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スペシャル対談 樹林伸×玉乃淳(全2記事)

「7つの名を持つ原作者」樹林伸が語る“モノ書き”として生きる決意

サッカー解説者の玉乃淳がスポーツ・ビジネス界の第一線で活躍するキーマンの半生をたどる「スペシャル対談」。今回は、漫画原作者、小説家、脚本家・樹林伸氏のインタビューを紹介します。※このログはTAMAJUN Journalの記事を転載したものに、ログミー編集部で見出し等を追加して作成しています。

『神の雫』の名シーンは遊びから生まれた

玉乃淳氏(以下、玉乃):樹林さん、まさか取材を承諾いただけるとは思ってもいませんでした。多くの連載に加え、樹林さんが脚本を手掛けられるテレビドラマ(石川五右衛門)も今年10月からスタートしますし。

「超」ご多忙のなか、本当にありがとうございます。空気を読まずに生きてきて良かったです。遂にここまで辿り着きました(笑)。

樹林伸氏(以下、樹林):ホント忙しいよぉ(笑)。

玉乃:すみません(笑)。ですが今、僕の頭は『神の雫』一色です。日常で何かありがたいことがあるたびに、「これは神の雫や!」と言うのが口癖になっています(笑)。それで早速質問攻めしたいのですが、よろしいですか?

樹林:もちろん。

玉乃:あの飲んだあとの「一言感想」(登場人物がワインを口にした後にさまざまな比喩を用いて独特な言葉で表現する)って、全部ご自身で考えられているんですか?

樹林:あれね……最初は遊びでやっていたの。ふだんワインを口にしながら「あれじゃない!!」とかやっていたの。ずいぶん前から姉貴とやっていたんだよね。夜中にね、仕事中「うわぁ……これは!」とか言って。

それで……こんなことやっているんだったら、「これ漫画でできんじゃね!?」みたいな話になったのよ。オレたち、モノづくりの人間じゃない。だからドラマのシーンやいろんな光景なんかを思い浮かべながらこの遊びをやっていたんだよね。

「湖のような」とか「泉のような」とか、ポンポンポンって。そうするとね、思い出しやすいわけ、後々ね。イメージを表現しておくと、記憶にとどめやすいんだよね。

あのときのあのワインって、あんな味わいだったな、だからこんな表現したんだなって。表現から記憶をたどっていけるので、便利でこの遊びやっていたの。

玉乃:遊びですか……うーん、凡人の僕にはその感覚がわからないのですが。元カノの香水と同じ匂いの女の子とすれ違ったら、楽しかった日々の思い出が走馬灯のように……そんな原理ですかね? いつ頃からそのようなことを?

所有するワインは3,000本

樹林:講談社を辞めた直後くらいからかな。1999年に辞めたんだけれど、その頃にはけっこうワインにはまっていてね。

あるときスゴい出会いがあって、DRC(Domaine de la Romanee-Conti頭文字をとったもの=「ロマネコンティ」で有名な生産者の名前)を飲んだときに、「わっ、これはちょっとすごいな!」と。

姉貴も一緒に飲んでいたんだけれど、「これ、只者じゃないよね?」って。そこからコレクションが始まったのよ。ドはまりしていっちゃったんだよね。ちょうどこの頃だね、その表現云々っていうのを始めたのは。

今は全部で3,000本くらいかな。どんどん買っていたら冷蔵庫に入らなくなっちゃったのよ。「じゃあ部屋借りよう!」となり、ワインのために部屋を借りて、今はこの家に集約している。

玉乃:すごっ!(笑)。あとでぜひ見せて下さい。僕のウチより大きそうなワインの部屋(笑)。

(対談後、拝見させていただきました。)

(部屋に入った瞬間、そこには数えきれない数のワインが。)

(樹林さん渾身のコレクションだけあって、どれも高級感が漂っています。)

(これにはワイン勉強中の僕も、思わずニッコリ。)

少年時代から尽きない興味の源泉

玉乃:ところで、樹林さんの作品の中で、趣味が高じて作品になったのは『神の雫』だけですか?

樹林:ぐらいじゃないかな? うん、好きなものから始めるのは当然なんだけれどね。サッカーものも当然好きだったから始めたわけで、ミステリーもそう。好きだったから始めた、でも「趣味」っていうには微妙でしょ。ミステリーに関しては、いわゆるマニアではなかったしね。

もちろん好きで本を読んではいたけれども、深く掘り下げていくタイプではなかったよね。ミステリーに関しては今でもそうかな。ミステリーマニアではない。

玉乃:にもかかわらず、ああいうトリックや完全犯罪をつくってしまうのはなぜでしょうか? 生まれつき樹林さんが特殊能力を持つサイコメトラーなのか、あるいは、何か人とは違うある種の「屈折した経験」でもお持ちなのか?

樹林:子供の頃から、興味の対象がものすごく広かったからかな。例えば、音楽をやっていたんだけれど、音楽って自分で手掛けていくとけっこう掘っていってしまうもので、いろんなジャンルを聞いて、いろんな楽器をやり始めて、しまいには作曲や作詞まで。

最初ギターを弾いていたんだけれど、ベースもやって、いろいろと取り入れて広げていっちゃうタイプなの、オレ。広げながら掘っていくという感じかな。

だからミステリーもいろんなジャンルの情報を新聞やらテレビから取り入れてね、当時から……インターネットなんかない時代だよ。そのときから、それをやっていくなかで、気がついたらああいうかたちになっていた。

玉乃:幼少時代から趣味が広かったのですね。それには何か理由がありますかね?

樹林:親が放任主義だったんだよね。勉強しろなんてぜんぜん言わなかった。オレが宿題やっているかどうかなんてぜんぜん興味ないみたいな。

実際、そんなわけで、勉強はあんまりやらなかったから、家でも外でも自分のやりたいことだけをやっていたんだよ。親父はメーカー系の2代目の経営者で遊び人(笑)。母親は家でテレビばっかり見ているみたいな家庭。

でも、昔からよく人が家を出入りしていてさ。客人がみえていてもお構いなしで自分の趣味に没頭していたね。漫画読んだり、いきなりヌンチャク作ってみたりとか(笑)。

玉乃:勉強はからっきしダメでも、「好き」が高じてある能力が突出したみたいな感じですかね? 

樹林:そんなことないよ。勉強はできた。とにかく本を読むことが好きだったから。テストなんて読んだことをそのまま書けばマルもらえるじゃない? 図鑑だって楽しくて、読めば理科はできるじゃない。

そんな感じで、勉強している感覚は一切なかったけれど、中学行ってもテストの点数はよくて、「あれ、オレけっこう勉強できるんじゃね!?」みたいな。おもしろい授業は黙って聞くわけよ。それ以外はやっぱり寝ちゃうけれど(笑)。

小学校のときは画家になりたいと思っていて、高校生のときはミュージシャンになりたいと思っていたんだよ。でもミュージシャンって本当にすごい人でもぜんぜん食えてないってことを知ってしまって、これはオレでも無理だなと思って、急遽大学受験。浪人して。

モノ書きとしての人生のスタート

玉乃:好きなことだけやってきた少年が初めて現実に直面したわけですね。天才街道まっしぐらの人生かと思いきや、意外と堅実ですね(笑)。

樹林:いや、てかオレぜんぜん天才じゃないし。ただやりたいことを楽しく一生懸命やってただけで。それで、大学卒業して講談社に入社。それから12年勤務。本当は5年くらいで辞めようと思っていたんだけれどね。自分でモノを書く仕事をフリーでやりたいと思っていたから。

大学時代は遊んでばっかりだった。それで遊びの延長の仕事はないかなと思って、就職活動はマスコミとかミーハーなところばかり受けて……ことごとく落ちた。

それで、「これもう留年するしかないな」と思って、面接の帰りに御茶ノ水駅で立ち読みしていたんだよね、「面接クソっ!」とか言いながら。

子供の頃から本屋で立ち読みするのは日常だったけれど、その日も1冊立ち読みした。栗本薫さんの推理小説『僕らの時代』という本をね。

おもしろいなと思って読み終わって、本を閉じたら背表紙に「江戸川乱歩賞募集」って書いてあるじゃない。それを見て、「あ、小説書こう!」って思って家路についたのよ。留年するつもりだったし、やることないからね。

帰宅すると母親がいてね。「おかえりぃ」って。「私、正式に留年することにいたしました。」って報告するじゃない。「今日からオレ小説書きます」って続けたら、母親が吹き出して……爆笑だよ。「ブ、ファファファ…好きにしなさい」みたいな(笑)。「人間、なんとか生きていけるものよ」って。

玉乃:お母さまが放任主義でなかったら、『神の雫』も誕生していなかったのですね。危ねぇ(笑)。

樹林:ははは。で、ゴミみたいな小説を書き始めた。でもね、書き始めると、次第に書くことがおもしろくなっていって、なんだかんだ手書きで原稿用紙380枚……それくらい書いたかな。

もう書き終わる頃には「オレ、絶対モノ書きになる!」と思っていたよ。書いていると、自分がたいしたことないのはわかってくるんだけれどね。

でも、やればできる気もしていた。フリーライターをやっていた姉貴に「なんか書く仕事ない?」って聞いたら、「アルバイトあるよ」って。某出版社で専属のライターを探していた。そこから「モノ書き」としての人生が始まったんだよね。

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