未来技術で買い物、ECはどうなるのか

尾原和啓氏:今日はECの未来を語るんですけれども。私は、去年の2月まで楽天にいさせていただいておりまして、楽天ID決済を担当させていただいたり、あとはViberの買収に携わっておりました。そういった観点から、ECの未来について語っていければと思います。

落合さんの説明はすごい難しいんですけど、どうしましょう?(笑)。

落合陽一氏(以下、落合):芸人です(笑)。

尾原:いやいやいや(笑)。

落合:ふだんはメディアアーティストと名乗っていて、筑波大学の先生をしてたり、あとは一般社団法人の理事なんかもよくやってました。

「未来はどうなるかというのを考える」のは1つの学問として存在していて、メディア研究とか呼ばれたりするんですけど、そういうことをやっています。(スライドの)後ろに出てるのは1902年の映画で『月世界旅行』という。

尾原:『月世界旅行』ですね。見える。

落合:この映画では砲弾に乗って月に行くんだけど、月で宇宙服も無しに出てくる。実際の問題がいろいろ克服されて、アポロが打ち上げられるまでには、60年ぐらい日取りが開くことになるんです。つまり、最初にメディアの上に展開されるコンテンツがどういう未来になるのかというのを予見して、そのあと、だいたいそれに実装で追いつくという社会構造になっています。そういったことを鑑みて、まあざっくりと未来の話をしようかなと思って今日は来ました。

よく最近の未来に関するパラダイムをなにか考えるときに、マスメディアに対比してコンピュータのこと、コンピュータが作るパーソナライズされたメディアを考えようというのが、僕が最近使っているフレームワークです。

昔はテレビであったり、映画だったり、映像の時代だったけど、「これから先、映像の時代ではなくなったら我々はどういう社会的な動きをするのか?」みたいなメディア論とそのシステムの実装を考えることが専門です。

今のこの社会で使われているECとかインターネットの構造が、一番最初に予言され始めたのは1990年代のことで。

尾原:そうですよね。

落合:例えば今上(のスライド)に出てる、マーク・ワイザーさんが1991年に書いた『The Computer for the 21st Century』という論文があるんですけど。

このなかで、「将来人類はやがてパソコンだとか、紙でものを書くだとか、あとはタブレットでメモを取るだとか、そういう情報処理において、コンピュータの存在をあまり意識せずにコンピュータを使っていくんじゃないか」みたいなことが当時から言われるようになっていきました。

尾原:これXEROXの研究所だよね。

スマホを中心に成熟したメディアの変化

落合:XEROXのパロアルト研究所、24年前の未来予想なんですけど。まさしく今、人によってはご飯をたべながら、スマホを使いながら、パソコンを打ちながら、人の話を聞くというのは今、この会場でも普通にやられるような光景になってきたわけです。要は、スマートフォンができてだいたい10年ぐらいだとして……。

尾原:今ようやく10年。

落合:マルチメディアはここ25年で相当成熟した。この相当成熟したマルチメディアが将来どうなっていくのかというのが研究です。

僕がやっているのは、そのなかで、人間がメディア装置を通じて得る光とか音とか、ひいては物質というのを、どうやってモデリングしていくか、実質的な存在として定義するかということなんですよ。

つまり、お客さんは画面の向こうにいるわけで、その画面の向こうのお客さんがどういう反応をするかというのを、数式でモデリングしようとか、物理的に光を出す装置をどうやって作ろう、みたいなことを研究しています。

尾原:今ではみんなテレビスクリーンをメディアって思ってたり、最近になってスマホのスクリーンがちょっとメディアと捉えられてるんだけれども。

さっきのXEROXのパロアルト研究所って、実はスティーブ・ジョブズが「つくった」と言ってるマウスだとか、GUIというアイコンを動かしてなにかやるということは、実はこの研究所から全部生まれていて。スティーブ・ジョブズはそれをパクっただけなんですけれども。

そういうかたちで、今の技術をベースにするとスクリーンがメディアなんだけど、それが変わっていくということなんですよね。

落合:そういう感じのことを常日頃から考えてます。僕の專門は強力超音波や強力レーザーなどを使って空気をどうやってメディア化するかというのがひとつ專門です。

古典的にはホログラムとよばれる技術を使って、人間に対して光とか音響波とかをどうやって提供するかというようなことを研究でやってます。

そういった先に、やがてメディア装置を通じてコンピュータに接続させる生態系があるんじゃないか、きっと「デジタルネイチャー」とよばれるような、コンピュータと人間とあらゆる動植物と生物がつながった生態系があるんじゃないかということをずっと研究をしているわけです。

ものによっては空中にプラズマで絵を書いたり、空中に触覚像をつくり出したりとか、いろんなことをやってます。例えば、木目や皮などの非ガラス素材でディスプレイを作ろうとか、あとはなにもない空中に触覚を感じるような装置ってどうやってつくるのとか。

バーチャルリアリティで表示されてるときに、人間はどういう知覚変化をもって対象と接することができるのか、みたいなのが專門で、それをひたすら実験したり研究している研究者です。

人間制御にまつわる研究内容

尾原:ものすごい難しいことをさらっと言ったんですけど。要はこの人なにをやってるかというと、触れる光を作ったり、光でモノの感触が変わる、木のように見えたり鉄のように見えたりするようなものを作ったりとか。たぶん一番わかりやすいのは空中浮遊のやつ。

落合:音響浮揚ね。

ああいう物体の制御は得意だね。あとは最近、人間制御にすごく興味があって。これはVRゴーグルを被りながら現実世界を歩くんだけど。「人間ってどうやってラジコンになるの?」というのがすごく興味があります。

要は、人間って目で見てるものが変わると、足が勝手に動いちゃうんですよね。だから、この人はAに向かって歩いてるんだけど、視線操作してやると、本人はAに着いたつもりでなぜかBに着くような不思議な人間ロボットを作ってるんだけど。

尾原:(笑)。

落合:そういや光や音、メディア装置を用いて人間をどう制御していくかというのがうちの研究室の1つの目標だったりするわけです。

尾原:人間自体も環境のなかに組み込まれた装置だから、環境のほうを操作してあげると、実は人間って動きが変わってしまう。

落合:そうそう。人間型のロボットをつくる。もしくは人間の形をほかのロボットの形に転送するのが專門だったり。そこにまつわる光と音、そして触覚をどうやって設計していくか、みたいなことをずっと考えてる。

例えば、今使われているIoTというような技術についてはかなり詳しいラボです。3Dプリンターから、ロボティクスから、あとハプティクス、もしくは光・音を扱うことはずっと研究でやっていました。

俺が想定する未来は、きっと物体自体が直接人間に向かって飛んでくるような世界観を持っていて。それを実装していくにはどうしたらいいかということを考えてます。

ECサイトや実店舗に見るユーザーコントロール

尾原:ちょっとだけ解説を入れると、今こちらにいらっしゃる楽天の店舗さんもユーザーが自然に物を買いたくなるように、バナーの大きさを工夫したり、ボタンの位置を変えてみたり、動画をこういうふうに入れてみたら、自然と人が物を買いたくなっちゃうみたいなことをやってるじゃないですか。

今はスクリーンというものが、私たちが売りたいものとかストーリーを伝える媒介だから、たまたまそうなってるだけで。

落合さんがやってるようなことが10年後当たり前になってくると、さっき言った、バーチャルリアリティで囲った世界のものの見方だったり、もしかしたら道路が「ちょっと傾きを感じるかも」とか、あとは「触ってみるとザラザラするかも」みたいなことで、ユーザーが自然と誘導されるというようなことがどんどん起こってくる。

そうしたときに、どうユーザーがコントロールされるのか、ナビゲートされるのか含めて、メディアと捉えてるってことだよね?

落合:そうそう。だから、今まで10年ぐらいのWebの文化って、要はどうやって画面のなかに最適配置すると、もしくはどういうストーリーをつけると、「人間って買うんだろう?」とか「人間って設計できるんだろう? 行動が設計できるんだろう?」ってことだったんだけど。

それがこの実世界全部に広がるときに、「どういう法則性で人は外界から影響を受けるんだろう」というのを数値解析的に研究しているラボです。

尾原:今リアルのメディアで実装されている落合さん的な技術をちょっと思い返してみると。

ここにいる方で、コンビニの前にいると「キーン」っていう嫌な音が聞こえるという人はいないですか? ここで手をあげないと、その方は年寄りだってことを意味するんですよね。

落合:高周波が耳で聞こえるかどうかってね。

尾原:要は高周波で、年寄りの方にはその音が聞こえなくて。でも若い人にはその音が聞こえるから、若い人にとっては不快なんですよ。

だから、若い人がコンビニの前でたむろったりしないように、そういう高周波の音を出してたりするんですね。

たぶん今後、そういうことが平気でインタラクティブなメディアのなかでも起こってくるという話だよね。

落合:そういう話ですね。要は、数値解析と物理的にコンピュータを使っていくことがごく当たり前になっていくだろうと。じゃあ、ECの話をしようということなんでしょう。

尾原:そうですね。

Webブラウザを経由しない買い物体験が当たり前に

落合:ECは今後そういう実世界指向のものが、絶対に増えていくだろうと言われていて、なんで実世界指向にするメリットがあるのかというと。

例えばAmazonのIoTのボタンって、みなさんご存知かどうかわからないんですけれども、このボタンを押すと、AWS Amazonのクラウドサービスに投げられて、このボタンがどう押されたかを簡単に取得できる行動のパッケージがあって。

これに各企業さんが、例えばラベルを貼って「洗剤の横にこれを置いておいてください」とかいうと、洗剤が切れたときにこのボタンを押すと、家に自動で洗剤が届くみたいなサービスを提供したことでやたら話題になったんですが。

尾原:そうですね。

落合:これ系の実世界指向のものって、Webブラウザを経由せずに物を買うのがたぶん今後当たり前になっていくはずなんですよ。

そこはもうちょっと今のWebショッピングよりも広いフロンティア。例えばそれって広告の出し方というよりは……。

尾原:だからAmazon Dash Buttonに関していうと、結局パソコンからスマートフォンになってなにが変わったかというと。

やっぱりパソコンってどうしてもなにか買い物をするときに、起動してブラウザを立ち上げていって……どうやったって買い物するのに5分間はかかるわけですよね。

さらに言うと、僕らみたいにパソコンをずっと持ち歩いてない人のほうが多いから、もう買うぞという気持ちになってやらないといけないものが、スマホになったらポケットに入ってるからすぐに立ち上げて……。

テレビドラマを観て、「おいしいものを食べてるから、すぐ買いたいな」と言って、楽天で検索してあったから買うみたいなものから、今度はこういう実世界のボタンになっちゃうと、あらかじめ洗濯機につけておけば、洗剤が切れそうなときにボタンを押せば、もう自動的に洗剤が届いちゃう。犬のわんこのところに置いておけば、ドックフードがすぐ届くかもしれない。

あらゆる実世界に「これなくなったから持ってきてボタン」をくっつけるみたいな、そういうドラえもんみたいな世界がもう実際に始まっているんですよね。

落合:例えば近頃では、有名ビールメーカーさんが顧客に冷蔵庫のプレゼントを送って、その冷蔵庫からビールがなくなるとまたビールが届く。

尾原:自動的にビールを発注する。

落合:ビールが発注されるとか。でも、それのどこが一番脅威的かというと、ほかのメーカーさんのビールを飲まなくなっちゃうんですよね。

尾原:そうですよね。

落合:まったく飲まないし、そのサービスも使わない、みたいな状態になっちゃうので、そういうのが出てくるだろうと。