ジカ熱はもともと怖くなかった?

ハンク・グリーン氏:私たちはよく知らないものへとより一層の恐怖を抱きます。とくに公衆衛生のこととなるとなおさらです。

先日、WHOはジカウイルスに対し国際的な緊急特別警戒措置を施行すると発表しました。現在、ジカウイルスは南アメリカを中心にアメリカ本土へと爆発的な広がりを見せています。

ここで私たちが絶対に聞きたくない3つのキーワードが登場しました。「ウイルス」「緊急」そして「爆発的」です。

しかし、このウイルスに関してはまだ未知の部分が多くあり、研究者たちは大急ぎでできるだけのことを解明しようとしています。何十年も「無害」であったはずのウイルスが近年になって蕁麻疹と深刻な新生児の出生異常を引き起こすものへと変貌したのですから。

ここでは、ジカウイルスについて今、解明されていることをお話いたしましょう。

ジカウイルスは1947年にジカウイルスが発見されたウガンダのジカ森林の名前を取って付けられました。

このウイルスはデングウイルスや黄熱病ウイルス、ウエスト・ナイル・ウイルスと同じ種類に分類される熱病ウイルスの一種ですが、どれもこれも不快なウイルスばかりです。ジカウイルスに感染した場合、普通より少しひどい風邪のような症状が現れます。

ジカウイルスはそのほかの熱病ウイルスと同様にヤブカを媒体とし、刺されることにより感染します。しかし、何十年もの間このウイルスはアフリカとアジアの間で頻繁に確認されていましたが、深刻な被害は報告されていません。

感染者には発熱、蕁麻疹、頭痛などの症状が見られましたが、それだけでした。80パーセントもの感染者は発病することさえなかったといいます。

なので、今回の爆発的なウイルスの拡大はなんらかの原因によって、それまで安定していたヒトと蚊とウイルスの関係性が崩れてしまった可能性が挙げられています。

ジカ熱と小頭症との関連性

若い時期にジカウイルスに感染したことがある人は、発熱によって苦しんだ後は体内に免疫ができてしまうので、その後、妊娠する頃にはその免疫によって先天異常の症状から守られていたといいます。

しかし2007年ごろにこのウイルスは拡大します。太平洋西南にあるヤップ諸島という隔離された諸島郡でジカ熱が大流行したのです。感染はその諸島に住む島民全体の4分の3にまで広がったと言われています。

しかしこの時も症状はいたって普通の熱病のようでした。死者はおろか、入院する人さえいなかったそうです。

ですが、近年2015年の11月にブラジルの防疫官はこのウイルスのリスクについて勧告し始めました。同年におよそ4,000の人の異常なまでに小さな頭部の赤ん坊が生まれたからです。この症状は小頭症と呼ばれるものです。

この年の前年までは、小頭症が確認されたのは5年のうちに150件ほどでした。

これはとても悪いニュースです。もし、この小頭症の新生児たちが出生後、生き残ることができたとしても、彼らは生涯にわたり深刻な体の発達障害や学習障害と闘ってゆかなければならないのですから。

小頭症を引き起こす理由はほかにも遺伝や、栄養失調、または妊娠中の重度の飲酒などさまざまですが、これらの原因ではブラジルで起こった4,000件もの小頭症新生児出生の原因には当てはまりません。

しかし、その年はブラジルでジカ熱が流行した年でした。最初にジカ熱が確認されたのは2015年の5月でしたが、とくにこれといった対策はとられませんでした。

始めはジカウイルスと小頭症にはなんの関係もないように思われていましたが、ジカ熱に感染した大勢の妊婦と小頭症を患った胎児を検査したところ、ジカウイルスのものであると思われるRNA(DNAと同様の遺伝物質)が検出されました。

しかし、本当のところはジカ熱と小頭症の関連性については完全に明らかになったわけではありません。ですが、この件に関する色々な確証がほぼ毎日明らかにされており、国の当局はジカ熱は小頭症を引き起こす原因である可能性が高いと明らかにしています。

ジカ熱にはワクチンがない

残念ながらジカ熱にはワクチンがなく、開発するには何十年もかかるであろうと予測されています。なので結果的に疫病対策センターの推奨するジカ熱対策は蚊に刺されないように徹底するということに尽きるようです。

例えば、妊娠中または妊娠の可能性のある女性は上の図に赤く示されている26か国へ渡航しないようにする、といったものです。とくに南アメリカとアメリカ本土ではウイルスの著しい広がりが確認されているので、避けるべきでしょう。

さらにもしあなたがこれら26か国のうちの1つに住んでいるのなら、虫よけを使い、長袖と長ズボンでできるだけ皮膚を露出させない、または蚊の巣窟である水の近くで立ち止まらないなど、なにがなんでも蚊に刺されないように対策を取るべきでしょう。

こうしている間にも研究者たちはジカウイルスについてまだ明らかにされていないことを突き止めようと最善を尽くしています。例えば、ジカウイルスが原因の小頭症の例が以前にもあったのか、ブラジルで発見されたジカウイルスは特別なものなのか、または感染経路がほかの国の例とは違っているのか、などです。

ドクターたちがこれらの疑問を体当たりで解明しようとしている間、研究者たちはウイルスの拡大を食い止めることに一点集中し、できる限りのことをしています。

ヤブカは主に熱帯の地域に生息していますから、彼らが突然、生息地域を拡大する心配は今のところはないようです。

しかし、もっと深刻な問題はもしウイルスに蚊を媒介する以外の拡大方法があった場合、または90年代に流行したウエスト・ナイル・ウイルスのようにウイルスがより強力なものへ変異した場合です。

ウイルスは変異するものであり、私たち人間は国をまたいで動き回ります。どちらもジカウイルスの拡大を後押しする因子なのです。

何人かのジカウイルスのエキスパートはこのウイルスは2014年のワールドカップの時に何千人ものスポーツファンに付いてやってきたのではないかと考えています。

そしてこの夏、リオではオリンピックが開催されますね(8月5日に開幕)。どうやら私たちにはこのウイルスについてもっと解明するにはとても短い時間しか残されていないようです。