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経営者に訊く 野々村芳和×玉乃淳(全1記事)

J2首位に躍進した強さの秘訣とは? コンサドーレ札幌社長のサッカー哲学

サッカー解説者の玉乃淳が引退後のサッカー選手の生活に迫る「セカンドキャリアに幸あれ!!」。今回は、コンサドーレ札幌代表取締役社長・野々村芳和氏のインタビューを紹介します。※このログはTAMAJUN Journalの記事を転載したものに、ログミー編集部で見出し等を追加して作成しています。

赤字経営のサッカークラブ社長に就任

玉乃淳氏(以下、玉乃):ノノさんの著書『職業サッカークラブ社長』、一気に読みました。すごくおもしろかったです。

野々村芳和氏(以下、野々村)そう? ありがとう。本当はもっとたくさん伝えたいことがあったけれどね。

玉乃:こうしてノノさんに久しぶりに会えてうれしいです。でも、ちょっと…。

野々村:なに? 太った?

玉乃:あの、社長ともなると、やっぱり良いものをたくさん食べたりするのですかね?(笑)。

野々村:“社長体型”に仕上げているんだよ(笑)。いろんな場所に顔を出す機会が多くなって、若造だと思われるのも癪だから(笑)。

玉乃:今、おいくつになられたんでしたっけ?

野々村:41歳だけど。

玉乃:貫録……出過ぎていません?

野々村:そんなことないよ……なに? お腹がってこと?

玉乃:ち、違います。雰囲気です、雰囲気が(汗)。イケイケ社長って感じですかね?

野々村:ははは。そんなことないよ。本、読んだでしょ?

玉乃:はい。経営がけっこう大変なようで。社長に就任された時点で債務超過があるようですけど?

野々村:去年から導入されているクラブライセンス制度は知っているよね? 12年度から14年度まで3期連続で赤字、もしくは14年度末時点で債務超過だと、ライセンスがはく奪されてJリーグで戦えなくなる。

玉乃:大変なときに社長を引き受けましたよね?

野々村:そう、大変。簡単じゃない。だからジュン、資金的なサポートを期待しているよ(笑)。

10年先を見据えた選手育成

玉乃:ははは。「僕にできることがあれば!」と威勢よく言いたいですが、今はやめておきます(笑)。でも、こうして社長に就任したからには、ノノさんのなかで明確なビジョンがあるわけですよね?

野々村:もちろん。コストカットだけですべて解決できるものではないけど、とにかく、サッカークラブとして魅力的なコンテンツを提供できなければ誰も応援してくれないし、やっている意味がない。

資金的に恵まれていなくても、例えば強化費に年間10数億円を使えるクラブに対抗するためのやり方はあるんだ。

玉乃:と言いますと?

野々村:やっぱり育成だよね。自分のイメージでは、バルセロナのように下部組織から常に有能な選手をすくい上げられるようになれば、年間7億円ぐらいでJ1に定着できると踏んでいる。

外から即戦力や有望なタレントを獲得しようとすると、他クラブとの競合によって、場合によってはその選手が持つ本来の価値以上の資金が必要になってくるケースもある。だから、コンサドーレのような財政状況のクラブは、自前の選手を育てて戦力にするしかない。

それプラス、計算できる助っ人を補強できれば、およそ7億円の強化費でも、10億円以上の価値を作り出すことは十分に可能なんだ。それができるだけのポテンシャルがこのクラブにはある。

玉乃:でも、育成ってすごく時間がかかる作業ですよね?

野々村:まあね。育成、もしくは普及活動は、今すぐに成果が出ないというか、10年後を見据えて根気よく続けないとダメ。今年、小学1年生に種を撒いたとしたら、華が咲くのはだいたい10年後だから。

玉乃:ということは、ノノさんはコンサドーレと10年契約!? いやいや、もしかして生涯契約だったりするんじゃないですか!?

野々村:違うだろ(笑)。一般的には2年契約とかじゃないの? というのも実は、大きな声では言えないけど、契約のこととか詳しく知らないんだ(笑)。気にしたこともないし、誰に聞いたらいいかもよくわかっていない(笑)。

もちろん、本当の意味で強いチーム、魅力あるクラブにするためには、短期と長期、それぞれのビジョンを持って経営にあたるべきだと思うんだけど、今はとにかく、長く愛されるクラブを作るにはどうすればいいかを考えるので頭がいっぱいというか、契約年数が何年であろうともやることは変わらないというのが正直なところかな。

コンサドーレ札幌の社長になったきっかけ

玉乃:社長就任のキッカケを、改めて教えてください。全国のサッカーファンは驚かれたはずです。まあ、昔からノノさんとは親しくさせてもらっている僕からすれば、「ほら、やっぱりね」という感じではありましたけど(笑)。

野々村:嘘つけ!(笑)。コンサドーレのスポンサーであり、「白い恋人」で有名な石屋製菓の石水(勲)会長に、以前「コンサドーレの社長、もう一度、やってくださいよ」って話をしたことがあるんだ。

そうしたら、「わかった。考えておく」という感じだったから、俺もそのつもりでいたんだよ。だけど、しばらくしてから石水会長に呼ばれて、行ってみると、「社長はお前がやれ」と。それだけ。さすがに驚いたよ。

玉乃:で、即決ですか?

野々村:いや、最初はまったくピンとこなかった。「少し考えさせてください」とその場は辞退したんだけど、その後すぐにコンサドーレの関係者に会って、石水会長から社長就任の打診を受けた話をしたら、その人たちも応援してくれて、それで俺もその気になっちゃってさ(笑)。だから、3〜4時間ぐらいでもう「やろう」と決めていたよ。

玉乃:すごい展開……。ノノさんはメディアでもバリバリやっていたじゃないですか?

野々村:そう。メディアの世界でずっと生きていこうという考えは確かにあった。自分に向いていると思ったし、日本サッカーの発展につながる番組作りに自信があったからね。

玉乃:でも、Jクラブの社長という新たなチャレンジを選んだ。で、実際どんな感じなんですか? 社長ってやっぱり分刻みのスケジュールで忙しそうですけど。

野々村:忙しいのかもしれないけど、これも正直、よくわからない(笑)。例えばサッカーで言うと、1週間に1回ないし2回試合があって、勝ったり負けたりして、すぐに充実感を得られるわけだよね。

解説業も似たような感じで、今日の番組は良かったとか、次の1週間はどうしようか、という話になる。でも今の仕事にはそれがないんだよ。すぐに結果が見えてこない。早くても1年というスパンが必要。そこがちょっと慣れていないかな。だから、なにが大変なのかも、まだ本当の意味ではわかってないのかもしれない。

玉乃:これまでとはまったく違う世界の人たちとの付き合いも当然、あるわけですよね?

野々村:さっきもちょっと触れたけど、顔を出す場所も、仕事で会う人も、以前とはだいぶ違うよね。政治家や知事、市長と会っていろんな話もする。それは大変だけどすごく刺激的だし、世の中の見え方、ものの考え方は変わってきていると思う。

玉乃:社長という立場は、ある意味、クラブの顔であり、広告塔としての役割もあるのでは?野々村:それは意識している。現実は、サッカーに興味がある人より、ない人のほうが多いわけじゃない? コンサドーレは宣伝に使える資金に限りがあるから、いかにメディアに取り上げてもらうかは最重要課題のひとつだと認識している。

元サッカー選手だったからこそわかること

玉乃:数千万をポンと広告費に使える野球界とは事情が違いますね。

野々村:だから、地上波のメディアにどうやって露出して、一般の人たちに興味を持ってもらうかをすごく考えている。

北海道にはローカル放送もあるから、そこでどれだけコンサドーレを知ってもらえるか。もし俺を出してくれるなら、朝5時からでもまったく問題ない。どこへでも駆けつけるつもりでいるし、常にそういうスタンスでいるよ。

玉乃:まずはファン層の拡充というところですね?

野々村:サッカーをこよなく愛して、コンサドーレを応援してくれているたくさんのサポーターがいる。そういう人たちを大事にするのは当たり前として、1万人を2万、3万、4万と増やしていくにはどうすればいいかを考えるのも、同じくらい重要なことだからね。

玉乃:大変そうですけど、すさまじいほどのやりがいがありそうですね。社長業にますますのめり込んでいるように感じますが?

野々村:現役時代を除けば、解説業でも、試合を観るうえで片方のチームを応援するなんてことは一度もなかった。それが今ではもう……ホント、サポーターの気持ちがすごくよくわかるもん(笑)。

ゴールが決まれば、自然とガッツポーズとか出ちゃうからね。これはおもしろいよ。超気合いが入る!

玉乃:ノノさんは、現場にいろいろと口を出すタイプの社長ですか?

野々村:うーん、まずその表現がよろしくないな(笑)。

玉乃:ははは。

野々村:でもね、俺だから言っていいこと、言えることってあると思う。そこはすごく考えている。俺の言葉で選手がより良い状態になるなら、やっぱり言うべきだし。まあ、技術的なことより、精神的な部分に言及する場合がほとんどだね。

チームには30人以上の選手がいて、ゲームに絡めるのは、ベンチを含めて、だいたい10数人でしょ? となると20人以上の選手がイライラしているわけだよ。そんなときに、「俺にもそういう時期はあったから」とか「みんなそんなもんだよ」と声をかけるようにはしている。

それは慰めなんかではなく、モチベーションを下げないよう、やる気を失わないよう、また良い精神状態でサッカーに打ち込めるようになってほしいから。

そういうことに関して“口を出す”けど、試合で誰を使えとか、あの選手はこうだからどうなの、とかは絶対に口出しはしない。それは監督の仕事だから。ただ、財前(恵一)監督とはよく話すけどね。コミュニケーションは取れていると思う。

引退後のセカンドキャリアについて

玉乃:社長としてでも、あるいは解説者としてでもいいです。サッカー選手の引退後については、どう考えられていますか?

野々村:セカンドキャリアに関する環境云々より、まず個々に問題があると思うよ。みんな大変そうだけど、なにが大変なの? という疑問をどうしても抱いてしまう。やりたいことが見つからないのが大変なのかな?

玉乃:おそらくそういうことなのでしょうね。サッカーほどの興奮が日常生活では得られないから、なにをやっていいのか明確にわからず、戸惑っているというか……。

野々村:そうだろうね。選択肢がいくつかあるかと言えば、おそらくないのかもしれない。でも、本人がそれを知らないのも責任がある。だから、現役時代に世の中のことを知るにはどうすればいいかを教えてあげたいんだ。

今こうして社長という立場になって、若い選手たちにこうしたほうがいいよっていうのがあるとすれば、いろんな職業のいろんな年齢層の人たちと会える機会があれば、積極的に話を聞きに行ってほしい。一緒に食事をするとかでもいい。

例えば、銀行員の人はどういう仕事をして、なにが大変なのかを知るだけでも、ぜんぜん違う。サッカー界から一歩外に出てみれば、さまざまな仕事に従事して、それぞれの楽しみ、やりがいを持って日々を過ごしている人たちがいる。

将来的になれる・なれないは別にして、そういったことを自分の選択肢のひとつとして持っているだけでも、引退後の可能性は広がっていくんじゃないかな。

プロになれるぐらい、多くのことを犠牲にしてサッカーに打ち込んできたんだ。サッカーしか知らないのは当たり前。だからこそ、いろんな人の話に興味を持って、耳を傾ける姿勢が必要だと思う。

玉乃:現役のときはサッカーだけに集中したいという人もいますが……。

野々村:でもね、サッカーで本当になにかを成し遂げたいと思っているやつがいて、別業種の人と会って良い話を聞けたとしたら、絶対にそれはサッカーにおけるモチベーションにしかならないから。そういったなかで俺みたいに、「引退後もサッカー界で生きていくんだ!」っていう選択肢もあるわけだしね。

玉乃:ノノさんのサッカーに対する“愛”は半端ないですもんね。

野々村:いつからかわからないけど、日本のサッカー界の力になりたい、という使命感が自分の中でどんどん大きくなってきているんだ。思い込みかもしれないけど、でも確実に言えるのは、今でもサッカーに対してアドレナリンが出まくっているし、コンサドーレのために全力を尽くして、このクラブをもっと強くするのが、今の俺に与えられた天命だと信じているよ。

【野々村芳和(ののむら・よしかづ)プロフィール】1972年、静岡県に生まれ。清水東高等学校から慶応義塾大学を経て、Jリーグのジェフユナイテッド市原(現ジェフユナイテッド市原・千葉)、コンサドーレ札幌でプレー。引退後は国内外のサッカーの解説者などを務め、現在はコンサドーレ札幌代表取締役社長。2015年4月28日、公益社団法人日本プロサッカーリーグの理事にも選任。

職業サッカークラブ社長

サッカーダイジェスト2013年10月29日号にて掲載)

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