エンタープライズITの改革を語るパネルディスカッション

司会者:ここからは、「エンタープライズITを改革するデジタルトランスフォーメーションとクラウドコンピューティング」と題しました、パネルディスカッションをお届けしてまいります。

それでは、はじめに本日のパネリストのみなさまをご紹介してまいります。どうぞみなさま、盛大な拍手をお願いいたします。

株式会社三菱東京UFJ銀行、専務取締役、村林聡様。

(会場拍手)

株式会社日本経済新聞社、執行役員デジタル事業担当補佐兼電子版統括、渡辺洋之様。

(会場拍手)

株式会社NTTドコモ、執行役員イノベーション統括部長、栄藤稔様。

(会場拍手)

そして、本日のモデレーターは、株式会社野村総合研究所、理事、楠真様。

(会場拍手)

AWS大規模利用のパイオニア・NTTドコモ栄藤氏

それでは、ここから先は楠様にお任せしたいと思います。どうぞよろしくお願いいたします。

楠真氏(以下、楠):ご紹介ありがとうございます。みなさん、こんにちは。本日はEnterprise Dayということで、最後のセッションでは、「エンタープライズITを改革するクラウドコンピューティング」ということで、パネルディスカッションを行いたいと思います。

お疲れかと思いますけれど、今日で一番重要なセッションになりますので、集中力を切らさず、よろしくお願いいたします。

最初に、私から、パネリストのみなさまを順にご紹介させていただきます。

最初に、私はもともと野村総研で金融・ITソリューションの担当をしていたのですが、直近はクラウドビジネスを含めたインフラビジネスの責任者というかたちをとりまして、そのあと現職、去年から理事ということで活動しております。

今日のパネリストのみなさまは、エンタープライズITの改革というと、私がまずこの方々を思いつくという、業界の有名人の方々にお集まりいただきました。

まず、私から一番遠いところ、壇上の一番奥から、NTTドコモの栄藤稔様。栄藤さんは、AWSの大規模利用のパイオニアという方でございます。AWSといえば栄藤さんということで、知らない人はないというぐらいの方でございます。栄藤さん、ひと言お願いいたします。

栄藤稔氏(以下、栄藤):今日、一番なにを言いたいかというと、「クラウドを使うには企業の組織や風土改革が必要だ」ということを言いたいと思ってまいりました。よろしくお願いいたします。

(会場拍手)

日経新聞電子版の立ち上げ責任者・渡辺氏

:それから手前、日本経済新聞社の渡辺様です。渡辺さんは、みなさんもお使いの、まさか使ってない方はおられないと思うんですが、日経の電子新聞、こちらのビジネスを最初から立ち上げた、電子新聞の立ち上げ責任者の方でございます。

今も電子新聞をやっていらしゃるんですけれど、最近『Financial Times』との提携で、どうも日本におられなくなったようで。私、ゴルフも付き合っていただけなくなって悲しい思いをしています(笑)。グローバルに活躍されておられます。

渡辺洋之氏(以下、渡辺):渡辺でございます。日頃はたいへんみなさんにお世話になっております。

実は昔は記者をやっていまして、20年ぐらい記者をやっていたんですけれど、今こういう立場になって、こういうところでお話しさせていただく機会を得るたびに、過去の取材の反省をしているところです(笑)。

エンタープライズというには、両脇に座っているお二方ほどエンタープライズではないですけれど、AWS含めたクラウド化には数年かかった、わりと早いという意味では早いのかもしれませんけれど。

ずっとわからなかったんですけれど、まさに今、『Financial Times』を買収してみたら、「考えてることが一緒じゃないか」みたいなところがありました。これからグローバルの活動と、システムのところが、1つの大きな課題になってくると思っていますので、そのあたりまで踏み込んで仕事をしていこうと考えている次第でございます。今日はどうぞよろしくお願いします。

(会場拍手)

2200億円を動かす、三菱東京UFJ・村林氏

:それから、私のお隣におられますのが、三菱東京UFJ銀行の村林様です。

今日、村林さんにお話しいただくにあたり、三菱UFJフィナンシャル・グループの決算報告を見てまいりましたら、フィナンシャル・グループとしての年間のソフトウェア投資が2,200億円でした。その責任者が村林さんでございます。村林さんの一存で2,200億円が決まるという方です。

最近は、村林さんのリーダーシップで、フィナンシャルグループ全体でFinTechに非常に積極的に取り組んでおられます。村林さん、どうぞ。

村林聡氏(以下、村林):みなさん、こんにちは。三菱UFJフィナンシャル・グループの村林でございます。2,200億円が、AWSを使うと3分の1になるのではないかというふうに言われて、やってきました。

(会場笑)

我々、レガシー業界のなかのレガシー企業の代表でありますけれど、そのなかでいろんなチャレンジを始めているよ、というところをご紹介できればと思います。今日はよろしくお願いします。

(会場拍手)

「第3世代プラットフォーム」の時代へ

:今日は、そういう強烈なパネリストにお集まりいただいてのパネルディスカッションでございます。

ディスカッションに先立ちまして、今日お集まりの方々、いろいろな方々がおられると思いますので、議論の土台といたしまして、私からイントロダクションをさせていただきます。

今は「第3世代プラットフォームの時代」と、いろいろな方々が言っています。これは野村総研が言っているわけじゃなくて、世の中、コンサルタントだのなんだの、いろんな方が言ってるわけです。

第1世代というのはなにかというと、IBMのメインフレームでございますね。この時代はもうとにかく主役ははっきりしてる。IBMですね。

それが90年代に入りまして、クライアント・サーバーの時代になり、MicrosoftとかIntelとか、(スライドには)書いてはございませんけれどもOracleとか、いろいろなベンダーが出てまいりました。

この時代のキーワードは「アライアンス」ですね。いろんなベンダーが一緒になって、ひとつのソリューションを作り上げていく。こういう時代が長く続いてきたわけです。

それでもやっぱり主役はMicrosoft、Intel。“Wintel”という言葉がありましたけれど、そういうかたちで、みんな主役を見ながらきた時代だったと思います。

エコシステムは既存企業をぶっ潰す?

今、改めて第3プラットフォームの時代ということになるわけですけれど、クラウドの時代でもありますし、モバイルの時代でもあります。

そういうなかで、この時代の特徴は、1つは主役が誰だかわからない。いっぱいいるということですね。それぞれみなさんが主役で、その主役同士が共存共栄のビジネスを作り上げている。

これはよくよくこういう議論を、みなさんの議論も含めて聞いてますと、単なるIT技術の変化ということで言っているのではないんですね。ビジネスモデルが、これによって変化してきている。そういうことを議論しております。

そして、その第3世代ビジネスモデルの特徴として、一番言われることがディスラプト。ぶっ潰すということです。つまり、既存の企業をぶっ潰してしまう、と。これが第3世代プラットフォームの合言葉のように言われているように思います。

それが、どうやってぶっ潰すかというと、この「エコシステム」ですね。エコシステムを使ってぶっ潰していく。

コアテクノロジーとして、ひとつはモバイルプラットフォーム。これは1人1台ではなくて、もはや何台もある。それから、IoTまで含めますと、人口より多い端末というかたちになってくるわけです。

それと誰でも24時間ネットワークに接している。そういった裾野の広がりをモバイルコンピューティングが作り上げています。

それからクラウドのほうは、仮想化によるリソースの効率化はもちろんですが、APIエコノミーとエコシステムということで、いろいろなサービスが連携していく世界が実現していますし、ビッグデータとマシンラーニングということで、新たなソリューションの展開が生まれてきている。

ビッグベンチャーを支える第3世代プラットフォーム

こういったコアテクノロジーをベースに、(スライドの)上のほうにあります、さまざまなサービスが実現しているわけです。例えばFacebookだけで16億人のアクティブユーザーがあるそうで、Facebook上にいろいろなコンテンツを出すと、それが16億人のユーザーに一気にダイレクトに届いてしまう、というような世界が実現しているのが、第3世代プラットフォームといえるのでなかろうかと思います。

Facebook、それからTwitterやUber、Netflixは、第3世代プラットフォームを代表するベンチャー企業としてもちろん有名なわけですけれど、それを支えているのが、AmazonやGoogle、それからAppleのモバイルシステムというかたちになっているかと思います。

こういうことなんですけれど、一方でアメリカでいろんな議論がされているなかに、こういった言い方があります。

これは、マーク・アンドリーセンさんという方が言われた言葉なんですけれど、「In short, software is eating the world」。ソフトウェアが世界を食ってるんだ、ということですね。

これはどういうことかといいますと、いろんなものがすべてソフトウェアに置き換わっていく。いろんなサービス、ハードウェア、これがどんどんソフトウェアに置き換わっていく時代なんだということです。

米国老舗企業も続々方向転換

それにあわせまして、やはり、アメリカの老舗企業もクラウドに合わせたビジネスモデルの転換をどんどん進めようとしています。

今日のキーノートスピーチで(Eric)Tuckerさんがお話をなさいましたけれど、GEはこの代表格と言えるんじゃなかろうかと思います。

こちらにご紹介しているのはGEから転載してきているものですけれど、GEはクラウドに合わせたかたちで、既存のビジネスをどんどん変えていく、と。

今日のお話のなかで、749のアプリケーションをAWSのパブリッククラウドの上で動かしてるというお話がありました。それから、3つのポイントがあると言っていましたけれど、今日のお話のなかで一番重要だったのは、要するに「積極的に変化に対応していくんだ」というお話だったと思います。

「自分自身が自分のビジネスを変えなければ、必ず誰かが自分のビジネスを潰しにやってくる。ディスラプトされてしまう。だから自分で変えるんだ」。これがGEの考え方だと思います。

ただ、日本でもそういった、いわゆるデジタル化にあわせたデジタルトランスフォーメーション。自分の会社のビジネスをデジタル化にあわせて変化させていくという取り組みをなさっておられる企業がもちろんございます。

ドコモにおけるクラウドの利用変遷

まず、今日のパネリストのみなさま方に、それぞれの取り組みについてお話しいただきたいと思います。栄藤さん、よろしくお願いします。

栄藤:では、ドコモの事例を最初に申し上げて、こんなことやってきましたということをお話しします。

我々がパブリック・クラウドを使い出したのは2009年ぐらいです。これは、やっぱりR&Dだからできるところがあるんです。「どうなるかやってみよう」と。

当時のパブリック・クラウド、AWSも含めたパブリック・クラウドの使い方というは、みなさんご存知のように、時間貸し、いわゆるビジネスモデルの違ったデータセンターという感じで使っておりました。

ある時、「しゃべってコンシェル」と言われる、一番大きい時でサーバにして2,000台ぐらい使わなきゃいけない大きなサービスを急遽立ち上げろと、社長にむちゃ振りをされまして。当時、山田(隆持)さんという社長ですけれど。

それで数ヶ月、3ヶ月、4ヶ月かけて立ち上げるはめになって、サンフランシスコ周辺のデータセンターと、それからようやくできてきた東京のデータセンターを使いながら、大規模のWebサービスを立ち上げました。

これによって開発スタイルが、だんだんとそれにあわせて変わってきたというのが大きいです。この話はまた後半でもします。

「もうやめませんか?」って思うんですね。「パブリック・クラウドを使ったら安くなりますか?」みたいな、そんな質問はもうやめませんか、と。

どうやって企業カルチャーや開発スタイルを変えていくかということとリンクしていかないと、先ほど楠さんがおっしゃった、デジタルトランスフォーメーションができないというのが、最近、痛感していることです。

最適な手法を形式知化して横展開

まず使ってみることが大事です。そうすると、今まで嫌だって思ってた人、「パブリック・クラウドなんか絶対意味ないよ。セキュリティどうするねん?」と言っていた人たちが少しずつ反対しないまでも、黙るようになるんですね。

それにあわせてクラウド機能の進化もありました。PaaS機能、セキュリティ部門の進化がすごくあって、それで業務系のほうにパブリック・クラウドを使っていくことが始まっています。

2014年Q3にそう使ってきて、それを使うノウハウがやっぱりあって、いわゆるセキュリティ面で使うベストプラクティスを形式知化できるところが大きいですね。

今までデータセンターの構成とかセキュリティシステムの作り方というのは、プログラムできなかったわけですけれど、これができるようになったことが大きくて、それを形式知化して、ユーザー企業間でシェアできるようにしたのが2015年のQ1になります。

それで、私、2010年頃、横須賀にこういった水冷のものすごいポッドの大きなサーバを置いて、最初の頃はNetezzaと言われている、分散システムを使ってデータマイニングをしていました。そのあとGreenplumをこの上で動かしてすごくごきげんでした。

当時の音声認識だとかいろんな自然言語処理系は、実はここでバックエンドでこういうのを動かしてやっていました。2010年、これは私の自慢のシステムでした。

こういったものがずっと続くと思ってたんですね。「Netezza forever, Greenplum forever」、こうやってオンプレミスでどんどん回すぞってやっていたんですけど、なんとなく変わってきたのが、2013年ぐらいからPaaS機能が上がってきて。

3年先って読めないですよね。読めなくて、「でもやっぱりこっちがいいかな」と、いわゆるレッドシフトというかたちで、今すべてこれがソフトウェア化されてるので、どこにあるか、どういうかたちか知らないんですけど、こんなかたちで実現できてるということになります。

セキュリティの問題をどうクリアしたのか

これをやる上で、私の仲間がけっこう苦労したのがセキュリティなんですね。顧客データを含む、数ペタバイトのデータをパブリック・クラウド上にあげるということが、いかにおそろしいかということです。

ドコモの場合は280のチェック項目がございます。当時は230だったんですが、最近増えまして280ですね。どんどん増えてくると思います。

「情報管理規定」「情報管理細則」、それから「情報管理マニュアル」「顧客情報管理マニュアル」というのがあって、これをすべてクリアしないとデータを置けないという状況です。

これを1つずつパブリック・クラウドのPaaS機能にマッピングしていって、実現した先ほどのデータマイニングです。顧客データを含む、ドコモの基幹系サービスのデータを含むものがすべて、レッドシフト上で解析されているということになっております。

2012年当時の社内の雰囲気では突破はとても無理でございました。周りにそんなコンセンサスがないんですね。

いくら理屈の上で「これ、大丈夫だ。パブリック・クラウドのほうが実はセキュリティが安全なんですよ」と言っても、「えー」という感じなんですね。

それを1つずつ1つずつ、実績と技術で論破していって、PaaS機能にマッピングしていって、こういったかたちでひとつずつ潰していって、できているということがすごく大きいです。

ちなみに、これをすべて形式知化してコピーできるようになったというのが、最近のAWSを筆頭とするパブリック・クラウドのすごいところだと思います。

企業間連携でイノベーションを起こす

なぜこういうことをやっているかというと、いわゆる企業間連携でイノベーションを起こしたいんですね。自分たちの会社だけではイノベーションできませんので、先ほどAPIエコノミーの話も出ましたけれど、ほかの会社様と組んでやらないといけない。

ほかの会社さんでも「セキュリティはどうなんだ?」ということを言う人が必ず出て来ているので、その会社様と組むために、こういったことをみんなで作っていこう、と。

もしよろしければメールでもいただければいいんですが、パブリック・クラウドを導入する前に必要なこと、こういった左側の情報管理規定、どうやってそのセキュリティを担保するかということが大事なんですけれど、これがない会社様もおられます。

ないのであれば、コンサルタント料が発生しますけれど、「やりますよ」ということをここで言っておきます。そのうえで、左から右へマッピングをかけていく。

こうした形式知になってしまうということは、大きな会社でしか持ちえなかったセキュリティとかデータマイニングの構成が一気にコピーできますということになります。

これが遠隔地にある時間貸しのデータセンターといった考え方ではなくて、プログラミング可能なデータセンターの破壊力というのを言いたい。これを契機に産業界を変えていきたいなと思っております。

このプログラミングできるデータセンターという意味がわからないと、たぶん以後の議論にはついていけないので、なんとかわかっていただきたいと思います。

今までなにもセキュリティがわからなかった会社様も、一気にベストプラクティスがコピーできるということになるわけです。

ドコモクラウドパッケージを導入したお客様の声

ちょっと字が小さくて、すみません。私、プレゼンであまり字を書かないほうなのですが、これはあとでSlideShareにあげますので、SlideShareで見ていただければと思います。

これは、お客様の反応です。例えば、NTT東様については、この形式知のことを我々は「ドコモクラウドパッケージ」と呼んでいますが、これを入れることによって、パブリック・クラウドを入れる・入れないということは別としても、まともな議論ができるようになった、ということが1つあります。これをベースにして、入れるか・入れないかという判断をすればいい。

今までは、「なんか危ないんじゃないか」「大丈夫か?」という議論はあるんですが、これをちゃんとテクニカルに1つずつ見ていって、どうなのかという議論ができるようになったというのが大きい。

それから2つ目にありますけれど、大企業とスタートアップ企業をつなぐツールとしても機能しているということです。

これがすごく私が一番言いたいところで、スタートアップ企業がエンタープライズ向けサービスを提供する際の要求事項の仕様として、この形式知を利用して、結果的に会社間の連携が増して、イノベーションが起きる機会が増えてきましたということがございます。

これはぜひ、大きな会社様といろいろお話をしながら、日本の産業を盛り上げていくような役割を果たしたいと思っています。

3つ目は、グローバル企業ですね。日本が本社でグローバル事業を展開する企業にとって、ベースを本社で作成して、それを展開することができる。形式知を海外のブランチに提供していくことで、全体的にガバナンスをきかせやすいということがございます。

パブリック・クラウドの進展というのは本当に、安くなるとか、人員が減らせるとか、そんな話ではなくて、このあとも話を続けますけど、開発スタイルとかイノベーションをどう起こしていくかという話。

それから大きな会社、小さな会社、いろんな会社がどうやって連携していくかという話、そういったことにすごく大きな役割を果たしていますので、それを心に留めていただければ幸いでございます。以上でございます。

:栄藤さん、ありがとうございます。まさに日本でのAWS導入事例というと、いつもドコモさんの話をAWSの営業の方からお聞きするんですけれど、まさにそういったパイオニア的なプロジェクトだったように思います。