カブトガニのすごさ

ハンク・グリーン氏:しっぽの生えた岩にも、バカでかい虫にも見える。それでいて遥か昔から存在して、しかもめちゃくちゃカッコいいカブトガニは尊敬に値します。

あなたはもう、彼らに助けられたことがあるかもしれません。

まず最初に、カブトガニはカニではありません。昆虫、クモ、甲殻類などと同じ節足動物の仲間ですが、カブトガニ科という世界で4種類しか属していないグループに属しています。

クモやサソリなどのクモ綱により近いですが、実際にはカブトガニ独自の生態を持っています。例えばカブトガニは遥か古代から生息していて、最古の化石はなんと4億5000万年前のものです。

これはつまり、5億年も昔からほとんど変わらず、ほかのどんな生物よりも長く存在しているということなのです。まさにサバイバーですね。

カブトガニがそんなにもタフなのは、その血液に秘密があります。彼らの血は綺麗な青色をしています。人間の血は、酸素を行き巡らせるヘモグロビンが鉄を含んでおり、そのせいで赤色をしています。一方、カブトガニは銅を含んだヘモシアニンのせいで青色をしているのです。

鉄は酸化すると赤色になりますが、銅は酸素と反応すると青色になるからですね。しかしこれは、興味深いことのまだ半分です。

海中はバクテリアでいっぱいですが、哺乳類と違ってカブトガニは免疫システムを持っていません。感染と戦う白血球がいないのです。

なので、もし殻をすり抜けてバクテリアが体内に侵入すれば、カブトガニの体はめちゃくちゃになってしまいます。そうならないようカブトガニは自分たちの血球にしかない科学物質を使って、有害なバクテリア、ウイルス、菌類を固めて無効化します。

血球が有害な物質が侵入したことを検知すると、コアグロゲンというタンパク質を放出することで、侵入者をネバネバしたバリアで覆い、拡散しないようにするのです。

さらにそのネバネバは固まって物理的なバリアにもなり、傷口を塞いでさらなる感染を防ぐのです。驚くべき体内防衛システムですね。

私たち人間にはそんな能力は備わっていません。そのため過去50年にわたり、なんとかその能力をモノしようとしてきました。

カブトガニが人間の医療に役立っている

1960年代にアメリカの医学者フレデリック・バングが、カブトガニの血が持つ不思議な力を発見して以来、この太古の海中生物は人類の医学分野において、基本的ながら広くは知られていない治療に大きな貢献をしてきました。

今までに注射やワクチンを受けたことがあるなら、それが無菌状態にあるかどうかは、カブトガニによって確かめられているのです。

一連の工程は、まずカブトガニを捕まえることから始まります。それから世界に5つしかない研究施設に運ばれ、献血機へ繋がれます。カブトガニは心臓の周りに針を刺され、30パーセントの血液を抜かれます。1リットルあたり約150万円で売買されるため、まるで液状の黄金ですね。

その後に研究者たちは血球からコアグロゲンを抽出して、注射やワクチンの溶液が使えるかどうかの検査に使用するのです。

抽出したコアグロゲンが注射液の溶液中に雑菌を見つけると、ネバネバした固体に変化していく様子が観察されます。固体化しなければ、その溶液は無菌で、人体に使っても問題ないわけです。

LAL(カブトガニ血球抽出成分)テスト、と呼ばれるこの方法は、単純でありながら、即座に結果がわかり、しかも代わりの方法はありません。

捕まえたカブトガニは、ほとんどが数日後に自然に帰されますが、血を抜かれたカブトガニは私たちが思っている以上に弱っているという人もいます。

そのため、LALの製造は血液の採取を年1回に留めようとしており、さらに同じカブトガニの個体からは採取しないようにし、代替の合成法の研究もすすめられています。

いずれはカブトガニを自然の中でそっとしておける日が来ることでしょう。

その日が来るまでは、注射をされた時はカブトガニに感謝しましょう。チクっとさせるだけじゃなく、健康に役立ってくれているんですから。