ロボット技術で楽しく便利なライフスタイルを

藤岡清高氏(以下、藤岡):事業内容について教えていただけますでしょうか?

谷口恒氏(以下、谷口):ZMP(ゼットエムピー)はロボット技術を応用して自動車向けの自動運転技術、開発ツールの提供などを中心に行ってきました。現在まで以下の4事業を展開していました。

1.カー・ロボティクス・プラットフォーム及びセンサ・システム事業 2.開発支援事業 3.実車実験支援事業 4.コネクティッド・カー事業

これからは、この自動車分野で培った技術を広くほかの産業に展開していこうと思っています。それが今年のテーマです。

今後はこの事業を自動車事業として1つにまとめようと思っています。そして2014年7月に発表しましたが、これからは自動車向け事業で培った技術を物流、ヘルスケアに横展開していきます。

2001年創業時の理念は今も変わらないですけど、“ロボット技術で楽しく便利なライフスタイルを創造しよう”です。

創業時から僕自身はロボット技術を幅広い分野に提供したいと考えていたので、自動車だけにこだわっていないんですね。当時(2001年頃)二足歩行が評判になり、僕らは二足歩行ロボットベンチャーとして世界で初めての専業メーカーでした。

そのときは、ヨチヨチ歩きの二足歩行ロボットしか作ってなかったのですが、二足歩行に限定しないでロボット技術を応用していこうと考えました。

理念にある通り、ロボット技術を楽しく便利なライフスタイルに使っていこうというので、二足歩行ロボットからスタートして音楽ロボットを作って今度は自動車ロボット(自動運転カー)を作ったらヒットしました。

時代にも合って、たまたま自動車で持続的な成長が生み出せるというので今ZMPは自動車ロボットを中心にやっています。

自動車に関する技術は、先端技術の塊で世界に誇れる日本の強みでもあります。この自動車技術をほかに転用していけば実用化しやすいだろうと思っています。

現在、家電や携帯電話、スマートフォンのモノ作りにおいては海外勢が力を持っていますよね。そうなるとやっぱり日本は自動車が強くて、さらにいうとロボットだと思うんですよ、自動車ロボット。このベースとなる強みを生かしてまだ物流やヘルスケアに参入していこうと思っています。

物流業界、ヘルスケア業界への参入

藤岡:なぜ物流業界、ヘルスケア業界を選択されたのですか? またそれぞれの事業イメージを教えてもらえますか?

谷口:まず物流について話しますと、会社の近くのある宅配会社の倉庫で人が働いているのを見ていたら絵が見えたんですよ、「これだ!」と。だんだん妄想が膨らんできて、倉庫の中でロボットが動いている絵が、構想が浮かびました。もういてもたってもならないくらいでした。

これまでZMPは自動車メーカーにセンサーなどを提供して、メーカーがクルマを作りますが、物流業界には僕らが理想とするようなプラットフォームがないんですね。

つまり、機械や車のようなもの、ZMPの技術を入れるハードがないんです。そこで物流用のロボットを作って物流業界に販売していけばいいのではと考えました。

物流業務といっても、倉庫内から倉庫外も含めてすべての業務を対象としています。道交法の問題もあるので公道で走り回るのは問題になりますのでまずは倉庫内業務を考えています。いずれは倉庫の外、公道にも出していきたいなと思っています。

一般的に物流倉庫内でピッキング(お客様からの出荷データに基づき、倉庫内から商品を取り出すこと)や在庫管理などの業務のほとんどを人が行っていますがここの作業をロボットで自動化したいと考えています。

最初は倉庫内で人が手間をかけてモノを移動・運ぶところだけを自動化したいです。今は商品が多品種少量になっていますから移動が自動になるだけでもかなり楽になると思います。物流業務はそもそも労働集約的であり、アメリカの場合は倉庫が広くてラインを自由に組んだりできますが、日本の倉庫は狭くて小回りの利く倉庫を作らなければならない。

そういうところに物流ロボットを導入して例えば生産性を20パーセントアップするとか、そういうレベルを目指しているんですね。でも全体で20パーセントって大きいと思うんです。まずは実用化しやすいところから入っていこうと。

船舶物流になるとデンマークや北欧が強いじゃないですか。今なおバイキングの風情が残っている感じですし、この世界はまだオールドインダストリーで大きく変えていける分野だと思うんです。

命を見守るウェアラブルサービス

藤岡:それではヘルスケア分野の事業へ参入する理由や事業イメージについても教えていただけますか?

谷口:まず、ロボット技術は産業に革命を起こす技術だと思うんですね。古くて大きな産業を狙っていこうと考えました。

日本の自動車産業は57兆円でヘルスケア・医療産業は40兆円くらいの規模があり、ここをターゲットにしようと考えました。なお、物流産業が20兆円くらいです。こういう大きなオールドインダストリーのところにロボット、人工知能を入れてITの次の産業革命、産業革新を起こしていけるチャンスだなと。

具体的には心臓の見守りサービスを考えています。日本では毎年、心臓の異常が原因で6万人もの人が突然死しています。私の身の回りの経営者や管理職の方が出張先などで突然死された話をよく聞きます。我々のサービスでこのような不幸なことを少しでも未然に防げるようにしたいです。

心臓の上に貼るウェアラブルセンサーが心拍データを取得し、スマートフォンやクラウドで解析する技術を使って、自分の心臓の様子を見える化して、深刻な状態になる前に、様子を尋ねたり、運動を進めたり、無理をしないようにアドバイスをしていくようなイメージです。

現在出ているウェアラブルサービスでは、ダイエットや健康管理までですが、もっとクリティカルに死を救うとかそういうところまで踏み込みたいと思っています。

ダイエットやカロリー管理だけだと、そこまで強く必要とされていないじゃないですか。なくてもなんとかなってしまうし“もういいよ、好きなもの食べて、ちょっとくらい太ってもいいや”となってしまう。

働き盛りで40代とか50代で突然死する人多いじゃないですか、心臓止まったり。そういう人は休んでいられない、働かないといけないし。でも体調のブレがすごくあるんですよ、そのブレが危険なレベルになったときに知らせてあげて、「ちょっと体を休めなさい」と。でもこれは自分の感覚でしかわからないですよね。

それを心電計によって心筋梗塞とかが起きるような手前のところで知らせてあげるようなそんなサービスです。

技術的には心臓の微弱な電気を取り出してそれを信号処理します。これはロボットでいうセンサーの信号処理です。それをインターネット上の人工知能で機械学習をして、「この人はこういうパターンで調子が悪くなる」とか、「このパターンが続くと危ないよね」とか、「おっ、こういうパターンになったからちょっと出張中でも体を休めて今日は無理をしないように。」とか気付かせてくれる。

これが大きな健康の差につながると思います。「今日は宴会あったけどやめとこう」とか「ちょっと飲むのを減らそう」とか。そこに気付かずにスケジュールを詰め込んで負荷がかかって急に倒れてしまったりします。

貴重な命もそうですが経済的にも大きな損失だと思うんですね。数十人とか数百人、場合によっては数千人、数万人をリードしているリーダーというのはそう多くない。そういうエグゼクティブに対しても心臓や健康を見守ろうと、そんなことを考えているんですね。

藤岡:自動車から、物流、ヘルスケア、さらに今後はどのような軸で事業を展開されていくのでしょうか?

谷口:あらゆる分野に手を広げようと思っているんですね。スリーエムみたいなモデルで、ビジネスユニットで言うと総合商社ですね。総合商社は一つひとつの事業に事業部長がいて、大きな事業を除けば新規事業って小さいじゃないですか

20人とかの組織に部長がいて、うまくいかなかったら撤退したり、成長しそうだったらより力を入れたり。ボストンコンサルティンググループの金のなる木じゃないですけど儲からなくなってきたものは撤退して儲かったお金で新規事業を育てる。

そういう小さいユニットがたくさんあって全体のポートフォリオで売上が何兆円とかになっている。ZMPもそういうビジネスモデル、ロボット界の総合カンパニーを目指しているんですよ。

ZMPのロボット技術の強み

藤岡:ZMPさんの強みであるロボット技術について教えていただけますか? 私のような素人にはロボットは少しわからなくて。

谷口:基本的なことを言うと、ロボット技術とは感知をするセンサーがあって、人工知能、考える脳があって、モノを動かす筋肉、モータがある、人間のようなものです。目で見て、耳で聞いて、知覚して頭で考えて手足を動かす。人型ロボットって一番わかりやすいのでロボットの象徴です。

車も同じようにカメラがあって、前の環境を見て、人工知能が「人がいるよ、止まれ」と判断してブレーキをしていくと。そういう一連のシステム技術なんですよね。

センサーだけをやっていたらセンサー屋さんですが、知覚して人工知能で考えて行動を起こす、そういう一連のシステム技術です。ITで言うとSI(System Integration)や統合技術みたいなものです。

ロボットカー(自動運転車)でいうと、人間が運転中によそ見をすると人を轢いてしまいますが、そのときに人間の代わりに人を認識してブレーキをかけてくれる。人型ロボットがクルマに乗っているようなものですね。

目で見るのと同じようにカメラやレーザーで前方の物体を見て認識します。人間を前方に見つけて、近づいてきたら運転者は「危ない、轢いてしまうよ!」とブレーキを踏みますが、ロボットカーも同じように、前方の物体がある距離まで近づいてきたことを知覚したらブレーキを踏むます。

センサーについてはメーカーの開発が進んでいますがまだまだ出来ていないことでやるべきこと、したいことはたくさんあります。僕らは無いものはどんどん作っていきたい。最終的に一番強みになるのは“考えるところ”、つまり頭脳、人工知能だと思います。

それができることによって人間と同じように、人が飛び出してきても「まだ遠いからいいだろう。」とか「近づいたからブレーキ踏もう」とか考えて、判断できるようになる。

この脳のところというのはまだクルマには実装されてないのでここもやっていきたいです。

日本のロボット技術が世界で勝てる可能性

藤岡:ZMPは世界を相手に事業を展開しようと考えていますが、ロボット産業で日本が世界で勝てそうな理由を教えてもらえますか?

谷口:日本は部品メーカー、素材メーカーの持つ技術力が世界トップレベルであることが大きな理由です。ロボットを作ろうとするときにロボット技術だけではだめで部品、素材のインフラがとても重要になってきます。

日本の自動車産業が世界の最先端であり、トップレベルであることを支えているのはこの部品、素材のレベルの高さだと考えていて、ロボットについても同様に最先端を行く可能性があると思っています。

部品メーカー、素材メーカーは日本全国に分散し、たくさん存在しています。なんだかんだ言って日本は部品や素材が優れているんですよ。

実際に日本の産業用ロボットはファナックが世界トップレベルでもあります。ダヴィンチというアメリカの有名な医療手術ロボットの会社がありますが、中の部品のほとんどは日本製だったりします。

藤岡:日本は技術者の裾野が広いんでしょうね。iPhoneも中を開いたらほとんど日本製品ばかりのようですね。

谷口:そうです。あれは本当にもったいないんですよね。スティーブジョブスのようにビジョンを持って、「iPhone作るぞ!」と言えたところが一番儲かるんですよね。コンセプト考えた者が勝ちます。だから物流分野は今度はZMPがとりますよと。

物流ロボットを作ろうとした場合、必要な部品、素材などはだいたい日本にありますから、日本の部品メーカーと組めば最強のはずです。

これまではiphoneみたいにコンセプトをアメリカが考えて、その部品を日本が供給してきましたがこのコンセプト作りの部分を創造性を発揮して日本発で出来ることができれば、日本の部品メーカーと組んでやれば本当の強みが活かせると思うんです。

日本の産業自体が大きくなっていきますし、日本企業同士でのやりとりなので開発のスピードも速くなります。実際に、今ZMPが開発しているロボットはまさに日本を代表する機械部品メーカーと組んで作っています。

ZMPの強みはロボット技術、トータルでデザインするので、部品メーカーと協力し合って一緒にロボットを作っていきます。そういう意味ではアップルみたいな存在ですよね。モノを作ってうちが売る。

ZMPはもともと自前でロボットそのものも作っていましたので、ハードメーカーの機能も強化していきたいと考えています。ハードを作らないと新しいイノベーションは起こらないと思うんですよ。ハードあってのソフトだと思っています。

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