュー。男女平等、男女共同参画の問題ですね。

それで、オーストラリアの銀行がやった「Equal Future」というキャンペーンなんですけど、けっこうおもしろいです。映像で見たほうがわかりやすいかもしれないですね。世界でも非常に話題になりました。

制作したのは銀行なんですけれど、男女平等DAYって、国際的にあることです。これは、子供にお手伝いさせるんですよ。男の子と女の子に、同じお手伝いをさせるんですね。子供は、一生懸命やります。

かわいい子供たちがお手伝いして……。「よくやったね」とお小遣い渡すわけですけど、ところが、女の子のほうが貰えるお小遣いが少ない。そのレートというのは、実際に今、社会問題になっている女性の賃金が低いというパーセンテージに基づいていると出すわけです。

これは英語なんですけど、ちっちゃい男の子とかが「いや、イコールであるべきだ」と言ったり。これは本当の子供たちがガチで言っています。女の子が「こんなに不平等なんだったら、私がすごく声を大にしていう」と言ったり(笑)

これはバイラルビデオになっていて、実際にこれをメディアも取り上げるし、PR的に拡散させるということをして、90カ国以上でバズったという話です。

ここでなにを言いたいかというと、日本もそうなんですけど、男女共同参画とか、ジェンダーイコールの話って、重要な社会課題なんですけど、さも難しく有識者ばかり出てきて「……である」とか言って。

山口さんも隣にいてドキドキするくらいのスーパーウーマンなんですけど、スーパーウーマンの方だけが「女性も! 女性も!」とやった場合にどうなるかとうと、それが遠い問題に見えてしまう。

これの秀逸なところは、いきなり子供の問題にする。子供たちのお小遣いの話にすることによって、ハッとなったり、言いやすくなったりという空気が醸成できるわけですよね。

だから、同じ問題でも、国際課題。平和も含めたソーシャルイシュー(社会問題)でも、誰が言うかとか、誰に言わせるかという観点がすごく大事で、そういうのがPRとかマーケティングのプロの、ひとつの専門性じゃないですか。そういう観点というのはもっと入れていくべきじゃないかなと思います。