「キャベツと米しかない」オフィスで事業をスタート

高橋ひでつう氏(以下、ひでつう):(ハヤカワさんを)見てると、選択と集中がすごいなと思うんですけど。そのへんのやること・やらないことは、自分のなかでどういう基準で決めてるんですか?

ハヤカワ五味氏(以下、ハヤカワ):やること・やらないこと……。やりたいことがまず第一にあって、それに全部の都合を合わせていくというか。

例えば、一番最初の頃とかは、自分の事業に全部お金をつぎ込みたいから、なるべく家賃払いたくないし、なるべく食費も払いたくないしという感じで、最初はオフィスに住んでたんですよ。あまりよくないんですけど。

オフィスに3人くらいで住み込んでて、ほかの2人に「住み込ませる代わりに食費を出せ」と言って(笑)、私は一切食費を出さないという感じでやってましたね。

そのあとも、どうしても家賃払いたくなくて彼氏の家に転がり込む暴挙に出て、いまだにそんな感じで人に寄生して生きてますね。

ひでつう:すごい恵まれてたわけじゃなくて、ゼロどころか逆にマイナスからスタートしたみたいな。

ハヤカワ:最初はキャベツと米しかないみたいなときもあって。

ひでつう:本当に?(笑)。

ハヤカワ:本当にお金なくて、取材があってもまず交通費が出せないという感じだったんですよ。なので「定期圏内でお願いします」みたいな。大学までの定期圏内だったら出られるので。

そういうレベルの時期が本当に去年(2015年)の前半くらいまであって、去年の夏くらいでやっと落ち着いて、1回収入がある程度安定してきたんですよ。

そうすると、私個人としての物欲が一気になくなって。意外にお金はいらなかったんだという、悟りの境地に入ってます。

世間のイメージは、デザイナーごっこのお嬢さま?

ひでつう:でも「CAMPFIRE」は(1人の出資額が)5万円で、3人とか5人とか。それだけでも40万ですからね。

ハヤカワ:いや、今考えるとすごいですよ。今やってもたぶん集まらないですね。やっぱり、駆け出しのときにやったのもすごいハマってたんだなと。

自分がめっちゃお金持ちの石油王だったとして、やっぱりグッとくるタイミングの人を応援したいじゃないですか。ある程度人気のある人よりも、今は泥水すすってるけど5年後のすごい有名人みたいな人を応援したくなるみたいなのもあったんで、今考えるとそういったものにもハマってたのかなと思います。

ひでつう:じゃあ、世間の人は「はいはい、ハヤカワ五味なんて、どうせお嬢さまでお金もらって、なんかデザイナーごっこして」(というイメージ)。でも、実はキャベツと米だけみたいな。

ハヤカワ:そうなんですよ。この「CAMPFIRE」のタイミングでそういうのをけっこう、Twitterでつぶやいてたのも大きくて。

ひでつう:なるほどね。

ハヤカワ:本当にAmazonのウィッシュリスト見ると「どん兵衛」しか食ってなくて。

ひでつう:(笑)。

ハヤカワ:「どん兵衛」おいしいので、私は「どん兵衛」派です。

ひでつう:関西の「どん兵衛」は味が違うんですよ。

ハヤカワ:あっ、そうなんですか?

ひでつう:知らなかった? 俺、いつも買って帰るの、薄口だもの。俺は関西のが好き。「どん兵衛」の話はいいんですけども(笑)。

胸が小さい人向けのランジェリーブランド「feast」の誕生

そういうタイツを売ったり、PRしたり、ファッションショーがあって。次のステップとして、ご自身がやってるブランドはいつ頃から、何を始めたんですか?

ハヤカワ:大学に入った直後に1個展示会をやって、それが5月末くらいに終わったんです。大学が始まった最初の1ヶ月くらいは死ぬほど忙しいじゃないですか。最初の頃はまじめに登校するし、課題とかやるし。

忙しかった時期プラス展示会がかぶってて、最初の時期はけっこう地獄というか。私はあんまり睡眠時間短かった自慢みたいなの嫌いなんでしたくないですけど。

ひでつう:ああ、『(地獄の)ミサワ』的な感じの?

ハヤカワ:もう、超嫌いなんですけど(笑)。本当に当時ぜんぜん寝れてないし、お金もなかったんで。とはいっても、実家にいたんですけど。

ずっとカップ麺食べてて、という環境でやりつつ。それでやっと5月末に終わったら、展示会がなくなった分、一気にヒマになっちゃって……。みんなも文化祭後とか、突然ヒマでどうしようという時期があると思うんですけど。

ひでつう:うちのゼミも11月のある時期を過ぎると、出席率がガクッと下がるというのに悩まされております。

ハヤカワ:それですね。喪失感があると思うんですけど。そのとき、私はいても立ってもいられなくて、なんか1つブランドを立ち上げようと思ったんですよ。

以前からいろんな人に「こういったのやったらいいと思うんですよね」というので出してたのが、胸が小さい人向けのランジェリーを作りたいと言ってて、そんなにきれいな言葉じゃなかったですけど。

「なんで貧乳向けのブラがないんだ!?」というのをいろんな人に言ってて、これを事業にしたいと思ってたんですよ。

でも、いろんな人から「そんなニッチな市場せめてもお金にならない」とか、「そんなの、やる価値がない」とおじさんたちにすごい言われて、「死ね!」と思って(笑)。言われると絶対にやりたくなっちゃうんで。展示会が終わった時期でやろうと立ち上げたのが、この「feast」というブランドです。

ブランドの名付け親は「エキサイト翻訳」?

ひでつう:ブランドの名前に込められたコンセプトをお聞きしてもいいですか? どういった感じにしたかったとか。

ハヤカワ:そうですね。まず「feast」という名前自体が、最初エキサイト翻訳で調べて出てきただけなんですけど。

ひでつう:(笑)。

ハヤカワ:「ぜいたく」とか「ごちそう」という意味で。

ひでつう:名付け親はエキサイト翻訳(笑)。

ハヤカワ:エキサイト翻訳で、「ぜいたく」で検索したらこれが出てきて。私自身、朝のモーニングに凝るのが好きで、朝に200〜300円くらい、ちょっと多めに出すだけで、すごい豪華な朝食がとれて、やたらその日1日元気だったりするじゃないですか。そういう感じが好きで。朝ご飯を食べるとか、朝に服を選ぶときは、すごい楽しいと思うんですよ。

でも、私は1つイヤな部分があって、朝の下着を選ぶタイミングがイヤでイヤでしかたなくて。イヤでも自分の体形のコンプレックスと向き合わされるじゃないですか。

なので、朝のぜいたくだったり、朝のごちそうという部分をプラスできたらいいなということで、「feast」というブランド名にしました。全体のイメージもけっこう朝っぽい感じだったり、パステル調が多いですね。

キャッチコピーは「シンデレラバスト」

ひでつう:なるほど。「feast」のキャッチコピーがあって、すごくいいなと思ったんですけど。

ハヤカワ:最初は、「シンデレラバスト」という言葉を作って、うちのブランドで胸が小さいことを「シンデレラバスト」と勝手に言い始めたら案外定着したという。

ひでつう:そうですよね、なんかいろいろありますよね。そのキャッチコピーが秀逸だと思ったんですけど。そういうブランド名に、さらにそういったキャッチコピーをつけるというのは。

うちのゼミだといかに自分のキャッチコピーをつけるかとか、結局「何をやる」じゃなくて、「誰がやる」というためにも、キャッチコピーの大事さを言ってるんですけど。「シンデレラバスト」という言葉はパッと思いついた感じなんですか?

ハヤカワ:けっこう私、Twitterで乱雑にツイートしまくってて。今はリア充なのであまりつぶやかないですけど。

ひでつう:(笑)。

ハヤカワ:当時は本当にすごい……1日に100(ツイート)とかたぶん、そういうレベルでつぶやいてましたね。

かなり病的につぶやいてたんですけど。そのときにたまたま「貧乳」という呼び方がイヤだから、(「貧」の字を)「品(しな)」という「品がある」の……。

ひでつう:はい、「品がある」の「品」ね。

ハヤカワ:(置き換えて「品乳」として)リッチにしたほうがいいんじゃないかとか。じゃあ、「シンデレラ靴」というから「シンデレラバスト」にしたほうがいいんじゃないかとか、ポンポン投稿してたんですよ。

そうしたら、たまたま「シンデレラバスト」というやつだけがなぜか評判がよくて、さらに評判がよかったやつを、知り合いのライターさんが勝手に記事のタイトルに使ったりとかし始めて、私のフォロワー界隈でやたら人気だったんですよ。だから、これは使ったほうがいいなと思って使ったというだけなんです。

ひでつう:すごくいいキャッチコピーですよね。

ブランドも肩書きも言ったもん勝ち

ハヤカワ:そうですね。でも、意外にあまり考えてない。とりあえず出してみて、評判がよかったやつを使うというのを最初はけっこう意識しましたね。

よく、ブランドを立ち上げるというのはたいそうなことだと思われがちなんですよ。「どうやってブランド立ち上げるんですか?」とか。でも、言ったもん勝ちなので、基本的にブランドを立ち上げるとか。

ひでつう:いい言葉、「言ったもん勝ち」。

ハヤカワ:私がブランドだと言い始めたら、私のブランドになり始める的な。

ひでつう:そうですよね。名刺にブランド名とデザイナーと書いたら、その瞬間にそうですもんね。

ハヤカワ:名刺にアーティストと書いたらアーティストなので。なんかそういうのがあるなと思って。私も最初にブランドを立ち上げたときというのは、Twitterで画像を2〜3枚投稿して、ブランド名と説明を載せただけなんです。

ひでつう:えっ、それだけなんですか!?

ハヤカワ:それだけです。

ひでつう:それで宣言したわけですね。

ハヤカワ:「立ち上げます!」と宣言して、私のなかでブランドが立ち上がって、たまたまそのツイートが1万5000リツイートとか、もうちょっとくらいいって、そこで一気にいろんな人に認知してもらうことになったんですよね。

ひでつう:今はもう、Twitterのフォロワー数が2万3,000とかありますけども。

ハヤカワ:そうですね。当時はすごく少なかったんですよ。

ひでつう:始めにお金をかけてやったのではなくて、さっきの「ライブハウス借りました!」じゃないですけど、まずDoがあって、とりあえず宣言しちゃったら引っ込みつかないじゃないですか。

でもTwitterでそういう貧乳のブランドをやるとか言っても、やらなかったら「なんだよ、ハヤカワ五味、口だけじゃん」となっちゃうわけでしょ? それで自分を追い込むのが好きなんですよね?

ハヤカワ:そうですね。自分を追い込むのもそうだし、とりあえず出すだけ出してみて、あまりにも評判悪かったら消してなかったことにします(笑)。

ひでつう:(笑)。

火付け役はTwitterのフォロワー300人

ハヤカワ:私も「こういうの、いいんじゃないかな?」というのは、わりとSNSとか友達とかと共有するようにしてて。

そのなかで、誰かしらに引っ掛かってくれるものだったり、もしくは自分のなかでどうしても引っ掛かるみたいな。どうしてもやりたいと思うものだけ、商品化するようにしてます。

ひでつう:なるほど。

ハヤカワ:不安だったらとりあえず世のなかに出して反応を見るというのを。それこそ私、当時フォロワー300人くらいなんですけど。300人は本当に少ないですよね?

ひでつう:えっ! 本当に? 少ないですよね。

ハヤカワ:まぁ、それくらいだったので。それくらいでも反応はくるときはくるので、けっこうラフに出してもいいんじゃないかなと思います。

ひでつう:じゃあ、ネットの言葉でアジャイル思考で、まずとりあえず出してみて、反応を見ながら開発をしていくとか。

Facebookとかも別にテスト環境なしでどんどん公開して、反応よくなかったら下げちゃうし、よければ上げていくみたいな。ブランドだけど、すごいネット的というか。

ハヤカワ:けっこうネット的ですね。商品とかも実際に5パターンとか出して、「これは人気だったから、これの系統で出してみよう」とか、「これはたぶん、ここが評判だったんだな、これをもっと活かしていこう」という感じで考えたりするんで。いわゆるネットのA/Bテストじゃないですけど、そんな感じにも近いのかなと思います。