女性をどうマネジメントするかについて研修を実施
伊藤綾氏(以下、伊藤):先ほど少し触れましたが、女性活躍推進に関して、マネジメントの取り組みもまた重要であると痛感したのが、この4年間でした。
昨年から新しく始めた施策、管理職向けの研修をご紹介します。
これは、先ほどの「Career Cafe 28」のボス(上司)版ということで、同じことを今度はボスに対して教え、さらにボス専用で「どのように女性メンバーのマネジメントをしていけばいいのか」を具体的にレクチャーする内容になっています。
プログラムの最初は、ダイバーシティが経営戦略としてもなぜ大事なのかを説明し、議論し、まず腹落ちをしてもらう。
またワークショップでは、2人1組になり、1人は28歳の女性メンバーの役、もう1人は、その女性メンバーが少し遠慮しているプロジェクトリーダーの役目を任命するというミッションを持った管理職という設定で、ロールプレイングを行います。
そのロールプレイングをやってみると、やる前は自信があっても、「いや、私はまだこれから出産するかもしれませんし……」と言われると、「それでもやろうよ」といった程度のことしか言えないことがわかる。
そんな場面で、ではどういう言葉をかけるとよいのか、なにを聞けばいいのか、コミュニケーション・育成において本質的に重要な点はなにかといったことを考える。
先ほどの大久保の話にもありましたが、とくに今の管理職のなかには、「キャリアプランの話はしにくい」や「両立の話を突然切り出せない」といった悩みが多くあります。
4年間で起こった定量的な変化
ということで、女性の意識改革、マネジメントを中心に、ダイバーシティ推進を10年間やってきましたが、とくに、アンケートを開始してからのこの4年間で定量的にどんな成果があったのかをお話しします。
まず、この4年間で共通するアンケート33項目のうち、よくなったもののベスト1は、「この会社ではダイバーシティ推進のための取り組みを積極的に行っている」という項目で、男女ともに非常に伸びています。やはり取り組みを継続していけば、「ダイバーシティを推進しているね」と従業員に伝わるのだということがわかります。
良くなった項目の第2位は、「役職志向」です。とくにこれは女性においてですね。男性はあまり変わりませんが、「私は将来管理職になっていきたい」と答える女性は今年初めて半数を超えました。
もちろん管理職になることだけが「活躍」ではありません。でも、素直に目指したい、という気持ちが高まっているのはとてもうれしいことで、社内の空気が少し変わってきます。彼女たちの意志がそこにもあるのだということを、育成する管理職にも伝えることができます。
第3位の伸び率は「両立」です。この会社は両立ができる。私の昔の感覚だとなかなかそう思えませんでしたが、このように回答している人が、まだ4割に満たないにしても、増えてきたということがあります。
一方、この4年で悪くなった項目も
しかし、残念ながら低下しているものもあります。この4年間、これだけダイバーシティに取り組んできたのに、悪くなっている項目というのもやはりあるんですね。
(スライドを指して)とくにこの左は女性全体で、右が女性管理職。マイナス幅のとくに大きいものが管理職に見られることがおわかりになるかと思います。
これはなんの項目かといいますと、1つ目が「私は期待されている成果をしっかり出せている」。2つ目が「私は職場の同僚と相互に助け合える関係がある」。これがやや低下してしまっている。
中身は人それぞれ異なると思いますが、要は彼女たちは自分の成果に自信を持てなくなっていることがわかります。全体の配分でいうとそんなに多くはないんですけれども、4年前の管理職より今の管理職のほうがその傾向が強い。
そして「孤独である」と。つまり、同僚と助け合える関係が少ないという人が増えている。実際にこれは外部機関の調査でも、男性管理職と女性管理職のストレス調査を行うと、女性管理職のほうがストレス度が高いという結果も昨年に出ております。
私たちの施策というのは、女性も活躍していくという意識改革や、スキル支援や、その意義を伝えることが多いので、女性管理職になったあとにさらに自信をもって成果を出していく、さらに仲間をつくっていくということにはまだまだ十分に応援できているわけではありません。この部分が1つ課題だなと思います。
これからのダイバーシティ推進
もしかしたら、女性の管理職が日本中で増えていく中で、同じような課題がいろいろな企業様のなかでも、すでに出ているかもしれませんし、今後もっと出てくる可能性もあるかと思いますので、このあたりを私たちもがんばって努力して解決していきたいと思っています。
そしてもう1つの課題は、「女性活躍以外のダイバーシティ推進も急務である」ということですね。
これは、さらなる女性活躍も含めて、「今、私たちはどんなテーマのダイバーシティ推進をすべきだと思うか?」という質問に従業員アンケートで回答してもらっているんですけれど、多いものが「働き方」「男性家事・育児」というところで。
やはり働き方の進化やワークライフバランスが、男女問わず求められているということにありますので、ここの課題感を持って、今、働き方変革にも着手しているということになります。
4年間の取り組みでわかった2つのポイント
もう1つ、「介護支援」へのニーズはどの程度あるのかを知るため、昨年度のアンケートで「実際に家族をこの5年以内に、自分が介護する可能性がある」という設問を新設し、初めて調査しました。
リクルートにおいては男女にほぼ差はない。男性のほうがやや高いくらいで、3割程度の社員がそう答えています。
もちろん年齢が上がれば上がるほどその切実さは増しますが。よく「リクルートは若い会社だから……」と言われますが、今後の介護に対する心配をしている社員が想定以上に多いことがわかりました。 とくに育児中の従業員においては「ダブルケア」の必要に迫られる可能性があります。
また、実際の事例として、親ごさんが祖父や祖母の介護をしていて、その親ごさんが倒れられるとか、なにかの事情で介護を継続できなくなるということで、社員が急に介護の問題に直面するといったケースが出てきています。
そうした点も含めて、介護や働き方をはじめとしたさまざまなテーマに向き合っていかなくてはと思っています。
これが、私たちリクルートグループの歩みです。よかったこともあれば、新たな課題が見つかったこともありますので、PDCAを回しながら改善を続けていきたいと思っています。
全体を通じて、私自身が大事だと思うことは2つあります。1つは、「ダイバーシティの推進をしていく目的はシンプルに何か。ゆえに、このKPIを設定している、もしくはこの指標を大事にしている。だからこの施策を実行するのだ」といったことをいろいろな角度から考え、対話し続けて、理解しあっていくということを厭わない、そこに手間を惜しまないということです。
2つ目は、管理職比率だけではない、多様な問題を見える化するファクトも丁寧に拾っていき、それを組み合わせたときに、なにが私たちにとっては成果であり、また課題なのかを見極め、集中した施策を打っていくことも大事だと思っています。
新たな取り組み「育ボスブートキャンプ」
最後に2つほどリクルートグループの取り組みをご紹介したいのですが、先ほど「1ヵ月に1回イベントとメルマガ発行を実施しています」とお話したのは、この「Be a Diver!」という取組みです。
とくに今はLGBTのテーマなどとても関心が高いので、実際に議論する場と、それを全従業員にきちんと伝えていくことをセットにしたプログラムを行っています。
もう1つは、管理職向けの新たな取り組みとして「育ボスブートキャンプ」という研修を事業会社のリクルートマーケティングパートナーズで始めたところです。
この「育ボスブートキャンプ」とはなにかといいますと、まさにブートキャンプなんですけれども。
子育て経験のない男性・女性管理職がペアになり、自分の直属の部下ではなく、ほかの部署のワーキングマザー従業員の家庭に4日間通い、そのワーキングマザーに代わって、<5時に退社→保育園のお迎え→買い物→子どもと一緒に帰宅→ご飯作り→お風呂にいれる→着替えをさせる→場合によっては、寝かしつける>という一連のプロセスを経験する、というプログラムです。
体験するだけではなく、事前にいろいろな講義を受けるなどして準備をし、最後は社長宛てに、「ダイバーシティマネジメントを今後どのように進化させるべきか」という提言をするのがゴールです。
たった4日間ですが、やってみるとぜんぜんわからなかった世界が見えてくる。例えば「5時に会社を出ても、こんなに忙しくてメール1本見ることができないのか」や、「これだけいろんな世界が広がっていて、それを彼女たちは見ているのだな」「夜の7時~8時に『電話がつながらない』とイライラしていたが、現状がわかった」など、リアルに感じることができるそうです。そして育児だけでなく、多様なメンバーの「個の尊重」に意識が向くようになるそうです。
体験だけが解ではないと思います。でも一方でリアリティというものの力もあって、そこから想像力が生まれていくようです。マネージャーたちの感想を聞くと、「知ることによって「0が1になる」ことの意味の大きさを感じているとのこと。
「自分の価値観にない生活とか他者の生き方というのはこういうことか」「自分のマネジメントは画一的だったかもしれない」という声が多い。1にシフトすると、1を1.5にしていくのは自分の想像力のなかでがんばれる、と。
ざっと駆け足になりましたが、リクルートの取り組みは以上になります。どうもありがとうございました。
(会場拍手)