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企業の魅力を伝えるストーリーテリングとライターの役割(全6記事)

ライターの仕事はカウンセラーに近い? 記事を書くこと以上に必要なスキルセット

ライターの仕事の本質は、記事を書くことだけではない――。ライティングを学び合うコミュニティ「sentence」が開催したイベント「企業の魅力を伝えるストーリーテリングとライターの役割」。企業や団体の“想い”をストーリーとして伝えるプラットフォーム「PR Table」編集長・菅原弘暁氏、「sentence」を運営するインクワイアのモリジュンヤ氏、編集者・ライターの長谷川賢人氏が、企業取材を行なうライターが提供できる価値についてパネルディスカッションで語りました。

ライターの価値あるスキル「言語化」

菅原弘暁氏(以下、菅原):モリさんにも長谷川さんにもお聞きしたいんですけど、取材すると、だいたい取材対象者のことを好きになりません? 僕はわりとすぐ好きになっちゃうんですよ。とくに、がんばっている話を聞いているので、がんばってる人を嫌いになれないじゃないですか(笑)。

長谷川賢人氏(以下、長谷川):菅原さんは、心優しいからだと思いますね(笑)。

菅原:同じ会社の人の話を聞くとか、その人の半年後の話を聞くとか、けっこう楽しいなと思いますね。

その仕事をしている方は、好きになりすぎてはいけないと思うんですけど、さっき言った客観性みたいなものがなくなっちゃうかもしれないので。でも、やっている方は楽しいだろうなとは思います。

長谷川:モリさん、好きになりますか?

モリジュンヤ氏(以下、モリ):そうですね。すごくいい会社だなと思うことは、日々、あります。僕が、会社組織で働くということにちゃんと適性があったら、入社も検討しているかもしれないんですけど、僕は、幸か不幸か、あまり会社で働くことに適していなかったので。

会社を好きになってそこで働く人もけっこういるんじゃないですか。ライターから会社のマーケティングの部署に入るとか、広報の仕事をやるとか。

長谷川:それでいくと、ライターはそもそも記事を書くという以上の価値、スキルセットが必要なのかなという気がしちゃいますね。

モリ:そうですね。職種の理解を深めるために、抽象度を上げたり、因数分解したりするんですけど、ライターが持っている一番価値になりやすい点は、先ほどPR Tableのプレゼンテーションでも出ていた、「言語化」だと思っているんですよね。

人が言語化できていないことを、話を聞いてあげて、言語化してあげたり。言語化することで、持っている価値を相手に気づかせてあげる。これが一番価値になりやすいんじゃないかなと思っていて。

菅原:まさにそこのところはお客さんからご要望いただいている部分で、「そうそう、そういうことを言いたかったんだ」というのを引き出すというのと、まとめてあげるというのが、聞いてる側の仕事なんだろうなとすごく感じますね。

他人に書いてもらうように任せると、なかなかそこが言えなかったんだけど、一種の共同作業だったりするので、そこで引き出せたり、まとめられるというのはあるのかなと。

取材はカウンセリングに近い

長谷川:そうですね。たしかに思います。僕もモデレーターを「やります! やります!」って言って出てきてるくらいなので、基本的に人としゃべるのは好きだったり、おしゃべりするのも好きなんです。僕、最近、書くのよりしゃべるほうが好きなんじゃないかと思ってしまうくらい(笑)。

(会場笑)

長谷川:それって、書くのは得意なんですけど、たぶん根本的にはしゃべるのが好きなんだなと。

言語化のところもそうですが、ちょっとカウンセリングみたいなところがあるじゃないですか。さっきもお医者さんっておっしゃってたけど、そういう機能もきっとあるなと思っていて、自分たちが抱えているもやもやしているものに気付いていないことをはっきりさせるとか、それも言語化ですけど。

そういうのを得意な人がやるというのは、「人に伝えるのが得意だから広報やります」とか、「数字を追うのも好きだからマーケティングやります」とかと同じで。僕はエクセルの数字を見ているのが苦手なタイプではあるんですけど(笑)、エクセルの数字を見るのが好きですごく得意って人もいるから、そういう意味でライターを捉えると、ちょっと仕事が広がりそうだなって気がしてるんですよね。

モリ:さっきは言語化の話だけしましたが、いろんなところとネットワークがあることが関わっている会社にとってのメリットになると思っていて。

「同じようなケースで悩んでいたこの会社はこういうふうにやりましたよ」とか、「別の業態だとこんなことが起きていて、ちょっと似ているので参考になるかもしれないですね」みたいな話をしたり。いろいろ見ているからこそ出せる価値みたいなものもありそうだなと思ってます。

横断的にコンテキストを把握できているからこそ出せる価値みたいなものもライターならではなのかなと。

長谷川:すごく生っぽいインプットがたくさんあって、それがアウトプットできた時に妙な武器になってるみたいなことですかね。

モリ:そうですね。いろんな実践例みたいなものが収集できているんですよね。アカデミックな人たちは体系化するのがすごく上手で、体系化に必要な実践例を収集する時にリサーチをします。

メディアの人は、日々、実践例のインプットが溜まっている。蓄積されたインプットをどうやって意味付けたり、まとめていくかに取り組まないといけない。これって、リサーチの手法みたいな話ですよね。

菅原:一概には言えないんですけど、本当おもしろいなと思うのが、だいたい同じ過ちを繰り返すんですよね。戦争が同じ理由で繰り返されたみたいな感じで(笑)。

このフェーズにあった時に、こういうことを怠ったから、こういう人が辞めちゃったとか。何十人くらいになった時に、こういうことが起きるから気を付けなきゃって本にも書いてあるのに、それをやらないで、「本に書いてあったことは、これか……」みたいな。みんな同じ過ち繰り返すんだな、と。

長谷川:それはあるでしょうね。前に僕が今いる会社の経営者の人としゃべったら、フランス革命の話をされたんですよ。フランス革命ではこういうことが起きたから、たぶん人はこうやって動くという話をされていて、「フランス革命まで戻るんだ!?」って思いながら、結局同じかという。それはありますよね、絶対。

外部脳として果たせる役割

菅原:ちょっと教えてあげられるというのは、外部脳として役割を果たしているのかなと思っていて、「今、従業員規模何人ですか?」とかそういう話を聞いて、「じゃあ、そろそろこういうことに気にかけてます?」とか言うと、「あぁ、そうなんだよ」って。

長谷川:占い師みたいですね(笑)。

菅原:占い師みたい、と言われることはありますね、時々。たまたま当たったことがあるんですけど、外れていたら、ごめんなさいって(笑)。

長谷川:でも、同じテーマや同じ分野で、いろんな人に取材をしていると、共通点が見つかったりすることはけっこうありますよね。それはそれで。

モリ:それはありますね。見つかると思います。

たとえば、会社って、ステップが共通してたり、同じ業種だったら抱える悩みが同じだったり、組織のステージによって悩んでいることが似ていたり。

長谷川:それでいくと、仕事する時に、何の分野にしようかなーみたいなことは、ある程度は区切っちゃったほうがやりやすいということはあるんですかね?

モリ:それは、人の好みかなと思っています。ライターによって、とにかくいろんな分野の話を聞いているのが好きですって人もいるじゃないですか。

いろんな分野の話を聞くことのよさは、活かしたほうがいいと思うんですよね。「迷ったらこの人」的な価値もあるはずなので。

長谷川:なんかいいですね。ストーリーの作り方も含めて。

モリ:立場によって、出せる価値って変わると思います。企業の中から関わるか、外から関わるかでも変わる。例えば、リクルートの社内報が立ち上がった時の話が本にまとまっていて、書籍内では社員と会社のことを一番知っている人が編集長にアサインされているんです。

インナー向けのコミュニケーションには、会社のことを知っている社内の人が重要。

一方、対外向け、ステークホルダー向けに発信していくとなると、外部の視点のある人でも価値が出せると思います。「発信の仕方はこうしたほうがいいです」「これは御社のなか独特の話なので、言い方を変えたほうがいいです」といった意見が言える。

「ブランドジャーナリズム」って言葉がありますよね。自分たちで自分たちのブランドのことを情報発信していく、海外では注目されたテーマ。

「ブランドジャーナリズム」を実践しようとするなら、外部の人たちが外部なりの価値を出しながら関わっていくのがいいんじゃないかなと、個人的には思います。

ストーリーテリングの法則

長谷川:載せたいメッセージがなにかとか、誰向けに作ってるのという、本当にベースなところですけど、そういうのをしっかりと先に策定するのも大事なのかなという思いがありますね。

外向きか、内向きかも含めてですけど、ステークホルダーとはいえ、属性とか、採用したいかとか、それくらいの切り方をしないと、とっ散らかっちゃうんだろうなと思いますね。

菅原:物語の始め方と締め方というのは、本当に、ターゲットというか、一番の目的に合わせて決めていて、けっこう僕はふわっと考えてることが多いんですけど、別に誰が相手でも、好かれて損はないじゃないですか。採用候補者だとしても、顧客だとしても。

働きたいと思う人も、この商品を買いたいにしても、投資したいにしても、好かれているからだと思うので、とりあえず好かれようぜって感じです。

長谷川:その人の好きなところを見つけて、それをほかの人にも好きになってもらうみたいな印象ですかね。

菅原:それに近いですね。あんまり恣意的になってもいけないなと思います。僕が好きでも世の中は嫌いかもしれないので。

長谷川:そこは1つのジャッジですよね。

菅原:ただ、1つ法則としてあるのは、成功しか語らない人はみんな嫌いなので、絶対に失敗話はしてもらいますね。

長谷川:そうなんですよね。ストーリーテリングって、すごく難しそうな印象があるんですけど、実はいくつかの法則を踏まえているというのは、必ずあると思っていて。

それは、PR Tableさんの入稿フォーマットが、起承転結じゃないけど、4つに分かれているという話にも通じているはずで。もしよければ、その工夫をちょっとだけお話をしてもらってもいいですか?

菅原:もちろんです。mediumとかnoteとか、今、いろいろあると思うんですけど、自由度を削ろうと思って最初作りました。企業の方は書けない方がやはり多いので、「さぁ、自由に書け!」と言っても絶対書かないなと思ったので。

サイトを見ていただくと、すべての小見出しは4つになっています。「4コマ」と僕らは定義しているんですけど、例えば起承転結ですね。時々、やったりするのは、起承転結の転を最初に持ってきてドキュメンタリータッチにしたり。

そのほうが感覚的にわかりやすいんですよね。滞在時間は長いんですけど、やっぱり感覚的に、ここはどんな話で、ここはなにの話でというのがわからないと、見る側にとっても苦痛ですし、発している側も整理ができないので。そこはうまい具合にサービスを作れたなぁと、ここ最近感じていますね。

ウケる物語のパターンは決まっている

長谷川:もし、これから自分の会社のなかで発信する、もしくはPR Tableを使おうと思うときは、ある程度フォーマットを決めちゃうというのはありかなと思いますね。

菅原:ありですね。

長谷川:まずは最初に失敗の話からして、それがどう回復して、見出しはこういう感じで……みたいなものを統一さえできれば、ライターに任せてもトーンが揃うじゃないですか。わりとこれ大事だなと思っていまして、仕組み的に作れるかどうかというのは、必要だよねという。

菅原:今、そこはチャレンジしたいなと思っています。200本くらい作ってきたので、だいたいこうすると、こうなるなというのもわかってきたので、そこはなるべく、僕ら自身も言語化して、お客さんに還元していきたいなと思っています。

長谷川:いいですよね。あの、ちょっとずれるかもしれないんですけど、ごめんなさい。

実は、僕は、大学生の時に、芸術学部の文芸学科にいたんですね。そこでは小説を書いていたんですよ。勉強で。その時にいろいろ本を読んでいたら、「物語の構造というのはだいたい一緒だ」という話があって。

神話というのは、だいたい31パターンくらいしかないとか。神話の展開というのは、最初に主人公がだいたい欠損しているか、虐げられているパターンから始まって、それが回復して、最終的にお妃様と結婚するか、出世するかで終わる。こういうパターンがある。

そういうのって法則的にもう導かれていることで、さっきの失敗話を聞くというのもそうだと思うんですよ。失敗をリカバーした時に、すごく親近感が持てるし、盛り上がるという。

確かに成功ばっか言ってるやつは、だいたいつまんなくなっちゃう。飲み会もそうじゃないですか。だいたい、そういうのって!(笑)。

僕が参考になるかなと思ったのは、例えば大塚英志さんが書いた『ストーリーメーカー』という本があるんですけど、これは小説家のための本です。創作するための物語論を書いてくれていて、5つの物語論みたいなものがあって、これも最後にチャートがあるんですよ。

ストーリーメーカー 創作のための物語論 (星海社新書)

例えば、書き込み式で、これから書こうとする物語のうち、そのプロットを一文で言うとどうなりますか? 主人公はどういう状態でいますか? みたいなことがチャートに書いてあって、これを埋めていくとプロットができちゃう。

そういうのもあるし、あとは『物を売るバカ』という本があるんです。これは川上徹也さんというコピーライターの方が書いているんですけど、おもしろかったなと思ったのが、大阪にある納豆屋の話。そこは手作り納豆を売っている店なんですよ。大阪の人はあまり納豆を食べなさそうなイメージがあるじゃないですか。

物を売るバカ売れない時代の新しい商品の売り方 (ワンテーマ21)

大阪の人の舌に合うような納豆を作り続けて、でもなかなか経営が立ち行かなくなったときにやったことというのが、創業者のお父さんというのが、とにかく納豆バカというくらい納豆が好きだったという話、納豆への情熱をひたすら自社サイトに書き綴ったんですよ。

今までは、手作りですとか、おいしいですという話を書いていたのを、いかにそのお父さんが納豆が好きだったかとか、どうやって立ち上がっていったかとか。たしか本社が全焼してなくなっちゃったりとかもしてるんですよ。

そういう話も含めて書くと、やっぱり真摯さが伝わって、納豆が売れ始めるという話があって。これってまさにストーリーテリングだと思うんですよね。

そういうある種のフォーマットみたいなのはあって、それをどうアレンジするかは、もちろんライターの腕だと思うんですけど、そのへんはあまりビビらずというか、先行例があるので参考にできる部分が多いのかなと。

現代版の社史を作っている感覚

菅原:新しいことをやっている感覚って一切なくて、長谷川さんがおっしゃっているみたいに、昔あったものをただWebに移している感覚というか、本当にそういう感じなんですよね。

社史とかって昔からあるじゃないですか。さっきのトラック屋さんも、もう亡くなっている方もいるので、お話は聞けなかったんですけど、社史が残っていたのでできた部分があったんですよ。

世の中に公になっていない、70年の私の歴史みたいな本があって、その時に戦争の時の描写だったり、里親にいじめられていたとかという話があったりしたので、そこから抜粋して作ったりしましたね。

本当にそれをただ現代版にしただけですね。僕らがやったのは。

長谷川:「コンテンツマーケティング」とか、「オウンドメディア」とか、わりとデジタルな領域って、バズワードみたいなものが生まれては消えていくという世界だったりするけど、意外とそこでやっていることというのは、もちろんベースとなる仕事だったりして。

ただ、アレンジ先というのはけっこう大事で、どうアレンジできるかみたいなことは、時代時代によってぜんぜん違うよねという話ではあるのかなという気がしますね。

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