渋谷はさまざまなテクノロジー企業が集まっている

金野索一氏(以下、金野):男女だったり、健常者の方、障がい者の方、国境という意味でも、難民の話もさっきありましたけど、夫婦別姓ですら、法律が通らない国ですからね。ダイバーシティというのは相当まだまだですけど、まさに渋谷モデルをぜひ進めてほしいと思います。

今、区長の話のなかにLINEの話もありましたけど、イコール企業と行政、もちろんNPOもそうなんですけど、その枠を超えていろいろ取り組みをやっていらっしゃる。

これが渋谷区の最大の武器というのは、ビットバレーというITベンチャーを中心に、LINEはベンチャーというよりも大きい会社ですけど、そういう会社がたくさんあるなかで、みなさんよくご存じの人工知能AIだったり、あるいはブロックチェーン技術だったり、いろんなテクノロジーが台頭してきて、そうとう世の中は変わりそうだなと。そういう意味でもいろんな会社が渋谷に集積しているわけですけど。

今、技術の話がありましたけど、単なるお金儲けにITを使う。あるいは強い人とか、恵まれている側がますます強くなっていくということでは……。それはもちろん意味があるんだけれども、やはりITなどの技術というのは、ハンディのある人とか弱い人とか、リソースがあまりないとか、そういう側にとって寄り沿うメリットが大きいという意味で。

まさにその区長というか、行政側もからめて、本当にAIもブロックチェーンも、住んでる人の生活者の立場で、そのテクノロジーが使われるというところの並びというのが、非常に大事なんじゃないかなと思います。

テクノロジーはだいたい戦争とか軍事の時に発達してきて、インターネットはそもそもペンタゴンをからめてできたわけなので。そこのところで渋谷というのがまたうってつけの場所で。いろんなプレイヤーがそろっている場所なので、これは日本のなかでぜひ先進的に進めてほしいなと思います。

僕が思っているのは、渋谷区の取り組みで地域通貨というのがありましたけど、今ブロックチェーン技術の登場で、ビットコイン、いわゆる暗号通貨というものも出て来ています。ある意味、貨幣経済というか、現実社会のお金とかリソースに基づかないかたちで、いろんな人の行為とか活動が行き来するようなことを推進するのが地域通貨だと思うんですけど、そういうようなことをベンチャー、IT系とかとからめたり。

冒頭にも話しましたように、税金のサービスとか、普通に企業がお金を払ってやるサービスだけではもう成り立たないので、人のいろんなソーシャルグッド・マインドに基づいて活動していくというコミュニティをITテクノロジーを使って、また先進的なモデルを渋谷で進めてほしいなと思っています。

さっきの、LINEに少しボランティアでやってもらうというのも初歩的な第1歩だと思うんですけど、そのへんのことでなにかお考えはありますか?

時代に合わせた教育を

長谷部健氏(以下、長谷部):考えています。大きくシステムを変えていくには区の根幹のシステムを変えなきゃいけなくて、今、区が持っているシステムは不十分なんですよ。3年後には区役所が新しくなりますので、その時にすべてを全部リニューアルするつもりで今準備を始めています。だから、できることはちょいちょいやってきますけど、大きくボンと変わるのはそのタイミングです。

ただ、いろんな企業の力を借りて、「シブヤ・ソーシャル・アクション・パートナー」と銘うって、企業と協定をどんどん結ぼうと思っているんです。それを……まだ言えないんですけど、これから次々に出していきますので、それを見ていただければ、少しは「こうやって進んでいくんだな」ということがわかっていただけるかなと。

あとは、やっぱり教育だと思うんです。去年、教育大綱というものを……これは区長が作るんですよ。教育委員会にそれを提案して合意が取れたら、それをもとに区の教育が進むんですけど。それを大きく変えました。今までは「豊かな心」とか、当たりさわりがないことだったんですけど。

やっぱり、これからの時代は応用力、発想力が問われてくる時代だと思うんです。Googleの会長も以前言ってましたけど、知識は全部このなか(インターネット)にある。言い過ぎじゃなくて、僕らはGoogleやウィキペディアで調べればすぐわかる。それをどうやって活用するか、応用するかということがもっと問われてくると思うので、子供たちにそういった育みを考えるプログラムをやっていくべきだし。

あとは、ずっと渋谷区で育ってもいいし。だけど、海外に出て行って……。これからもっといろんな情報が近くなってきますから、海外と取り組みをするような子供が出てほしいので、留学みたいなのをどんどん応援しようと思っているし。去年、それでシリコンバレー視察に行って来て、多くの人たちとちゃんとセッションして、今年度からまず中学生を、各学校から1~2人になりますけど、まず行って、そこで夢を感じて帰って来てもらおうと。

今までも海外派遣というのをやっているんです。ドイツにスポーツ、サッカー系の子が行っていたり、フィンランドには学力が優秀な子が行ってたり。今度のシリコンバレーは、コンピューターが好きな、プログラミングが好きな子たちに行ってもらいたいなと思ってます。そうやって、いろんな子供たちの性格というか、個性に応じた海外派遣をしていきたいし。

あとは、いろんな企業の人たちに来てもらって、IT授業をしてもらったりしているので、そうやってリテラシーをどんどん高めてもらう。たぶん、みんな今、LINEいじめだとか、2ちゃんねるの話とか、18歳以下は見ちゃいけないサイトを子供が見るからどうとか言っているけど、たぶん僕らよりももっと彼らのほうが、メディアリテラシーも身についてくると思うので、できたらオープンでいきたいなと。

「小学校でアダルトサイトを見ていいよ」なんてことは絶対言えないけど、ヤケドをして学ぶじゃないけど、バランスですね。大ヤケドは困るけど、考えながら、どんどんITに触れられる機会を作っていく。

来年からは、全部の学校にタブレットを配りたいと思っています。そのつもりで今、予算を組んでいます。

「自分1人じゃなにもできない」が強みに

金野:ありがとうございます。先々週ぐらいにエストニアに行って来て、世界最先端の電子立国で、教育も医療も相当すごいというのを見てきたんです。日本は、厚生労働省がエストニアモデルをちょこっと導入して実証実験を始めると、エストニア大使館の人が言ってましたけど。そのへんのことも、渋谷区に導入できたらおもしろいなという。いろいろありました。

長谷部:ぜひご教授ください。

金野:ぜひ、渋谷モデルをいろんな面で進められればと思うんですけど、今日はトライセクターというテーマなので、セクターを越えてキャリアチェンジをしてきた思いというのを先ほどお話しいただきました。

セクターが違うと、もともと言語、言葉も違うし、ぜんぜん文化というか、相当違いますよね。そういうなかでうまくコミュニケーションしたり、いろんな人を巻き込んだりという実績がおありになるわけですが。セクターを越えていろんな人を巻き込む、マネジメントする。そのへんのなにか翻訳力的な秘訣とか、「僕はこうしてきました」みたいなものはありますか?

長谷部:セクターを越えているというのは、あんまり考えてなくて。自分1人じゃなにもできないというのは痛切に思っているので、助けてもらおうという汚い手口で。「長谷部健・被害者の会」と言っている人たちもいますけど(笑)。

(会場笑)

いろいろ僕に頼まれてなにかをしたとか、(会場一角を指して)フルイさんとかそうですね(笑)。(立ち上がって頭を下げながら)すいません。でも、なにかやりたいということに共感してくれて、いい言い方をすれば、一緒に汗をかいてくれる人たちをどうやって増やすかというのと。

あえて手口を明かすとすれば、当事者になってもらおうということは考えています。要するに、話していて、自分の企画にその人から意見をもらって、その人がやりたいと言ったことに変えれば、一緒にやれるわけじゃないですか。しかも注力してやってくれるから、そういうのはちょっと汚い手口としてはあるかな(笑)。

だけど、手柄を自分1人占めにするつもりもないし、みんなでやっていったりとか。実際に自分1人じゃできませんから。「これ、助けて」、「助けて」ということを、頭を垂れてお願いしてたり。たまに、後輩にはいばって「やるんだぞ!」と言って、やってもらったりとか(笑)。そんな感じですかね。

金野:なにもないほうが強いということなんでしょうね(笑)。「う~ん、よくわからないな。これはよくわかっている人に相談しよう」「リソースがないから、こういう組織と連携しよう」とか。なんでもあって強いほうが、逆に弱かったり。

長谷部:やっぱり、自分1人じゃなにもできないですよ。

金野:松岡正剛さんという人が、そういうことを言ってましたけどね、フラジャイルの時代と。「弱いほうが強い」みたいな。まさに巻き込み量というか、そういうところなんでしょうかね。

長谷部:頼りないから助けてあげたい。そんなことないか(笑)

キャリアの原点は代々木公園?

金野:質疑応答に入る前に、最後に対談で聞いておきたいのは、結果として今こうやってご活躍されているわけですが、最初に言いましたように、トライセクター・リーダーを目指してやってきた人というのは、たぶんあまりいないと思うんですけど、今こうやっていろんなキャリアを積まれて区長をやられている。こういう人生というか、こういうキャリアにいたっている。長谷部さんご自身の原点となっている原体験はなんでしょう?

もともとの人生を振り返って、なぜこういう人生のキャリアを進めてきたのかという根源的な原体験というのは、どういうところにあるんでしょうか?

長谷部:あえて言うなら、僕は幼稚園とか保育園とか行ってないんですよ。代々木公園の自主保育というところで育ってまして。それは当時……1972年生まれなので、70年代、有名な小児科の先生がいて、最近の幼稚園は箱庭教育だと。だから、自由に遊ぶ場所でケンカをしてもいいし、ケガをしてもいいから。さっき言ったプレイパークが、僕の源流になっているんですけど。

代々木公園で親たちが集まって、当番制で保母さんをやったり、お金を出し合って本当のホストの人を1人雇って、あとは当番制で。人の子も自分の子として育てるということで、週に1回うちの親もいるんですけど、それ以外の人の親もいて、そこで他人の親に叱られたり、褒められたり、ぶんなぐられたりとかしながら育ってきて、野生児育成所みたいなところでした。

朝着いたら代々木公園をマラソンで1周して、そこから1日の始まりです。なにして遊ぶかというと、やっぱり子供なので好きなことをして遊ぶんですよ。代々木公園の中でいろんなことをしましたね。明治神宮に探検しに行って遭難しそうになったりとか(笑)。

当時は池がなかったから、池では遊べませんでしたけど、ひょうたん池という、入っちゃいけないところにあって、そこに入ってザリガニを取ったりとか。夏休み徒歩旅行というのもあって、房総半島に1日10キロか20キロ歩いて、宿を替えていく旅行があって。幼稚園児ですよ。3歳からそんなことやっていましたね。だから、そこで健全かわかんないけど一応強い肉体を。

あとは、人の親とかいろんな人に叱られたとか、褒められたというのも、きっと原体験としてあって。いまだに人に褒められたいと思っちゃうし(笑)。それは政治家に向いているような気がするんですよね。みんなが褒めてくれることやればいいんだから(笑)。

成功ばかりでなくても、勝ち越していればいい

あとは、今思うとちょっとヒッピーな人たちの文化の流れでもあって。僕は別に右か左かとかは意識してないですけど、ヒッピーカルチャーは好きだし、そういう音楽を青春時代に聞いたし。でもロックというか、そういう感じはそういうところで求められた。決してブルースじゃない。ロック、かっこよくいえばロック。ヒップホップ? わかんないですけど(笑)。そんな感じが自分の中にある。そこが原体験なのかなと思います。

金野:こういうトライセクター・リーダーを目指すというか、その枠を越えて仕事をしていこうという人たちのために、なにかアドバイスというか。ぜひ、その枠を越えていくために、「こうしたほうがいいんじゃない?」というものを。

長谷部:思ったことをやればいいと思いますよ。だから、別に会社にいながらNPOをやってもいいし、そっちがうまくいくようだったら移ってもいいし。僕は辞めて、ちゃんとけじめをつけながらやりましたけど。でも、最後の区議会議員をやってる時は、仕事として広告も作るし、NPOも運営するし、区議会議員もやるみたいなことになってましたね。

だから、やればいいというか、やるか・やらないか、これは究極ですよね。やらなきゃわかんないんだし。なんかとどまって文句を言っているよりは、進んで失敗をしたほうがまだいいし。成功ばっかの人生というのはないと思うんですよね。でも「勝ち越していればいいわけでしょ?」という。全体で6勝4敗とか、そうなれればいいのかなと思うんで。

負けが肥やしになる時もあるし、ならない時も、そういう負けもあるし。だんだんそうすると、自分なりの勝ちパターンというのが……言葉で言えない、会得するものがあるじゃないですか。スポーツの勝ちパターンもあるし、仕事の勝ちパターンもあるし、こういう感じの時はうまくいくなというか、そういう空気をどうやって作っていくか。

まだ会得はできてないんですけど、そういうことをちょっとつかむ。場に立つ、打席にたくさん立つことで必然的に、そういうセクターを越えるというか。そうしないと収まらなくなってくるんじゃないかな。それは正解かどうか、わからない。それはタイミングでいいと思うんですよね。ただ、「やりたかったのに……」ということは、なるべくないほうがいいかな。偉そうですね。

(会場笑)

金野:いえいえ(笑)。まずアクションだと。

長谷部:でも決して、成功者ではないんですよ。すごいコンプレックスもたくさんありますし。

金野:ありがとうございます。