集中のためのルーティン

佐渡島庸平氏(以下、佐渡島):佐渡島:ほかにもリラックス法ある? 集中は息をいっぱい吸う以外に、どうすればいい?

石川善樹氏(以下、石川):吸ったりとか、あとは集中のためのルーティンを持つというのも、すごく大事で。

佐渡島:それは重要だよね。

石川:いろいろ考えて、イチローとか五郎丸とかって、集中する前にルーティンがあるじゃないですか。打席に立つために。じゃあ、僕らにとっての打席はなにかというと、パソコンの前に座るときなんだよね。

「パソコンの前に座るときに、ルーティンを自分は持っているか?」と考えたのね。戦いの場に行くときに、あまりにも無防備に向かっていると(笑)。

(会場笑)

石川:で、やっぱりルーティンは持ったほうがいいなと思って、いろいろ考えて。これは人それぞれ違うと思うんですけども、パソコンの前に座るときに一連のルーティンを持って作業に入るっていう。

じゃないと、とりあえずFacebook開くとか、とりあえずメール開くみたいな、そんなことになっちゃうんですよね。

佐渡島:うん。

石川:まあ、それは否定はしないんですけども、集中したいんであれば、パソコンの前に座るときのルーティンを持つとか。

佐渡島:心が疲れているときはリラックスするようにして。あとは、脳はどうすればいい?

石川:脳は、やっぱり食事と睡眠かな。「こういうもの食ったほうがいいっすよ」とか。

油と糖を避け、血糖値を安定させる

佐渡島:それは会社でアドバイスするの?

石川:会社で。まあ、けっこう個人個人でアドバイスするかな。結局、血糖値を安定するためには、油と糖をなるべく避けたほうがいいんですよね。油と糖って中毒性があるから。すごくもっともっと欲しくなる。だから、油と糖にまみれた味覚を、いかにヘルシーなものに変えていけるのか。

佐渡島:けっこう難しいよね。

石川:会社のほうが簡単かな。会社で働いている人って、日常食っているものがほぼ一緒なんですよ。

佐渡島:おんなじ会社の人はってこと?

石川:そうそう。近くのコンビニでこれを買ったりとか。

佐渡島:なるほどね。

石川:けっこう偏っているから。というか、同じものを繰り返し買っていることが多いから。

佐渡島:それを意外に意識できてないよね。

石川:支援はすごくしやすい。コンビニで350円で昼飯使っているんだったら、「おにぎり2個と野菜ジュースみたいなんじゃなくて、こっちのほうがいいですよ」とか。

佐渡島:ふーん。そんなの資料を会社にわざわざ出してもらって、アドバイスしてるの?

石川:やるやる。

佐渡島:へぇー。

石川:ディテールを知るとおもしろいからね、こっちも(笑)。

(会場笑)

佐渡島:それ、会社ごとに違うもんなの?

石川:けっこう違う。

佐渡島:会社の文化あるんだ、そういうところにも。

石川:あるある。

佐渡島:おもしろい。そういう意味で言うと、ほぼ日はしっかり給食出たりとか、いいよね。

石川:そうそう。あれすごくいいと思う。

クリエイティビティを上げるトレーニング

佐渡島:ほかにどういうところを見てるの?

石川:基本的には、体と心と脳の疲れを見て、とくになければ、マイナスをゼロにするというよりも、ゼロをもっとプラスにするためにどうしたらいいかとか。例えば、クリエイティビティというものを上げたいというときには、どうしたらいいんだろうとか。

佐渡島:例えばどうすればいいの?

石川:クリエイティビティを上げる研究があって。クリエイティビティが脳内で起こっているときになにが起こっているのか、という研究があるんだけど。

佐渡島:うん。

石川:昔は、「ポジティブな感情を持ったときはクリエイティブになって、ネガティブな感情を持つと物事に集中できる」と、ザックリ言われていたんです。だから、どっちも必要だよねっていう。

最近の研究でわかったのは、「クリエイティビティが生まれるときって、脳はポジティブ感情とネガティブ感情をかなり行ったり来たりしている」ということがわかったんです。

だから、「そういう感情というものを、自分のなかで自在にコントロールうまくできるということが、実はクリエイティビティの源泉だ」ということが、脳科学の研究でわかってきたことなんです。

だから、最初のほうの話に戻るんだけど、自分の感情をどうコントロールするかという。感情をいろんな喜怒哀楽のほうに解放するという、そういうトレーニングというか。

佐渡島:でも、例えば、「今年始まって、いくつ感情経験したかな?」とかね、考える癖ってないよね。

石川:ないと思う。それをやる必要があるなと思ったのが、イチローの……、イチローから学んだんだよ、それ。

佐渡島:直にじゃないよね、それは?(笑)

石川:そうそう。イチローのことを書いた本から学んだ(笑)。

(会場笑)

佐渡島:さっきから、なにが直にで、なにが本かがわからない(笑)。それで?

イチローはロッカールームでなにを考えているのか?

石川:イチローはいろいろルーティンが多い人ということで有名なんですけども、「彼はどうやってあれをつくるようになったのか?」という本があって。確か『イチローの流儀』とかそんな本だったと思うんですけど、めっちゃおもしろいんですよ。

それのなかでも一番おもしろいのが、「試合後のイチローは、ロッカールームでなにを考えているのか?」というのがあるんですよね。

佐渡島:うん。いい話だ、それ。

石川:ロッカールームで、まあ、記者たちがいっぱいいるんですよ。その人たちに普通はやりとりするんだけども、イチローだけは30分間、記者たちから背を向けて反省しているっていうか、振り返っているらしいんですね。

佐渡島:自分の1日の試合をね?

石川:そうそう。普通の選手は「今日はあのプレーよかったな」とか、「あそこ、ミスったな」みたいな、そういう試合の振り返りをするんですよ。イチローはどこから振り返るかというと、「昨日、何時に寝たっけな?」というところから振り返るんだって。

佐渡島:すごいね。

石川:昨日、何時に寝たから、どう起きてこう来たかっていうのを、それを行動だけじゃなくて、思考とか感情も含めていろいろ振り返る。そのなかでだんだん自分を最適化していって。

途中では、ルーティンでがんじがらめになっていたときもあったんだって。これをして、これをして、これをしてって。「これは逆に自分を苦しめるから外そう」とかして、けっこう柔軟になってきているっていう、今は。

家を出る時間と会場に着く時間というのはなんとなく決まっているんだけど、途中、どう行くかというのはすごく流動性持たせるみたいな。

佐渡島:なるほどね。

石川:そういうのを見て、「自分の思考とか感情、行動っていうのを、毎日毎日そうやって振り返るっていうことが、自分の継続的な成長につながるんだな」というのは、『イチローの流儀』で学んだね。

佐渡島:なるほどね。本を読んだ感想をもっともらしく話したね(笑)。

(会場爆笑)

石川:そうそう。読者の感想(笑)。「すごいっすね」みたいな。

佐渡島:誰もが到達できない論文とかじゃなくて、普通にベストセラーのなかの一部分を、今紹介したよね(笑)。

石川:ご紹介しました(笑)。

(会場笑)

イチローはきっと感情を振り返っている

佐渡島:すごくしっかり聞いちゃったけど(笑)。

石川:本ってすごいよね。そういう意味で言うと。だいたい、答えが書いてあるんですよ(笑)。

佐渡島:まあ、いろんな人のそういう考えが書いてあっても、意外とみんな、たくさんの種類を読んでないしね。

石川:それは、僕が「ルーティンってどうつくるんだろう?」という、そういう疑問を持ちながら読んでいるから、そこがパーンと入ってきたんだと思う。

佐渡島:イチローのルーティンは有名だしね。

石川:そういう意味では、今の話、僕がちょっとつくっているところもあって。

佐渡島:足している? わかりやすく?

石川:イチローは振り返るときに、「昨日、どう寝たっけな?」ところから振り返るということしか書いてないのね。でも、俺はきっとそのときに、感情とか思考とか行動を全部含めて振り返っているんだろうなっていうのを、ここは俺の決めつけ。

佐渡島:補っているところなんだ。でも、それ正しそうだよね。

石川:たぶん、絶対正しいと思う。だから、対談したいリストのなかにイチローも常に入っていて。

(会場笑)

佐渡島:なるほどね。

石川:「感情も振り返っていませんか?」というのを言いたいのね(笑)。

佐渡島:でも、スポーツ選手はいろんな感情を振り返ったりとかは、すごく重要な気がするなあ。

おっさんになるのは素敵

石川:スポーツ選手ってあるレベルまでいくと、知識とか技術とかはほぼ同じになってくるので、最後はメンタルの勝負になってくると思うんですね。

佐渡島:そうだよね。そういうときにさ、過去の記憶ってどれくらい持っておくといいんだろうね?

石川:どうなんだろうね。

佐渡島:最近、僕自身が今の考え方にすっごく集中するようになると、昔のことほとんど覚えてないんだよね。

石川:ああ、それはわかるなあ。

佐渡島:すっごく思い出すのに苦労して、結局思い出せないときもあるみたいな感じなんだけど。

石川:どうなんだろうね。だから、「最近、ほんとに忘れっぽくなったな」というのは思うよね(笑)。

佐渡島:これ、僕ら、老人っつうか、中年の会話じゃん、普通に(笑)。

(会場笑)

佐渡島:もっと脳科学的にさあ、何歳がどうとかそういう話が聞きたくてさ(笑)。飲み屋で同級生が集まるときの会話になっているよね(笑)。

石川:「そうやねえ」みたいな(笑)。

佐渡島:ほんと、忘れっぽいんだよね(笑)。

石川:「いやー、おっさんになるとこういう会話するんだな」と思ったのが、僕、こないだルノアールというカフェに行ってですね。隣でおっさん同士がしゃべっていて、「Amazonがすごい」という話をしていたんですね。

佐渡島:うん(笑)。

石川:「Amazonは大したもんだ」と。

(会場笑)

石川:「注文したら、翌日来るんだぜ」とか。「恐るべしだよ、Amazon!」という感じで(笑)。

(会場笑)

石川:おっさんがすごい勢いでしているんですよ。「恐るべし、Amazon!」と言って。「なんだよ」と思いながらも、「おっさんになるって素敵だな」と思って(笑)。

(会場笑)

佐渡島:それ、オチ、ないんでしょ、絶対(笑)。

石川:ぜんぜんない(笑)。「恐るべしだよ、Amazon!」というその言葉だけが、もうすごく言いたかったんですよ!

(会場笑)

「知りたい」という欲求を高めるプロセス

佐渡島:そろそろ、あと10分だから。

石川:もう、あと10分?

佐渡島:さっき「石川さんは論文とかを読むときに、なにか気をつけていることとか、工夫はありますか?」という質問があったよ。

石川:読む前に、「自分がなにを知りたいのか?」というのを、知りたい欲求を自分のなかでめちゃくちゃ高めるということをするんですよ。だから、「容易には調べないぞ!」という。

佐渡島:さっきのイチローのやつも、「自分はこれを知りたい」、「ルーティンについて知りたい」と思って読んでいるから、そこがビビッときたとかっていうのでさ、本を読んだりとか論文を見たりするときに、前もって「自分がこのことを知りたいんだ」と思っておくって、すごく重要だよね。

石川:そうそう。最初の映画監督の話もそうだよね。「こうなんじゃないか?」という決めつけだよね。でね、これ、めちゃくちゃ面倒くさいのね。

佐渡島:どういう意味? 大変ってこと?

石川:大変だし、もう読んじゃえばいいんだよ、そんなことやらずに。でも、自分のなかで「知りたい」という欲求を高めるというプロセスは、面倒くさいんだけどやっとくといい。

佐渡島:でも、すごくわかるな。俺、全部、本って読む前に「この本ってこのくらいのおもしろさだろうな」というのを決めてるんだよね。

石川:へぇ、なにそれ。超おもしろい。

佐渡島:だから、善樹の『最後のダイエット(マガジンハウス社)』とかも、読む前に、俺の頭んなかでは個別の、「Aさん、Bさん、Cさんはこういう場合……」みたいな例がない本のイメージだったの。

最後のダイエット

石川:あ、そうなんだ?

佐渡島:それで読むと、「けっこう個別の細かい話しているなあ」みたいなかんじで、もっと科学的な感じでの説明があるのを期待していたから、「あ、ちょっとここ違うな」みたいな感じがあって。

石川:それおもしろいよね、だから。

事前に自分のなかでラインを決めておく

佐渡島:そう。でも、編集ってそうだな。この作家の次の作品は、こういうテーマでこれぐらいの読みごたえとか。これぐらい泣きたいとか、これぐらい笑いたいというのを先に決めていて、それを超えてないと直しをお願いするし、それを超えていると「こういうのを書けるのって、あなたしかいないと思った」という話をするし。

石川:ああ、そうなんだね。

佐渡島:直しの基準って、こっちが先にこういう感情になるという予想をするから。それは本の装丁とかタイトルと著者で、ほとんど先にイメージしている。

石川:やっぱりそうだね。自分のなかでラインを引いておかないと、それをクリアしているかどうかってわかんないじゃん。それと同じことが、俺、自分で実験しているのね。「今日1日を過ごしたときに、自分がどういう感情とか状態になっているんだろう?」というラインをつくっておく。

佐渡島:うん。

石川:で、僕のラインは「人類の知に貢献できたか?」というところなんですよ。セパレートタイプにして膝の上で打てばいいというのを発見したときは、ものすごく満足して寝たんですね。

(会場笑)

石川:「人類の知に貢献できたぞ!」と(笑)。

佐渡島:今日、一応みんな、それ始めてくれるんじゃないかな。それで、リラックスの呼吸もやってくれるでしょ。

石川:そうそう。

佐渡島:だから、もう善樹だけじゃなくて、みんなで人類の知に貢献するように、ちょっと進んだ日だよね。

石川:だから、今日とか僕、めちゃくちゃ満足して寝れますよ(笑)。

(会場爆笑)

佐渡島:よかった!

毎日超えられる目標を設定することが大事

石川:でも、そのラインがあるんだよね。「人類の知に貢献できたか?」というラインを常に敷いていて、それに対して、今日は勝ったのか負けたのかという勝負をしているから。

佐渡島:なるほどね。

石川:それがおもしろいんだよね。だいたい、負けるんだけど(笑)。

佐渡島:うん。

石川:だから、そこのラインがちょっと高過ぎるってことに、プロゲーマーの梅原(大吾)さんと話して、気づいたのね。

佐渡島:その目標がね。

石川:梅原さんみたいな人は、勝ち続けるってことに対してすごいこだわり持っている人なんですよ。彼は「目標のバーをめちゃくちゃ下げるってことが大事だ」と気づいたって言っているんですね。

で、「これぐらいだったら毎日超えられるぞ」という目標のバーを設定しておくことがすごく大事で、「おいそれとは目標は上げないぞ!」と思っているんだって。

佐渡島:なるほどね。それって、二重目標と一緒じゃん。

石川:ああ、そうそう。

佐渡島:『ドラゴン桜』のなかの「二重目標」。僕は、あれを知ってから、すっごくいろんなことできるようになった。

ドラゴン桜(1) (モーニング KC)

石川:そうなんだ。僕、二重目標がなかったんだよね、だから。

佐渡島:うん、そう。だから、人類の知に貢献するというのと、最低、奥さん喜ばせるとかだと、目標を続けられるよね。自分を責めすぎないしね。

石川:今日って楽しいね。

佐渡島:今日は普通に雑談会だった気がするな。他の人とは、もっと真面目な話をしてる気がするけど。僕もすごく楽しかったです。

ありがとうございました。

石川:ありがとうございました。

(会場拍手)

ぼくらの仮説が世界をつくる