医師×ビジネスのキャリアを活かす道は?

千葉正幸氏(以下、千葉):あと15分くらいになりました。せっかくなのでここからは会場のみなさんから質問をいただこうかと思います。先ほどのアンケートだと資格試験など勉強されている方が多いとあったので、きっと聞きたいこともお持ちかと思います。では、後ろの方。

質問者1:とくに、猪俣先生におうかがいしたいんですけど、今回タイトルを見てビビッときて、参加させてもらったんです。それは別にインパクトがどうというより、具体的な単語でビビッときたんです。

自分も実は同じ進路というか、将来目標がありまして、まだ学生なんですけど、この後、もし順調に医師になった後には、ビジネスを学びたいと思っているんです。

なぜそう思ったかというと、もともと興味があるということに加えて、医学部という場所に入った初日、2日目というときに、井の中の蛙になってしまうのではないかという怖さを一番感じたんですね。

とくに私立の医学部だったので、みんな6年間、毎日同じ教室で、毎日同じ授業を受けてやっていくと、例えば、ほかの学部の方だったら、3年目、4年目に就活があったり、ほかの分野同士でいろいろ話せることもあると思うんですけど。ずっと同じレールにいて、どこで差が付くんだろう、そのときに差を付ける側に回れればいいんだろうけれど、差を付けられる側に回るのがすごく怖くて。だから、ほかの分野もほしいと思ったんです。

さっき先生がおっしゃられたように、ビジネスとかほかのことを学んだら、最終的に臨床の現場に戻るよりも、そっち優先になってしまう人がけっこういるという話を聞いて、自分も実際にそうなりそうな未来予想図を描いていて、医師として臨床の現場に戻るよりも、そっちのほうが楽しそうだなと思うようになって。

でも、もししっかり医師になれたとして、せっかく6年間学んで、ましてや外科に興味があるので、そっちを学んだら、やっぱり現場で試さなきゃ意味がないんじゃないかと。まだ早いかもしれないんですけど、そういう部分で少し悩んでいます。

先生は、どのタイミングで今のようなことをしたいと思われたのか。学生の時に思われたのか、研修医をやっている時に思われたのか。そういうところを具体的にお聞きしたいです。

自分のなかの軸をはっきり決めておくこと

猪俣武範氏(以下、猪俣):私が、一番はじめにアメリカに行きたいなと思ったのと、MBAを取りたいなと思ったのは、研修医の時ですね。

医学部を卒業して、研修医として患者さんを診ていくなかで、さっき言ったような医師の態度とか、医局のマネージメントの体制とかを見ていると、まだまだだなということを感じて、私自身がそういったことを自分で勉強して、みんなに啓蒙できればと、実は研修医のころから考えていました。いつか行けたら、と。

おっしゃる通りで、医療の世界はまだまだコンサバティブなので、例えば、MBAに2年間留学しましたって言ったら、アカデミアに戻ってくるのはかなり難しくなっちゃうんですね。医局辞めないといけないかもしれませんし。

そういったところもかなり考えた上で、まずは自分の専門の眼科で留学しようと思って、ハーバードへ行きました。その上で、どうやったらMBA取れるかみたいなことを考えて、アメリカにはエグゼクティブクラスといって週末の働いている人用のコースがあるんですよね。

学位は同じ学位で、勉強量はあまり変わらないんですけど、それが僕に一番フィットしているんじゃないかなと考えて、眼科としての仕事を続けながら、ビジネスも一緒に学ぶというAプラスBじゃないですけど、両方できるということを、まず考えました。

あとは、本当におっしゃる通りで、将来どうやって(MBAを)取って病院に戻ってくるかを考えている人はどうしても多いので、今、僕は自分で作っちゃえばいいんだと考えていまして、大学内でそういう医者向けのビジネスコースを作る準備をしています。もし間に合えば、ぜひそこに来ていただけたらと思います。

そういう目標があるうちは、自分で作るか、とりあえずチャレンジするかだと思いますので、ぜひチャレンジしていただけたらと思います。

天明麻衣子氏(以下、天明):なんとなく今、感じたのが、二兎を追うにしても、どっちがメインかということを自分のなかで優先順位をはっきりさせておいたほうがいいんですかね。

猪俣:それは思いますね。やっぱり両方のトップになるのはけっこう難しいかと、考えていますので、僕は医者なんですよね。眼科医なんですよ。

眼科をなおざりにしてビジネスにいくと、やっぱりビジネスの人たちはビジネスを専門でやっていますから。僕は両方わかる、プラス眼科は専門でやると考えています。

ぜひ、外科医として、外科の実際の医療を見ていったなかで、問題点をビジネスの知識で改善するとか。そういったほうが競争で優位には立てるかもしれないですね。

留学帰りの高校生の親からの質問

司会者:ありがとうございます。ほかに質問ある方いらっしゃいますか?

質問者2:よろしくお願いします。前の方とだいぶ視点が変わるんですけれど、私自身のプライベートな話で申し訳ないんですけど、子供がおりまして、高校生なんです。ちょうど2日前に留学から帰ってまいりました。半年後に大学受験です。

海外から帰ってきたところで、今、とても敏感な時期で、実際に海外で勉強をされ、語学を習得され、自分の道を開いてきた方に、もし自分の親になにかを言われるとしたら、こういうことを言ってほしかった。逆に、こういうことは言わないでほしかった。なにかアドバイスをちょうだいできたらと思いまして、よろしくお願いします。

猪俣:留学はいつから行かれていたんですかね?

質問者2:高校に入ってからですから、約2年ですね。

猪俣:2年くらいですね。今の僕だったら感じるのは、僕は茨城県の取手というところで育ったんですけれど、海外とは無縁の生活で、そんなチャンスもなかったですし、そんな世界があることすら知らなかったんです。

息子さんみたいに海外に行くチャンス、そういうのがあるんだよというのを、そのときに知ることができたらよかったなと非常に感じますので、すでに留学しているというのは、すごいなと感じました。

あとは、今の時期、どういうことを、ということですね。

本人のペースを尊重してあげて

質問者2:子供自身は、大学も海外に出たいという希望も、昨日、口にしていて、これは私がなにかを言ってしまうことで、なにかを潰してしまうんじゃないかと、少し恐怖心がございまして。

天明:途中ですみません。私がちょっと思ったのは、人と比べることはあまりしないであげてほしいなということです。高校で2年間海外に行ってがんばっていらしたというのは、すごく優秀で立派なことだと思うんですけど、ほかに例のあることではないと思うんですよね。

なので「周りの子がこうしているから」とか、「周りの子がここまでできているからあなたもがんばりなさい」みたいに、人と比べるそもそもの基準がないと思うので、これからはお子さん本人のペースを自分で作ってやっていくしかないと思うんですよ。

人と比べる基準となるフェーズがそもそも存在しない。そんなに事例がないことだと思うので、本人のペースで、あとは、とりあえず、事例が少ない分、ひたすら調べるといいんじゃないかなと、私は思うんですよね。

知らないことってすごく不安だと思うので、似たような経験をしている人がネットになにか書いていないかとか。本を書いていないかとか。有名人の人で同じような経験をしている人がいないかとか。とにかく気が済むまで調べまくってというのは、ある意味、お母様の不安の解消にはなるかなとは思います。

猪俣:ご本人にしっかり話して、どうしたいのかというのを聞いてあげて、親としてだったら、やりたいことを応援するときちんと伝えるというのがいいのかなと思います。なかなか難しいと思いますけども。

やりたいことにチャレンジさせてあげて、親の意見も少しアドバイスとしてちゃんと伝えて、本人の行きたい方向でいいと思います。僕個人としては、ぜひ、アメリカとか海外にもう1回チャレンジしてほしいと思いますね。

質問者2:ありがとうございます。先生の、1つだけではなく3つ共通点を持つとそれは数パーセント以下になるというところが、今回、私自身とても印象的で、帰ってから子供に伝えたいと思います。ありがとうございました。

2人が好きな本を教えてください

千葉:ほかにどなたか?

質問者3:講演、ありがとうございました。私はこのような講演や読書などを通して、いろんな影響を受けて、こういう考え方もあるんだということを知って、生き方などを考えています。そこで、お2人が人生で一番長く読んでいる本など、好きな本がありましたら教えていただきたいです。

猪俣:一番好きな本。Googleのやつなんですよね。なんて名前だったかな。ハードカバーで出ている、Googleの……。好きで読んでいるんですけど、ダメだ、忘れちゃったな(笑)。数年前に出ていましたよね。

千葉:社長、経営者が書いたものですか?

猪俣:社長ではないですね。あの2人じゃなくて、ちょっとカンニングしていいなら(笑)。Kindle見れば、たぶんいまだに入っています。

天明:『How Google Works』ですか?

How Google Works (ハウ・グーグル・ワークス) ―私たちの働き方とマネジメント

猪俣:あ、たぶんそうだと思いますね。そう、『How Google Works』、僕好きで! 働き方の本なんですけど、読むとけっこうモチベーションが上がって、「よし、がんばるぞ!」と。

今、中間管理職なので、どうやって若手を指導するかとか、逆にどう上司と関わるかとか、実際、僕のところとかなり関係しているので、すごくモチベーションが上がるので大好きです。

天明:私は、ビジネス本ではないんですけど、アメリカの探偵小説家のレイモンド・カーヴァーという人が好きで。現代小説家というんですか。短編集が好きで、よく読んでいます。

そのなかの『ぼくが電話をかけている場所』という小説が一番好きで、アメリカのアルコール中毒の人たちがリハビリの施設に入っていて、その施設の話なんですね。

ぼくが電話をかけている場所 (中公文庫)

何回も何回もアルコール中毒から抜け出すのに失敗して戻ってきちゃう人とか、社会のある意味負け組みたいな人たちがいっぱいいるんですけど、そういう人たちのなかで、パッと最後に希望の光がちょっとだけ見えるんですよね。そういうところに救われて。

気分が落ち込むときとかもあるんですけど、そういうときに、レイモンド・カーヴァーのいわゆる負け組みたいな人たちへのあたたかい眼差しみたいなものを感じて、私もまたどん底からスタートできるんだなという希望をいつももらっています。

論語の思想から多くのことを学んだ

猪俣:僕、もう1つありました。これは本当に名著というか、『論語物語』という本なんですけど、孔子の有名な論語の本なんですけど。古典ですよね。僕は中高が江戸川学園取手という茨城県の取手にあるところだったんですけど、僕らの高校って、道徳の授業があるんですよ。

論語物語 (講談社学術文庫)

そのとき、1年間かけて『論語物語』を読むんですよね。感想をチャプターごとに書くんですけど、今でもそこで勉強してきたことが、僕のバイブルじゃないですけど、芯にあります。

「世界の礎になる」とか、キーワードは忘れないんですけど「克己心」とか「切磋琢磨する」とか、そういったすごくいいフレーズがいっぱいあって、それを思春期のころに一度勉強できて、それが一番よかったので、ぜひ1回読んでいただけたらいいかなと思います。ちょっと堅い本ですけど、非常に勉強になりました。

天明:読み継がれているのには、理由がありますからね。

猪俣:そうですね。

質問者3:題名が『論語物語』?

猪俣:そうです、『論語物語』。

質問者3:出版社とかって?

千葉:カンニングします?(笑)。

猪俣:出ていると思いますね。

天明:最近、そういう古典を読み直すみたいなね。

猪俣:これです。

司会者:講談社学術文庫さん。うちではないですね(笑)。

(会場笑)

猪俣:これ、本当におすすめです。

千葉:ありがとうございます。

なぜNHK仙台からJPモルガンへ?

質問者4:お話、ありがとうございました。天明さんに質問なんですけども、NHK仙台からJPモルガンに行かれたということで、経歴の方向がすごく違うのかなという印象があるんですけど、なぜ金融でも外資系金融に転職をされようと思ったんですか?

天明:それは入りやすかったからなんですよね(笑)。マスコミから東京で第二新卒として、キャリアをまた積み直そうかなと思って一般企業で探したんですけれど、なかなか日本の企業って意外と採用してくれないんですよね。

同じ業界じゃないとダメとか、新卒じゃないと採りませんとか。いろんなところに登録してエージェントさんと話したりしたんですけど、「そういう求人はなかなかありませんよ」って言われていたんです。

意外と柔軟に採ってくれたのが、外資で、しかも、多少、人を採るのに余裕のあるところとなると、JPモルガンくらいの大手が実は一番入りやすかったんです。

一見、有名なところだし、難しいかなと思っても、そういうところのほうがコンサルとか日系の証券会社から転職する人に合わせて、1人くらいおもしろい人を採ろうかなと思ってくれたりするので、意外と狙い目だったりします。

質問者4:その実績というか、ちょっと変わった経歴が今の仕事に活きていると思うことはありますか?

天明:そうですね。今ちょうど、朝の日経の経済番組を担当していて、マーケットについてやっているので、私がいた投資銀行部門とは少し毛色は違うんですけれど、なんとなく聞いたような用語が出てきたりすると、やっていたことはムダになっていないなと思います。

あと、その時、すごく必死に英語を勉強したので、その英語はスペインで暮らしていたときや、今『The Financial Times』のニュースを見たりするときにも役に立っています。

質問者4:ありがとうございます。

MBAで学んでよかったことは?

千葉:では、ちょうど21時になりましたので、最後に手を上げたお2人に、短めに、質問を1つずついただきたいと思います。

質問者5:猪俣さんにおうかがいしたいんですけれど、MBAにはいろんな授業があると思うんですけれど、財務とか会計とか起業論とか。一番MBAで学んだこと、今のご経験に活きていると思うことってなんでしょうか?

猪俣:実際の仕事で活きているのはオペレーションです。僕の病院において、オペレーションが直接活きます。どうやって人を回すかとか、オペ室の効率をどうよくするとか。

そういうのも実際活きますけども、本当に一番勉強になったのは、先ほども言いましたけど、どうやって人のために働くか、人のために貢献するか、どうやってというか、それが一番大切なんだよとしっかりみっちり教わるので、そういったところが、実際にMBAを取ってよかったなと思いますね。

そういうのを体系立てて勉強できる機会もなかなかなかったですし、どうして人のためにやるのが大切なのかとか、なぜあなたがリーダーシップをとって率先してやらなければいけないのかとか。ハードのところも勉強になったんですけれど、ソフトの部分、自分の考え方とか、そういったところにかなり影響をいただきましたね。

質問者5:ハードというのは、オペレーションって営業部門って訳し方でしょうし、医療だと手術という訳になると思うんですけど、やっぱり企業にとってはそこが肝になるということなんでしょうか?

猪俣:そうですね。オペレーションというのは1つの分野ですけども、ほかのビジネスの分野が病院の場合、直結しないことがどうしても多かったので、なかなか活かしづらいところがあったんですね。ただ、オペレーションの知識に関しては、そのまま病院でも使えるなと思ったので先ほど述べたんですけれど。

あとは、まだ病院ではオペレーションはうまくいっていないんですよ。なので、そこを新しくビジネスから持ってくると、その分野でかなり活躍できるというか、イノベーションを起こせるということで役に立っています。

もちろん、考え方のストラテジーとか、いろんな分野も活きてきますけど、本当にすぐ活かせるのはオペレーションかなと考えています。

質問者5:ありがとうございました。

若いうちにしておいたほうがいいことは?

千葉:最後に後ろの方。

質問者6:貴重な講演をありがとうございました。猪俣さんに1つおうかがいしたいことがあるんですけど、僕は今、都内の研修病院で研修医として働かせていただいているんですけれど、いろいろ経験された猪俣さんから見て、研修医のうちにしておいたほうがいいことや、若いうちだからしておいたほうがいいことってありますか?

猪俣:もちろん勉強したり、医者としての知識を学ぶというのは最低限というか、必ずやらなければいけないことで。

研修医とか、昔から必ずやっておかなければいけないのは、さっきから言っているリーダーシップ体験とかマネージメント体験、それからボランティア体験。そういったところは、自分がなにかをやろうかといったときに、一朝一夕に身につかないことなんですよね。

あと、教養ですね。本をいっぱい読んで教養を身につけておくとか。そういったことは、試験勉強と違って一夜漬けじゃ身につかないところなんですよ。

早めに経験しておかなければいけないということに気づいて、ふだんの忙しい研修医の業務のなかでも率先して勉強会を作って、人のために自分の勉強してきた知識を伝えるとか、自分のできる、例えば、医療の知識があるので、ボランティアに参加して、人のためになにかするとか。そういったことをやっておくことが一番いいんじゃないかなと思います。

質問者6:ありがとうございます。

「イッツ・チャレンジング」の精神を

千葉:すごく具体的な質問タイムでしたけれども、このあと、本の販売とサイン会もありますので、そこでお話できるタイミングもあると思います。ありがとうございました。最後に一言ずついただけますか。

天明:みなさん、すごく具体的な質問をたくさんしてくださって、私も猪俣さんの話が聞けて勉強になりました。みなさん、それぞれ、お仕事とか違いますし、どうやってこれを自分の仕事やキャリアに当てはめていくかというのは、人それぞれだと思うんですけれど、自分のなかでなにが強みになるかな、活かせるかなと、そういうものを見つけて、積極的に計画を立てて、実行していただければと思います。ありがとうございました。

(会場拍手)

猪俣:今日はありがとうございました。一番私が伝えたいのは「イッツ・チャレンジング」という僕の流行りの言葉なんですけど、それを今日覚えていただいて、ぜひ、ふだんの生活のなかでもなにか大変なときにはチャレンジングと考えていただいて、挑戦していただけたらなと思います。ありがとうございました。

(会場拍手)

千葉:では、本日のトークイベントは、ここまでとさせていただきたいと思います。最後に、天明さん、猪俣さんに拍手をお願いします。

(会場拍手)