渋谷の人気が落ちていると感じていた

金野索一氏(以下、金野):トライセクターとは、まさに枠を越えていることなんですけど、区長が、区の政策としての大きな意味で、ダイバーシティということをおっしゃっているわけです。

まさに今、世界は、イギリスのEUの離脱もそうですし、アメリカの大統領選もそうとう個性的な人が出てきていますけれども。どちらかというとダイバーシティ的なところは日本は周回遅れ的な部分で、ダイバーシティという意味では難民問題もある。

難民認定は、確かシリア難民は11人でしたっけ? 認めて(日本に)来ていただいているのが。ドイツだと何十万人と入れているわけです。

今の同性愛ということも、あるいは難民の方々もそうですし、あらゆるダイバーシティ、男性と女性ということも含めて周回遅れで。逆に、世界は逆戻りしてる部分もあって。

僕は、渋谷区というのはある意味、日本中の自治体のなかで、東京都という単位を除いて、いわゆる基礎自治体として一番有名なんじゃないのかなと思います。原宿・渋谷があり。基礎自治体というのは、そうとう影響力があるなかで……。 
 長谷部健氏(以下、長谷部):恵比寿も入りますからね。(会場の)恵比寿の人と目が会いました(笑)。 
 金野:地元の区議もいますけど。そこでの同性愛の条例は相当インパクトがあります。そういう意味では、日本の社会のダイバーシティというものを、1つの自治体というところをモデルにしてやっていく。これからもさらに1歩進めて、ぜひ期待したいんですけど、そのへんの考えはどうですか?

長谷部:それを考えた時に、当然ダイバーシティを思ったんですけど。さっき周回遅れという話があったんですけど、渋谷は周回ほど遅れていないなと思ったんです。図々しくてごめんなさいね、渋谷区民なんで(笑)。お恥ずかしい発言ですけど。だけど、区議になってから「渋谷の人気が落ちてるな」と、ちょっと思ってたんです。

というのは、おじさんの発言になっちゃいますけど、僕が子供の頃、小学校の頃は竹の子族とかロカビリー族がいて、原宿でブイブイ言わしていて、中学校ぐらいからはDCブランドブームが起きて……。(小学)6年生くらいかな? 僕らの親世代がDCブランド起こして、どんどん当てていった。

高校の時はアメカジ・渋カジ、音楽も渋谷系・バンドブームとか、全部この街からどんどん発信していった。大学から社会人になってくると、ギャル・コギャルとか出てくるんですけど。ずっとなにかの文化を発信していたんだけど、僕が30才くらいになってからけっこうパタッと止まった感じがして……。止まったというと言い過ぎかな。

Adobeのデータでは日本が一番クリエイティブ

以前よりメディアに渋谷とか原宿とか、青山とか表参道、代官山……ちょっとおとなしくなってきた時期があったんですよ。そのころ雑誌とかの見出しを見ると、街特集とかでどこが出ていたかというと、谷根千とか下町にずっとシフトしていて。それはなぜかというと、スカイツリーができる前後だったんですよ。やっぱりアレができるから、みんなメディアはそこを見てて、そこの周りのことを特集していたという空気を感じていて。

渋谷の人間からすると、「ヤバい!」と常々思ってます。それが1つあったのと、あと、東日本大震災があったあとに、東京にアジアのヘッドクォーターを置いていた外資系企業がどんどん出て行きましたね。税制が整っているシンガポールだったり、マーケットが大きい上海、北京とか、あっちのほうに出て行ったり。

渋谷が最先端でイケてるという思いがだいぶ弱くなってきていた時期でもあったんです。それでも、負けてないなという思いもあって。実際4年くらいまえに上海に行って、街を見ながら「『ドラえもん』で読んでいた21世紀がこっちにある!」と思ったし、シンガポールの写真を見て、高層ビルのようなホテルででっかいプールが繋がっているのとか、テーマパークとかを見ると、すごいなと思っちゃう。

だから、「もう、お金儲けは(海外へ)行けばいいじゃん。カルチャーでがんばるしかない」となんとなく思っていたところ、心強いデータを発見しまして。Adobeという、Illustratorとか出している会社のマーケティングデータを見ていたら、日本・アメリカ・フランス・ドイツ・イギリスでどの国が一番いいか、1,000人ずつ20~30代の男女にアンケートを取っていて。

「どの国が一番クリエイティブか?」。1位がなんと日本だったんですよ。「どの都市が一番クリエイティブか?」と言ったら、1位がニューヨークで、2位がほぼ僅差で東京なんですよ。3位はサンフランシスコがきて、ロスがきて、クリエイティブではイギリスは下なんですよ。でも、僕はイギリスはめっちゃクリエイティブだと思っているんですけど、それは街並みの話で。

要するに、ヨーロッパは古い建物とかをきちんと守っていることで、街並みとしてクリエイティブということのようなんですけど。外国人の友達に聞くと……。例えば、僕らがスクランブル交差点なんかは人が多過ぎて嫌だと思っていても、(外国人には)観光名所ですよね。

あと、日本橋のところの上に首都高が架かっているビジュアルも、僕らはネガティブにとらえがちだけど、「あんな橋の上にも(さらに)橋を作っちゃうのはかっこいい!」みたいな。

(会場笑)

『攻殻機動隊』とか『AKIRA』の世界観で見ていて、それをクリエイティブと評価しているんだなと。いつ来ても日本の街は変わっている。「なるほど」と思って。そうなってきた時に、やっぱりクリエイティブということを立てるべきだと思い出して。

ダイバーシティ施策上でカギを握るパラリンピック

海外に僕らの世代がクリエイティブを学びに行こうと思ったら、ロンドン、パリ、ニューヨークに留学するじゃないですか。でも、これからの僕らの次の世代の子供たちが、とくにアジアの子たちが、海外にクリエイティブを学びに行こうとしたら、ロンドン、パリ、ニューヨーク、東京が入る。今のところ、入っていると思うんですよ。だからやっぱりビジネスも大切だけど、そういったカルチャーの部分をもっと伸ばす。

そんなことを考えた時に、ダイバーシティというのは成熟した国際都市の条件だと思うし、当然やるべきで通るべき道です。G7、当時G8でしたけど、同性愛者に対してポジティブでない国は日本とロシアだけなんですよね。そういう事実とか、海外に行ったら普通じゃないですか。そういったことをもっとアジアで、東京が立ってやっていく。

その中で東京のこと全体について僕は考えられないけど、この辺のことは当然考える。ここ(渋谷)でできれば東京は変わるし、東京が変わったら日本は変わるし。常に渋谷ががんばれば変わる場所。流行の発信地ですからね。だから、新しいカルチャーを発信していく。これはgreen birdをやっていたから感じられたことですが、元をただせばたかだか表参道でゴミを拾っていただけなんですよ。

だけど、メディアが注目してくれて、どんどんパブリシティが出て、それを見た人たちが自分の街でやりたいと広がって。この街というのは発信力がある街だから、そこでやる意味はあるし。

これからやりたいことは、そのダイバーシティをどう作っていくか。長くなっちゃいましたが、先のことをお話すると2020(年)のオリンピック・パラリンピックだと思うんです。僕は賛成。決まったことだし、ぜひやってほしい。でも、オリンピックはたぶん黙っていても成功するんですけど、パラリンピックを成功させるかどうかが、やっぱりダイバーシティ施策上では大事。

成功することが成熟した都市の条件だと思っているので、そこに思いっきり力を入れようと思っています。渋谷区は……国立競技場の外側の一部は渋谷区なんですよ。東京体育館は千駄ヶ谷だから渋谷区。原宿の駅前に(ある)代々木体育館も渋谷区。そこでウィルチェアーラグビーという車椅子ラグビーとパラ卓球、パラバドミントンというのが(開催)種目なんです。

これを満員にするために、いろんなことをがんばろうと思って。パラの選手は練習場所に困っていますから、今、区の場所をどんどん開放して子供たちに見てもらったり、近所の人に見てもらったりして。見るとファンになりますから、そうしてこれらの種目を知ってもらって、ここから4年間、それを醸成していって、日本以外の試合も、この3種目は渋谷区の人は応援しに行く環境づくりみたいなことをやりたいなと思ってます。

それもあって、今話題になってますけど、区役所の職員をリオのパラリンピックの視察と、ロンドンのパラリンッピックが最高峰だと言われているので、ロンドンのレガシーでいくつか気になっている点を見て来てもらおうと思っていて、予算を計上しています。そしたら、議会も行きたいという話になって。

ちなみに、行ってもらうことは大いにけっこうだと思っていて、予算を議決するのは議員のみなさんだから。その代わり、視察してどういうことを学んで、どういう成果があるのかということを、きちんと政策として区民のみなさんにフィードバックできればいいと思ってます。問われるべきは、視察の成果として本当に予算に応じた価値が出せるかどうかだと思ってます。

そういうことを通じて、パラリンピックをこの街で成功させるということをどんどんやっていく。さっき言ったピープルデザインというNPOを作って、今まで福祉は手を差しのべることが多かったんですが、手を差しのべること以外にもできることが絶対あるはずで。もちろん、テクノロジーの部分で克服されてくる部分もあれば、気持ちの問題だとも思うんですよ。

みんなが忘れていた福祉の視点

green birdでゴミ拾いをした時に、年に1回か2回、知的障がい児を持つご家族などを表参道に招いて一緒に掃除をしてたんですね。中には、一生懸命1時間半夢中で拾ってくれる知的障がい者もいれば、ヘラヘラヘラ~とどっかに行く方もいて。いい人もいれば、危なっかしい人もいるなというのがわかったけど、これって知的障がいのあるなしに限った話でもないなぁと。

その掃除が終わったあとに、あるお母さんに言われた一言が今でもずっと突き刺さってます。自分の息子、知的障がい児を16年間育ててきたけど、初めて社会に役に立つ場面を見たと、涙ながらに感謝していただいたんです。僕はただ一緒に掃除しただけだし、手を差しのべているわけじゃないけど、一緒に街をきれいにしたということがこんなに喜んでもらえる、これはやっぱり新しい福祉、いや、新しくはないんですよ。みんなが忘れていた福祉の視点だなと思って。

渋谷区はそういうことをもっと積極的にやっていきたい。それは混ざり合うということで喜んでいただける。当然、当事者にしたら、そんなに簡単な話じゃないですけど、やっぱりそういう部分も必要なんじゃないかとか。だから、パラリンピックを通して、意識の変化が大きく期待できると思ってるんです。

さっきのLGBTもそうですけど、マイノリティの課題じゃないんです。マジョリティの人たちの意識の変化が求められている課題なんです。それが、パラリンピックがくる(ことによって)、みんな(障がい者が)ここにいる姿をちゃんと認識できる。

メダルの獲得数だって、当事者国になれば、たぶんオリンピック・パラリンピックのメダルの獲得数は多くなりますから。ますますそういうスターが生まれて、そういう方たちをリスペクトする。

あとはテクノロジーも大事。今度、11月にもまた超福祉展というイベントを(渋谷)ヒカリエでやるんですけど、すごくきれいな義足のモデルの人のファッションショーがあったりとか。最近は走っているのを見ると、(義足を)つけているほうが早くなってきてるじゃないですか。これは完全に機能の拡張で、不謹慎かもしれないけど、足が速くなりたかったらもしかしたら義足をはいたほうが速くなる時代が来るかもしれませんよね。

そういったことを未来志向で提案する。今まで補助器具みたいなやつはお年寄りが使うものと思われていたかもしれないけど、もしかしたら佐川急便の人がそれをカシャカシャとやったら、重い荷物がバンバン運べる。疲れず、腰も痛めず、おしゃれにできる時代も来るし、そういったことをどんどん展示して、渋谷区の人たちやパラに向けて、福祉の文脈を変えていく。

それをあえて「超福祉」と呼んでいるんですけど、そういう活動を通しながら、機運の情勢を図っていきたいなと思います。たぶん、法律や条例を変えるだけでは街の景色は変わらないので、いろいろ取り組んでいこうと思っています。