2024.11.25
「能動的サイバー防御」時代の幕開け 重要インフラ企業が知るべき法的課題と脅威インテリジェンス活用戦略
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尾原和啓氏(以下、尾原):結局、今後のテクノロジーの進化が、今は音楽を聞くというのがこの4象限(物質・実質・人・機械)で起こっていたことが、バーチャルリアリティみたいなことが起こると、旅行もこの4象限になっちゃうかもしれないし。
場合によっては、「地方の名産品を食べる」という行為自体も、今は人で物質的でしかなかったものが、機械で実質的なものになりうるかもしれないという。あらゆるエンターテインメントが左上から右上、ないしは全部に展開するかもしれないという話だよね。
落合陽一氏(以下、落合):そうそう。今までのプラットフォーム企業は、人にとって決定的だった場所を押さえにいってたんだけど。この4象限でエンターテインメント、例えばご飯とか、音楽とかがはられると、本当にニッチがいっぱいできるんですよ。
尾原:そうだね。
落合:その証拠に、今カセットテープの需要がめっちゃ伸びてるらしいんですけど。音楽カセットなんてふだん使わないじゃないですか。
だけど、物質的に音楽を聞きたい人が増えていて。レコードとかカセットをやってる人もいれば、全部Appleのクラウドから落としてくるようなものでいいと思っている人もいるわけです。音楽はここ数年実質的なものだったからね。
なんでこういう象限が広がるかというと、この物質と実質、人と機械に対する好みって、おそらく人によってぜんぜん違うスキームによって誕生していて。それをどうカテゴライズして1個1個ニッチを埋めていくかというのが次の課題です。
そういうのは俺が突飛に言い出したアイデアかというと、意外とそうでもなく、例えばアンソニー・ダンがいます。イギリスのRCA(英国国立芸術大学)の先生なんですけど。この人は「じゃあ、未来にフィクションを何個か作って、そういう仮説を立てて未来のことを考えていこう」というような考え方をしてる人なんですけど。
そうすると、一番重要なのは、仮説が落としうるマッピングをいろんな人が作っていくことで、うちの研究室はさっきのスキームをベースにして研究してるんですけど。そういう領域を工学的に探求していくというのが、すごく重要なことになっていく。今まではニッチを攻めてるわけじゃなくて、みんなで同じパイを攻めてたから……。
尾原:どうしても過当競争になっちゃって。
落合:全員同じことしてればよかったんだけど、領域を工学的にデータサイエンスから探求していって、どのニッチがあるかというのを、各ECごとにやっていかないといけないし、各メーカーごとにやっていかないといけない、というような状況に落ちてきて。
でもこれは、たぶんツールで提供されるから、すごく簡単にはできるんだけど、ただそこをみんなで意識していかなきゃいけないよねという。
尾原:そうだよね。例えば音楽産業を考えたときに、今までは人の物質しかなかったから、結局芸能人という一部のものが資産で、そこを奪い合うゲームをやってたけど。
「初音ミク」という機械による実質的なものが発生したことによって、歌い手とかボーカロイドを作れる人が資産に変わるから。そこの奪い合いのゲームに変わったから、今2個(機械×実質)が強いみたいな話だよね。
落合:そういうことを考えて、例えば戦略をとるときにどういうこと考えるかといったら、だいたいストーリーを1個作るんですよ。5年後とか10年後どうなるかというストーリーを1個作って。
例えば、あらゆる写真や動画の解像度が上がって、バーチャルリアリティで体験するのも実体験と変わらなくなって、写真の証拠能力も変化すると。「人間の持ってるイメージと物質の区別はつくのか?」みたいな未来に仮になったとしよう。
そういうような世界はきっとバーチャル・リアリティの文脈のなかでやがてくるんだけど、そのときに人はなにに価値を持つのかということを考える。そういうものが本当に所有したいものなんじゃないか。
尾原:はいはい。そうですね。
落合:例えば人間が所有したいものって、腕時計だったり、指輪だったり、もしくは家具だったりとかあるんだけど。そういうものは、物質の解像度がものすごく高いからそこに勝てない。
ただ、実質的なバーチャルリアリティで済むようなものは、表面がなにでできてていいし、みんなVRゴーグルをつけてるかもしれないから、解像度はそんなに関係ない世界になる。
ただ、金を払ってでも欲しいものは、デジタル技術がなかに組み込まれているけど、物質的に、例えば木目だったり、川だったりみたいな、解像度を上げていく方向になるだろうという予測が立って。つまり、すべてのものがVRになる未来ということは、アナログであって、それを所有したい……。
尾原:「所有することに欲望を感じる、物質であり機械であるというものはなにか?」を追求すること。
落合:というようなリサーチは重要です。
尾原:でもそうすると、サービスサイエンスって学問あるじゃない? そのなかでモーメント・オブ・トゥルースというのがすごく大事だと言われていて。
これなにかというと、ものを体験したときの最初の15秒で人はそこに愛着を感じるかどうかなんですよ。これの一番わかりやすいのがZippoのライター。
あれって、カチッて開くときの、密閉感から開くところの空気が入っていく感じだったりとか、重みの変化とか、ものすごい五感を刺激する構造を作ってるんですよね。そういう感覚を複数使って、しかもそれぞれの解像度が高いものに愛着が起こるという話だよね。
落合:そうなんですよね。ガラスとデジタルデータって解像度がものすごい低いので。それがアナログの手触りになってるとよい。
ただ、全部アナログの手触りにしてしまうと、デジタルデバイドな装置になっちゃうから、じゃあ、アナログをどう残しながらデバイス表示をするのかというところが、ひとつのせめぎ合いになったり。
尾原:逆にアナログのものをデジタルによって、どうチェリッシュを倍加させるかみたいなことを研究するってことだよね。
落合:そうですね。
尾原:おもしれぇ。
落合:なんでそんなことをやってるかというと、我々は今までずっと絵画の時代に生きてたわけです。18世紀とか。要は写真を撮りたかったから人を連れて来て……。
尾原:肖像画でこうやって書きますと。1ヶ月立っててくださいと。
落合:そう。1ヶ月は立たないけど(笑)、でも本当に1週間ぐらいかかったりするわけですよね。
そういうクラフトマンシップによってものができていて。それが産業革命以降、人と機械という対照概念が生まれて、機械が労働するのを人が見守るように。
尾原:そうだよね。だから、今まで1点ものだけだったものを機械が大量生産してくれるようになりましたと。
落合:それでデザインとマスコンテンツ、つまりコンテンツ消費をしながら、そのものによって、一人ひとりが「幸せに生きるってなんだろう?」というのをつくってるんだと思います。
でも今、我々はもっと別なところに行こうとしていて。さっき言った実質と物質の間、人と機械の間ってものすごくメッシュになっていて、1個1個のニッチは個別のテクノロジーを突っ込んでいかないといけなくて。
その個別のテクノロジーをどうやって実現するのかというと、実際に個人別にものをつくってもコストが上がらなくなってきた。例えば3Dプリンタで作ってもいいし、中国のシンセンに発注してもいいんだけど。
そういう小ロットのテクノロジー生産、もしくは人によるデータサイエンスによる可視化、物質化みたいなものが、すべてのメッシュに含まれるようになってきて。
尾原:簡単できるようになった。
落合:それはデザインという言葉からテクノロジーに1段上がってくると思うんですよね。
尾原:そうだよね。今までは結局、ある程度マス商品なんだけれども個別性が高い、マス商品なんだけど受け取った人にとっては作品と思ってしまう、これを追求したのがデザインであり。たぶんこれを世界で最大価値にしたのがAppleで、だからマス商品なのに時価総額最高。
という話が、テクノロジーの進化で一人ひとりがもう1回、1点ものが作れる時代になったから、「じゃあそのテクノロジーってなんだろう?」ってところを突き詰めていかなきゃいけない。
落合:そうですね。だってAppleって、マス勝利をしたあとは、すごく個別な製品を作っていて……。ジョブズが生きてたらありえないような。iPad Proも2ラインあって。
iPad自体もminiとAirがあって。MacbookもMacbook Proと普通のMacbookとMacbook Air。あとデスクトップも2つあってみたいな、最大のラインナップになってる。しかもApple Watchのバンドは何種類とあるし、サーフェイスもぜんぜん違う。
それをよしとしてきたのは、要はデザインというマスの段階が終わったから、じゃあ個人別とかコミュニケーション商品のほうにどうやって移行していくかという。
尾原:舵を切らざるをえなくなった。
落合:そう、舵を切って試行錯誤してるわけですよ。それは極めておもしろいことで。それって個人のコンテキストが多様化していって、コミュニケーション消費になっていく1つのかたちなんですよね。
たぶん一番具体的でわかりやすい例で言えば、AKB48という全員いるアイドルの区別はつかないけれども。でも、昔は松田聖子とか1人のアイドルのCDを300万枚売る戦略で攻めてたわけだけど、(今は)100人ぐらいのファンをニッチに分けて、それを合わせることで……。
尾原:そうすると1人ぐらいは、その人だけのアイドルが合うでしょうと。
落合:そう。合うものが存在する。
映画産業も、全員にマスコンテンツを提供して、脚本を考えてたわけだけど。例えば今、ハローウィン消費って映画産業の消費と同じぐらいの産業規模があって。
それって、我々は個別の体験により多くのお金を払うことでエンターテインメントにしていくということが普通に発生するようになった。これを一番インターネット企業でうまくやったのはAmazonなんだけど。
尾原:Amazonだね。
落合:ロングテール消費をどうやってインターネット上で展開していくかということを考えていたわけだけど。ここに個別のテクノロジーが入ってくるのが21世紀なんじゃないかなということが言えると思います。
尾原:ちなみにこのへんの話は、このあと原田曜平さんのセッションがあると思うので、そこに行くとすごい深掘れる。
さっき言った4つの象限のなかの、人と物質はどんどん体験の時代に入っていくので、この体験の時代をどのように設計するのかというのが、原田曜平さんの仕事です。僕たちの話は、たぶん右下にしながら、全象限がどうなっていくかということを話す感じだよね。
落合:そうですよね。そのなかで、我々は今、マスメディアの時代から現実の物理空間の時代に戻りつつあって。
例えばAmazon Dash Buttonはメディアかと言われたらメディアなんだけど。でも、マスメディアかって言われたらぜんぜんマスメディアじゃない。
尾原:あれは個別性のあるインプットでしかないからね。
落合:そういう散りばめたメディアによって、マテリアルなのかバーチャルなのかわからない体験をずっとしていくようになるんじゃないか、ということが考えられるわけです。
尾原:さらに言えば、今までは結局、アウトプットがスクリーンに限られていたものが、ありとあらゆるものがスクリーンになりうる。
落合:そういった研究をしてます。たぶん20年ぐらいすると効いてくるんだけど。
そのなかでずっと、「21世紀は魔法の世紀」と言ってるんだけど。なんでかというと、マックス・ウェーバーが昔「魔術から科学へ」と。つまり「科学技術によって世界は脱魔術化した」と言ってて。
昔はなんで火で炙ったら細菌が死ぬのかわからなかったんだけど、パスツールが出てきて、中に細菌がいるのかと。火で炙ってて腐らなくなったのは細菌を殺してたんだというのがわかったんだから。
尾原:昔の人はそれを魔術だと思ってたわけですね。
落合:思ってた。
それを全部科学で置き換えてみたら、科学技術というのは1人の人間が学習するには十分に足らないほどに大きくなってしまって、世界がもう1回再魔術化し出したのが今です。
それがどうなってるかなんてまったくわからないので、一人ひとりにぜんぜん違うコンテクストが必要なんですよ。
理由がわからないから結果が使える世界になっていて。これはすごい、工業社会において虚無感が生じているというのは80年代から指摘されてることで、ここを埋めるのがナラティブだと思うんですね。
尾原:そうですね。この話を聞いて思い出したのが、ハインラインが昔『月は無慈悲な(夜の)女王』という作品を書いていて。
そのなかで、むっちゃくちゃ技術が進化しまくったあとの民族の話を書いてるんだけど。実は科学者たちは民族に対して、原子力を宗教として説明するんですよ。要は、原子力の制御棒は聖なる棒だから、これの取り扱いを気をつけなけらばならないみたいな。
だから結局、原子力を全部説明しようとするともう説明しきれないから、宗教というストーリーを与えることによって人が不安なく生きられるようにした。それに近い話だよね。
落合:そうですね。「宗教」という言葉はいい言葉で。宗教は一番人間に簡単にインストールできるソフトウェアなので。人間ってソフトェアなしに動いてるように見えるけど、宗教と倫理観というソフトウェアの上に動いているんですよ。
尾原:そうだよね。
落合:工業化社会において、人間はだいたいお金に対する信奉というソフトウェアで動いてるんだけど。そこに非常にナラティブ、ストーリーを求めたがるんですよね。
例えば日本はその裏返しで、ECサイトの文章はひたすら長くなる傾向にあるし、ひたすらストーリー付けが必要になってくるという……。
尾原:そういう意味ではスティーブ・ジョブズというのは、ある種のキリストのわけだよね。
落合:ある種の偶像なわけです。
尾原:Appleがなんですごいのかということを説明するよりも「スティーブ・ジョブズだから……」という宗教をナラティブに答えてしまえばいいという。
落合:そこのナラティブをなんでつけるかというと、コンピュータだって、行為と出力の関係性ってほぼわからないからね。
どんなプログラムが、なにで書いて、どこからものが売られてきたのかまったくわからないので。なかに入ってるものはたぶんすごいものだとしか、言葉では表現できないんだけど。
でも、行為と出力の関係性をどうやって説明するかという意味で、「よいデザインのものでよい生活をしよう」みたいなことを発想してきたわけです。
なんだけど、これ系の文化ってきっと中国の新興メーカーのシャオミ(小米)が上陸してくるとたぶん一気に変わるんじゃないかと思って。
尾原:シャオミがなにをやったかというと、イノベーティブな製品をめちゃめちゃ安く作っちゃって。しかも仲間と一緒に作るから「俺たちで作ったものだ」みたいな感じにしちゃうことなんだよね。
落合:知り合いのインキュベーション施設の資料なんだけど。シャオミの作ってる製品はぜんぶ元ネタがあって。元ネタがあるものをひたすら作ってるんだけど。
尾原:そうだね。それで値段を3分の1とかにしちゃうんだよね。
落合:シャオミというのは究極のECで、あらゆる元ネタがあるものを一番安い値段で提供するということをしてるんですよ。
「それいいの?」と言われたら、「倫理観とかわかんないから、良いのか悪いのかわからないよ」みたいな話なんですけど。
尾原:ただ、ほかの国にものすごく誤解されてるのは、シャオミって「安かろう悪かろう」みたいに見えるんだけど、実は中国のなかではシャオミのファンがいて。
ファンと一緒に中国人向けにカスタマイズして作るから、実はそこの物語とナラティブが乗っかってるんですよね。
落合:ポイントは、最初は安かろう悪かろうだと思われてたんだけど、最近は安くてよいものを。
尾原:そうなのよ。
落合:「GoProより写りがいい!」みたいな。シャオミ「Mi4」まではAppleのパクリ携帯で、Appleよりも廉価なものだったんだけど、「Mi5」はとうとうiPhoneをパクるよりも性能がよかったんだよ。この戦略は我々日本が松下の頃やってた戦略と一緒で。
尾原:そうだよね。
落合:これをEC上に展開したのがシャオミです。ECなら逆に直送できるし、顧客と直接つながるので。
世の中に出回ってるあらゆる製品をより安いコストで流通させて、より安い製造コストで作って展開していくというのは非常に賢かったとしか言いようがない。
尾原:なおかつAppleの時代は、Apple Storeというデザインの場所によってブランドを作らなきゃいけなかったものが、オンラインだとコミュニティを作ることで「仲間と一緒に作ってる」というナラティブを入れることによって、安いんだけれども「俺たちのもの」という作品に変えてるんだよね。
落合:うん。それで例えば、これからまだ産業化してないようなものっていっぱいあって。例えばVRってまだどっちが勝つかわからないじゃないですか。安いほうかでかいほうか。
でも、これ「どっちが勝つかわからない」じゃなくて、「どっちもある」が正解なんですよ。このナラティブな世界においては。カードボードを売るんだったら、こっちにも逆張りしておかないといけないくて。
そういうペアは必ず存在して、例えばホロレンズは実世界型なんだけど、じゃあこの3つのペアで象限をはったら、これでVRの專門ストアができるかもしれないし。
どこまでが物質でどこまでが実質かというところをどんどん埋めていく。ものってどんどん出てくるから、それをロングテールで押さえていくような戦略の立て方が非常にいっぱいできるわけですよ。
尾原:そうですよね。
落合:それをたぶん考えていかないといけない。我々が今日「ナラティブ、ナラティブ」ってずっと言ってたんですけど。このナラティブって言ってたものは、だいたいビットで香りづけされた物質なんですよね。
尾原:結局人って物質を味わってるようで、ものを味わってるようで、実は物語を楽しんでいる。たぶん楽天で買ってるいろんな食品だとか工芸品ってそうですよね。それを難しい言葉でいうとビットで香りづけしたアトムになる。
落合:そう。だから、アトムを売るのにどういうストーリーをつけるのかというのをずっと考えていて。でも、今後きっとアトムじゃないものも売っていかないといけなくて。それってたぶんナラティブを売ることになるんだけど。
尾原:そうだよね。ナラティブ単体をバーチャル・リアリティだったり、つもり実質的に味わうということをもっともっと売れるわけだよね。
落合:そう。実質的に味わえるものをたぶん売っていかないといけない。
尾原:だから、今までコマースというのは、物質的なものを売るeコマースと、旅行とか体験を売っていくサービスコマースという2種類しかないと思われてたんだけど。実質的なものを売るというバーチャルコマースがどんどん増えていくということだよね。
落合:これはナラティブが増えるので、だからサービスコマースかつeコマースみたいな。
尾原:だから、体験と消費がもう分離できない時代になってくるから。
落合:だから、そのなかにどういうプロットを置いて、どの領域を取っていくのかをけっこう本気で線で囲っていかないといけないので。今日は話してて、それを考えるきっかけになればなと思ったわけです。
尾原:質問が起こるのかというところはありますけれども。質問のある方はぜひ。
落合:ないですか。ないない? ないなら……。
尾原:ぜんぜん関係ないことでもいいですけど、どうですか?
質問者1: ナラティブ、ナラティブってかなり一生懸命、流行らせようとしてるんじゃないかというぐらいに思ったんですけど(笑)。
落合:いや、そういうのじゃなくて(笑)。
質問者1:もうちょっとそのあたりの説明いただければと思います。
尾原:いわゆるナラティブというのは、みなさんの言葉でいうと「ストーリー」とか「物語」という言い方のほうが馴染みはあると思うんですけれども。
なんで「ナラティブ」と言っているかというと、ナラティブは日本語で言うと難しいんですけど、おじいちゃんとかおばあちゃんとか、村の長老が「昔こんなことがあったんだよ」みたいな感じでお話をする。「口伝」という言い方をするんですけど、人から人に伝わっていく物語のことをナラティブと言うんですね。
なんでストーリーじゃなくてナラティブかというと、ストーリーはもう映画みたいにできあがっちゃってて、完成されて変わらないものなんですよ。
でも、ナラティブというのは、おじいちゃんがしゃべるのか、おばあちゃんがしゃべるのか、孫なのか息子なのかという、状況によって少しずつ変わっていくんですね。
場合によっては聞く人自体が参加するかもしれない。そういうふうに、物語というのは「一方的に提供するもの」から「みんなで作り上げるもの」に変わっていってるというところは大事だし。ナラティブの特徴は終わりがないんです。ずっと一緒に続いていく旅なんです。
とくにECのものって極端な話……例えば、ずっと子供の頃から食べてるお醤油があって。その醤油を味わうとちょっと昔を思い出したりみたいなものありますよね? それがナラティブです。
このナラティブというものは、今は物質的なお醤油によって起こっていたものが、もしかしたら今後はバーチャルで実質的になにかの映像と一緒に体験すると、その体験を想起するかもしれないというふうに、再構成されていくということですね。
落合:ざっくり言うと、昔はテレビメディアで紹介される一方的なストーリーをユーザーが見て、「これ知ってる、○○だよね」って全員が同じことを言ってたんですけど。
今はSNS上の評判とか、例えばLINEグループとかの小さいコミュニティ上で伝わる伝わり方って、千差万別に伝わっていくわけじゃないですか? それって、たぶんストーリーじゃなくてナラティブだよねというような話。
尾原:今までは「テレビで紹介されたティラミスをみんなで食べた。わーい!」と言っていてよかった時代なんだけど、FacebookとかInstagramでどう承認をもらうかという勝負に変わってるから。
そうすると、一人ひとりが「私だけの体験」というふうに言わないといけないんですよね。だから診断ものとかめっちゃ流行るじゃないですか。
でも診断ものだと結局、それはそれで類型化されたものなので、イベントだったり、その人が独自のトラブル・アクシデントみたいなものを含めてどう物語を起こすかということに、ものすごく価値をおく時代になってるという感じです。
質問者2:ちょっとまだ私も理解してないんじゃないかなと思うんですが……。
尾原:大丈夫です。ほとんどの人が無理だと思います。突っ走ってすみません。
質問者2:バーチャルとリアリティの融合は、なにをもって融合なのかというのをちょっと、具体的な例があれば教えていただきたいんですけど。
落合:融合というよりは、ユーザーの選択において、将来物質的なものと実質的なものの区別がつかなくなってくるのではないかと言われていて。
例えば飲み会をイメージしてほしいんですけど、飲み会に行ってお酒を飲むという行為には2つの目的があって。1つはうまいお酒が飲みたいということ、もう1つは友達と会話したいということがある。
例えばヘッドマウントディスプレイをつけて会話するということがありえるなら、飲み屋に行かなくても、家でお酒を飲んでればOKなんじゃないかというシチュエーションってありえるじゃないですか。
「そんなことやるやついるのかよ?」って思うのかもしれないんですが、ニコニコ生放送が出てきたときに、コンテンツとして流行ったのは、1人でパソコンを持って飲み屋に行って晩酌するんですけど、相手もそのWebカメラの向こうにいて飲むみたいなものが流行ったこともありました。
そういう物質的には自分1人で体験できるもの、もしくは近場で体験できるけど、実質的にはみんなで一緒になったような感じがコンピュータやインターネットを通じて出てくるようになる。
それは最初に、解像度が少ない、小さいとか、音波が届きにくいとか、回線速度の理由で断念してたようなものが再び戻ってこようとしていて。
今、映像と音に関しては十分高速に他人と共有できるようになったので。それがユーザーに落ちてくると、物質的に人に会わなくても、実質的なものでもいいかなというラインがどんどん下がってきている。
文化的に全体的に下がってきているので、そこに対する複数のビジネスがたぶん成立してきて。それはおもしろよねというようなところです。
尾原:僕はふだんバリ島に住んでまして、日本にはこういうロボットがいるんですね。本当はこういう講演はこのロボットでやるんです。
なぜならこうやっておしゃべりするのって、実質的にはこのロボットが話してもなにも変わらないはずじゃないですか?
ロボットでやっても効果が変わらないんだったら、僕はバリ島にいながら移動する手間とか暇をかけずに、みなさんに向かってお話できるということが得られるわけですね。
でも、なんで楽天EXPOにリアルで物質的に来てるかというと、やっぱり楽天のEXPOの肝って、講演した後に実際に下に降りて、いろんな方とお話しさせていただくと。朝まで店舗様と飲ませていただくということは、残念ながら今はバーチャルではできない。
でも、5年後にみんながバーチャルリアリティ(のゴーグルを)をはめるようになったら、講演が終わったあとに、バーチャルのなかで「さっきの講演おもしろかったです」と言って対話させていただくということも実質的にできるようになるんですよね。
そうするとたぶん、2年後くらいはバリ島にいたまま楽天EXPOに参加するかたちになるんじゃないかなと。
落合:ポイントは、物質が好きなのか、バーチャルでいいのかというのは、たぶん世代や年齢や性別によって大きく違います。どれが主流になるかということではなくて、たぶん全部存在しうるんですよ。
尾原:僕はたぶんバーチャルでいいやと思っちゃう。それは人の嗜好によるんだよね。
落合:その嗜好を、今までは統一的なメディア1個を押さえればよかったんだけど、そうではなくなってきた世界なので、そこを1個1個ちゃんとニッチを区切って埋めていきましょうというようばトークでしたね
尾原:なので、さっきの4象限ですね。これをみなさんの店舗さんで扱ってる商品に考えたときに、今は人によって物質的にやるしかないから、こういう商品の扱いをしてるけど、実質的に変えたときになにに分解できるんだろうと? 例えばこのEXPOは、人から講演で情報を聞くだけだったら、実質的にはYouTubeでいいよね。
だけど、「物質的な人のつながりって絶対大事だよね」というかたちで分解して、考えていっていただければ少しヒントになるのかなと思います。ちょっと今日はぶっとんだ話でしたけれども、落合さんどうもありがとうございました。
落合:ありがとうございました。
(会場拍手)
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