父親が子育てに奮闘する珍しい生き物たち

ハンク・グリーン氏:人間の赤ちゃんは、長い期間たくさん世話が必要な、無力な小さい生き物ですが、それは私たち人間だけではありません。

何種類かの動物の赤ちゃんたち、その多くは鳥類、そして一部の哺乳類も含みますが、彼らは通常、両親によって世話をされます。そしてまた別の種類の動物たちは、母親のみが育てます。

しかし、おそらく動物たちの間でもっとも珍しい子育てのかたちは、父親のみが育てる形式です。その例として、タガメを見てみましょう。

一般的に昆虫の子育てはとても珍しいもので、13種類を除いて、ほとんど知られていません。

アメリカ北部やカナダの、水が新鮮な池にタガメはいます。体長は10センチにおよぶこともあり、愛着を持って“足かみ虫”(toe biters)と呼ばれることもあります。

タガメのなかから子育て中の父親を見つけるのはとても簡単です。なぜなら父親は背中一面に卵を背負っているからです。

ご覧の通り、彼らは交尾をすると、メスはお別れの前に100個もしくはそれ以上の卵をオスの背中に産みつけます。

卵を背負えば、捕食しにくくなるし、逆に捕食されやすくなるにもかかわらず、オスは孵化するまで持ち歩きます。

そしてまた、オスは脚を使って常に卵を掃除します。綺麗にして菌の感染を防ぎ、水面で卵を乾燥させるのです。

タツノオトシゴはオスが陣痛を経験

以上が子供をおんぶする子育て形式ですが、次は動く赤ちゃんたちを口に入れて運ぶ形式を想像してみてください。

これは通常、南アメリカのダーウィンハナガエルの父親が行っていることです。

メスは地上にある湿った落ち葉の中で産卵します。そこはオスがメスを受胎させる場所です。その後メスは立ち去り、二度と会いません。そしてオスは3週間、卵を見守り続けます。

卵のなかで成長中の幼生が動き始めたら、オスはその卵を飲み込みます。おやつとして食べるわけじゃなく、鳴嚢という袋のなかにしまうためです。

数日後、卵からオタマジャクシが孵化しますが、さらに50日から70日、父親の袋のなかにいたまま、カエルの形にだんだん成長していきます。

成長が終わると、小さなカエルたちは鳴嚢から出て行って、父親の口のなかから世界へと飛び出していくのです。

しかし、求められている以上の働きをする子育てといえば、あの父親たちこそ、すばらしい。

彼らはただ卵の上に座るわけでも、背負うわけでも、口に入れるわけでもありません。実際、卵を身ごもって出産するのです。まあ、半分の意味においてですが。

私が話している動物は、タツノオトシゴのことです。

タツノオトシゴはつがいになると発情し、メスはオスの腹部にある特別な袋の中に産卵します。育児嚢と呼ばれるものです。そしてオスは受胎のためにそこに精液をかけます。

その後、オスは10日から25日の妊娠期間中、卵を運び続けます。種によっては栄養や酸素を供給するだけでなく、胚の中の体液と塩分のバランスを保とうとします。

そして子供たちが成長すると、小さいタツノオトシゴたちを海の中へ放出するために、オスに陣痛が起こるのです。

飲まず食わずで世話をする甲斐甲斐しい父親

さて、今までお話しした動物たちは、たくさんの時間とエネルギーを成長中の子孫に費やしています。

ただ、タガメもダーウィンハナガエルもタツノオトシゴも、いったん子供が生まれれば、父親関係は終わりです。彼らは自分の世界へ戻っていきます。

しかしエミューの場合は少し違います。この巨大な、空を飛ばないオーストラリアの鳥は、よく一妻多夫制となります。複数のパートナーに求愛し、交尾をするのです。

メスは最高24個の卵を産むと、これで仕事は終わりです。次の相手を探しに行こうが、なにをしようがあとは自由です。

一方、彼女のパートナーの仕事はここから始まります。彼はまさに、どこへも行きません。7、8週間もの間、なにも食べず、飲まず、排泄もしないのです。

その代わり用心深く卵の世話をします。巣に乾いた草を詰め、数時間ごとに慎重に卵を回転させ、卵一個一個を温めます。

卵が孵化すると、雛鳥たちは7ヵ月近く父親と一緒に過ごします。その間、父親は食べ物の探し方を教え、その一方で近づくものを積極的に追い払います。たとえ相手が母親だとしてもです。

紹介した動物の父親たちにとって、自分の子を育てることは、多くの資源を受け取ることですが、その過程において、子供たちの生存確率を上げる手助けをしているのです。

そして次の繁殖期になると、より多く、自分の遺伝子を残すチャンスを増やすために、いい親になれると、メスにアピールします。こうしたすべての努力が最終的に成果を残すことになるのです。