女性活躍推進に潜む12個の落とし穴

大久保幸夫氏(以下、大久保):こんにちは。リクルートワークス研究所の大久保でございます。

今日は、みなさん、リクルートの女性活躍推進はどんなことをやっているのか、どんな試行錯誤をしているのか知りたいということで、おいでになっている方が多いと思うのですが、その前に前座として、私から別のお話をさせていただこうかと思います。

「女性活躍推進において企業が陥りがちな罠とは?」というタイトルをつけていますが、これはリクルートだけではなく、多くの企業の女性活躍推進についていろいろとご相談をいただいて一緒に考えたり、あるいは私自身がそれぞれ企業に伺って勉強会のような場に出たり、あるいは役員会でお話をするといった機会がございます。

そのなかで、いろいろお話をうかがっていて、「これは、おかしいのではないか」と思うことがよくあります。

「ダイバーシティ経営企業100選」という経済産業省の表彰制度があり、私はその審査員をやらせていただいている関係で、今まで600~700社ほどのダイバーシティに関する企業のレポートを読ませていただいていますが、それを見ていても、「う~ん、これちょっと違うのではないか」と思うことがよくあります。

それを思い出して書き出してみたら12個ありました。この12個について、最初に少しお話をさせていただきたいと思っております。

この罠の絵の横に1番~12番までマークをつけたのですが、順番にお話をしていきたいと思います。

本当の男女平等とはなにか?

1つ目は、「男女平等の罠」ということを書いてます。これはなにを言っているかというと、さまざまな会社の経営者の方と女性活躍推進のお話をするとよく出てくる話で、「いや、うちは昔から男性も女性もまったく平等で一緒なんだよ。女性だからといって差をつけるようなことはしないんだよ」ということを言われます。

一瞬、いい話のように聞こえますが、私はそうではないと思っています。というのは、日本の会社における働き方というのは、男性でとことん残業を厭わずに働く人たちを前提に作られたルールなんです。その分だけ男性の価値が上がっていってしまうんですけど。

ですので、まったく平等にやったら、育児と両立する女性にとっては圧倒的に不利なワークルールなのです。

そのため、昇進機会が当然少なくなってしまうわけです。もともとがフェアなルールではないという前提を忘れて、「いや、平等なんだ」と経営者が言っていると、これは前に進まない。

ですので対策として、やはり限られた時間のなかで成果を出すのだというふうに働き方改革をやらないと、女性活躍推進は絶対にうまくいかないと思います。ここで止まってほしくないというのが1つ目。

2つ目は、「ロールモデル探しの罠」です。女性活躍推進策を各社がとり始めた時に、みなさんが共通して“ロールモデル探し”というのを支援しました。

まだ社内に女性で活躍している人がさほど多くない状況のなかで、「自分のキャリアパスがなかなか見えない」という人たちのために、社内で自分の将来のモデルになるような人を探しましょうと、その出会いを演出するような施策をうった会社がたくさんあります。

これにも少し違和感をもっていまして。実際にやってみた企業の方はよくおわかりだと思いますが、実際には完璧なロールモデルなんていないんですよね。

注力して取り組むも、結局「この人みたいになりたいと思うロールモデルは見つからなかった……」という結果になってしまう。

これまで日本の企業では、女性のトップリーダーをつくるという意味ではまったく取り組みをしてきませんでした。女性が管理職に就くのが見られるようになったのは、男女雇用機会均等法施行以降です。

直近まで女性にとっては厳しい環境だったので、これまでに管理職や役員になった人は、道なき道を切り拓いてきた人たちです。

そういう方々のがんばりがあったからこそ今があるのですが、今の若い世代には「あの人みたいにはなりたくない」「そこまではできない」というふうに映ってしまいます。

だから、かえってロールモデル探しが「いや、私には無理」と思う気持ちを増幅させてしまう、そんな側面も少しあるのだと思います。

ただ、実際には男性だってロールモデルなんかいません。なので、もし「ロールモデルを……」というのであれば、たくさんの人たちのいいところを少しずつ真似するような形ならいいですが、ピッタリ当てはまる1人を探そうというのはとても無理があると思います。

育児時間の充実だけでは女性活躍につながらない

3つ目、「管理職になりたくないの罠」。これもいろんな会社から声が出ます。「肝心の女性本人が管理職になりたいと言わない」と聞きますが、これにも反論があります。

それは、そういうふうになることを会社や上司が期待してこなかったからですよと。人間誰でも期待されていない状況の中で、「私、管理職になりたいんです!」と進言し、引かれたくないと思いますから、いつの間にか管理職なんかなりたくないというように思い込んでしまうのだと思います。

入社した時から「あなたはいずれ管理職になってもらう人材なんですよ」と言っていれば、それなりの心の準備もできるわけですが、現実はそうではなかった。女性活躍推進法の施行などもあり、急に女性管理職比率の目標ができたから管理職になることを求められているだけの話だと受け止められると、やっぱりそこには気持ちがついてきませんよね。

ただ、もう1つ見ておかないといけないのは、実際に自分の同期の女性たちが次々と管理職になっていくようになったら変わると思います。自分と同期の女性が管理職になり、その人の下で働くというのは、やっぱりそんなに気持ちがいいものではないと思いますから。

まだそういう年齢に達していないがために「いや、私は管理職は……」というのはあるかもしれませんが、実際に管理職になれたら、これまで以上に自分がやりたいと思う大きな仕事に携われるチャンスが拡がるかもしれないし、収入も上がります。そもそも管理職にならずに会社に長く居続けていくのは、そんなに居心地のいいものではないことがわかるので、結果的にあとで志向が変わるケースが多いのです。

よって、これは会社や上司側が本人に期待をしていることを示せていないことが本来の問題です。入社段階からそのようなメッセージを発信することが大事なのではないかと私は思っています。

4番目は「抱っこし放題の罠」。女性活躍推進を政策テーマとして立ち上げるときに安倍総理が発言し、そのあとすぐに撤回したのがこの「抱っこし放題」です。

日本の女性活躍推進というのは、もともとは女性の活躍ではなく、少子化対策から始まっています。

これは2000年に入った頃の話ですから、活躍するかどうかではなく、出産後もちゃんと会社で働き続けられる。つまりそれは、当時の表現でいうと「出産コストを下げる」という意味でした。

そうすることによって出生率が改善するのではないかという仮説のもと、施策が取られ、育児休業や育児時間の充実が図られてきたわけです。

当時、「女性に優しい会社」と言われたところは、その施策をいち早く導入し、育児と両立しやすい環境を整えていきました。

ただ、そうした企業の施策が、果たして女性の活躍につながったかというと、疑問が残ります。会社の制度を使いながら在籍は続けていくけれども、いつの間にか「中心的に活躍する人ではない人たち」になってしまっている、ということもあったのではないかと思います。

各種調査やデータを見ると、女性が活躍してる国では、出産後なるべく早く仕事に復帰するのがスタンダードになっています。早く復帰するために会社が支援をするのです。時には金銭的な援助をすることも。

これが本来、女性が活躍するための企業がとるべき施策だと思っています。良かれと思ってできる限り長く仕事のブランクを空ける仕組みは、どうみても本人のキャリアを阻害している。この問題に陥っている会社がずいぶんあるのではないかと思います。

「女性ならではの感性」という言葉には意味がない

5番目、「女性ならではの感性の罠」。「ダイバーシティ経営企業100選」の審査をやっていると、レポートによく出てきます。「我が社では女性ならではの感性に期待をして……」と。

これを見た瞬間に、審査員全員「落とそう」って思うんですよね(笑)。これはマジックワードみたいなもので、「女性ならではの感性」という言葉には深い意味がありません。

例えば「女性だったら繊細で優しくて」というように、「女性」をひとくくりにして、なにかしらの先入観でその会社は考えているのだと思います。

実際にはひとくくりにできない、さまざまなタイプの女性がたくさんいるわけですよね。女性より繊細な男性だっていっぱいいるわけで。ですから、それは一人ひとりの違いであって、必ずしも男性・女性の違いではないということだと思うのです。

本当は一人ひとりの問題であるはずなのに、「女性」をくくってこのような表現をする会社は、まだやはり女性を活かせる状態になっていないのではないかと私は思います。

6番目、「スペシャリストの罠」と書いています。これはどうでしょうか? ある部署に異動した女性がその場所で活躍すると、ずっとその部署に置いてしまう傾向があります。それで、だんだんスペシャリスト化していくわけです。

どこかに「女性のキャリアはスペシャリストがいいのだ」という思い込みがあるんですよね。本人の趣向に関係なく、人事異動の頻度が平均的な男性よりも少なくなっている。

女性メンバーは、男性ばかりが人事異動していって、新しい若手の男性が異動してくると、教える係になってしまう。めんどうを見て、またその人が異動をすると、新しく来た人にまた仕事を教える、というサイクルを繰り返していくことになってしまう。 大きなポテンシャルを持っている優秀な女性が、1つの部署にキャリアを限定されてしまうということですね。そういう罠にはまっています。

これは統計的に見てもそうです。日本の上場企業を平均的にみたときに、男性のジョブローテーションの回数と女性のジョブローテーションの回数を比べると、女性のほうが圧倒的に少ない。それだけいろいろな経験を積む機会をいつの間にか会社が奪ってしまっています。これを「スペシャリストの罠」と私は呼んでいます。

7番目、「メンターの罠」。メンター施策というものを各社実施しているのではないかと思います。仕事を続けていくことに関して、それぞれ思い悩むこともある。そのよき相談相手、よき理解者になってくれるような人を、メンターとしてマッチングする。

リクルートワークス研究所が発行する『Works』という雑誌で女性活躍の特集を組んだことがありました。この記事をまとめるにあたり、ずいぶん海外の企業に取材に行っているのですが、共通してみなさんが言うのは、「メンターじゃない。大事のはスポンサーだ」と。

悩みを聞いてくれる人がほしいのではなくて、その女性の持っている潜在的な能力を評価して、「じゃあこの仕事を任せようじゃないか」と任用してくれる、その権限を持っている人が必要だというのです。

スポンサーは人事権といいますか、力がありますよね。そういう力を持っている人との出会いが女性のキャリアをつくっていくのだと、いろいろな会社から言われました。まさしくそのとおりだなと私も思っています。