アートイベント「FLOWERS BY NAKED」の裏側

中村文豪氏(以下、中村):みなさん、本日はお足元の悪いなか、お越しいただきましてありがとうございます。私はNAKEDの中村と申します。さっそくはじめさせていただきます。では、さっそく船本さん、よろしくお願いします。

船本賢悟氏(以下、船本):まず、みなさん僕が誰かわかっていないと思うので、一応なんの人かというのだけ簡単に説明しておくと、NAKEDという会社の船本と申します。

主にやっていることは、記述、ハード周りの設計やシステムを組んだりしています。「フラワーズ」(NAKED主催のアートイベント「FLOWERS BY NAKED」)では、投影の設計やプログラムを組んだり、プロジェクターの設置・調整をやっていました。

それで、いまフラワーズの映像流れておりますが、みなさんこの中で何人くらいフラワーズに行っていただけたかわかんないですけど、この中でフラワーズ見たって人、どれくらいいますか?

(会場挙手)

おっ、渋いですね(笑)。ここの映像でしか見たことない人が大半だということで、どうしようかなという感じですが。とりあえず、NAKEDが世の中的にはどう見えているのかに興味があるんですが、多くは空間演出の会社だと見ているんじゃないかと思っています。

僕らもこのフラワーズは、ホールでこういうイベントをするのが、実は大きいのは初めてだったりするので、チャレンジでやった大きなイベントだったりします。

フラワーズの前までは、いろいろイベントをやったりしていたのも、もともとある空間に、どういうふうに違った見せ方ができるか、どういう見え方を提供できるかということをずっとやっていました。

フラワーズはもう本当に何もない空間で1からやっていく中で、うちらも見えないところの連続ばかりで、日々、四苦八苦しながら実験を繰り返してやっていったようなイベントです。いろいろ本当に大変だったことがあったので、そこらへんを今日お話しできればと思います。

ただの見本市にならない空間を

最初は、(2016年)1月8日からやったイベントなんですが、施工がそもそも元日からやっていて、元日入りの施工という、かつてないおもしろいタイミングの施工でした。

僕らの仕事は、みなさんが楽しんでもらうために、一番みなさんが遊ぶ(タイミングの)前にお仕事する感じなので、変な時期に仕事をすることが多くて、それが大変だったりするんですが、自分ら的にはけっこうおもしろかったりもします。

そんなタイミングでずっと施工していて、1週間くらい日本橋の施設の中(日本橋三井ホール)に泊まり込みで、日々つくっていった感じなんですが、いろいろやってく中で空間演出についてゼロからすごい考えさせられることが多くてですね。

やはりゼロから構築するという大変さ、難しさというのをすごく感じた。コンテンツをいくらつくって、空間演出するビジュアルをつくっていっても、1個1個が1つの世界観の中で同一の方向性を持ってつくられないと、空間として成立しないというのを、すごく感じたイベントでした。

やはりどうしても見本市みたいになりがちになっていて、それをいかに、ただの見本市から、誰も見たことがない、実感ができる、リアルを感じられるような空間、そこに行ったらなにか違う世界が見られるみたいな空間をつくるために、どうすればいいかということを日々やってく中でつくったような感じです。

細かいところは、また個別で話させてもらえばと思います。実際、僕らはフラワーズというイベントをできるようになるまでにいろんなことをやってきているので、NAKEDという会社のこともせっかくなので説明させていただきます。

社員が共通して持っている2つの理念

僕らの会社は、今でこそこういう空間演出の会社だという認識があるんですが、実はもともと映画をつくるために立ち上がった会社で、ずっと映画を頑張ってつくっていたような会社です。

それで、どれくらいこの中で知ってる人がいるかわからないですが、東京駅で(プロジェクション)マッピングをやって、それで注目されてから空間演出やマッピングをするようなことが一気に増えて、いまや空間演出やマッピングの会社みたいな認識をされている。

僕らから言わせると、ここ最近の3、4年くらいマッピングをやってきたんですが、19年、もうすぐ20年という歴史の中で、みなさんが思っているイメージは、ごく最近の仕事でしかなくて、けっこう昔から映像はずっとやっていたような会社です。

それで、僕らがなんでこんな空間演出、大きなことをやったことないのにいきなりできたかというと、昔から僕らの会社でみんなが共通して持ってる理念、考え方があります。

2つ考え方がありまして、「トータルクリエーション」と「コアクリエイティブ」という考え方を持って、僕らはモノをつくっています。

「トータルクリエーション」というのは、その言葉ズバリなんですが、自分らでつくったものをどう伝えて、つくったモノをどう見せていくかということも含めたトータルで、つくるだけではなく、伝えるところや見せるところ、最後まで自分らでやり切るというのを昔からやっている。

ただモノをつくるのではなくて、それがどういう場所で、どういう環境で、どういう雰囲気の中で見ていくかというのを昔から考えてつくっています。なので、こういう空間演出の仕事になったときも、もともとうちらが大事にしてきたことが活かせるなということでやってきています。

もう1つ、「コアクリエイティブ」というのは、実際にモノをつくるんですが、そのモノというのはなにを大事にしているのか。

それは、クライアントさんや、僕らがモノをつくるにあたっての何かだったり、テーマという言葉に言い換えてもいいのかもしれないですが、1つのイメージ、ゴールに向かってモノを一緒につくっていく、そういうことを大事にしていかないと、ちゃんとお客さんに伝わるものがつくれないというのがあります。

お客さんに伝わるやり方であればなんでもいい

その2つの理想を持ってずっとモノをつくっています。その中では自分たちの手法、なにをやるかというのはぜんぜん考えてないというか、とらわれないでつくってきています。

なので、映画をやっていたときも、CMやPV、いわゆる映像をやっていたときも、今のこういう空間演出をやっているときも、やり方や見せ方はなんでもいい。お客さんにちゃんと伝わればなんでもいいなという考え方をもって今までずっとモノをつくってきています。

なので、今後も今の空間演出みたいな仕事をずっとやっていくかというのもわからないですし。どんどん、お客さんに伝わるやり方があれば、かたちを変えてモノをつくっていくということでやっております。

ここで流れているのも、ここ最近やってきた案件のいくつかを出している感じですが、これ(長野県阿智村「スタービレッジ阿智」とのコラボレーション)も、知ってる人いないと思うんですが、日本一星空がきれいな阿智村という山奥の村があるんです。

そこで星を見るためにゴンドラみたいなのに乗って山の上にいくんです。そのゴンドラの待合室が、もうボロボロで、もうなんにもおもしろくなかったんですけど、そこを全部改装して、もう宇宙ステーションみたいにして、星をみんなで見に行くというのをつくった。

こんなインターフェイスですけど、頼むメニューはきつねうどんやナポリタンです(笑)。ビジュアルはこういうイメージをつくって、星を見に行く臨場感というか、モチベーションを上げてもらうというコンセプトでつくりました。

それで、フラワーズは夏にもコンセプトを若干変えて、当然モチーフは花ですが、今度はミッドタウンでまたやるので、そのときにはまたちょっと見ていただけたら、おもしろいものが体験できるかなと思うので、見ていただけると僕らのやりたいことが実感できると思います。

経営するカフェを実験場に

弊社が本当にやることにとらわれないということで、僕も典型的な例の1つです。僕が今ここに立ってこういう空間演出の話をしているんですが、もともと僕は、今もやってるんですけど、ずっとカメラマンでした。

会社に入るまで、ずっと映画、PVやCM撮っていて、今はプロジェクターのセッティングやシステム組んだりをやっている状況です。なので、普通にCM撮った次の日に施工に入って、プロジェクターのセッティングして、システム組んでってやっているようなノリなんです。

それくらいうちの会社は、本当にやることにとらわれないで表現がおもしろくてお客さんに伝われば、誰もがなんでもやるというような会社です。そういう手法というものにとらわれずモノをつくることのおもしろみというか、そういうのが今、この世の中ではみなおもしろがってくれるんじゃないかなというのもある状況です。

それのおもしろい実例として、弊社がやっているカフェがあるんです。カフェ経営も実はやっていて、うちの本社のすぐ横に「9STORIES」というカフェがあって、完全にうちの社長がサリンジャー好きだからそのまま店の名前にしたんですけども。

ここもコンセプトをずっと変えつつ、この時期はハワイをイメージした南国チックな店内をつくっていました。ここは、けっこうおもしろい実験現場にもなっている。

僕らがいろいろな表現したいとか、こういうのおもしろいんじゃないかという技術をいろいろ詰め込んで、店舗の中でいろいろテストして、実際に来るお客さんのリアクションを見て、いろいろ試したりして、そこで本当におもしろいと実感できたものを実際に案件の中に採り入れるということをやっている。

ここで、フラワーズでやっていたようなことも実験していて、実際に入れ込んだりした経緯もあります。僕らの仕事のやり方として、別のところでおもしろいことをやって、それを活かして、また新しいものを生むというようなことを昔からやっていて、こういうのも今なかなか他にないと思うので、おもしろいかなと思いますね。

お客さんも含めて作品が成り立つものが増えてくる

せっかくなので、フラワーズの話をちょい足ししておくと、花をイメージしていて、生け花の家元さんとコラボレーションして、実際の花を使って、花とテクノロジーのコラボみたいなことで展示をしていました。

それで、生の花を使うと、当然どんどん枯れていくので、1週間ごとに花も入れ替えて、それに合わせてこっちも映像や光を、ちょっと変えたりしていました。

イベントも最初につくったコンテンツから、お客さんのリアクションとかを見て、ちょっと変えたり、コンテンツを増やしていったり、見せ方もどんどん変えていって、お客さんのリアクションを受けてものを変えていくというのをけっこうやっていた。

これも最初に見に来ていただいたお客さんと、最後らへんに見に来ていただいたお客さんと、けっこう表現が細かいところで変わってたりとかして。うちらの中では、けっこう別物に化けてたんですが、それも今回おもしろかったなと思っています。

お客さんが実際その場に立ったときに、表現がまったく別のものになるというのを、すごく実感させられて、それに伴って、見え方や見せ方、距離感など、いろいろ変えていったりして、僕らも期間中は本当におもしろくものづくりを進化させていったような体験だったので、これはかなり経験としてはおもしろかったですね。

それで、生け花もまったく別業種の人と一緒に絡んで、向こうの生け花の植え方、見せ方に対して、こっちもどういう見せ方で返すかというのが、日々見え方が変わっていったりしていた。

そこらへんの想像できない、ある種ライブな感じというのが、こういうテクノロジーを使ったアートイベントの中でやれたというのは、けっこう自分たちの中でも新鮮でした。

そういうライブ感やナマモノ、まあインタラクティブってそういうものだと思うんですけど、お客さんの参加があって初めて成り立つ空間。こっちがモノをつくったら終わりという感じではなく、そこに人が立って、動いて、それで初めて作品が完成するという表現の仕方が、すごくこれはおもしろくやれた案件でした。

だから、これからはそういう、こっちがものをつくって提供するだけではなく、お客さんも含めて作品が成り立つ、違う世界が見えるというようなものが、どんどん増えてくるんじゃないかなという実感が得られた仕事だったと思います。

はい、そんなとこですね。細かい話はまた後で。次のお2人につなげます。ありがとうございました。

中村:はい、ありがとうございました。ただいまの話はNAKEDの船本さんでした。続きまして、面白法人カヤックの川名様よりお話をしていただきます。

クリエイティブで価値を作る

川名宏和氏(以下、川名):こんばんは。カヤックの川名です。まずは自己紹介を。

カヤック・オルタナティ部でのエンジニアをしています。オルタナティ部ってなにかというと、弊社は色々な技能を持った部署がたくさんあります。

昔はFlashの部署ややHTML5の部署などの技術の名前をもじった部署があったりしたのですが、最近はオルタナティ部という部署ができました。この部署は、VRや電子工作などを扱ったデバイスや、ブラウザ上ではないクリエイティブの案件を取り扱っています。例えばイベント向けの装置やとかR&Dのような新規製品の開発などです。

先月、品川で「カヤックのしごと展」というのをやりました。こちらは、弊社が今まで手がけた広告系の受託案件、クライアントワークや自社コンテンツを展示し、来場者に体験をしてもらうイベントです。

1日でだいたい1,000人くらいの来場者があり、VRのコンテンツのブースでは、ヘッドマウントディスプレイ(HMD)を使用してもらい、体験していただきました。また、同時開催で「1社だけの合同説明会」というイベントも開催しました。こちらは、採用を目的としたもので、仕事を紹介するイベントと同時に開催することで、カヤックという会社をより知っていただく機会ができたと思います。

今回、クリエイティブで価値を作るという話をしたいと思います。カヤックではどんなものを制作しているかというと、もともとWEBの会社なので、キャンペーンサイトなどが一般的なんですが、最近では、体験型のデバイスや、VR、メーカーさんと一緒に新しい製品のR&D的な活動もやっています。

最近の活動事例

例えば、キャンペーンサイトでは「ちゃんりおメーカー」。実際にサンリオさんのキャラクター風のアバターをつくって、みんなでシェアが可能です。

こちらは、「FACE MELODY」。カメラで顔を認識して、顔の特徴点を抽出しメロディーが作られるコンテンツです。実際どんなものか、映像を見てみましょう。

(デモを上映)

今ご覧いただいたのは、キャンペーンサイトの事例ですが、デバイスの案件の事例もあります。例えば、イベント会場で、コンテンツを体験していただくケースです。これ(スライド)は「ミライのジブンハッケン本棚」といって、本棚から自分が手に取った本で、自分の性格と相性のよい本をレコメンドしてくれるコンテンツです。

また、こちら(スライド)は「五感読書」というデバイスです。RFID(無線タグ)を使った本で、ページをめくると、本の内容によって照明の色が変わったり、匂いが出たりと、読んでいる内容を通じて五感に影響させるコンテンツを制作しています。

こちら(スライド)は「INTERACTIVE JAM SPACE」です。東京デザインウィークで展示されたタバコの灰皿で、灰を落とした場所が光り、リズムを奏でます。

続いて紹介するのは「ポージングシャッター」です。次世代型のカメラデバイスで、カメラのデバイスから撮った写真が出力され、そのQRコードでWEBにアクセスすると写真がシェアできるというコンテンツでした。

また、写真系のコンテンツでは、「クロックス 撮れ~る!アドベンチャー」をイベントで展示しました。実際にイベント店舗型としてラゾーナ川崎さんで行ったものなんですが、グリーンバックの中で足踏みして写真を撮って、ゲームのような体験できるコンテンツを作りました。

R&D系の事例を紹介します。みなさん「Kocri」はご存じでしょうか? ハイブリッド黒板アプリです。画像をiPhoneからプロジェクターを通じて黒板に表示させたり、黒板の学習機能を拡張する、未来の黒板のプロジェクトです。

こちら(スライド)は、「ベビーバスケ」。ゆるスポーツのコンテンツです。普通のバスケットボールは、素早く投げたり華麗なプレースキルを必要とされるものですけど、これはあんまり強く扱うと、ボールが赤ちゃんなので泣いちゃうんです。泣いちゃうから優しくパスしてあげないといけないという制約があります。

これなぜかというと、スポーツは、上手い下手でかなり差が出るので、誰でもできるスポーツという思想のもとに作られました。実際に、かなり動きが制限された中で、みんなが楽しめるスポーツになりコミュニーケションの場で活用されています。

VR系のコンテンツも製作

VR系ですが、今年はVR元年ということで力を入れています。まず紹介するのは、去年、開発させていただいた「ガジラVR」。1分の1のロボットをつくって、そのコックピットの中でロボットを動かす体験ができるというコンテンツです。

VRコンテンツ内で瓦礫を登ったりして傾くと、実際に操縦者の椅子が傾くんですが、しごと展では1分の1のやつを持って来れないので、普通の椅子にコントローラー、後ろの方に音量で振動を与えるボディーソニックを付けて体験してもらいました。

また、今回しごと展で新しいものやりたいということで有志で開発されたものが「VR寿司」です。なにかというと、よくプリンに醤油をかけるとウニになるとか、アボガドがトロに近いとか、あると思うのですが、そういった感覚をVRを組み合わせて実験したコンテンツです。

実際に板前さんにお寿司を握ってもらう様子の動画を撮影して、VRコンテンツにし、お寿司が渡されるタイミングで、アボガドとシャリを渡して食べてもらいます。その瞬間、お客さんはどんな感覚になるか体験してもらいます。これは、視覚と味覚をハックすることでどうなるかみたいな体験が生まれるコンテンツです。

VRでの見た目はトロなんだけど、食べているのはアボガド、見た目はウニだけど、口にしているのは、醤油プリンで実際にだまされるかというコンテンツになっています。

最後に「VRインターン」です。VR上で仮想空間上のオフィスをつくり、カヤックオフィス内で、標的をシューティングできるミニゲームをつくりました。実際のオフィスの中を移動しながら様々なものを打ち落すことで得点を稼げるコンテンツになっています。

システムとしては、ヘッドマウントディスプレイ(HMD)やリープモーションなどのセンサーなど、単純に視聴のみのVRだけではなく、コントローラとして操作系も拡張してるものを開発しています。

以上です。ありがとうございました。