スマート家電で生活はどう変わる?

林信行氏:この部分(ファッション×ウェアラブル)は、これからけっこう大きくなると思うんですけれど、今日はその話は横に置いておいて、スマート家電、家の中をインテリジェント化するスマート家電の話をしようと思います。

先ほどAppleが「HealthKit」という技術を出してきて、ヘルスケア系のIoTの標準化をしたという話をしました。実は、今まさにAppleが一番真剣に取り組んでいるのが、スマート家電の標準化で、そのための技術がこの「HomeKit」というものです。

実際、僕も家でHomeKitに対応しているスマート家電を使っています。Philipsの「Hue」という製品なんですけれど、これを使って「仕事部屋の電気を消して」とSiriに向かって話すと、仕事部屋の電気が消えたりついたりする。こういったことがすでに可能になっています。

今現在のiOS、このHomeKit対応の家電は、声で操作するようになっています。

なので、例えば、朝、「おはよう」とiPhoneに話しかけると、「おはようのシーン」が再現されて、勝手にやかんのお湯が沸いたり、ブラインドが開いたり、あるいは部屋の温度が快適な温度になる。こういったことができます。

また、家に帰ってきた時に「ただいま」と言うと、「ただいまのシーン」が実行されて、家のスマートロックの鍵がガチャンと開いて、玄関の明かりがついて、部屋の温度が快適な温度に変わる。こういったことができるようになっています。 

AppleがこのHomeKitを使ってやろうとしているのが、声での操作もそうなんですけれど、例えば「今、ユーザーがどこにいるのか」ということは、GPSを見ればすぐにわかるので、家に帰って来そうになったら、お風呂のお湯を温めておくとか。これはまだ実現していないんですけれど、そういったことも考えています。

あるいは、毎朝6時になると、自動的に、朝日のような青白い心地よい光が家中について、起こしてくれるとか。

あるいは、センサーもたくさんあるので、そういったセンサーと連動して、例えば部屋の二酸化炭素濃度が多くなってきたら、空気清浄機を回すとか。そういったかたちの連携も考えています。

スマートIoT照明「Hue」でできること

今現在すでに、2016年の春時点で発売されている、HomeKit対応の家電製品というと、照明、スマートロック、鍵ですね。冷房・暖房系。電源を通電したり、切ったりするもの。センサー系。それから、ブラインド。この6種類だけに限られていました。

みなさんのなかで、これからこういったIoTを試されたいという方に、一番オススメなのは、Hueという製品です。僕はPhilipsの回し者ではないんですけれど、うまく使いこなせば、本当に生活が変わると思います。しかも、一番うまくHomeKitを実装しています。

実際の私の家の状況を見せますけれど、あまりにもHueが便利なので、たくさん買って、今はもう20個ぐらいインストールしてあるんです。

Hueを使って、最新のHomeKitって、仕事部屋、リビングルーム、それから廊下といったものを部屋ごとに区分けして、この部屋にHueの1番、2番、3番とかいう配置を全部記憶させることができるんですね。

これまで僕の仕事部屋は、1個のスイッチで高い天井にある電球と低い机にある電球が同時にしかコントロールできなかったのが、Hueを使えば、音声操作で手元の電球だけ青白い光にしたりと、光の色まで変えられたりします。

リラックスできるような光の色にしようとか、集中できるような光の色にしようとか、いろいろできるんです。

実は、1回こうやって各部屋のスマート家電の設定をして、家の家電マップを作って、そこに妻とか子供をインバイトすると、まったく同じ家のスマート家電のマップの情報が共有される。こんな部分も、HomeKit、工夫されています。

iOS 10では声以外でも操作可能に

もうこれはすでに今現在の話なんですけれど、この秋iOS 10が出てくるという話をしましたよね。

これによってHomeKit、スマート家電がどう進化するかというと、iOS 10からは、これまで声だけしか付き合いがなかったHomeKitに対して、ちゃんとアプリが用意されて、Apple Watchからも、iPhoneからも、iPadからも。

例えば、「今、家に帰った」というシーンを呼び出そうと思ったのに、疲れて今日は声が出ない時には、パッとボタンを押せばすぐに「ただいまのシーン」を再現できる。こういった機能がついてきます。

さらに、今Appleは「Apple TV」という15,000円ぐらいの、テレビにつなぐ装置を出していますよね。あれを通して、Siriで家の家電をコントロールできる。こんなこともやっています。

これまでHomeKit対応の家電は、家の中でiPhoneとかiPadから操作するというのが主な利用方法だったんですけれど、これからAppleはどうやら、Apple TVがある家に関しては、Apple TVをハブ、中継基地として使って、外出中に家の家電をコントロールしたり。あるいは自分が出張中に、家の家電を毎日決まった時間になると操作をしたり。こういったことをやるための中枢として使っていくようです。

そして、やはりGoogleさんやAmazonさんも、同じようなことを考えているようです。

空調や監視カメラもHomeKitに対応

ちなみに、秋のiOS 10からは、いくつか新しいジャンルの家電が使えるようになります。

ひとつは、追加されたというよりは整理され直したんですけれど、空調機器。エアコン、ヒーター、空気清浄機、加湿器、こういったものが1個のジャンルとして操作できるようになります。

さらに、監視カメラ。監視カメラって防犯だけじゃなくて、赤ちゃんのモニターとかも監視カメラのひとつですよね。ああいったものを使って、ライブの映像を見たり、静止画を撮ったり、こういったことも可能になってきます。

さらに、ドアベルも対応します。例えば、出張中に「ピンポーン」と家の玄関のベルが鳴ると、それが出張先の自分のApple Watchに出てきて、カメラ越しの配送屋さんの顔も見られる。こういった機能もついてきます。

そうはいっても、これまでスマート家電って、ずーっと言われてきたけど、なかなか普及してこなかったですよね。でも、僕はもしかしたら、このiOS 10が出たら、いよいよスマート家電が普及するんじゃないかと思っているところがひとつあります。

これはなにかというと、やっぱりHomeKitって非常によく考えられているんです。液晶がついているようなガジェットって、設定が非常にしやすいんですけれど、例えば、電球とかって「どうやってWi-Fiの設定をするんだろう?」って、たぶんみなさん想像つかないですよね。そこの部分を、HomeKitは非常にスマートに解決しています。

例えば、HomeKit対応のものには、今「741-45-590」って書いてありますよね。こういったシールが貼ってあります。これをAppleのiPhoneのHomeKitのアプリ、今はシステム環境設定なんですけど、それを使ってカメラでパシャって撮ります。

そうすると、数字を勝手に認識してくれて、iPhoneとそのスマート家電がつながります。あとは、Wi-Fiの設定とかをiPhoneから転送する仕組みがあるので、非常に簡単に設定ができる。こういったふうになっています。

AppleがHealthKitをやって1年後ぐらいにGoogle Fitが出てきたのと同じような感じで、おそらくGoogleさんも、まもなくすると同じようなものをAndroidでやってくれるんじゃないかと期待しています。

iOS 10でどんな機能が増える?

ということで、今、人工知能とIoTの話をしましたけれど、そこでやっぱり鍵になってくるのが、この秋に登場するiPhoneのiOS 10です。

ここでiOS 10にどういった機能があるのか。時間がなくて、全部の機能は紹介できないのですが、Appleが用意しているビデオをお見せしようと思います。

数字が一桁変わる時って、やっぱり人間は10進法に支配されているので、非常にがんばっちゃたりしがちですよね。Appleもそのとおりで、iOS 10は、非常にたくさんの機能が表面レベルでも搭載されていれば、おそらく来年まで「こんな機能があったんだ」って気がつかないような、深いレベルでの機能もたくさん搭載されています。

さっきやたらと出てきたましたが、実はメッセージ機能がすごく進化します。スタンプも送られれば、アニメーションも送ったりできるような機能があったり、メッセンジャー専用の、iMessage専用のApp Storeも用意される。こんなこともあったりします。

「アプリの起動回数が減る」その理由

もう1個だけ、iOS 10の新しいトレンドを紹介すると、これからどんどんiPhoneではアプリを起動する回数が減ってくるんじゃないかなと、私は予想しています。

なぜかというと、例えば、みなさんが日々通知を受けていると思うんですけど、この通知のなかに画像みたいなものを埋め込むことが可能になってきます。

「友達を探す」というアプリがありますよね。あれを使って、これまでは通知で「今、自分の友達が近くにいるようだ」といって、通知をピッとタップすると、友達を探すアプリが起動して、アプリのなかで友達の現在地を確認していたと思うんですけれど、これからは通知のなかに地図が埋め込まれてしまったり。

あるいは「まもなく講演の時間です」というと、カレンダーアプリに切り替えて、アプリのなかで予定を確認していたのが、もうすでに通知のなかでカレンダーが表示できるようになったりしています。

あるいは、メッセージも通知の画面から直接返信ができるようになったり。Uberみたいな配車系のアプリに関しても、直接、このなかで現在地とかを確認できるようになってきます。

機能単位で情報を呼び出し可に

なぜこういったことが重要なのか、もう1例だけ紹介しますと、ウィジェットという機能がこれまであったと思うんですけれど。

「Force Touch」ってみなさんご存知ですか。iPhone 6s・6s Plusというのは、長押しじゃなくて、強押しという、強く押すと、むにゅってメニューが出てくる機能があるんですね。

それを使って、ニュースアプリを起動しないでも、最新のトップニュースが見られるような機能があったり。

メールのアプリを起動しないでも、今、誰からの未読メッセージが何通溜まっているのかを確認できたり。

実はどんどん、これまでアプリという1個のもの、わけのわからないブラックボックスの塊だったものが、機能単位で分割して呼び出せるようになってくるのが、iOS 10の特徴です。

それによって段階的に、例えば、バスケのアプリをむにゅって押すと、Force Touchの機能を使って、スコアだけを調べたり。

さらにもう1回むにゅって押すと、ゴールをした選手が誰だったのかってことを調べたり。あるいは、生ライブのバスケの試合の映像を見たり。こういったこともできるようになってきます。

アプリ開発の仕方も変わる

そして、「ディープリンク」という言葉があるんですけれど、これからアプリ全体を起動するんじゃなくて、アプリのなかのこの機能を直接呼び出すということが、どんどん行われるようになってきます

これができるようになってくるとなにがすごいかというと、実は、冒頭の人工知能とかSiriの話とも関係してくるんですけれど、直接メールのアプリを起動して、なにかの動作をするということが声でできるようになるってところにもつながって、今年から来年にかけて、大きくiOSのアプリの開発の仕方も変わる。そんなことに今年のWWDCのイベントで気がつきました。

実はこれに加えて、開発といえば、Appleは3年ほど前から「Swift」という開発言語を発表して、これが去年の12月にオープンソース化されて、いまやAppleだけの開発環境だけじゃなく、IBMとかSAPさんもこのSwiftの大応援団になっています。

これまでは、iPhone・iPadの開発環境と思われていたSwiftが、UNIXであるとか、AndroidやWindowsのアプリも開発できるような開発環境になってくる。

IBMは非常に積極的にこのSwiftを推しているので、「Bluemix」という、IBMの主要なサービスを全部使えるようなプログラムも、このSwiftを使って開発できるようになってきます。

今日のセッションにもたくさん出てきたWatsonのプログラミングも、簡単にSwiftでできるようになってきます。ということは、この言語を使って、これからどんどんiPhoneとWatsonの連携も始まってくるんじゃないでしょうか。

たった3年前に出てきたプログラミング言語ではあるんですけれど、非常に先進的な21世紀の開発言語ということで、気が付いたら、今、GitHubで一番人気のプログラミング言語になってしまいました。このたった3年間のあいだにです。

未来は今、作られている

Appleが今年、WWDCでもう1個発表したのが、これからどんどんこういった未来をプログラミングする人口を増やしていかないといけないってことを、ティム・クックというAppleのトップの方が非常に熱心に話をしていていました。

子供たちに、このSwiftを簡単にゲーム感覚で学べるような「Swift Playgrounds」というプログラミング教育のアプリ、こんなものも発表していました。

これを使ってゲームを簡単に作ったりすることもできれば、ロボットを操作する。こんなこともできたりするようになってきます。

残念ながら時間がきてしまったんですけれど、この40分の講演を通して、iOS 10の登場を待たずに、今現在の時点でもすでにけっこう未来が来ているってことを感じていただけたんじゃないかと思います(注:7月21開催イベント)。

Swift Playgrounds、Swiftの人口を増やすじゃないんですけれど、「未来は今、まさに現在進行形で作られている」というのが、私のメッセージでした。

今日いくつか魔法のようなIoT、ファッションとかそういったものも紹介したんですけれど、こういったものに興味がある方に、最後ちょっとだけ宣伝になっちゃうんですけれど、私、最近ジャーナリスト以外にいろいろプロデューサーとかディレクターみたいなことをやっているんですが、(2016年)8月3日から1週間、新宿の伊勢丹で「どうやったら、量販店みたいにスペックシートでものを売るんじゃなくて、ちゃんと新しい時代の、これまでのカテゴリーに分けられないようなIoTを売っていけるのか?」という試みを、伊勢丹さんと組んでやっています(イベントは終了)。

「みらいの夏ギフト」という企画なんですけれど、こういった魔法のショーのような企画をやるので、もし新宿の近くにいらっしゃる方がいたら、ぜひこの魔法のショーを伊勢丹に見に来ていただければと思います。

ということで、ちょっと時間オーバーしちゃいましたけれど、次の5年間を俯瞰する講演、終わらせていただきます。ありがとうございました。

(会場拍手)