不思議な現象“金縛り”

ハンク・グリーン氏:居眠りをしているとしましょう。そう、例えば授業の合間に、例えば夜更かしの後で。もしくは、48時間ぶっ通しでチャリティーのお金を稼ぐためにYouTubeで放送し続けた後で。

では、目覚めた時に身動きが取れない状態になっていると想像してみてください。声を出そうとしますが、出せないのです。意識ははっきりしていて自分の身になにが起っているのかは把握出来ているのに、体の自由が利かないのです。

たった数秒、数分のことです。1時間以上もそんな状態が続くことはめったにありません。これは“金縛り”と呼ばれる現象です。

40パーセント以上もの人がなんらかの時期にこの睡眠障害を経験するのですから、もはやどんなものかなんて考えるまでもないでしょう。私もその1人です。

夢の世界にまで影響を及ぼすような嫌なことは考えたくないものです。眠りを妨げるこの手の睡眠障害は実に厄介です。

来たか、不眠症め!

これまでこのショーでは眠りの科学について何度もお話してきました。

なぜ眠らなくてはいけないのか、なぜ夢を見るのか、そして、夢はどこからやって来るのかと言うことなど。

眠りが私たちに歯向かって来る時に起こっていることを説明するには、まったく違う角度からヒト生物学というものを捉えなくてはなりません!

私たちは脳のスイッチを切ることは出来ません。息ができなくなりますからね!

私たちは時として夢遊状態に陥ることがあります。眠っている間に歩き、物を食べ、走り、会話すらする人もいます。

脳が半分眠っている世界、というのはとんでもない世界です。真実を知ってしまったら、おちおち目を閉じれなくなるかもしれませんよ。

不眠症に陥る原因は?

多くの場合、安眠を妨害する症状として私たちが真っ先に思い浮かべるのは不眠症でしょう。しかし、たかが不眠症なのだから、診断し、治療すればいい、と、気軽に考えられるほど、この症状は単純なものではありません。

長い間、不眠症は落ち込みや不安、ぜんそくやストレス、物質乱用、外傷性疾患、はては時差ぼけからくるものだと、多くの科学者が考えていました。

今日、不眠症はほかの医学的状況と作用しあっている慢性疾患だと考えられています。

あなたが長期にわたって眠れない、または眠り続けてしまうといった問題を抱えているのに、とくにほかの健康上の問題は見られないのだとしたら、原発性不眠症だとの診断が下されるでしょう。

もし、肉体的、もしくは心理的な影響を少なからず受けての不眠だとしたら、それは一過性不眠症という症状なのです。

ほとんどの場合、一過性不眠症は1ヵ月以上も慢性的に続きます。

また、急性の不眠症や短期間の不眠症も存在します。大抵、ストレスや、人生における大きな出来事が引き金となって起こされるものです。

科学者によれば、どの程度の症状であれ、不眠症は覚醒と眠気のせめぎ合いの結果として引き起こされるのだとか。

さらに深く掘り下げた研究結果によると、神経系が過敏な状態を継続し続ける、過覚醒として知られている状態が原発性不眠症の主な原因になるそうです。

過覚醒はあなたの体が起こしている逃走反応が長期にわたって起こっている状態に基づいて起こります。ストレスのたがが外れ、心拍数や呼吸数を上げてしまう経験は誰もがしているでしょう。ほとんどの場合、それは一過性のものでしかなく、すぐに体は元の状態に戻るものです。が、不眠症の人の場合、その症状が夜になっても収まらず、おわかりでしょう、体が休まらないのです。

心臓麻痺と脳卒中を引き起こす睡眠時無呼吸症候群

さて、居眠りをしてしまった時に起こってしまうと恐ろしい症状とはなんでしょうか?

睡眠時無呼吸症候群は恐ろしい睡眠障害の1つです。眠っている間に呼吸を妨げられるのですから。

Apnea(無呼吸)といいう言葉は、ギリシャ語の「呼吸がしたい」という言葉に由来しています。この症状を持つ人は、夜ごとに1回や2回はこの症状が出るとされ、ひどくなると1時間に100回以上も繰り返されるのだとか。

1,200万人以上ものアメリカ人がこの症状に悩まされているのですから、決して人ごとではありませんよね。

真の睡眠時無呼吸症候群の恐ろしさは、心臓麻痺と脳卒中を引き起こしてしまうことです。また、糖尿病にもつながっていきます。厄介なことに、睡眠時無呼吸症候群の自覚がある人はあまりいません。

もっともなじみのある閉塞型睡眠時無呼吸は、舌の基となる筋肉と口蓋垂(喉の奥に見える垂れ下がっている肉片)の落ち込みによって起こります。

これらが空気孔を部分的に塞いでいるだけだとしたら、空気はなんとか外に出ようとするのでいびきが出るにとどまるでしょうが、空気孔が完全に塞がれてしまうと無呼吸の症状が起きてしまうのです。

無呼吸の症状が出ると、血液中の酸素濃度が急激に低下し、呼吸が止まっていることを脳に伝え、大急ぎで空気孔を開こうとします。

しかし、これらの伝達は呼吸が停止している数分感のうち、わずか数秒単位で行われている上に、当人は眠っているままの状態で行われます。快適な眠りをもたらしてくれるとは言えないことは言うまでもないでしょう。

無呼吸症に対するありとあらゆる治療法は存在しますが、ほとんどの人はCPAPとも呼ばれる、持続的陽圧気道治療装置の使用は断念してしまいます。これには鼻と口をすっぽり覆うマスクが付いていて、喉に空気を送り込み、気道を確保するのですが、その音は眠るのには快適とは言えないのです。

中枢性睡眠時無呼吸と呼ばれる無呼吸症は、とてもまれな症状です。この症状は、身体が呼吸を妨げてしまう無呼吸症ではなく、脳が体に呼吸するように送っている信号が妨げられることによる症状です。

最近になるまで、この無呼吸症に対する効果的な治療法はほとんど確立されてはいませんでした。しかし、現在、眠っている間に横隔膜を電子インパルスを送ることで刺激し、息ができるようにしたペースメーカーのような装置を使った試験が行われています。

呼吸を忘れるというのは大変なことなのですね。

子供によく起こる夢遊病

しかし、睡眠障害のなかで危険な症状として挙げられるのは夢中歩行の症状でしょう。

全体としてはそんなに多くの数値ではありませんが、15パーセントの人にこの症状が現れています。3~7歳の子供に現れる症状としてよく知られているものです。

夢中歩行は夢遊病として知られ、ほとんどいつも夜の3分の1程度の間、この症状が現れます。

その期間は、私たちがノンレム睡眠と呼んでいる、睡眠覚醒周期の一定時間で、通常は遅い脳波によってもたらされた深い眠りの時間です。

脳が眠っていると認識している間に、人が歩き回ったり、食事をしたり、走ったり、時には会話すらするという症状を引き起こす原因についての見解は一致しているわけではなく、いくつかの理論が挙げられています。

ある科学者の見解によると、夢遊病は脳が眠りの新たな段階を見つけ出そうとしていることによるものなのだとか。深いノンレム睡眠からすぐに完全な覚醒状態にしてしまうと言うのです。

また別の科学者は、脳の運動系に少しづつ排出される化学的な伝達物質として体内に存在する、ギャバとして知られている物質についての指摘をしています。

子供はギャバを放出する神経細胞が未発達です。運動系を制御する脳の伝達網が整備されていない幼い脳にとって、眠っている体に動き回るように指令を出すことは難しいものではないのです。

とんでもない話ですね! 子供たちが起きている間にどれだけ動き回っていることか!?

時として、夢中歩行は外的要因によるものである場合があります。そういった場合は、断眠療法やストレス療法、薬の服用などの処置を施すことで症状を制御することができます。しかしながら、要因が関係なく、遺伝的に夢中歩行を引き起こしてしまう人が存在することも突き止められています。

4世代にわたって夢中歩行の症状が見られる家族には、第20染色体が欠陥であるという形跡があることがわかっています。

両親のどちらかがこの形跡を持っていると、50パーセントの確率で子供に遺伝するのだそうです。

金縛りの原因は一体なにか?

私が時々経験する金縛りには当てはまりませんけどね。金縛りはよくあることだというのはわかってはいますが、結構気味が悪いもので、ちょっと恐ろしくもあるものです。

それにしても、なぜこんなことが起こるのでしょうか。なぜわざわざ私自身の脳と体が私を朝一にギョっとさせるようなことをしでかすのでしょうか?

時として、金縛りは過剰に我慢できない眠気が襲ってくる睡眠発作(ナルコレプシー)の徴候として現れます。しかし、睡眠発作を伴わない私のような者にも、定期的に金縛りが引き起こされる場合があります。

意識はあるのに動けないという気持ちの悪い感じはが起きるのは、大抵眠っている間です。しかし、起きている間に起きることもあります。横になってすぐに、最初に入るはずのノンレム睡眠を迂回してレム睡眠に入ってしまうことが主な原因らしいのです。

レム睡眠は一番鮮明な夢を見させる、終わりの方の眠りを牛耳っているものと決まっているものです。例えこの深い睡眠中に宇宙をユニコーンで乗り回しているようなイカレた体験を夢の中でしたとしても、それにいちいち反応しなくていもいいように、あなたの筋肉はレム睡眠中は麻痺させられているのです。

金縛りは、ちょうど深い眠りの最中、体の筋肉が麻痺させられている時にあなたが目を覚ましてしまうことによって起きるものなのです。「体が動かない!」と。

最近の研究で、夢遊歩行と金縛りに影響するのは同じ神経伝達物質だということがわかっています。トロント大学の科学者はギャバとグリシンが脳細胞を機能停止させ、レム睡眠中も筋肉の動きを活発化させることを、ネズミによる実験で発見したのです。

深刻な金縛りの被害者は、恐ろしい、奇怪な幻覚体験さえします。つまり、なにかが見えたり、なにかが聞こえたりするのです。影が見えたり、なにかの足音や声が聞こえたり、など。また、人や動物のような形が見えることもあるのです。時には胸に圧迫感を覚え、息苦しくなることすら。

科学者はこの現象を「目覚めながら夢見る状態」だとしています。私は「寝ながら夢見る」方を歓迎したいですけどね!

今日の夜、寝るのが嫌になってしまったでしょうか? そうじゃないといいですけど。